いざ、開幕
ある日、俺とオルフェさん、ベルの3人組で街へと買い物にやって来ていた。
買う物も買ったので、そろそろ帰ろうかと思った所に、何処からか、
「赤チームが白チームを追いかける形だー!」
と何かを実況する様な声が聞こえてきたのだ。
ベルがその声に興味を惹かれて見に行ってみると、そこでは赤いハチマキと白いハチマキを頭に巻いた人達が徒競走をしていたのだ。
「何あれ?」
俺は何をしているのか分からず、2人にも聞いてみたのだが知らないと言う。
一体何なんだろうと思っていると、
「さぁ!地区対抗運動会も終盤に差し迫ってきましたー!」
実況がそう叫ぶのだった。
「運動会!」
俺は、この世界にも運動会が存在している事を知り驚いた。
やっている事も前の世界と同じで、徒競走だったり長い綱も見えるので綱引きとかもあるのだろう。
「みんな楽しそうだね」
「人間ってあんな事してるんだね〜」
「魔族の人達は運動会しないの?」
「う〜ん、やってる所は見た事ないね」
「結構楽しい物だよ」
「じゃあ、飛び入りで参加でもしてくる?」
「いや、そこまでは・・・」
と話していると、
「私もやりたい!」
ベルがそう言い放ったのだ。
「えっ?じゃあ本当に行く?」
「あそこに行くんじゃなくて、皆んなでやりたい!」
ベルが言うには、飛び入り参加ではなく家の人達と運動会をしたいそうだ。
ひとまずその場を後にして、家へと戻り他の人達にも聞いてみる事にした。
「運動会ですか?」
「うん、ベルが街でやってるのを見て皆んなでやりたいって言うんだけど、どうかな?」
「それなら是非やりましょう!」
とアリーはノリノリだった。
他の人達も、問題なく全員参加する事となった。
「それで場所はどうするんですか?」
とリッヒさんが聞いてきたが、そこまで考えていなかった。
「う〜ん、この森の中でする?」
「そんなスペースないじゃろ」
「でしたら、私の祖父が所有している広いグラウンドがあるんですが、そこなんてどうでしょうか?実家のすぐ側にあるので使い勝手も良いと思いますよ」
「そこ使わせて貰えるんだったら助かるね」
「手紙を出して確認してみますね」
それから、2日後。
「使っても良いと返事が来ました!」
「よし、じゃあ場所はそこで決定として日にちはどうしようか?」
「その前に人数は私達だけで良いのか?どうせならもっと人を呼んだ方が楽しいと思うが」
「確かにエレオノーラさんの言う通りだね。テンメルスさんとかララさんとかも呼んでみる?」
「良いですね!では私はアイラとフランに手紙を出してみますね」
「私もメアさんに手紙を出した方が良いのか?」
「じゃあ私は、ララちゃんとラヴィちゃんに連絡を〜」
「妾はテンメルスとフィーアにも連絡しておくのじゃ。多分、セットで大賢者もついてくるじゃろ」
「じゃあ俺はホープでも誘ってみるか。ヒルズは嫌がりそうだけど・・・これでかなり人も集まりそうだね。後は日にちだけど」
「1週間くらいが丁度良いのではないでしょうか?」
「そうだね準備とかもあるし、そうしよっか」
「このまま色々と決めてしまうのじゃ」
「チームは分けた方が良いよね」
「全員揃うとしたら何人くらいになりますかね?」
「20人以上はいるよね」
「赤チームと白チームにくじ引きで分けるのはどうでしょうか?」
「うん、ルインの案を採用で」
「あとは競技内容ですね。徒競走とかでしょうか?」
「街で見た時は綱引きとかあったけど、借り物競争とかはどうかな?」
「借り物競争とは?」
アリー達はしっくりときていない様で説明をする。
「走って競争をするんだけどコースの途中にお題の書かれた紙があって、それに沿った人とか物を持って来てゴールしないといけないんだ」
「なるほど、人数はそこまで多くないですがいけますかね?」
「そこら辺はお題を上手い事調整しようか。あと他には何かあればある?」
「障害物競走なんかはどうじゃ?」
「必要な物とかあったらホープの錬金術で用意も出来そうだし良いんじゃない」
「では障害物競走も決定ですね、あとは・・・」
と運動会に向けて色々と決めていった。
そして、1週間が経過した。
遂に運動会当日だ。
前日から準備の為にホープも含めて皆んなでアリーの実家へとやって来ている。
「急な思いつきだったのに、家を使わせて貰ってすみません」
