ヒノウラ
ヒノウラと言う国の姫が病に倒れ、助ける為に送られて来た使者について行ったシャロンさんを手伝いに行く為に、俺とアリーはティーに乗ってヒノウラに向かっていた。
「一面真っ青な海ですね」
「海のど真ん中だからね、ここで迷子になったらヤバそうだけど、ティー大丈夫?」
「まっすぐ飛んでれば着くじゃろうし、地図を見たから大丈夫じゃ。それよりも、身を乗り出して落っこちるんじゃないぞ」
「き、気をつけます」
海を見てはしゃいでいたアリーが、体を引っ込めた。
「あとどれくらいで着きそう?」
「2時間程で着くじゃろ」
「あと2時間か、大丈夫?疲れてない?」
「休める様な場所も無いじゃろうし、このままぶっ通しで飛び続けるのじゃ」
「そっか、ごめんね無理させちゃって」
「本当なら寝ておったのじゃが、うまい食べ物の為じゃ!期待しておるからの!」
とそのまま飛び続けて、聖国から出発して約4時間。
目的地であるヒノウラの木造船が並ぶ港に到着した。
「あまり見ない建物な上に国民の服装も見た事ないですね」
「そうじゃな、妾も見慣れない物ばかりじゃな」
「そうなんだね。俺は見慣れてる訳じゃないけど前いた世界で住んでた国が昔こんな感じだったらしいんだよね」
俺がそう言う様に、ヒノウラでは土蔵造りの瓦葺きの屋根の建物が建ち並び、行き交う人々は小袖や着物を着ており、さながら昔の日本の様だった。
そして極めつけは、日本にあった物と同じ形をした城が奥にそびえ立っていたのだった。
「ワタルさんの故郷にもあった景色ですか」
「まぁ、そんなに馴染みは無いけどね。でも、俺が居た国の通りなら、あそこに建ってる城に1番偉い人が居るんだけど」
「では、早速あそこを目指しますか?」
「行ってもシャロンがおらなんだら入れないのじゃないか?」
「うーん、もう到着してるいのですかね?船で向かっているとなるとかなり時間は掛かる様な気がするのですが」
と港で右往左往していると、
「あれ?アリシア様?」
と知り合いがいるはずが無いのに、アリーの名前を呼ぶ声が聞こえた。
後ろを振り向くと、鎧を着た騎士と侍の格好をした人達に囲まれているシャロンさんが居たのだった。
「あっ!シャロンちゃん!」
「どうして3人がコチラに?」
「実は・・・」
とオレイユさんにお願いされて超特急でやって来て事を伝えた。
「そうだったんですね。無茶を聞いて下さって申し訳ないです」
「シャロンちゃんは私の妹みたいなものですからね、気にしないで下さい!それより、シャロンちゃんも今着いたのですか?」
「はい、早速姫様の所に向かう様です」
「私達もご一緒しても大丈夫ですか?お力になれるから分かりませんが」
「確認してみますね」
シャロンさんが、侍の男に許可を求めて話しかけた。
最初は訝しげな表情をしていたが、シャロンさんに押し切られた様で、溜息をついて頷いていた。
「一緒に来ても大丈夫だそうです」
「ありがとうございます。それじゃあ、急いで向かいましょうか」
一刻も早く治癒を行わないといけないので城へと向かうと早速、姫の部屋へと通された。
中に入ると布団の上に横たわっている黒髪の若い女性と側で手を握っている白髪の年老いた男性が居た。
「おぉ、もしや聖女様か?」
男性は、こちらを見ると話しかけて来た。
「はい、聖女のシャロン・ラ・マズロルと申します」
「来てくれて助かった!移動で疲れているとは思うが早速この子を助けてやってくれないか」
「えぇ、勿論ですよ」
そう言うとシャロンさんは、横たわる女性の隣に座りこんだ。
「かなり衰弱し切ってますね・・・」
「何人もの回復魔法を使える者を呼んだが誰1人として駄目だったのだ。聖女様ならなんとか出来るだろうか?」
「分かりませんが、少し試してみようと思います」
シャロンさんはそう言うと、目を閉じて両手を握り合わせて祈り始めた。
するとシャロンさんの周辺が金色に輝き出したのだ。
「これは・・・」
男性は驚き声を上げて、見ていた俺達もビックリした。
「これは、恐らく聖女のみが使えるとされる最上級の回復魔法でしょうね。どの様な傷や病気でも治す事が出来るとされています。過去には欠損した手足を修復した聖女もいると聞きますが・・・」
アリーがそう説明してくれた。
それから、シャロンさんは祈り続けて1時間程が経過した。
すると、横たわっていた女性が小さな声をあげて少しずつ目を開いたのだ。
「おぉ、シオリ!」
男性はそう言って大喜びしていた。
「おじいさま・・・とどなたでしょうか?」
「シオリを助けてくれた人だよ」
