夢
メアリーさんが、我が家の一員になった翌日。
「俺達、ヴァンパイアの事ってよく知らないから何かダメな物とかあったら教えて欲しいんだけど」
一緒に暮らしていく上で、気を付けないといけない事はないかを確認する。
やはりヴァンパイアと言えば・・・
「ニンニクと十字架とかってダメだったらする?」
「ニンニクと十字架ですか?とくに問題はありませんが・・・その様なヴァンパイアが居たのでしょうか?」
「あっ、うん気にしないで」
前世でも実在していたかも分からない生物の弱点だ。違っていて当然だ。
「ちなみに太陽が苦手と言うのは本当なのでしょうか?」
続いてリッヒさんが聞く。
「太陽の光を浴びると本来の力の半分以下しか出せなくなってしまうので苦手ではありますね」
「では、次は私が!血を吸う事は必要なのでしょうか?」
とアリーが言う。
確かにヴァンパイアと言えば吸血行為のイメージが強いが・・・
「吸血は必須という訳ではありません。普通の食事から十分な栄養を得る事が出来ますので。ただ、ヴァンパイアのみが使える固有の魔法に血が大量に必要となりますので、その為に吸血を行う必要はありますね」
「あの時、妾の攻撃を防いだのがそれか?」
「はい、血を変形させ防御用のドーム型シールドと攻撃型の槍で戦うのが私の戦闘スタイルです」
「相当硬かったからの、破壊に苦労しそうじゃ」
「昨日も言いましたが、私の血には始祖の力が濃く流れているのでかなり強固な物にはなっているのですが、それに1発でヒビを入れたティーフェン様の方が凄いと思います」
「ティーの攻撃じゃ壊せなかったのに、俺の攻撃で壊せたのはなんで?」
「あの時に使用した剣は、恐らく聖剣ですよね?」
「うん、その通りだよ」
「ヴァンパイアは魔に属する者なので、聖に属する聖剣とは相性が悪いのです。しかも、かなり強力な聖剣だと思われるので一撃で破壊されたのです」
「その理屈でいくと回復魔法を使うとどうなるんだ?」
とエレオノーラさんが聞く。
「ヴァンパイアに回復魔法はとても効きにくいですね。その代わりに血を吸う事で即座に傷を癒す事は出来ますよ」
「それは凄いな・・・」
エレオノーラさんは、ヴァンパイアの高い能力に驚きの表情をする。
「はいはーい!メアリーさんは空を飛べるんですか?」
とベルが手を上げて質問する。
「はい、飛べますよ」
そう言ってメアリーさんは立ち上がり、背中から黒色のコウモリの羽の様な物を生やした。
「見ての通り、少し頼りない羽ですので長時間飛ぶ事は出来ませんが、機動力には優れています」
「わぁ〜、かっこいいー!」
「ヴァンパイアって、コウモリを眷属にしているイメージがあるんですけど、そうなんですか?」
と俺は聞く。
「コウモリに限らず、自分の血を分け与える事で動物を眷属にする事は出来ますが、ずっと続くわけでは無くて数日で効果は切れてしまいますね」
「それでも、偵察などにはとても役立ちそうですね」
とリッヒさんが言う。
「そうですね、実際に私達も様々な動物を眷属化させて敵地の偵察をしていました。コウモリのイメージが強いのは、夜空に紛れて上空から偵察が出来るコウモリを好んで使っていたからだと思います」
「へぇ〜、ヴァンパイアって凄いですね〜」
ルインの褒め言葉に、メアリーさんは嬉しそうにする。
「ですが、今の私は力を使う訳にはいきませんね。いつ暴走が起きるか分かりませんから」
「その事なんですけど、色んなことに詳しい知り合いの人達に何か分からないか聞いているので、もしかしたら解決策が見つかるかもしれません」
「本当ですか!?」
俺が言ったことに驚き、興奮した様子で声を上げる。
「確実では無いですが、何かしらの手掛かりが見つかる可能性は高いと思います」
