マンドラゴラ
学園に行った翌日、学園長より依頼されたマンドラゴラを10匹捕まえるべく、エレオノーラさんに注意点を聞いていた。
「マンドラゴラか・・・確かに何度かクエストで取りに行った事はあるな」
「フランさんが注意する事があるって言ってたんですがそうなんですか?」
「そうだな、マンドラゴラを取る際に1番有名な注意事項がある」
「声を聞かないですよね!」
一緒に聞いていたアリーが先に答えた。
「はい、お嬢様の仰る通りです。マンドラゴラは地中に埋まっている植物で土の中きら生えている頭の葉っぱの部分を掴み引っこ抜くと鳴き声を上げるんだ」
(自分で歩く植物だったり、鳴き声を上げる植物だったり、この世界の植物はこんなのばっかりなのだろうか?)
「そしてその鳴き声を直接聞いた人間は死ぬ」
「えっ?死ぬんですか?」
「あぁ、年に何人かはマンドラゴラと知らずに引っこ抜いて死者が出ている」
(あれ?結構危ない事を引き受けちゃった?)
「まぁ、マンドラゴラ用の耳栓が売られているからそれを付けておけば問題ない」
「きちんと対策出来るんですね、それなら安心です。ちなみにその耳栓は何処に売られてるんですか?」
「マンドラゴラが生息している地域の街には大概売られているから、そこで買えば良いだろう」
「分かりました。他に何か注意点はありますか?」
「後はそうだな・・・金色のマンドラゴラには気をつける事だ」
「金色のマンドラゴラですか?」
「あぁ、普通のマンドラゴラの体は茶色なんだが、金色のマンドラゴラというのが存在する。今まで世界中で数回しか見つかってない希少な個体だ。この金色のマンドラゴラの鳴き声は耳栓をしても防げないんだ」
「そんなものまでいるんですね・・・ちなみに普通のマンドラゴラとの見分け方は?」
「見分け方は無い。引っこ抜いたらそこで終わりだ」
「そんな・・・」
「まぁ、出会う確率は殆どゼロに近いからそこまで気にする事は無いだろう」
「そうですか・・・後は運次第ですね」
(出会う確率は低いとは言え、危なそうだし俺1人でやった方が良さそうかな・・・)
「さて、注意事項も分かりましたし早速明日向かいましょう!」
俺が1人で行こうと考えていたら、アリーが行く気満々でそう言った。
「え?アリーも来るの?」
「勿論ですよ!そもそも私が学園に行こうと言い出しのですから!」
「いや、でも危ないし・・・」
「それはワタルさんだってそうじゃないですか」
「そうだけど、もしアリーに何かあったらって考えちゃうじゃん」
「私も同じ考えです。ワタルさんに何かあったら嫌ですよ!」
「うーん・・・」
「はは、こうなったお嬢様は何を言っても聞かないからな。大人しく一緒に行く事だ」
エレオノーラさんが笑いながらそう言った。
「分かったよ。一緒に行こっか」
「はい!」
〜〜〜〜〜〜
翌日、俺とアリーに加えて詳しい知識を持つエレオノーラさんの3人で、マンドラゴラが生息しているルカルアという所にやって来た。
近くの街の冒険者ギルドで売られていた耳栓を買い、近くの雑木林に向かっていた。
「マンドラゴラを見つけたら必ずこの耳栓をする様に」
先程買った、5cm大で黒色の円柱の耳栓を見せながら言った。
どんな感じか試しに耳に付けてみると、アリーとエレオノーラさんが口を動かしているので喋っているのは分かるが声は全く聞こえなかった。
「これ、凄いですね。何も聞こえませんでしたよ」
「これでも防げない金色のマンドラゴラと言うのは何なんでしょうね?」
「マンドラゴラの鳴き声には即死の魔法が含まれていて、それを聞いてしまうと死んでしまうんですよ。普通のマンドラゴラの鳴き声はこの耳栓に組み込まれている魔法が防いでくれるのですが、金色のマンドラゴラの鳴き声はそれを貫通してくるんです」
「即死の魔法ですか・・・確かにそれはどうしようも無いですね」
「先日も言いましたが出会う確率はゼロに近いですし、近くで直接聞かなければ大丈夫ですよ」
話していると、目的地の雑木林に到着した。
地面には沢山の草花が生えている。
「どうやってマンドラゴラを見分ければ良いんですか?」
「マンドラゴラは地中に埋まっているんだが、頭の方から枝が生えてそこに5枚の葉っぱがついていてな、その部分が地面から飛び出しているから、それを目印にするんだ」
それを踏まえて見てもこの中から探し出すのは苦労しそうだった。
「もしかしてあれじゃないですか?」
