名付け
マンドラゴラを取りに行った翌日、トテトテと外を走り回る金色のマンドラゴラを眺めていた。
昨日、俺が金色のマンドラゴラを抱えながら帰って来たらティーとリッヒさんの2人が驚いて、後ずさっていた。
2人とも金色のマンドラゴラの事を知っていたみたいで、
「何で死んでおらんのじゃ?」
と言われてしまった。
事情を説明して、家で暮らす事を伝えた。
「すぐそうやって連れて帰ってくるんじゃから」
「仰る通りで・・・」
「でも、可愛くないですか?」
「だからと言って、マンドラゴラ、しかも金色の個体で知性のあるやつを連れて帰ってくるとは思わんじゃろ。普通にビックリしたわい」
「この子もいい子だし、大丈夫だよ」
「変なの〜」
ティーと話していたら横からオルフェさんが入ってきて、マンドラゴラをツンツンしだした。
何度もツンツンして、マンドラゴラが止めてと両手を上げ下げしているがオルフェさんは全く止めようとしない。
すると、マンドラゴラが口を大きく開いてオルフェさんの指をいきなりガブっと噛んだのだった。
「あはは、いたい、いたい」
見た感じ歯は付いて無いので、そこまで痛くは無い様だが、なかなか指を離してくれない。
「ねぇ、そろそろ離して?」
オルフェさんは、そう言うがマンドラゴラは知らんぷりだ。
「ごめんごめん、さっきのは謝るから。ね?ほら、離して?」
やはり離してくれない。
「ちょっと、誰か助けて〜」
「お主の自業自得じゃろ」
そんなオルフェさんを見かねて、
「そろそろ離してあげて」
と俺が言うと、口を指から離した。
「ほら、危害さえ加えなければ良い子だから?」
「まぁ、そう言う事にしておくとしよう」
と言った感じで、他の人もOKしてくれたので一緒に住む事になった。
今は、外でクロ達と追いかけっこをしているみたいだ。
お互い何か通じ合ったのか、昨日会ってからすぐに仲良くなっていた。
走っていると、マンドラゴラがステンと転んだ。
クロ達が大丈夫かと周りに集まって来て、大丈夫と両手を上げてアピールしている。
「普通に馴染んでるね」
「こうして見ていると感情も豊かに見えますね」
「明日学園に行った時に、一応見せた方が良いのかな?」
「本当にマンドラゴラかどうか確認はしてくれると思いますが、もしそうだった場合絶対に欲しがると思いますよ」
「まぁそうだよね・・・でも一応連れて行こうか」
〜〜〜〜〜〜
翌日、アリーと2人で学園にやって来た。
一応学生服を着てやって来たとは言え、マンドラゴラを抱えているのに、何故か門番の人に止められる事なく入る事が出来た。
「それで、何処に行ったら学園長に会えるんだろ?」
「在学中に学園長の部屋を見た事は無いので、私も分からないですね」
そう話しながら学園の玄関をくぐると、急に視界が真っ暗になり、
「どうやら成果があったみたいだな?」
と後ろから若い男性の声が聞こえたので振り向くと、前回も見た机と椅子に腰掛ける人の姿があった。
「えっと?学園長ですか?」
「もちろん、そうだとも」
前は年老いた女性の声だったので、一瞬別の人かと思ってしまった。
「それで、依頼したマンドラゴラは何処かな?」
「こちらにございます」
アリーがそう言って、マジックバックから10匹のマンドラゴラを取り出した。
「よしよし、しっかり10匹揃っているな。ご苦労ご苦労!これで、忍び込んだ事はチャラにしよう」
「ありがとうございます」
「ところでさっきから気になっていたんだが、その抱き抱えている金色の物体は何だ?」
「え〜っと、この子はマンドラゴラを採取している時に偶然出会って一緒に暮らす事になったんです」
「ほぉ?私の目には金色のマンドラゴラに見えるのだが、気のせいだろうか?」
「実は俺達も良く分かってなくて、本人はマンドラゴラと言うんですけど、他のとは見た目も全然違うので」
「もしや知性まで備えているのか?」
