海の定番
海の家で出てくるようなお昼ご飯を堪能して少し休憩した後、デザートをマジックバックから取り出した。
「ワタルさん、それは何ですか?」
俺が取り出した物を見て、アリーは不思議そうな顔をしていた。
「これはスイカって言う食べ物だよ」
「スイカ?」
「甘くて美味しいフルーツなんだ。まぁ、野菜でもあるんだけど」
「初めて見ました!」
他の人達も見た事も食べた事も無かったらしい。
このスイカは、海に行く事になった1週間前に旅商人のコリンさんにお願いして見つけて来て貰ったのだ。
西にある砂漠の国々では一般的なフルーツとして売られていたらしいが、他の国にはあまり出回って無いそうだ。
「コタケ様、これはどうやって食べるのでしょうか?」
「普通なら包丁で切り分けるんですけど、折角の海なので・・・」
アンさんの問いにそう答えながら、更にマジックバックの中を探ってある物を取り出す。
それは目隠し用の布と自作の木刀だ。
「それを使ってどうするのですか?」
「この布で目を覆って、周りの人達の指示でスイカの元まで行って木刀で叩き割るって言う遊びが前居た世界にあったんだ」
「なかなか斬新な遊び」
「確かに今思ったら何でこの遊びが知れ渡ってたのかは謎だね。始まりは諸説あるらしいけど、大昔の有名な天才軍師が発案したって言うのは聞いた事があるね」
「面白そうだし、とりあえずやってみようよ!誰からやる?」
オルフェさんがそう言ったが、誰も手を挙げなかったので、
「ならば、私が先陣をきります!」
とアリーが立候補したのだった。
「それじゃあ目隠し付けるね」
アリーの目を布で覆い木刀を持たせて、10mほど離れたアリーの後ろ側にスイカをセットする。
「はーい、それじゃあスタート!」
俺が合図をすると、
「アリシアちゃん後ろ向いてー」
「違うぞ、右を向くんじゃ」
「お嬢様、左が正しい方向です」
皆んな一斉に指示を口にする。
「指示が多すぎて分かりません!」
「あはは、頑張ってー」
誰の指示を信じて進むかも醍醐味だ。
「とりあえず・・・」
と言ったアリーはまず後ろを振り向いた。
これでスイカとは正面に向き合った事になる。
「そのまま真っ直ぐだよー」
「斜め左に10歩ですよ」
「右向いて右」
アリーは悩んだ挙句、斜め左へと歩き出した。
10歩ほど進んだ所で、立ち止まり
「つ、次はどうすれば良いですかー?」
「右を向いて5歩進んで下さい」
「そこで木刀を振るんじゃ!」
アリーは木刀を振らず、右に5歩進んで行った。
「あとは、左に3歩進んで木刀を振って下さい」
「右に向いて木刀を振るんじゃ」
「スイカは目の前だからそのまま振って大丈夫だよ」
「え〜と、どうしましょう・・・?」
正しいのは1番最初の左に進んで木刀を振るなのだが、アリーもそろそろ振っても大丈夫と思ったのだろう、右を向いて木刀を振り下ろした。
当然結果はスカッだった。
手応えの無かったアリーは目隠しをとり、スイカの位置を確認した。
「あ〜、そっちでしたか〜残念です」
「難しいけど楽しかったでしょ」
「楽しかったです!それで次は誰がやりますか?このままだとスイカが食べれなくなっちゃいます」
「お嬢様の無念は私が晴らします!」
続いてエレオノーラさんが手を挙げた。
目隠しをして、スイカを左斜め後ろにセットする。
「スタート!」
「右だよー!」
「エレオノーラ、真っ直ぐです!」
「後ろ向いて」
エレオノーラさんは木刀を構えて深呼吸をする。
指示の後、しばらくその場でジッとする、するといきなり後ろを向き一直線にスイカの所まで走り出すと、スイカはスパッと真っ二つに割れたのだった。
「どうだ?手応えはあったが」
エレオノーラさんは目隠しを取りながらそう言い、俺はポカーンとしていたのだった。
「いや、今の何ですか?」
「ただ単にスイカの位置を察知して、そこに向かっただけだが?」
「えぇ〜・・・」
流石にそれは予想していなかったので、言葉が出なかった。
