それぞれの1日:side ヒルズ
「ヒルズ様、こちらの件なのですが・・・」
私を呼んだ精霊の元へと向かう。
「何かありましたか?」
「実はこの魔法が、なかなか発動出来なくて」
「それでしたら、ここをこうして・・・」
と私はその精霊に魔法を発動する手順を教える。
「なるほど・・・ありがとうございました」
「お気になさらず」
私が何をしているのかと言うと、精霊王に与えられた精霊の国での仕事をしているのだ。
私は魔法に関する知識を司っている精霊なのだ。
だから自身が使えない魔法だったとしても、発動の仕方などは分かるので、こうして誰かに教える事が出来る。
私がコタケ様に呼ばれるまでは、ここでこうして仕事をこなしている。
「ヒルズよ、久しいな」
仕事をこなしていると、精霊王が部屋へとやって来た。
ちなみに、私が仕事をしている場所は城内にある一室なので、こうやって時々やって来るのだ。
「お久しぶりです、精霊王様」
「して、最近はどうだ?」
「特に変わりなく過ごしておりますが」
「ふむ、そうか。それはよかった。ところであの人間はどうだ?最近は何か面白い事はあったか?」
「そうですね・・・3000年前に封印された聖剣を得ていました」
「ふははは!何だそれは!聖剣を手に入れるとは、あの人間は勇者だったのか?」
と笑いながら言った。
「何故、聖剣に選ばれたのかは分かりませんが、当時その聖剣を封印した者も驚いていましたね」
「確か、大賢者とか言ったか?」
「えぇ、そうです」
「やはり、あの人間の周りには色々な物や人間が集まるから面白いな」
「全くもって不思議な方です。それでいて、本人は特に偉ぶる事もなく、真面目に修行をしたり生活をしているので好感が持てますね」
「まぁ、その内もう一度城に招いてみるのも面白いだろうな」
と精霊王と話していると、コタケ様からの呼び出しがあった。
「すみません、精霊王様。コタケ様より呼び出しがありました」
「うむ、行って参れ。また、あの人間の面白い話を期待するとしよう」
私はこうして、コタケ様の元へと向かった。
「だ〜か〜ら〜!もっと強いのを撃ちなさいよ!」
「う〜ん、それなりに強めのやつは撃ってるんだけど」
コタケ様の元を訪れると誰かと口論をしていた。
「げっ!うるさい精霊じゃない!」
「私にもヒルズと言う名前があるのですが?アホな妖精の頭では覚えられませんか」
「私にもホープって名前があるんですけど!これだから精霊なんて嫌なのよ」
「私も妖精は嫌いですよ」
「はーい、2人ともちょっとストップー」
私と妖精の言い合いにコタケ様が仲裁した。
「ごめんね、ヒルズ。急に呼び出したりして」
「いえ、それは問題無いのですが、一体どの様な用件で?」
「あの魔物をどうにかしたいんだけど」
コタケ様が指差す方を見てみると、ダンジョンコアから生成されたであろう10匹のスライムが炎を纏った犬型の魔物を足止めしていた。
「あれは・・・どういう状況なのでしょうか?」
「実はホープのダンジョンにまた魔物が入って来て、どうしようもないから助けて欲しいって」
「あぁ、またですか。もうダンジョンを作るのに向いてないんじゃないでしょうか?」
「仕方ないじゃない!まだ始めたてで魔物も強く無いんだから」
「ならば、この様な強い魔物のいる所ではなく、もっと弱い魔物がいる所に行けば良いのでは?」
「いやよ!そんな場所だと人間が大量にいるじゃない!きっと私まで討伐されちゃうわ・・・」
「え〜っと、話を戻すけどあの魔物をどうやって倒せるのかヒルズに教えて欲しくて呼んだんだけど何か分かる?さっきからホープに言われて魔法で氷の矢を飛ばしてるんだけど、中々倒せなくて」
