元凶
急に攻めて来た魔物の群勢を倒した俺達は、原因を探る為に魔物達がやって来た方向に向かっていた。
「ここら辺は魔物の気配が全くしないですね」
「さっきも1番最初に魔物の群勢に気付いてましたけど、獣人の方はそういった能力を持ってるんですか?」
「獣人は鼻と耳が利きますので気配に敏感で、私はその中でも特に優れている方なんです」
「とても頼りにしていますよ」
エレオノーラさんにそう言われて、とても喜んでいた。
「ところで原因は何だと思う?」
俺はティーに今回の原因の予想を聞いた。
「森の中心地に何かしらが現れたんじゃろうな」
「やっぱり、俺が聖剣を取ったのが原因だったりする?」
「うむ、可能性が無いとは言い切れんのう」
聖剣を抜いて、しばらくしてから今回のような事が起こったのだ、可能性はかなり高い。
(最悪、聖剣をあの場に戻さないといけないかな・・・)
もし、聖剣が無くなった事で起きた事なら再び封印し直さないと行けないが、正直な所この強い剣を手放すのは気が引ける。
「とりあえず原因は確定しておらんのじゃから、そう落ち込むな」
「あはは、顔に出ちゃってたか」
「先程から聖剣と聞こえるのですが、コタケ様のお持ちになってる剣は・・・」
「3000年前に勇者が使ってた、聖剣らしいですよ」
「そんなに凄い物だったんですね!失礼ではありますが、コタケ様はあまり戦闘に慣れていない様ですが、それでも先程の戦闘の際は凄まじい威力でしたね」
「俺もこの剣の本来の力を全然引き出せてないので、日々特訓中なんです」
「素晴らしい心掛けですね。エレオノーラ様もいますし剣の修行には事欠かないでしょう」
「えぇ、いつもしごかれてますよ」
「そ、そんなに厳しくはしてないだろう」
「いつも結構ギリギリですよ」
「ギリギリなのか・・・ならまだ伸ばす余地があるな」
「えぇ!?何でそうなるんですか!?」
「修行は限界を突破してこそ意味があるんだ」
どうやら俺は余計な事を言ってしまったみたいだ。
「ふふ、私も次に来た時はご一緒させて頂きたいですね」
「それなら、特別メニューを考えておきますよ」
とエレオノーラさんはいきいきしていた。
そうこうしている内に、聖剣が封印されていた洞窟のある崖までやって来た。
「ここら辺から、あまり良く無い気配がしますね・・・」
メアさんが何かを感じ取った様だ。
すると、何処からともなく
『クッフッフッフッフ、とても美味しそうなエサがやって来たでは無いか』
と不気味な声が響き渡った。
「何者だ!姿を現せ!」
エレオノーラさんがそう言うと、俺達の目の前に黒い渦が現れた。
『愚かな人間共よ我の前に跪け』
渦は人の形になっていき、黒いローブを羽織った骸骨になったのだ。
「あれはアンデッドか?」
つい最近、ホープのダンジョンで同じ様な魔物を見たがそれと同じなのだろうか?
『我をそこらのアンデッドと一緒にするな。我こそアンデッドの王リッチである!』
「アンデットの王?」
「リッチは、生前魔法に長けた者が何かしらの遺恨を残しながら死んだ事で発生するアンデッドだ。物理や魔法の攻撃に強い耐性を持ち、自身は強力な魔法で攻撃してくるんだ」
話を聞く限り厄介そうだ。
『人間よ良く分かっているでは無いか。しかし我はそれだけでは無い、遥か昔に魔王様にお仕えしていた最強のリッチなのだ!』
「それで、その最強のリッチは何をする気なんじゃ?」
『まずは、ここを拠点に人間の国を滅ぼしてやる。幸いここには強い魔物が大量にいるからな。そしてその後は、他の種族も根絶やしにして魔王様の悲願を達成するのだ!』
「その前にまずは妾達を倒さないとな!」
ティーはそう言うと、相手に詰め寄り蹴りを入れた。
だが、リッチは魔法で障壁を発動してそれを防いだのだ。
『まぁ、慌てるな人間達よ。我がじっくりと時間をかけて死という褒美をくれてやろう』
「私達を倒せると思わない事だな!」
エレオノーラさんとメアさんが一緒に接近して、リッチに斬りかかった。
『ムッ?』
先程と同じ様に障壁で防がれると思ったのだが、メアさんの剣が当たった瞬間に障壁がパリンと割れて、エレオノーラさんの剣がリッチに直接当たった。
『女、何だその剣は』
「教えるわけないでしょう」
『まぁ良い、大方魔法の無効化が出来る魔剣だろう?』
「それはどうでしょうねっ!」
再びメアさんが攻撃を開始し、ティーとエレオノーラさんもそれに合わせて攻撃し始めた。
あの3人の中に入ったら邪魔になるだけだろうと俺は外から見ることしかできなかった。
すると、
「コタケ様」
とまだ戦いに参加していなかったヒルズが俺を呼んだ。
「どうかしたの?」
「恐らくあのリッチは聖剣と一緒に封印されていたはずです。ですので、何が知ってそうな大賢者を呼んでこようと思うのですが、よろしいでしょうか?」
