解放
「コタケさん!ちょっと良いでしょうか?」
ある日、リビングでくつろいでいるとルインが俺を呼びにやって来た。
「どうかした?」
「少し手伝って欲しい事がありまして」
「手伝って欲しい事?」
「はい、以前もお話しましたがこの森の近くの廃墟に住んでいる幽霊の子を助けてあげたいと思いまして」
「たしかエニスさんだっけ?」
「そうです。200年間ずっとそこから離れられなかったみたいで、どうにかして自由にしてあげられないかなと・・・」
「それの手立てを探すのを手伝って欲しいって言う事かな?」
「はい!誰か知ってそうな方とかいませんかね?」
「うーん、そうだなぁ・・・」
「とりあえず大賢者にでも聞いてみれば良いんじゃないのか?」
俺が考えていると、隣で話を聞いていたティーがそう言った。
「そうだね、ひとまず大賢者さんに聞いてみよっか」
〜〜〜〜〜〜
「知ってますよ」
ラーブルクの王城の大賢者さんの一室にやって来て聞いてみると、知っているとの事だった。
「大昔に、知り合いの1人にそう言った事を研究している者がいましてね、その時に教えて貰いました」
「そんな研究をしている人も居たんですね」
「それ自体、別の研究の副産物として発見したみたいですけどね。ただ、儀式に必要な魔法陣は覚えているんですが、その他に必要な鉱石があった様な気がするんですよね」
「それを忘れてしまったと?」
「えぇ、そうなんです。名前を見れば思い出せると思うのですが・・・」
「それなら任せて下さい」
そうして、1度ラーブルクを離れて次に向かったのはラヴィさんの家だった。
ここなら沢山の本があるので、鉱石に関する物もあるだろう。
「鉱石の本ですか?それなら確か・・・」
ラヴィさんは魔法を使い1冊の本を浮かせて取り寄せた。
「この本であれば、世界中の鉱石の名前が載っているはずです。残念ながら絵は付いていませんが・・・」
「少しの間、借りても大丈夫ですか?」
ラヴィさんはコクリと頷く。
俺は本を借りて大賢者さんの元へと戻った。
「これは素晴らしい!よくこんな本を短時間で見つけてこれましたね」
「知り合いに本好きな人がいるので」
「その方とは仲良くなれそうです・・・さてさて、早速必要な鉱石を探すとしましょう」
大賢者さんはパラパラとページをめくっていく。
しばらくすると、
「おっ?あぁーこれです、これ!」
と名前を指しながら本を見せて来た。
そこには、サテンカリ鉱石と書かれていた。
「どんな見た目なんですか?」
「え〜っと・・・確か虹色だった様な気がします」
「にじいろ・・・にじいろ・・・あっ!」
と俺はとある事を思い出した。
「ちょっと待ってもらって良いですか?」
そう言い、1度家に戻りとある物を持って来た。
そしてそれを見せると、
「おぉ!まさしくその鉱石ですよ!」
と大賢者さんは言った。
俺が持って来たのは、海に行った時にルインが幽霊船の船長から貰ったと言う虹色に輝く六角形の宝石の様な物だった。
あれ以降、ルインが保管していたのを思い出して持って来たのだ。
「いや〜準備万端じゃないですか」
「偶然に偶然が重なっただけですよ」
「それでは使用する魔法陣を書いてくるのでちょっと待って下さいね」
10分程待っていると、大賢者さんからA4サイズの1枚の紙を渡された。
「この魔法陣の上に先程の鉱石を置くと発動し始めて、その幽霊さんは晴れて自由になれると思いますよ」
「いつもいつも、ありがとうございます」
「これくらいどうって事ないですよ。材料を持っていたのもコタケさんですからね」
またお礼をしないとな思い家に帰るのであった。
家に着くとルインの案内でエニスさんの元へと向かう。
「まさか、私があの時に貰った物が役に立つなんて思いもしませんでしたよ」
「俺もまさかと思ったけど、これだったみたいで良かったよ」
「これで、エニスが自由になれるんですね」
ルインは嬉しそうにそう言った。
廃墟に到着し、ルインがエニスと名前を呼ぶと目の前に半透明の女性が現れた。
「あっ、ルインだ!どうしたの?それに隣の人は・・・」