アリーが指を差した方へと向かうと、5枚の葉っぱが付いた枝の様な物がピョコンと地面から生えていた。
「これは・・・マンドラゴラで間違い無さそうですね」
エレオノーラさんが確認しそう言う。
「私、抜いて見たいです!」
アリーがそう言うので、エレオノーラさんが抜き方を説明する。
枝の下の部分を軽く引っ張るだけで簡単に抜けるそうだ。
「それじゃあ抜くので、耳栓付けて下さいね」
耳栓を装着しサムズアップして合図すると、アリーが頷いてグッと手に力を入れると地面の中から、下の先の方が二手に分かれて足の様になっており、上の方の左右に1本ずつ細い腕の様な物が生えた茶色の40cm程の大根の様な物体が現れた。
すると、その物体に顔の様にして横に並んだ2つの黒点とその下に1つの黒点が浮かび上がった。
そして、口と思われる下の黒点が大きく広がっていくと、急に肌にビリビリと刺激が伝わって来て、上を見上げると周りの木々が激しく揺れていた。
1分程経つと、肌に伝わる刺激が無くなり木々も落ち着いて来たのでエレオノーラさんを見つめると、コクリと頷いたので耳栓を外した。
「凄い衝撃でしたね!」
アリーが興奮を露わにしながら言った。
「音は耳栓のお陰で全く聞こえませんでしたけど、こんなに衝撃が強いとは思いませんでしたよ」
「耳栓さえすれば人体に影響は無いから安心してくれ」
「でも、ここまで凄いと偶々通りがかった人とかにも影響があるんじゃ?」
「音を聞いて気絶する可能性はあるかもしれないな。ただ、即死魔法はマンドラゴラの半径2mにしか影響が無いからそこまで危惧する事でも無い」
「それなら安心とまで行きませんが、大丈夫そうではありますね」
「ここら辺は人も動物も殆ど近寄らない地域だから大丈夫だろう」
「それじゃあ大丈夫と分かった所で、残り9匹です!頑張って探しましょう!」
やる気満々のアリーに続いて雑木林の中を3時間程探索した。
「あと、1匹が見つかりませんね・・・」
2時間で9匹まで捕まえたが、残りの1匹がどれだけ探しても見つからなかった。
「効率を上げるためにも二手に分かれるのも手だけど」
「そうですね、その方が良さそうです」
「じゃあ、エレオノーラさんはアリーについて貰って俺はあっちの方を探してくるよ」
「お互い、いつマンドラゴラを見つけるか分からないから念の為に耳栓はずっと付けておいた方が良いだろう」
「分かりました。それじゃあ2人とも気を付けて」
「ワタルさんも気を付けて下さいね」
と2人とは分かれて1人で探索を開始したのは良いものの、20分経っても全く見つかる気配がなかった。
「はぁ、ちょっと休憩しようかな」
側に腰を下ろせそうな倒木があったので、そこで一休みしようと腰を下ろすと、足元の地面から急にピョコっと枝と葉っぱが現れたのだった。
「うわっ!ってこれ、もしかしてマンドラゴラ?」
枝と5枚の葉っぱが付いているのでマンドラゴラに間違いは無さそうだ。
「こんな狙った様なタイミングで現れるなんて・・・でも最後の1匹だし助かった」
俺は耳栓がきちんと付いているかを確認して、枝を片手で掴み力を入れた。
グッと思いっきり引っ張ったが、何故か全く抜ける気配がしない。
「あれ?さっきまでは簡単に取れたんだけどな」
今度は両手でしっかり掴んで、更に力を入れた。
グググと少しずつ地面が盛り上がり始め、更に力を入れるとスポンッと抜けたのだった。
「やっと抜けた!」
抜けてそろそろ鳴き声が始まるぞ、思い身構えていると・・・
何故かさっきまでとは違い肌に衝撃が伝わってこなかったので、変だなと思い手元を見てみると、そこには金色の物体がいたのだった。
「うわっ!ヤバイ!」
と思わず手を離してしまった。
逃げないとと思い走ろうとしたが、ふと今見た金色の物体の形がおかしい事に気がついた。
さっきまで見たマンドラゴラは大根の様に縦に長い物だったが、今とった金色のマンドラゴラらしき物は20cm程の丸いカブの様な形をしているのだ。
「これ、本当にマンドラゴラか?」
改めてマジマジと見ると、生えている手足もピョコンと短く、顔は他のマンドラゴラと同じ様に付いている。
ひとまずエレオノーラさんに確認してもらう為に、落としたマンドラゴラを拾おうとすると、トテトテと逃げ出したのだ。
「!?」
今までのマンドラゴラは一切動く事は無かったので面食らった。
手足が短いからか動くスピードは全然速く無いので、手を伸ばして掴み上げるとマンドラゴラらしき物体は手足をジタバタさせていた。