「コタケ様、あの魔物は炎纏っているので一見、氷の魔法が弱点だと思われますが、実は耐性を持っているのであまり効き目がありません」
「えっ!そうだったの?ホープが火力が足りないだけでしょって言うから、ずっと撃ってたんだけど意味なかったのか・・・」
「あまり、その妖精が言う事を信じない方がよろしいかと」
「何よ誰だってそう思うでしょ!」
「ダンジョン内に魔物を配置するのですから、少しくらい特性などを勉強した方が良いのでは?」
「ぐぬぬ・・・」
「それで、あの敵はどうやって倒すの?」
「土魔法で同じ事をしてみて下さい」
私がそう言うと、コタケ様は魔法で作られた土の矢を10本ほど作り出し、それを魔物目掛けて放った。
魔物はスライム達に気を取られて、飛来する魔法に気付かず体を貫かれてそのまま息絶えた。
「うわっ!ほんとだ。さっきまで倒せなかったのに、あんなにあっさり」
「コタケ様も魔物に関する知識を少し入れた方がよろしいかもしれませんね」
「そうだね。ラヴィさんの家なら本が沢山あるし、今度借りてきてみようかな」
「私も微力ながら協力致します。それにしても、魔法の展開にもかなり慣れてきた様ですね」
「日頃から訓練もしてるからね。でも、ティーとかと比べるとどうしてもまだまだ力が足りてない様に感じるんだよね」
「まぁ、あの方は特別ですからね。あまり比較されない方が良いと思いますよ。私から見ればとても成長していますよ」
「そう?なら良かったよ。これからも頑張らないとね」
「あっ、話終わった?ならもう帰って良いわよ〜」
「あなた・・・お礼の一つも言えないのですか・・・?これだから妖精は嫌いなんですよ」
「うっさいわね、もう!ありがとうございました!はい、これで良いんでしょ!」
「誠意がこもってません!もう一度」
「何よ、誠意って」
「そんなんじゃ、次からは手伝う必要性もありませんね」
「う〜〜、いつもいつもありがとうございます。本当に助かってます!」
「あはは、どういたしまして」
コタケ様は若干困惑気味にそう答えるのでした。
その後、ダンジョンを後にして家へと帰るコタケ様の護衛をして無事に到着した。
「今日は急に呼び出してごめんね?」
「ちょうど仕事もひと段落ついていたので大丈夫ですよ」
「そう言えばヒルズの仕事って何してるの?」
「他の精霊達に魔法を教えています」
「先生って事?」
「先生・・・まぁ、似た様なものですね」
「へぇ〜、今度働いてる所見に行っても良い?」
「見てても楽しくないと思いますが?」
「ヒルズの働いてる姿が見たいんだよ。普段どういう事してるのか全然知らないからね」
「まぁ、私は別に見られても問題はないですが」
「じゃあ、都合のいい時にまた誘ってね」
「分かりました。あっ、でしたらその際に精霊王にお会いしてもらってもいいですか?お話したいそうで」
「えっ?俺なにかしちゃった?」
「いえ、怒られるとかそういう事ではなく、ただ単に話がしたいそうなので、コタケ様は精霊王にかなり気に入られていますので」
「そうなんだ、それなら大丈夫だよ」
「では、また精霊王にも伝えておきますね」
そうして、その場を後にして精霊の国へと戻った。
国に戻ると、私の仕事部屋の机に大量の書類が山積みに置かれていた。
この書類には、他の精霊からの魔法に関する質問が書かれている。
「はぁ〜、これはまた忙しくなりそうですね・・・」
精霊は基本的に睡眠を取らなくても問題の無い生き物だ。
ただ疲れは感じるので、それを癒すために寝る者も少なくない。
私は、長丁場になる事を覚悟して書類に手をつけ始めるのだった。
これにて各視点のお話は終わりになります。
次回からはいつも通りの投稿に戻ります。