「まぁ、良いか・・・じゃあ気を取り直して次やりたい人?」
その後も、スイカ割りをやって行き全部で5個のスイカを割ったのだった。
途中ティーが木刀の代わりに、自身の手だけをドラゴン状態に変化させてスイカを切り刻んだり、シエルさんが俺達の心を読んで、エレオノーラさんの様に指示なしでスイカを割ったりして想定外の遊び方をしていたが、楽しんでいた様なので何よりだ。
「とっても甘いですね〜」
初めてスイカを食べるアリーはそう言った。
「これに塩をかけたら、より甘く感じるんだよ」
「そうなんですか!?リビア、塩はあるかしら?」
「はい、こちらにありますよ」
マジックバックから塩の入った瓶を取り出して、スイカに振りかけた。
「うん?う〜ん?甘くなったのですかね?私は何も掛けない方が好きですね」
「まぁ、実は俺もそうなんだよね。あんまり甘くなったて感じがしないよね」
「きっと人によるのでしょうね。ほら、オルフェさんとシエルさんはガンガン掛けてますよ」
「うわっ、ほんとだ。あれはちょっと掛けすぎじゃない?」
2人はスイカ全体に掛かるように何度も瓶を振っていた。
「そう言えばスイカと言えばこういう遊びもあるんだった」
俺はそう言うと口の中にあったスイカの種を吹いて飛ばしたのだ。
「ちょっとはしたないけど、こうやって種を飛ばして飛距離で競うって遊びなんだけど」
「これは、また中々斬新な遊びですが、少し楽しそうですね」
アリーはそう言うと真似して種を飛ばした。
「ワタルさん程、飛びませんでしたか・・・」
アリーの闘争心に火がついたのか、その後も何度も挑戦していた。
他の人達も真似して種を飛ばしていたのだが、ティーなんかは複数の種を口に入れて、プップップッとマシンガンの様に連続して飛ばすのだった。
ちなみに1番遠くに飛ばしたのはオルフェさんで、
「私は遊びじゃ負けないよ〜」
との事だった。
スイカを食べた後は各々で遊んだ。
砂のお城を作ったり、体を砂の中に埋めたりしていた。
ただ、やる事のスケールが一々デカすぎるのだ。
城はラーブルクの物を参考にしていたのだが、実寸大で作ろうとするし、何故かティーがドラゴンの状態で砂に埋まろうとして、流石に看過できずに止めに入るのだった。
こうして、遊んでいると海の方からルインが戻ってくる姿が見えた。
「お帰り、ルイン。何してたの?」
「ただいまです!実は海の中に入ったら海底から誰かの呼び声が聞こえたんですよ!」
「何それ、こわっ」
「それで声のする方に行ってみたら、沈没して幽霊船になった海賊船とその船の船長が居ました!それで、幽霊同士仲良くなって話してたんですよ」
「そうなんだ、楽しかった?」
「はい!初めて幽霊船に乗ったので、それはもう楽しかったです!」
「まぁ、楽しめたなら良いのかな?」
「それから、その船長から帰り際にこんな物も貰いました」
そう言うとルインは虹色に輝く六角形の宝石な様な物を見せて来た。
「何だろうね?」
「私も初めて見ましたが綺麗で良いですよね」
「誰か、これが何か分かる人いる?」
と他の人達にも聞いてみたが、皆んな首を横に振った。
「ルインが貰った物だし、ルインの好きな様にすれば良いと思うよ」
「じゃあ、大事に保管しておきますね」
ルインも合流した後、日が暮れるまで海で遊んだのだった。
「それじゃあ今からバーベキューを始めまーす!」
「「いえーい!」」
お昼ご飯は沢山食べたが、その分沢山遊び倒したので皆んなお腹が空いていた。
予め用意していたバーベキューセットに、普段は買わない様なお高めのお肉、家で取れた野菜、いつの間にかティー達が獲って来ていた魚介類をふんだんに使う。
「今日はじゃんじゃん食べて、じゃんじゃん飲んで良いよ!」
「やったー!飲み放題ー!」
今日はこのまま、別荘に泊まって行くので帰りの事は考えない。
浜辺でドンチャン騒ぎをし、この日は俺も珍しく酔い潰れるまで飲みまくった。
翌日、ガンガンと痛む頭に耐えながら前日の後片付けをして家へと帰って行くのだった。