「流石に疲れた客をそのまま帰すわけには行かないからな」
オーウェンさんには屋敷の部屋を空けてもらい、今日やって来るテンメルスさん達が1日泊まれる様に手配してもらったのだ。
「しかし、手紙で聞いてはいたが、あの小さな女の子が魔物と言うのは信じられんな」
オーウェンさん達がベルに会うのはこれが初めてだった。
ベルは現在、クラニーさんの膝に座り何やら楽しそうに話している。
「もし手紙が無かったら私達の孫かと思っただろうな」
「流石にそれは気づいて下さいよ」
この人は本当に娘の事となると親バカになるなと、大笑いするオーウェンさんを見つつ思った。
グラウンドはこの屋敷から馬車で20分程の所にあり、広さもかなりな物だった。
準備も前日に全て済ませているので、あとは他の人達の到着を待つだけだった。
まず1番初めにやって来たのはフィーアさんだった。
結婚式の時には、1番最後にギリギリでやって来ていたので、かなり意外だった。
ティーも予想外だった様で、
「お主にしては珍しく早いな?」
と聞いていた。
「いやー、ティーとのバトルに心躍っちゃって」
「ん?バトルってどういうことですか?」
「あれ?私とティーが何でもありの戦いをするんじゃないの?」
「いや、今日は運動会なんで、そんなに激しい戦闘とかはしませんけど・・・?」
「あれ?どう言う事?」
「はぁ、お主の事じゃろうし手紙の内容も読まずに競争の部分が目に留まっただけじゃろ」
ティーが言うには、手紙に競争という文字を使ったので、それに反応したという事らしい。
「えぇ〜、せっかく戦えると思ったのに〜」
「仕方のない奴じゃの、今から軽く相手してやるからついて来るんじゃ」
「わーい!」
と2人はグラウンドへと向かって行った。
その次に、テンメルスさん一家と大賢者さんがやって来た。
テンメルスさんの子供達とベルは初対面だったが、子供同士ですぐに仲良くなり一緒に遊んでいた。
その後もアイラさん、フランさん、ララさん、ラヴィさんと続々と参加者が集まって来た。
それと想定外だったのが、ドリアードのエムネスさんとウンディーネのネアンさんの2人もやって来たのだ。
どうやらヒルズが呼んでいたらしい。
「久しいなネアンよ」
「エムネスこそ、お久しぶりですね」
「今日は覚悟しておくと良い」
「ふふ、貴方には負けませんよ」
この2人が知り合いなのは以前から知っていたが、仲が悪そうには感じなかったのだが、今日は闘争心を剥き出しだ。
「この2人は普段の仲は良いのですが、争い事となるとこの様になると精霊王が言っておりました」
「今日は普通の運動会なんだけどなぁ・・・なんか皆んな勘違いしてない?」
少し不安を抱きつつも最後に、獣人国の王女であるメアさんがやって来た。
「メアさんもよく許可して貰えましたね」
当初、メアさんは参加出来ないと返事があったのだが、2日前に急遽参加するという手紙が来たのだ。
「はい、仕事も全て終わらせて毎日国王に朝から晩までずっとお願いし続けていたら観念して許可して下さいました!これぞ、エレオノーラ様への愛のなせるわざですね!」
「そ、そうでしたか」
屈託のない笑顔で言われ、そう反応せざるおえなかった。
それにしても獣人国の国王も大変そうだ。
これで、全員が揃ったのでグラウンドへとやって来たのだが、戦う為に先に来ていたティーとフィーアさんによって地面が穴だらけでボコボコになっていたのだ。
「す、すまん。すぐに直すのじゃ」
そう言って2人がかり魔法を使い地面の穴を塞いでいった。
グラウンドが直ると俺は用意してあった台に登り開始の挨拶をとる。
「えぇ〜、本日はお日柄もよく、参加してくださった皆様におかれましては・・・」
「ちょっと固すぎるんじゃないの〜?もっとラフにいこうよ〜」
オルフェさんから、そんなツッコミが入った。
「そ、そう?では、コホン。皆さん今日は急なお願いでしたが、我が家の運動会に参加して頂いてありがとうございます。色々と考えて作ってみたので1日是非楽しんでいって下さい!あっ、それと夜は打ち上げもあるので期待してて下さいね」
「今日はお酒解禁だー!」
打ち上げと聞いて、お酒をたらふく飲めると思っている我が家のメンバーが1人はしゃいでいるが、スルーする。
「え〜っと、それでは第1回魔の森の家運動会の開幕です!」
と遂に運動会が始まるのだった。




