蜘蛛の王
蟻達の女王の願いで、近くに住み着いた蜘蛛の王を倒すべき住処へとやって来ていた。
「うわ〜中真っ暗で全然見えないね〜」
「何か灯りが欲しいところだね」
「ん?何か今足に当たった?」
暗闇の中を歩いているとシエルさんがそう言った。
「何かネチョッとしたものが」
「オルフェさん魔法で辺りを照らす事出来る?」
「道の先に火の玉でも投げてみよっか」
オルフェさんはそう言って10cm程の火の玉を作り出して前に投げ放った。
周りが照らし出されると土の壁の至る所に糸が張り巡らさらているのが見えた。
「多分シエルさんが当たったのは、この糸なのかな?」
「そうだと思う」
「そこらじゅう糸だらけで気持ち悪いですね」
リッヒさんは身震いして自分の腕を抱いていた。
火の玉は道の先の壁に当たり消えてしまったので、もう一度放った。
すると、10m先にさっきまでは居なかった蜘蛛が5匹、急に現れたのだった。
「シャーー」
「「ぎゃー!」」
急に現れこちらに威嚇しながらやって来る蜘蛛にビックリして俺達は大きな声を上げた。
「こっち来ないでーーー!」
そう言ったオルフェさんが、とてつもない火力の火の魔法を放った。
蜘蛛は魔法に焼かれて塵となった。
「はぁはぁ、ビックリしたー」
「糸に触れたから獲物が来たと思って見に来たのかな?」
「トラップの様なものですかね?気をつけて進まないと行けなさそうですね」
その後もオルフェさんに辺りを照らして貰いながら下に進んで行き、更にに5回ほど接敵するのであった。
住処には至る所に部屋があり、蜘蛛の王が居ないか確認しながら進んでいたのだが、殆どが居住スペースで小さな部屋ばかりだった。
これで何度目か分からない部屋の確認をしようと中に入ると、そこは他の部屋よりも大きな空間になっていた。
ひとまず辺りを照らすために天井の方に魔法を放って貰った。
すると目の前には、ミイラの様に糸でグルグル巻きにされた何かが複数蠢いていた。
「うげっ、何これ?」
「中で動いてますが生きているのでしょうか?」
「とりあえず1つだけ切ってみようか」
俺はそう言って聖剣を使い、中のものを傷つけない様に慎重に糸を取り除いて行った。
そうして中から出て来たのは蟻だったのだ。
「もしかして捕らえられた子達じゃないですか?」
リッヒさんがそう言い、皆んな部屋中を見回した。
「もしかして、これ全部?」
この部屋の中には、ざっと見ただけでも100匹以上は同じ状態のものがあったのだ。
「恐らく、纏めて生贄にする為にここで生かされていたのでしょう」
「とりあえず助けないと!」
俺は聖剣を使い数匹を解放した。
「流石に俺1人じゃあ全部は難しそうだな」
悩んでいると、助けた蟻達が口を動かしながら何かをアピールして来た。
「あっ!もしかして、後は自分達で解放するって言ってるんじゃない?」
ベルが気づいた様にそう言うので、そうなのかと聞いてみると蟻達は頷くのであった。
「そっか、じゃあ残りはこの子達に任せて先を急ごう」
と捕まっている子達は任せて、更に下に向けて進んで行った。
下に行くに連れて接敵の回数も増えてきたが、問題なく進む事が出来た。
そして遂に道が無くなり、目の前には糸で閉ざされた大きな入口があった。
「この先に居そうだね。皆んな準備は良い?」
俺の言葉にコクンと頷く。
聖剣を大きく振りかぶり糸を切り裂き中へと入って行った。
中は、今まで通った道や部屋とは違いオレンジ色に淡く輝く水晶の様なものがいくつも点在し照らしていたので、視界を確保する事は出来た。
それでも少し暗いので、よく目を凝らして敵の王が居ないか見渡してみたが見つからなかった。
「あれ?居ないね?」
「どっか出掛けちゃったかな?」
とキョロキョロとしていると、
「上!」
シエルさんがいきなりそう言い、見上げてみると赤い目を光らせた蜘蛛が真上の天井に張り付いていた。
急いでその場から後退すると、蜘蛛はドシンと大きな音を立てて地面に降りてきた。
「でっかー・・・」
蜘蛛の王の全長は10mを超えており、他の個体とは違い目が16個は付いていた。
「シャーーーー!」
「私とシエルちゃんは横に回るから、リッヒちゃんは2人をよろしく!」
オルフェさんが指示して、各自戦闘態勢に入る。
俺とベルは少し後ろに下がる。
ベルには安全の為、盾に変化させた腕輪を装着させている。
オルフェさんが魔法で、シエルさんは弓矢で手始めに軽く攻撃を放ったがカキンと跳ね返りあまり効いていない様だった。
「あれ〜?さっきの奴らなら一撃で倒せるくらいの威力なのに」
「お2人とも、この蜘蛛はボスなのですからそう簡単には倒せないですよ!」
「分かってる。けど、傷1つ付いてない」
「恐らく魔法と物理の両方に耐性を持っているのだと思います」
「えぇ〜それじゃあどうしようもなく無い」
「限度はあるはずなので攻撃を続けて下さい。私も援護します」