「隣の人はコタケさんです!前、お話しした今お世話になっている家の主です」
「あー貴方が、ルインの言っていた幽霊を受け入れてくれた変な人ですか」
(変な人って・・・一体どんな説明したんだ・・・)
「えぇ、まぁそうです」
エニスさんから言われた事を気にしつつも、ひとまずそう答えた。
「それで今日はどうしたの?」
「実はね、エニスの事を自由に出来そうなんだ!」
「自由?もしかして・・・」
「この場所から動ける様になるよ!」
「ほんとう・・・?」
「うん、まだやってみないと分からないけど、やる価値はあると思うよ」
「分かった・・・ルインがそこまで言うならやってみるよ!」
エニスさんは決意した様で、足元に魔法陣の紙を設置する。
「それじゃあ、いきますよ」
「いつでもどうぞ!」
俺は最終確認をして、虹色の鉱石を紙の上に置く。
すると、魔法陣が虹色に輝き始め、紙から魔法陣が浮き出して大きく広がりながら空中に展開した。
鉱石の力を吸っている様で、だんだん小さくなっていくのが見てとれる。
5分程眺めていると鉱石が完全に吸収され無くなり、魔法陣が白く輝き始めたと思ったら、パリンと音を立てて急に消え去ったのだった。
「これで終わりでしょうか?」
エニスさんが不思議そうに言う。
「エニス、変わった所とか無い?」
「う〜ん、特には・・・」
「それじゃあ、試しに外に出れるか試してみようよ!」
「う、うん」
そう言い、恐る恐る建物から離れていき途中で止まった。
「いつもは、あの先に一歩でも出ようとすると、見えない壁にバチンと弾かれるんです」
とルインが説明してくれた。
エニスさんは、ふぅと一息つくと一気に目の前に進み出した。
そして、エニスさんはバチンと弾かれる・・・事はなくそのまま前に進む事が出来たのだった。
「やった!やったよ、ルイン!」
「うん、大成功だね!」
2人は手を合わせて喜びあった。
「これで行きたい所、どこにでも行けるね!」
「うん!でもまずは・・・」
〜〜〜〜〜〜
「と言うわけで、私のお友達の幽霊のエニスです!」
ルインの紹介に皆んな、おぉ〜と言いパチパチと手を叩く。
自由になったエニスさんが、最初に行きたいと言ったのは俺達の家だった。
ルインから色々と話を聞いていたみたいで、幽霊を受け入れてくれる皆んなの事が気になっていた様だ。
「はいはーい、エニスちゃんは何歳なんですかー?」
オルフェさんが、手を上げながらそう言った。
「えっと、見た目は17歳で止まってますけど、200年は生きてます!あれ?生きてるって言って良いのかな?」
「あはは、エニスちゃんおもしろーい」
エニスさんは自分で言った事に戸惑い、皆んな笑顔になった。
そして、その日はお互いの話を沢山するのだった。
〜〜〜〜〜〜
翌日、エニスさんは早速初めての世界を見て回る為に旅立つ所だった。
「本当に気を付けて下さいね?外には色んな人がいて危ないですから」
「あはは、ルインったら私のお母さんみたい」
「もぉ〜冗談とかじゃ無いんですよ〜!」
「分かってるよ。昨日の夜もいっぱい聞いたからね」
俺達が寝た後も、2人は朝までずっと話していた様だ。
「もし、何かあったら他の幽霊に頼ってね?」
「本当に幽霊ってそんなにいっぱいいるの?」
「うん、意外とそこらじゅうにいるよ」
人間の俺からすると、ちょっと聞きたく無かった事だけどエニスさんにとっては心強い事だろう。
「いつでも戻って来ても良いからね!」
「ありがとうルイン。それと他の人達も1日だけどありがとうございました」
エニスさんはそう言い頭を下げる。
「さて、じゃあ行こうかな!」
エニスさんは、振り向いて手を振りながらこの場を去って行った。
「折角の幽霊のお友達でしたが、寂しくなりますね・・・」
エニスさんを見送るルインの表情は少し悲しげだった。
「でも、友達の新たな門出ですもんね。しっかりと見送ってあげないとです!」
とルインは再び笑顔に戻るのだった。
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