聖剣を封印したのが、大賢者だから何が知っていらだろうと踏んだ様だ。
「分かった、気をつけて」
そうして、ヒルズは大賢者を呼びに姿を消した。
その間も、3人は攻防を続けていた。
『えぇい、鬱陶しい!サモン:アンデッド』
リッチがそう言うと、周りから50体のアンデッドが出現した。
「っ!」
3人は一度リッチから離れてこちらに戻って来た。
「なかなか攻撃が通らなくて厄介ですね。私の魔剣の事も見破られましたし」
「さっきの戦いで疲れたのじゃ」
ついさっきまで魔物の群勢に対峙していた事もあり、皆んなの体力もかなり減っていた。
ティーもドラゴンの姿に変身する力も残って無いみたいだ。
「それに、あのアンデッド達もかなり厄介ですね。恐らく私達の攻撃では倒せないでしょう」
「数も無駄に多いからな・・・コタケ殿の聖剣ならあのアンデッドを倒せる筈だ。どうだ出来るだろうか?」
とエレオノーラさんが聞いて来た。
「ちょっと試してみます」
魔物の群勢と戦った時の様に斬撃を飛ばそうと俺は構えた。
さっきはヒルズが手伝ってくれた事もあり、簡単に出来たが1人でも出来るのかは不安だった。
「はぁぁぁ!」
俺は気合いを入れて剣を薙ぎ払った。
すると、無事に斬撃が発動して5体のアンデットを倒す事が出来た。
ただ、かなりの集中力が必要で、どっと疲れてしまった。
『その剣は・・・ハハハハハ、そう言う事か!アンデッドよ、その男を狙え!』
すると、俺目掛けてアンデッド達が走り出して来た。
「コタケ殿を守れ!」
エレオノーラさんの掛け声で他の2人も飛び出して、アンデッドと対峙し始めた。
「コタケ様は、先程の技を時間が掛かっても大丈夫なので発動をお願いします!私達がアンデットを近づけない様にしますので」
メアさんの指示に従って、構えた。
「攻撃を放ちます、避けて下さい!」
俺はそう叫び、他の人達がアンデッドから引いたのを確認して再び斬撃を放った。
アンデッドを4体倒して、斬撃は消えた。
その後も何度も同じ事を繰り返していった。
そして、1時間で15回目の斬撃を放ち全てのアンデッドを倒した。
「はぁはぁ」
長い攻防を繰り返し、皆んな疲れてしまっていた。
『おめでとう』
リッチはパチパチと手を叩きながらそう言った。
『我を封印していた一部である、忌々しい聖剣を見て警戒したが、どうやら使用者が大した事がない様だな。もう飽きたしここまでにしよう』
そう言うとリッチの上空に直径30mの炎の玉と氷塊が出現した。
『では、さらばだ』
猛スピードで2つの魔法が近づいてくる。
「全員でコタケ殿を守るんだ!」
3人が覆い被さる様に俺の前に出て来た。
迫る魔法に思わず目を閉じてしまいそうになったその時、
カキン、カキン
と魔法が跳ね返り、リッチに直撃したのだ。
『グアァァァァ』
炎と氷に包まれリッチは絶叫した。
『ハァハァ、何だ!何をした?何処にそんな力が残っていると言うのだ!』
自分の魔法を喰らったリッチはかなりのダメージを負っていた。
そして、何故魔法が跳ね返されたのかと思っていたら、俺の胸元の辺りに光る物体があった。
それは大賢者から貰った魔法反射のネックレスだった。
「あぁ〜・・・すっかり存在を忘れてた・・・」
このネックレスが皆んなの事を守ってくれた様だ。
すると、俺達の後ろから、
「流石、私が作った魔道具ですね」
と大賢者が現れたのだった。
「皆様、お待たせ致しました」
ヒルズも一緒に戻って来た。
「お、遅いのじゃ・・・」
「すみません、仕事がなかなか片付かなくてですね・・・あっ、でも皆さんの状態は確認してたので大丈夫ですよ。それにピンチの時に颯爽と現れた方がかっこいいじゃないですか」
「それを言って全て台無しじゃわい。まぁ、お主が来た事じゃし後は任せるわい」
「はい、任されました」
『何だその男は?そいつがお前ら切り札なのか?』
「そうじゃ」
「そうだ」
ティーとエレオノーラさんは同時に答えた。
メアさんは大賢者の事を知らないので、誰?といった感じだった。
『今更、人間が1人増えたくらいでどうなる?犠牲が増えるだけでは無いか」
リッチは高笑いをした。
「私の事を覚えていないのは悲しいですね」
『何?』
大賢者の言葉にリッチは違和感を覚え、何かを考え始めた。
『いや待て、確か忌まわしい勇者の後ろに似た様な顔の男の魔法使いが居たような・・・まさか!』
「えぇ、本人ですよ」
『何故だ!何故まだ貴様が生きている!』
「まぁ、ちょっと長生きなんですよ。ちなみに貴方を封印してから3000年の月日が経っていますよ」
『3000年・・・貴様本当に人間か?』
「勿論、純粋な人間ですよ。そんな事はさて置いて、あの日の雪辱戦と行きましょうか?あの時は倒す事が出来ず、封印しか出来ませんでしたからね」
