それぞれの1日:side リッヒ
「おはようございます」
目を覚まして、1階に向かい既に起きて来ている皆さんに挨拶をする。
私の1日はここから始まる。
今までの慌しかった日常とは違い平和な日々を過ごしており、この家に来てからの私の起きる時間はかなり遅くなっている。
「おはようございます。ふふ、寝癖がついちゃってますよ」
アリシアお姉様にそう言われて慌てて手で直そうとしたら、ソファをポンポンと叩いて隣に座ってといった感じだったので横に座ると、櫛で私の髪をといてくれた。
他の人達がほっこりとした表情で見ていたので少し恥ずかしくなった。
「あの今日なんですけど、この前言ってた街への買い物に行きたいんですが・・・」
「えぇ、もちろん良いですよ!それなら私達2人はお昼はいりませんね。アン達にも伝えておきましょう」
お姉様との2人きりでの買い物に私は心が躍るのでした。
それから朝食を終えると、ティーフェン様に運んで貰い1時間程かけて大きな街へとやって来ました。
「お姉様、今日は何故いつもと違う街に来たのですか?」
普段買い出しに使用している街は、ティーフェン様に乗れば10分程で到着するし、物もそれなりに揃っている。
「折角2人きりで遊ぶんですから、いつもと違うところの方が新鮮で楽しいでしょう。それに、ここは商業が盛んな街でもあるんですよ」
お姉様は楽しそうにしながらそう話すのでした。
「それじゃあ、まずは何処に行きましょうか?」
と言われて、そういえば何をするかのプランを決めておくのを忘れていた。
「ふふ、その様子だと考えていなかったって感じですね」
「すみません・・・」
「大丈夫ですよ!まずはゆっくり街を歩いて何があるかを見てみましょう」
こうして目的もなく、ぶらぶらと街を歩いていると、お姉様がピタッと立ち止まった。
「何やらあそこに人だかりが出来てますね?」
視線の先には、沢山の女性達が1つの店先に集まっていた。
そこには、大きなカゴが置いてあり中に何か入っている様で、女性達は鬼の様な形相をしてそれらを取り合っていた。
「一体なんなのでしょうか?」
店の方に近づいて行くと、
「今なら洗剤1本、銅貨1枚で安いよー!5本買ったら1本おまけでつけちゃうよー!」
と店員らしき人が、呼び込みをしていた。
「もしかして、日用品のお店でしょうか?」
お姉様がそう言う様に、洗剤の他にも食器など様々な物が売られており、大特価と大きく書かれていた。
「それにしても凄い人だかりですね」
「良く買い物をする街でも、洗剤は1本で銅貨4枚程のなので確かに安いですね」
「そうなんですね。それにしても皆さん物凄い表情ですね」
皆、他の人をかき分けてでも商品を取ろうとしている。
「主婦にとって、この様な安売りは戦いですから」
「そ、そうなんですか・・・」
お姉様も少しメラメラと闘争心が燃え上がっている様に感じ、今にも参戦しそうな雰囲気だった。
「お姉様、他の所も見てみましょう!」
「そ、そうね。今日は日用品の買い出しに来たわけではないものね」
と少しがっかりしていたが、その場を後にした。
しばらく歩いていると、今度はシックでお洒落な建物を見つけた。
窓ガラスから中に、女性客が何人か居るのが見える。
「お姉様、あそこに行ってみませんか?」
「えぇ、良いですよ」
そうして店に入ってみると、中にはガラスで出来た小物が売られていた。
花の形をした物や動物の形をした物など様々な種類があり、色の種類も豊富で綺麗だった。
「わぁ〜、とっても綺麗ですね!折角なので気になった物があれば買っていきましょうか」
二手に分かれて自分の好きな物を買う事にした。
犬や猫といった一般的な動物の他に、スライムなどのママのに加えて、ドラゴンの置き物まであった。
「これが全部ガラスで出来てるなんて・・・」
職人の技術に感嘆する。
「このドラゴンの置き物かっこいいなぁ」
と候補に入れつつ、他の物を探していると、
「あっ」
私は、その商品に目を奪われて手に取り、お姉様の元へと向かった。
「どうやら、お互い決まったみたいですね?」
「せーので、行きましょう」
「えぇ、では、せーのっ!」
そうしてお互いに見せ合ったのは、とてもリアルなバラの花の置き物だった。
色はお姉様が赤色で、私が青色だが物自体は一緒だ。
「まぁ!一緒ですね!」
「光が当たるとキラキラと光るのが、とても綺麗でした」
「本物のバラには無い、良さがあって良いですよね。それに花弁の部分に繋ぎ目が無くて、職人の技が感じられます」
「どうやって作ってるのか不思議ですよね」
「簡単には真似できなさそうな代物ですね。それじゃあお会計も済ませてしまいましょう」
「2点で金貨2枚となります」
「えっ!」
私は店員が言った値段に驚いた。
物に気を取られて値段を見ていなかった。
「あの、お姉様・・・」
「ふふ、心配しなくても大丈夫ですよ。こんな時こそ・・・ジャーン!私のへそくりでーす!」
と財布から金貨2枚を取り出した。
「あの、後で必ずお返しするので」
「そんな事しなくて大丈夫ですよ。私が出したいから出すんですし。それにこのお金は昔にたまたま自分で稼いだ物なので、好きな様に使っても問題ありません!」
