緊急要請
俺とアリーは、ヒルズが行った事のある所なら何処でもテレポート出来る様になったのを確認する為に試しに聖国モントロレに移動したのだった。
「きゃっ!」
ヒルズによって開かれた扉型のゲートを潜ると後ろから女性の小さな悲鳴が聞こえた。
「コタケ様とアリシア様ですか・・・?」
悲鳴を上げた女性が俺達の名前を口にしたので、後ろを振り向くと玉座に座るオレイユさんと、側に現在の聖女のシャロンさんが立って居たのだった。
「あ・・・お久しぶりです」
どうやら直接玉座の間に来てしまった様で、驚かせてしまったみたいだった。
「急に出てこられましたが、これは一体?」
「仲間の精霊のヒルズが行った事のある場所なら何処でもテレポート出来る様になって、試しにここに来てみたんです」
「凄いですね!精霊さんはそんな事も出来るんですね!」
「アリシア・・・」
テレポートの事を聞いて興奮しているシャロンさんとは対照にオレイユさんは落ち着いた声で呼び掛け、
「は、はい」
とアリーは少し身構えて返事をした。
「私もお前と会えて嬉しいよ。だがな、いきなり玉座の間に現れるのはどうかと思うぞ?もし、私ら以外の者が居たら曲者として斬り掛かっていたかもしれないんだぞ?」
「はい、軽率でした・・・」
前回は、城にしかやって来ていなかったので自然と設定場所がここになっていた様で、言葉通り行った事のある場所だけなので、設定場所を街にしたい時はそこに出向かないといけない様だった。
「まぁ、これから気をつける事だな。説教はこれくらいにして、歓迎したい所なのだが・・・すまない、今は少し立て込んでいてな相手をしてやれなさそうだ」
「どうかしたのですか?」
「実はな、東の海を越えた所にあるヒノウラという国から急遽使者がやって来る事になってな、もてなす為の準備を考えていた所なんだ」
「ヒノウラですか?あまり聞き馴染みのない国ですね?」
「まぁ、かなり東にある国だからな、私も現役の時に1度だけ訪れたが独特な町並みだった」
「どうして、その国から急に使者が送られて来る事になったんですか?」
「理由はハッキリと教えてくれなくてな、もう明日には来てしまうんだ」
「明日ってすぐじゃないですか!準備は何処まで終わったんですか?」
「大方終わったんだが・・・」
「あとは料理を考えないといけないんです」
シャロンさんがそう言って2人とも頭を悩ませた。
「料理ですか?モントロレの料理を振る舞えば良いのでは?」
「私もそう思ったんだが、あの国は他の国と全く違った料理が主流でな、口に合うかどうか分からないんだ」
「違った料理?」
「確か1cmくらいの大きさの白い粒でな、名前を米?と言ったかな?」
「米!?」
俺はオレイユさんの言葉を聞き驚き大きな声をあげた。
「ワタルさんとハネムーンの時に食べたあれですよね?」
「う、うん。それだよ」
「食べた事があったのか?私も昔に食べたが、あのままで毎日食べると飽きが来そうだったんだが」
「確かに食べ慣れてないとそうかもしれないですね。俺がいた所でも主食だったんですけど、お米のお供があったので味も変える事は出来ましたよ」
「ほぉ〜、そうなのか。味は美味かったし、そういった物が無いか使者に聞いてみるのも良いな」
「それでお義母様、もてなしの料理はどうするのでしょうか?」
「あぁ、そうだったな。うーむ、どうしたものか?」
「特に気にせず、こちらの料理を出せばよろしいと思いますよ。折角別の国に来ているのですから、私だったら別の物を食べてみたいと思いますよ」
「そうだな、アリシアの言う通りだ。変に気を使わずこちらの料理を振る舞うとしよう」
「それじゃあ、料理長に伝えて来ますね」
とシャロンさんは席を外すのだった。
「はぁ〜、しかし急に使者を送って来るとは一体何の用件なんだろうな?お陰でこちらは大忙しだ」
「先生かシャロンさんの力を借りたいとかですかね?」
「それにしたって急すぎるな、知らせが来たのは3日前なんだぞ。対価として何か貰わないとな」
「それでしたらお米を貰いましょう!私も1度空中都市で食べましたが美味しいと思いましたし。それにワタルさんが米と聞いてさっきからソワソワしてますし」
「バレてた?」
