クイーン
オルフェさんとベルに連れられて虫取りに来たら、大きなカブトムシの魔物と、大きな蟻が戦っており蟻を助けると巣へと案内され、そこで蟻達を我が子と呼ぶ触角の生えた1人の女性と出会った。
「我が子ら?」
真っ黒な髪に、真っ黒なドレスを身につけた女性の言葉に俺はそう反応した。
「私はこの子達の女王で生みの親でもあるクイーンアントだ」
「女王で生みの親・・・なのに人の姿をしてるんですか?」
「産卵という重要な役目を終えて、私はこの姿に進化したのだ」
「そんな事あるの?」
他の人達も知らない様で首を横に振る。
「人の姿になって、かれこれ10年程は経つが私も初めは驚いたものだ」
「その人?は嘘はついてないよ」
女王の話にシエルさんはそう言う。
「代表者は、そこの男に見えるが合っているか?」
「えぇ、そうですよ」
「では、改めて礼を言おう。先程、この子達の視界を通して魔物から助けてくれたのを見ていたからな。それと、そこのお嬢さんのお陰で敵だと思われなかった様だな、ありがとう」
「えへへ」
ベルはお礼を言われ喜んでいた。
「ところで、ここに至るまでに巣の中を見回しましたが、大分個体数が少ない様に感じましたが、何処かに出掛けているのでしょうか?」
ずっと疑問に思っていたのだろうリッヒさんがそう聞いた。
「そなたは中々冷静に物事を見ている様だな・・・」
女王はそう言い少し考える素振りを見せて口を開いた。
「恥を忍んでそなた達にお願いがある。どうか私達を助けてくれないだろうか?」
「助けですか?」
「そちらのエルフが言った通りこの巣の個体数は確かに少ない。最近この近くに住み着いた敵が原因なんだ。そいつらが定期的に襲撃を仕掛けて来て我が子らを攫って行くのだ」
「その敵って言うのは?」
「蜘蛛だ。それもただの蜘蛛ではなく体長は2m程で、口から吐き出す糸がとてつもなく硬いのだ」
「そいつらが原因で仲間が減っていると」
「そうなのだ。だから先程魔物を簡単に倒していた、そなたらに討伐をお願いしたいのだ」
「そもそも、何故貴方達は狙われているのでしょうか?」
「恐らく、蜘蛛達のボスへの生贄として狙われているのだろう」
「生贄ですか?何故その様な事を?」
「生贄を捧げる事で、私の様に人型へと進化出来ると考えているのだと思う」
「そんな事が可能なのでしょうか?」
「私も分からない・・・だが、これ以上この子達を失いたくは無いんだ!」
女王はそう言って頭を下げて来た。
「ちょっと待って下さい」
俺はそう言って、少し距離を取り皆んなで話し合った。
「どうする?正直少し危険だとは思うんだけど」
「そうですね、コタケさんとベルちゃんを守りながら戦う事になると思うので、難易度は少々増すかと思います」
「でもさ、このまま放って置いたらその蜘蛛達が私達の家まで来ちゃうんじゃないかな?」
「ママの言う通りだよ。助けてあげられないかな?」
「話の中に1つも嘘は無かったから、罠では無いと思う」
「うーん、そうか・・・」
皆んなの意見を元に俺は方針を固めた。
「すいません、お待たせしました」
「構わない。やはり、手助けは厳しいかな?」
「いえ、俺達も微力ながら力をお貸ししますよ」
「本当か!?だが、我々にはそなたらに支払う対価が・・・」
「構いませんよ」
「そう言う訳にもいかない・・・よし!では、我々はそなたらの配下に加わろう」
「配下!?」
「あぁそうだ。助けられている身で頼りないかもしれないが、これくらいしか差し出すものもないのでな」
「配下なんて結構ですよ。せめて今後、協力関係を築いていくというので大丈夫です」
「そんなので構わないのか?」
「それで大丈夫ですよ」
「そうか・・・ありがとう」
「それで、その敵の場所って・・・」
と言いかけた時、1匹の蟻が慌てた様子で部屋に入って来た。
「どうした?」
女王はその蟻と何やら会話をしている様だ。
「なに!?」
女王は慌てた様子で大きな声を上げた。
「どうかしたんですか?」
「どうやら敵が攻めて来た様だ」
「数は?」
「5匹程らしいが」
俺は他の人に目配せして、
「分かりました。ちょっと行って来ます」
「すまない、よろしく頼む」
地上に戻る様に道を登っていくと、2m程の大きさで黒い体に赤い目が6個付いた蜘蛛が報告通り5匹いた。
その蜘蛛達は、今まさに糸で近くにいた蟻を拘束しようとしていたので、俺は聖剣を取り出してその糸を切り落とした。
「流石の切れ味ですね、私のダガーでは1発で切れませんでした」
他の蟻を救出したリッヒさんはそう言った。
「う〜ん、どうやって倒そうか?あんまり派手な魔法を使うと他の子達巻き込みそうだし」
と倒し方を考えていると、蜘蛛達は踵を返して地上に戻って行った。
「あれれ?逃げちゃった?」
「どうしたんだろ?」
「私達には勝てないって逃げってたんだよ!」
「それなら良いけど」
ひとまず女王の部屋まで戻ろうとすると、目の前から女王が走って来た。
「どうかされたんですか?」
「実は、そなたらが交戦した奴らとは別の稼働隊がいた様で、攫われた子達がいるみたいなんだ!」
「それは急いで向かった方が良さそうですね」
「この子を案内に付けるからどうか、助け出してはくれないか?」
「分かりました。何とかしてみます」
こうして、1匹の蟻の案内の元、蜘蛛達の住処がある場所までやって来た。
そこには、少し大きめの池があり側にポツンと太い木が1本だけ立っていた。
どうやらその木の裏側に住処へと続く入口がある様で、後ろに回ってみると斜め下に続く穴が空いていた。
「案内ありがとう。君は巣に戻ってて大丈夫だよ」
案内をしてくれた蟻にお礼を言うと、一礼して巣へと戻って行った。
「俺達だけで大丈夫かな?」
「何があってもコタケ君とベルは守るから安心して」
「俺も微力だけど、サポートするよ」
そうして、いざ住処へと向かおうとすると後ろから明るい光に照らされた。
不思議に思い振り返ると、そこにはドリアードのエムネスさんが立っていた。
「あれ?エムネスさんじゃないですか?急にどうしたんですか?」
「お主らは今からあの蜘蛛を退治しに行くのか?」
「えぇ、そうです」
どうやらエムネスさんも蜘蛛の事は把握していた様だ。
「何か問題でもありましたか?」
「いや、そうではない。私も奴らの行動には腹が立っていた所だ。周りの生態系をことごとく破壊していたからな。だが、私が自然の事に直接関わる事が出来なくてな思い悩んでいたのだ」
「なるほど、そこに丁度俺達がやって来たと・・・」
「あぁ、そうだ。だからお主らには蜘蛛のボスを是非退治して貰いたいのだ」
「分かりました。丁度そのつもりでしたからね」
「助かる。これは私からのほんの些細な贈り物だ」
エムネスさんはそう言うと、俺達に魔法をかけた。
「これは・・・?」
「攻撃を1度だけ防いでくれる魔法だ。頼ってばかりでは申し訳無いからな」
「いえ、凄く助かります」
「そうか、では頑張って来てくれ」
こうして、俺達は蜘蛛の住処へと入って行くのだった。