リッヒさんが指示を出して3人で攻撃を仕掛けるが、やはり傷は付いていない。
「これは持久戦になりそうですね・・・」
部屋は広いとはいえ屋外では無い上に崩落の可能性もあるので、3人とも全力を出しきれていない。
「何か攻撃が来る!」
蜘蛛の動きを見てシエルさんがそう叫ぶと、蜘蛛がオルフェさんに向けて口から糸を吐き出した。
これは他の蜘蛛達もしてきた攻撃だが、量が尋常じゃない。
人を数人巻き込める程の量だ。
更に蜘蛛は続け様に、口から緑色の液体を吐き出した。
「それ避けた方が良いかも」
シエルさんの忠告にオルフェさんはすぐさまその場を離れた。
糸が壁に着弾した後、緑色の液体も同じ場所に着弾したのだが、壁に付いた糸を溶かしていったのだった。
「なかなか凶悪な攻撃だね」
「糸で動けなくなった所を強力な酸と毒の液体で攻撃ですか、かなり危険ですね」
3人がが反撃をするが、やっと体にヒビが入った程度だった。
蜘蛛は3人に注意を向けているので、俺はここで聖剣による斬撃を放ってみた。
蜘蛛は俺からの攻撃を危険と判断したのか、ジャンプして天井に張り付いて攻撃を回避した。
しかし、少し回避したのが遅かったのか、1本の足の先が切断されていたのだった。
「流石は聖剣ですね。一撃でダメージを与えるとは」
「俺じゃなくて他の人達も使えれば良いんですけどね・・・」
もっと戦闘に慣れたリッヒさんが使えれば楽に勝てるのだろうが、こればっかりは仕方がない。
足を切断されて怒った蜘蛛は当然ながら俺にターゲットを向けてきた。
天井から先程と同じ様に糸を吐き出して来たので、右に避けて絡まるのを防いだのだが、動きを予測していたのか続く毒の攻撃を俺の避けた先にして来たのだ。
(あっ、やばい)
避けれず死ぬと思った瞬間、毒の攻撃がバシャンと後ろに弾かれて俺の身に何も起きなかったのだ。
「あっ!もしかしてエムネスさんの魔法のお陰か」
蜘蛛の住処に入る前に掛けてもらった魔法のお陰で攻撃が弾かれて無事だった様だ。
攻撃が弾かれ一瞬戸惑った蜘蛛に3人が一気に攻撃を叩き込んで天井から叩き落とした。
「あと少し決定打があれば良いんだけど・・・」
一旦全員集まって軽く作戦を練ろうすると、上の方からドンドンドンドンと多数の足音が聞こえてきた。
もしや敵の増援かと思い身構え、足音がだんだんこちらに向かい遂には背後にある入口の方から聞こえてきた。
一体何がやって来るんだとドキドキしていると、見えてきたのは蟻の顔だった。
数は100匹を超えている。
「あっ!さっき助けた子達だ!」
ベルは先頭に居た蟻の顔を見るや否やそう言った。
蟻達は俺達を避けながら勢いよく部屋に突入し蜘蛛を取り囲み攻撃し始めた。
あまりの数に蜘蛛は身動きが取れず、蟻の大きな口による攻撃でボロボロになっていくのだった。
蜘蛛も反撃はするものの圧倒的な数の差により遂には、赤く光っていた目から光が失われて息絶えるのだった。
蜘蛛を倒し終えた蟻達は反転してそのまま地上を目指して上へと上がって行った。
「わ〜お・・・なんか凄かったね」
「うん、俺達いらなかったんじゃ」
「とりあえず倒した事ですし、女王の所に戻りましょうか」
念の為、本当に倒せているのか確認してきちんと倒せていたので、来た道を戻り蟻達の巣へと到着した。
中は先程解放した蟻達も加わり最初に来た時よりも賑やかになっていた。
「おぉ!無事に戻って来てくれたか!」
「はい、なんとか」
「あの子達が帰って来たから分かるが、蜘蛛の王を討伐してくれたのだろう」
「まぁ、俺らが倒したと言うか、あの子達が倒してくれたんですよね。なので、俺らの出る幕は無かったと言うか」
「何を言う。そもそも、そなたらが居なければあの子達解放される事も無かったのだから誇って良いのだぞ」
「ありがとうございます。ともかく皆んな無事みたいで何よりです」
「あの子達は集まればかなり強いのだが、個々ではそんなに強くないのだ。今回は少数になった所をどんどん狙われていったからな。今後の反省として活かしていこう。それと、これから何かあったら是非我々を頼ってくれ!どんな事でも力になろう」
「よろしくお願いします」
こうして、女王からの依頼を完遂して巣を後にして家へ戻って行った。
家に着く頃には、辺りは暗くなっていた。
「おかえりなさいませ。随分と遅かったのですね?」
「うん、色々とあってね・・・凄く疲れたよ」
と今日の出来事を夜ご飯を食べながら話すのだった。
ちなみに後日、家の庭に何やら大きな穴が空いていたので近くに寄ってみると、穴の中から蟻と女王がピョコッと顔を出したのだった。
女王によると、巣から家まで一直線の道を掘った様で近くに蟻を常に待機させているから、何かあったら伝言して欲しいとの事らしい。
確かに一直線の道があるならすぐに駆けつけられるが、虫の苦手なアリーが大きな蟻を見ても大丈夫なのか心配になるのだった。