「でも・・・」
「それなら、この後の昼食を奢ってもらうというのでどうでしょう?」
「それでも割に合わないような」
「それで良いんですよ。妹なら姉に甘えるものです」
「うぅ、分かりました」
「はい、それでよろしい!」
そうしてバラの置き物を購入後、料理屋でサンドイッチを買って近くの公園のベンチで食べることにした。
「ん〜、美味しい!」
「公園でゆっくり食べるのも良いものですね」
「太陽と風が心地いいです」
そうしてサンドイッチを食べ終えると、何処からか甘い匂いがして来た。
「この匂いは何処から・・・」
「あそこに屋台みたいな物がありますよ?」
鼻をクンクンと利かせて匂いを辿っているお姉様に私はそう言った。
「行ってみましょう」
と屋台の方に近づくと、そこはクレープを作っていた。
「グゥ〜〜」
とお姉様のお腹が鳴った。
「うぅ、あれだけ食べたのに恥ずかしい・・・」
「し、仕方ないですよ。デザート別腹ですから!」
「そ、そうよね!別腹だし大丈夫よね!」
「私買って来ますね。お姉様は何にしますか?」
「私はストロベリーで」
自分はチョコレートを選び、2つのクレープを買い先程のベンチに戻って来た。
「甘くてどれだけでも食べれちゃいそうです」
「あの、お姉様のクレープも一口頂いてもいいですか?」
「えぇ、いいですよ!はい、あーん!」
とクレープを差し出して来たので、少し恥じらいながら一口かじった。
「凄く甘いですね」
「そうですよね。かなり良いイチゴを使用してるんでしょうね」
「お姉様、良ければ私のも食べてみますか?」
「えぇ、ぜひ!」
私はお姉様にやられた様にクレープを差し出して、あーんをした。
「うーん!甘すぎずって感じでこちらも良いですね」
2人で食べたクレープはとても美味しく、また来る機会があったら別の味も食べてみたいと思った。
「それで、これからどうしましょうか?」
クレープも食べ終えて、ベンチでゆっくりした後に次は何処に行くか相談する事となった。
「お姉様は何処か行きたい所はありますか?」
「そうですねぇ・・・特に、無いですかね?」
「それだったら私について来てもらっても良いですか?」
「えぇ、もちろんですよ!」
そうして私が向かった先というのが、
「あの、先程見た日用品店に見えるのですが?」
「はい、そうですよ」
先程まで、洗剤が大量に入っていたカゴは無くなり人だかりも無くなっていたが、それでも客の多いこの日用品店にやって来たのだ。
「こんな所にどんな用事が?」
「普通に買い物ですよ」
「普通に買い物ですか?」
「はい、先程お姉様が普段通っている街よりも安いと言っていたので折角ならと思いまして」
「しかし、今日は・・・」
「午前中は2人で楽しく街を回れましたし、こうやって日常の買い物をするのも楽しいですから!」
「そうですか、なら今からは主婦モードになります!」
お姉様はそう言って、サッと財布を取り出して買い物を始めて、私は一緒について回るのでした。
買い物を終えると夕方になり、丁度ティーフェン様のお迎えに来ていたので、家に帰って来た。
「ただいま戻りました」
「おかえりー、どうだった?」
「とても楽しかったですよ!」
コタケ様が出迎え、お姉様はそう答えた。
「リッヒさんも楽しかった?」
「もちろん、楽しかったです!」
「それなら良かったよ。それで、ご飯の準備はもう出来てるらしいんだけど、どうする?先にご飯にする?それともお風呂にする?」
「それじゃあワタルさんで!」
「えぇ〜、その答え方、何処で覚えてくるの・・・」
とコタケ様は困惑気味に言った
「オルフェさんからそう教わったんですが、違うんですかね?」
「はぁ〜、あの人は・・・今日はその選択肢はありません」
「今日はという事は別の日なら大丈夫という事ですね!」
「まぁ・・・うん」
と2人は仲睦まじいやり取りをするのでした。
ご飯を食べた後、お風呂から上がるとお姉様が今日の戦利品と言って洗剤やタオルなどの日用品をマジックバックから取り出していた。
「あれ?2人とも自分達の買い物をしてたんじゃ?」
「その、あまりにも安かったので思わず買ってしまいました」
「私もお姉様が喜ぶと思ったので、午後は普通に買い物をしてたんですよ」
「そうだったんだ・・・自分達の買いたい物も買えたの?」
「はい、素晴らしい物を買えました」
「へぇ〜、どんな物?」
私とお姉様は顔を見合わせて、ガラスで出来たバラを見せた。
「おぉ〜、確かにこれは綺麗だね」
「ですよね!2人とも別々で選んだのに、最終的に一緒な物を選んだんですよ!」
「2人とも仲良しだね」
「はい!」
「はい!」
お互い顔を合わせて返事をし、笑うのだった。
部屋に戻り、棚の上にバラを飾る。
部屋の明かりを消してベッドに横になって、バラを見てみると僅かに入り込む月明かりに照らされて、より一層神秘的な映る。
「きれいだなぁ〜」
そうやってバラを眺めていると、ウトウトし出して眠りにつくのだった。
なかなか時間取れず、今日も1話となります。