『大人しく貴様とやり合うと思うか?』
リッチはそう言ってフワッと浮き上がり飛んで何処かに逃げようとした。
しかし、リッチは空中でガンッと何かにぶつかり止まった。
『な、なんだ?』
「結界ですよ。貴方を逃したくは無いですからね」
『小癪な!』
リッチは逃げるのを諦め、こちらに向かって来ようとしたのだが、またガンッと空中でぶつかったのだ。
『この我を閉じ込めて再び封印する気か!』
「いえいえ、そんな訳では無いですよ。ところで皆さん、話は変わりますが私と勇者が協力しても過去にこのリッチを倒せなかった理由は分かりますか?」
リッチを閉じ込めたまま、大賢者は俺達に問いかけて来た。
「あやつが実は魔王よりも強かったとかか?」
「いえ、強さで言えば魔王の方が強かったのです。しかしあのリッチは魔王の加護を受けて不死となり何度倒しても蘇って来たんです」
「確かにそれは厄介じゃな」
「魔王を倒してもしばらくは加護も残っているので、仕方なく封印するしか無かったんです・・・ですが、3000年も経てばその加護切れて奴は不死では無くなったのです」
大賢者はリッチの方へと向き直り、
「それでは決着を付けるとしましょう」
『ここから出せ!』
「自らの過去に悔い改め、死してその罪をあがなえ!」
大賢者がそう叫ぶとリッチの足元から一本の炎の柱が空高くまで上がった。
『グオォォォォ』
凄まじい熱波がこちらまで伝わってくる。
ティーによると大賢者が周りに配慮して、熱を抑えたり火が広がらない様に調整をしているらしいが、それでもかなりの熱さだった。
『何故だぁぁ、何故、我が人間如きにぃぃぃぃ』
リッチは見る見る内に蒸発していき、最後には塵の一つも残さずに消え去った。
「ふぅ、これで勇者も報われますね」
「助けて頂いてありがとうございました」
「いえいえ、元はと言えば私が皆様にお伝えしていなかったのも原因ですし。何かお詫びをさせて下さい」
「そんな事しなくても、助けて貰ったんですから大丈夫ですよ」
「そうおっしゃるのであれば」
「じゃが、遅れた分の詫びはして貰わんとのぉ」
とティーがニヤニヤとしながら言った。
「ちなみに遅れた本当の理由は魔物と戦っていたからですよ」
とヒルズがさらっと言った。
「ちょ、ちょっとそれは内緒だって言ったじゃないですかー」
「そんな事だろうと思ったのじゃ」
ヒルズによると、精霊王に大賢者の元へとワープさせて貰った様だが、その先で複数の魔物と戦っており、それが終わるのを待っていたらしい。
「まぁ、それはそれとして今度会った時に何かご要望があればお応えしますよ。そうしないと私の気も晴れないので」
「それじゃあお言葉に甘えてそうさて貰います」
「はい、それでは私は先に帰らせて頂きますね」
そうして、大賢者は転移で帰ろうとした瞬間に俺に向かって、
「コタケ殿、先にごめんなさいと謝っておきます!」
謎の言葉を残して去って行った。
「最後の言葉は良く分からないけど、俺達も帰ろっか?メアさんの見送りもしないと行けないし」
「そ、そう言えばそうでした!」
戦闘で帰らないと行けない事をすっかり忘れていたみたいだ。
そして、家へすぐに戻り安全になったと皆に伝え、そのままメアさんの見送りとなった。
「メアさん、最終日にバタバタと迷惑を掛けましたが、また来てくれると嬉しいです」
「いえ、私こそ楽しかったです。短い間でしたが、お世話になりました。今度はもっと長く居られるように父に交渉してみます!」
こうしてメアさんは、エレオノーラさんの案内で森の外へと出て国へと帰って行った。
エレオノーラさんが不在にしている間、
「妾ももうちょっと修行をした方が良さそうじゃな」
と言い、今回リッチと戦った時に前の戦闘の影響で本調子が出ていなかった事を気にして、ティーは修行に励むのだった。
そして後日、俺の家にドリアードのエムネスさんが訪ねて来た。
当然ながら用件は、
「さて、あのバラバラになって木々の事を説明して貰おうか?」
と言う物だった。
俺は魔物の襲撃にあった事を説明した。
「まぁ、今回は仕方がないから許すとしよう・・・ただな、あの炎の柱はなんだ!森に燃え広がらないかとハラハラしていたのだぞ!」
と大賢者の魔法について言われたのだ。
「あれは、俺じゃなくてですね・・・」
「他の者がやったとしても、お主がそ奴らの手綱を握らないと行けないだろう」
「す、すいません・・・」
理不尽ながらも怒られて思わず謝ってしまったが、今になって大賢者が最後に残した言葉の意味が分かった。
(これを見越して謝ったのか・・・)
結局その後も、1時間みっちりとエムネスさんの説教を受けて俺は解放されたのだった。