「住まわせて貰う上にここまでして頂くなんて・・・何をお返しすれば・・・」
「そんなお返しなんて考えなくて良いんですよ。ただ、一緒に住む以上、家事とかは手伝って貰いますけどね」
アリーがそう言い、
「経験はありませんが、頑張って覚えます!」
メアリーさんは、気合いを入れるのだった。
〜〜〜〜〜〜
その日の晩、俺は眠りに入ったと思ったら、辺り一面真っ白な見覚えのある世界に立っていた。
そして目の前には、
「ほっほっほっ、久しぶりじゃな小武 渡よ」
俺の名を呼ぶ老人がいた。
そう、ここは俺が前世で死んだ後、転移する為にやって来た神様のいる世界だった。
「あの時の神様ですか?」
「うむ、そうじゃ。よもや、わしの事を忘れたとは言うまいな?」
「そんな事無いですよ。ただ本当にここに来れるとは思ってなかったので」
「お主が呼んだんじゃろう?」
この世界にやって来たと言う事は俺は死んだ・・・と言う事では無い。
少し相談したい事があったから、神様に会わせてくれと願いながら眠りに入ったらここへとやって来れたのだ。
「お主の願いを聞き入れて、今回だけの特別措置として呼んだんじゃ。これ以降は同じ事は出来んぞ?」
「1回だけでも機会を設けてくれて助かります」
「それでどうして、わしを呼んだんじゃ?」
「実は、俺のお願いのせいで仲間の1人が傷を負ってしまったんです。それで、俺の弱さを改めて実感して・・・」
メアリーさんを助ける上でティーが怪我を負ってしまい、本人は気にしなくて良いとは言っていたが、自分の願いで大切な仲間が傷付き、もしもこれ以上の事があったらと考えたのだ。
「わしに助けて欲しいと言う事かの?」
「無茶な事は分かってるんですが、ただ訓練をするだけじゃ皆んなの事を守れないと思って」
自分には戦闘のセンスはあまり無く訓練をしていても自分の身を守る事に精一杯だ。
正直、気乗りはしないが借り物の力でも良いから、アリー達を守れる力が欲しいのだ。
「助けてやりたいとは思うが、残念ながら無理じゃ。こればかりは、神の世界のルールで生者に力を与える事は禁止と決められておっての。世界の危機であれば選ばれた人間にのみ力を与える事は出来るんじゃが、今はそういう訳でもなかろう?」
「そう、ですよね・・・簡単に神様を頼っちゃいけないですよね」
「うむ・・・」
俺が少し落ち込んだ表情をしていると、
「そういえば、あの世界の西の土地に絶対防御を誇る最強の盾があった気がするんじゃがの〜」
と呟いたのだった。
「もしかして・・・」
「なに、ただの独り言じゃ」
「っ!ありがとうございます!」
と俺は思いっきり頭を下げた。
「ほっほっほっ、わしは別に何もしておらんがの〜。まぁ、小武 渡よ。せっかくの第二の人生なんじゃ、もっと楽しむが良いぞ」
神様はそう言って微笑んだ。
「さて、そろそろ時間の様じゃ。これでお主とは、もう会う事も恐らく無かろう。わしは、お主を助ける事は出来んが、ここから幸運を祈っておるぞ」
神様の言葉を聞き、俺の意識はだんだん遠のいていった。
「はっ!」
目を覚ますと辺りは、すっかり明るくなっていた。
「あんまり寝た感じがしないな・・・」
そう思いつつ、目的を果たせたので良しとして神様が言っていた事を思い出す。
「西の方にある盾だよな?俺の持ってる聖剣みたいな物なのかな?とりあえず、エレオノーラさんとかなら詳しいだろうし確認するか!」
と俺は動き出すのだった。
「あっ、そう言えば最初に言ってた場所と全然違うところに転移させられた事も聞いておけば良かった・・・」
ここに転移した理由は気になるが、今更どうしようも無いので忘れる事にするのであった。
 