「喋れはしませんが、こちらの言葉は理解出来る様です」
「ちなみに何を食べるんだ?」
「食料は水だけで大丈夫みたいです。寝床も土の中でした」
2日前、家に帰って来た後に本人に確認しているので間違いないだろう。
「ふむふむ、なるほど・・・」
学園長は顎に手を当てて考え込み、
「是非とも実験材料に欲しいな!」
とやはりそう言い言い出したのだ。
「流石にダメですからね?もう俺達の仲間なんですから」
「そこを何とか!何ならちょっと削ってかけらを貰うだけでも良いから!」
学園長は勢いよくそう言い、机から身を乗り出した。
あまりの勢いに、マンドラゴラは俺の腕から飛び降りて後ろに隠れてしまった。
「隠れてしまったか。ほら、怖がらないで出ておいで」
マンドラゴラは俺の足の後ろでブルブルと震えている。
「そのマンドラゴラを譲ってくれれば、お礼は弾むぞ?」
「お金とかには困ってないので・・・」
「じゃあどうすれば譲ってくれる?」
「さっきも言いましたが、譲る気は無いですよ」
「なら、どうしてここに連れて来たんだ?」
「この子がマンドラゴラか確かめたかったので」
「そうは言ってもな、調べるにはその個体の何処かの一部分が必要になるしな」
と言われて、うーんと悩んだ。
流石に体を削ったりするのは可哀想だから、別の方法で確認出来ないかと思っていると、後ろに隠れていたマンドラゴラが前に出て机の側へと向かった。
「どうした?自ら実験材料になりに来たのか?」
マンドラゴラはその言葉に少しビクッとした後、違うと手を横に振って否定すると、体をブルブルと振るわせ始めた。
すると頭の上の枝から生えている葉っぱが一枚、床に落ちたのだった。
マンドラゴラはそれを拾い、学園長に向かって差し出した。
「もしや、それをくれるのか?」
右手を上げてそうだと反応する。
「これなら、君の正体も分かるだろうし残った部分を実験にも使えそうだ。ありがたく頂戴するとしよう。あぁ、もし実験材料になりたくなったらいつでも来るといい」
学園長がそんな事を言うと、マンドラゴラはビクッとして再び俺の後ろに隠れるのだった。
「結果が分かり次第、君達に手紙を送るとしよう」
「それでしたら私の実家の方に送って頂けると助かります。今暮らしている所に手紙は届きませんので」
「そう言えば記憶を覗いた時、確かに凄い所に住んでいたね」
「慣れれば意外と問題無いですよ」
「ふむ、魔の森か・・・面白そうだ。まぁ、それはさておいて今後は黙って学園に忍び込むんじゃないぞ?」
「はい、すいませんでした」
「それでは、私は実験があるからここで失礼しよう」
学園長がパチンと指を鳴らすと、学園の玄関に戻って来ていた。
「何とかなったね」
「予想通りでしたね」
「そう言えば、葉っぱ取っちゃって大丈夫なの?」
マンドラゴラにそう聞くと、右手を上げて大丈夫とアピールした。
「なら良かった。一応、学園長も満足してくれたみたいだしね」
「それじゃあ用事も済んだ事ですし、帰りますか」
〜〜〜〜〜〜
家へと帰るとオルフェさんが、
「マンドラゴラちゃんは無事だったー?」
と言ってきた。
「何とかね。頭の葉っぱ1枚で許してくれたよ」
「本当だ、1枚減ってるねー」
と笑いながら言うと、マンドラゴラがオルフェさんの足元に行きポカポカと叩き始めた。
「あはは、いたいいたい。そう言えばさ、この子の名前って決めないの?マンドラゴラって長くない?」
「確かにそうだね。誰か良い名前思いつく人は?」
皆一様に考えているとベルが、
「ドラちゃん!」
と言った。
「可愛らしい名前ですね」
他の人達もうんうんと頷いた。
あとは本人が気にいるかどうかだが、少し考える素振りを見せて、両手を上げた。
「オッケーって事かな?」
本人も納得した様子で喜んでいた。
「それじゃあ改めてよろしくね」
ドラちゃんは、その言葉に右手を上げて応えるのだった。
 