空中都市では買えなかったし、旅商人のコリンさんも取り寄せるのは難しいと言っていたので、もしヒノウラから取り寄せられるのなら、是非そうして貰いたい所だ。
「そうだな、折角だから米を貰うとしよう。ちゃんとアリシア達の分も貰ってやるぞ」
「流石先生です!」
その後、俺は街に繰り出しあまり人目のつかなさそうな場所にテレポートの位置を変更し、そのまま城で夜ご飯を頂いて家へと帰った。
それから2日後、流石にアリーとオレイユさんが師弟関係とは言え、聖国に深く関わっている訳では無いので使者との交流の場には立ち会わず、その翌日のお昼に結果を聞きに行く事にしていたのだ。
「お米は貰えることになったのでしょうかね?」
「貰えてたら嬉しいんだけど」
とアリーと一緒に城へと向かうと、何やら城内がバタバタとしていた。
「これは一体どうしたのでしょうか?」
「凄い忙しそうだけど?」
アリーが門番に名乗ると、オレイユさんからすぐに来て欲しいと伝言を受け取った。
そのまま、オレイユさんの待つ玉座の間へと向かい扉を開けると、中ではこの国の大臣と思われる人達が話し合っていた。
「なんだね?君たちは?」
「あの、先生にお会いしに来たのですが・・・」
「先生?」
大臣達が不思議そうに首を傾げていると奥から、
「すまない、そこの2人は私の客人だ。皆、しばらく席を外してくれ」
とオレイユさんの声が聞こえて、大臣達は退出して行った。
「2人ともよく来てくれた」
「何やら場内が騒がしかったですが何かあったのですか?それにシャロンちゃんの姿も見えないのですが?」
「実はな、昨日予定通りにヒノウラからの使者がやって来たのだが、到着するなり私らに頭を下げて姫を助けて欲しいと言って来たんだ」
「姫を助ける?」
「なんでも、あの国を治める主の娘が病にかかって何度も国内外の回復魔法を使える者を呼んだが、誰1人治せなかったそうだ。それで聖女だった私か現聖女のシャロンに頼みに来た様だ」
「なるほど、それでシャロンさんはヒノウラの使者について行ったと」
「そう言う事だ。あの子は困っている人を放っておく事が出来ないからな。我が国の精鋭騎士達を同伴させたが心配でな・・・無茶を承知で頼むのだが、今からあの子の後を追って手助けしてやってくれないだろうか?私自ら行きたいが、国の事もあって動けないのだ」
「勿論、良いですよ!」
オレイユさんのお願いにアリーが迷わず即答した。
「良いのか?」
「先生のお願いですし、シャロンちゃんは妹弟子ですからね!あっ!でもワタルさんにも確認しないとですね」
とアリーがこちらを向いたので、
「アリーが良いんだったら構わないよ」
「はい!ワタルさんもOKです!」
「そうか、2人ともありがとう。お礼はヒノウラのお米を毎月届けると言う物で良いかな?」
「それが願うなら、嬉しいです」
「ならば何としてでも交渉して勝ち取ろう。それじゃあ船はこちらですぐに手配しよう」
「いえ、船は必要無いですよ」
「どう言う事だ?ヒノウラに行くには海を越えないと行けないぞ?」
「それはですね・・・ワタルさん、ヒルズさんを呼んでください」
アリーに言われた通りヒルズを呼ぶと、家までのゲートを開きアリーが入って行った。
そして、すぐさま戻って来たのだが後ろには案の定ティーが居た。
「なんじゃ、なんじゃ?妾は今からお昼寝をしようと思っとったんじゃが」
「と言うわけで龍王様に協力して貰おうと思います」
「なるほど、空を行くのか・・・流石私の弟子だ」
「だから、妾に何をさせるのじゃ?」
事情を知らないティーに説明し、ヒノウラまで運んで欲しいと伝えた。
「うーん、でもなぁ眠いんじゃよな」
「美味しい物が食べられるかもしれませんよ?」
その言葉にピクッとティーが反応し、
「まぁ、困ってるんだったら助けてやるとするかの」
と結局協力してくれる事になった。
「それで、そのヒノウラという国の場所は何処なんじゃ?」
オレイユさんが地図を広げてティーに場所を説明した。
「なるほど、超特急で行けば4時間程で着くじゃろうし、夕方になるな」
「それじゃあよろしくねティー」
「よろしくお願いします龍王様」
「うむ、任せるのじゃ。じゃが帰りはヒルズのテレポートで帰るぞ」
という事で、3人でヒノウラへと急遽出発する事になったのだった。