「お前、一体なんなんだ?」
とりあえず早くエレオノーラさんに見せる為に、逃げようとする謎の物体を抱えながら雑木林の中を走っていると、木々が若干揺れている場所が見えたので、そこに向かうと2人がいた。
アリーがこちらに気付き手を振って、捕まえたばかりであろう茶色のマンドラゴラを見せて来たのだが、こちらの手元を見ると驚きの表情を見せた。
何しろ金色のマンドラゴラらしき物体を抱えているのだから当たり前だろう。
2人は走ってこちらに向かってきて話しかけて来たが、まだ耳栓を付けたままにしているのを忘れていて聞こえなかったので、アリーに俺の耳栓を外して欲しいと伝え取って貰った。
「ワタルさん、ご無事でしたか!?」
「あっ、うん大丈夫だよ」
物凄い勢いでアリーが迫って来た。
「無事なら良かったです・・・」
「コタケ殿、その金色の物体は何なんだ?」
「俺もよく分からなくて、多分マンドラゴラなのかなと」
「金色のマンドラゴラと言うと、通常の個体よりも強い鳴き声を上げるんですよね?」
アリーが再度エレオノーラさんに確認する。
「そのはずです。それを聞けば無事でいられるはずが無いのですが・・・」
「何故か鳴き声を上げた気配が無かったんですよね」
「ますます謎だな。形も通常の個体とは全く違うしな」
まだジタバタして、逃げようとする金色の物体を見ながらそう言った。
「学園長に渡したら良い実験材料だと言いそうですね」
アリーがそんな事を言うと、金色の物体が更に手足をジタバタとさせて逃げようするのだった。
「もしかして、我々の言葉を理解していないか?」
それを見てエレオノーラさんがそう言った。
「そんな事あるんですか?」
「いや、私も聞いた事は無いが必死に逃げようとしているし・・・」
俺は少し考え込み、謎の物体に向けて、
「危害は加えないから、離しても逃げないでね?」
と言うと、手足ジタバタするのを辞めたので近くの倒木の上に乗せてあげた。
「逃げる気配は無さそうですね。ワタルさん、何か質問してみてはどうでしょうか?」
「うーん、そうだなぁ。それじゃあ、君はマンドラゴラで合ってるのかな?」
俺がそう聞くと、右手をピンッと伸ばすのだった。
「そうだって言ってるのかな?」
と呟くと、また右手を伸ばしたのでそう言う事なのだろう。
「それなりに知性がある様だな」
「普段からここに住んでるのかな?」
そう質問すると右手をピンと伸ばすのだった。
今回俺に見つかったのは、かなり運が悪かった様だ。
「それで、この子はどうしましょうか?流石に学園長にお渡しするのは可哀想ですし」
「普通のマンドラゴラは10匹集まったわけだし、そっちを渡せば良いかな。この子は、この辺に住んでたのなら今回は見なかった事にした方が良いよね」
「知性のあるマンドラゴラがいると分かれば、世界中から人が集まるだろうな。マンドラゴラは魔法の触媒として使用されるから、どんな扱いを受けるか分からん」
エレオノーラさんがそんな事を言うと、マンドラゴラは何処か怯えた表情をした。
「それじゃあ君は逃げても大丈夫だよ。次は見つからない様にしなよ?」
俺は金色のマンドラゴラにそう告げたのだが、動く気配
は無かった。
「あら?どうしたのでしょうか?」
マンドラゴラは逃げずにこちらに歩いて来て、両手をあげた。
「どうしたの?」
何度も両手を上げ下げして何かを伝えようとしている。
「もしかして、自分も連れて行って欲しいと言ってるのでは?」
「そんなまさか・・・」
アリーが言った事に流石に違うだろうと思っていたら、マンドラゴラは右手をピンと伸ばすのだった。
「え?本当についてくるの?」
マンドラゴラは何度も右手を上げ下げして、そうだと伝えてくる。
「まぁ、我が家なら他の人間に見つかる事は無いと思うけど・・・」
その言葉を聞き、マンドラゴラは嬉しそうな表情をする。
「ワタルさん、この子も一緒に連れて行きませんか?何だかマスコットみたいで可愛くなって来ました!」
とアリーが言い、俺はマンドラゴラを見ながら考える。
「そうだね、一緒に連れて行こっか」
俺がそう言うと、マンドラゴラは嬉しそうに両手を上げて喜びを表現するのだった。
「これはまた珍妙な生き物が仲間になったな」
エレオノーラさんは笑いながらそう言う。
「クロ達と気が合えば良いんだけどなぁ」
そう呟きながら、目的のマンドラゴラは10匹集まったので、新たに加わった金色のマンドラゴラを抱えながら家へと帰るのであった。