「私を・・・ありがとうございます。お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「シャロンと申します」
「シャロン様ですか。異国の方の様ですが、私なんかの為にわざわざ来て下さったのですか」
「自分で望んで来たので、気に止めることはないですよ。さて、それよりもまだ病み上がりですので今日の治療は一旦ここまでにして、また明日再開すると致しましょう」
「シャロン様、ありがとうございます」
こうして俺達は、姫の部屋を後にして食堂へと案内されたのだった。
しばらく席に座ったままでいると、先程の白髪の老いた男性が入って来て前の席に着いた。
「聖女様、改めてお礼を申し上げます」
「いえ、少し元気を取り戻してくれた様で何よりです」
「あの子に何かあったら私はもう耐え切れないでしょうから、本当に嬉しいのです」
「あの失礼ですが、どういったご関係なのでしょうか?」
「これは失礼致しました。まだ名乗っておりませんでしたね。私は、ヒノウラ・ダンゾウ。この国を治める者でございます。そしてあの子は、ヒノウラ・シオリ。私の孫娘になります」
「王様でしたか!そうとは知らずご無礼を」
「いえ、私も動揺して名乗っていませんでしたし。聖女様には大きな借りが出来ましたので気になさらないで下さい。あの子は小さい時に両親を流行り病で亡くしましてね、私が代わりに育てて来たのです」
「だから側についていてあげてたんですね」
「お恥ずかしい話、私がなかなか子離れ出来ないものでして。それで聖女様、シオリはどの様な病だったのでしょうか?」
「実は私もまだ確信は持てていないのですが、恐らく魔力欠乏症かと・・・」
「魔力欠乏症・・・」
それを聞いたダンゾウさんは、ひどくショックを受けていた。
「あの、魔力欠乏症って言うのは?」
俺は、全く知らなかったのでシャロンさんに聞いてみた。
「人間は皆、魔法が使える使えないに関わらず魔力を持っており、体全体に魔力が生成され蓄えられているのです。しかし、その蓄えられた魔力が勝手に放出されて、更には新たに生成された魔力も蓄える事が出来なくなるのが魔力欠乏症という原因不明の病なのです。元々体にあった必要な物が急に無くなり体に不調をきたし最悪の場合は死に至る事もあるのです。ちなみに中には極々稀に魔力を一切持たずに生まれる方も居ますが、その方達は最初から必要としていないので例外となります」
「何か治療方法は無いのでしょうか?」
「私も魔力欠乏症の治療については詳しくなくて・・・もし本当にこの病なのであれば、今少し元気になったのも私の回復魔法によって魔力の蓄えるスピードが放出されるスピードよりも上になったからでしょう」
「そうですか・・・」
「あまり気を落とさないで下さい。明日もう一度詳しく調べてみますので!」
「えぇ、お願い致します。それでは、折角お越し頂いたのですから我が国自慢の料理を召し上がっていってください。お米と呼ばれる物で、あまり馴染みは無いかと思われますが大変美味しいですよ」
ダンゾウさんがそう言うと、給仕が料理の乗ったお盆を運んで来た。
ご飯の他に、味噌汁に煮物や魚などの和食が並んでいた。
「わぁ、これがコタケさん達の言っていたお米ですね」
「おや?お連れの方は召し上がった事があるのですか?」
「空中都市に行った際に食べる機会がありまして」
「なるほど、そうでしたか。ただ、この米は空中都市の物とは違い我が国でしか生産されていない物で、輸出もされていないのです。なので、味は全然違うと思いますよ!」
ダンゾウさんが、自信を持ってそう言うので一口入れてみると、確かに以前食べた物よりも甘くてモチモチしており、なかなか美味しかった。
「初めて食べますが、お米美味しいですね!」
「前食べた物よりも、私はこちらが好みですね」
「うむ、妾の舌も満足じゃ」
と3人とも満足げだった。
その後は食事を終えてお風呂へと案内された。
お風呂は我が家と同じく温泉を引いているらしくとても気持ち良かった。
4人で一緒の部屋に寝泊まりするらしく、部屋へ向かうと畳の上に敷布団が準備されていた。
ちなみに3人共お風呂上がりに用意されていた浴衣を着ており、普段とは違うアリーの珍しい格好が見れて大変満足だった。
「ここの床は独特な匂いがしますねー」
「凄く懐かしい匂いだよ」
「ワタルさんは、そうなんですね。私達は嗅ぎ慣れて無いですが、嫌いと言う程でも無いですね」
「ふわぁ〜、お昼寝をしておらんから眠いのじゃ」
皆んなで話しているとティーが大きなあくびをしてそう言い、俺達はまた明日の治療に向けて早めに休むのだった。
 




