異変
メアさんが我が家に来て、2日目。
今日は、メアさんが家事の手伝いをしたいという事で狩りを一緒に行っていた。
「遊びに来てるんですから、お手伝いなんてしなくても大丈夫だったんですよ?」
「いえいえ、これくらいはやらさせて下さい。お世話になる分のお返しです。それに、こうしてエレオノーラ様の格好いい姿を見られますからね!」
と目の前で魔物と交戦していたエレオノーラさんをキラキラと目を輝かせて見つめていた。
「ふぅ、やっと終わったか」
最後の魔物を倒して、こちらに戻って来た。
「仕留めた動物の血の匂いに引き寄せられたのか、地味に多かったな」
「でも、傷一つなく倒したエレオノーラ様は流石の一言です!」
純粋に褒められたエレオノーラさんは、照れて顔を赤く染めていた。
「グルゥゥゥゥ」
「ちっ、また寄って来たか」
血の匂いに誘き寄せられたハイウルフが10匹追加でやって来た。
「次は、私にお任せください!」
メアさんが剣を抜いて前に出た。
そのまま、地面を蹴り魔物の前まで行くと先頭を走っていた3匹の首を刎ねた。
「あと7・・・」
「ガウゥ!」
2匹が飛び跳ねて襲いかかって来たが、華麗にかわしながら去り際に攻撃し、残りは5匹となった。
メアさんは立ち止まり、剣を構え力を込めて薙ぎ払うと、剣から斬撃が飛び残りの5匹を纏めて倒してしまった。
「ふぅ、やっぱり体を動かすのは良いですね」
「最後の攻撃は凄かったですね。あれは何なんですか?」
「私は風魔法との合わせ技の様に見えたのだが・・・」
「エレオノーラ様、ご名答です!私は風魔法をちょっとだけ使う事が出来るので、剣を振るのと同時に魔法を発動する事であの様に斬撃が飛んでいくのです」
魔法を使えばそういう事も出来るのかと考え、聖剣でやってみようかなと思ったが、あの剣の威力だと周りに大きな被害が出そうなのでやめておくことにした。
「それにしても、ここは本当に良く魔物が寄ってきますね。魔の森だからでしょうか?」
「普段なら数匹程度なんだが、今日はやけに多いな・・・」
「森の奥で何かあったのかな?」
「ひとまず、今日はここまでにして帰るとしよう」
午前中で狩りを切り上げて、午後からは家で過ごすことにした。
「ベルちゃんは、賢いですね〜」
ベルが勉強している所を見ていたメアさんが言った。
「もっちろん、私の娘だからね〜」
「いや、オルフェじゃなくてアリシアの努力の賜物じゃろ」
「そんな事ないって、ねー?」
オルフェさんはそうやって、ベルに同意を求めていた。
「アリシア様は、学校に通われていたんですよね?」
「はい、その時の経験を活かしてこうやってベルちゃんに教えています。メア様は?」
「実は私は学校に行った事は無くてですね。家庭教師が幼い頃から付いていたんです」
「貴族の中でもそう言った家はいくつかありますからね」
「はい、ですので学校に少しだけ憧れがあるんですよね」
「それなら!今から学校ごっこでもしませんか?」
アリーが突然、そう提案して来たのだった。
「学校ごっこ?」
「私が教師となり、皆さんは生徒となるんです」
「まぁ、面白そうです!ぜひやりましょう!」
いつの間にか俺達も頭数に入れられていたが、楽しそうだったので乗っかってみる事にした。
「はーい、それでは授業を始めます。今日は算数のお勉強です。先生が言う問題に答えていってもらいます」
ここには、黒板も全員分の教科書も無いのでアリーが問題を言う形になる。
「まずは、125738+57369は何ですか?」
想像していたものよりも桁が多く普通に難しかった。それに、手元に紙もないので暗算しないといけないのだが、すぐに反応したのはベルだった。
「はい!183107です!」
「はい、正解でーす」
「はやっ!」
あまりの回答スピードに皆んな驚いていた。
「次の問題です。712×65は?」
流石のベルもかけ算の問題には、まだ時間が掛かるみたいで、その間に、
「はい、46280です!」
「はい、メアさん正解です」
「やりました!」
10秒くらい経って、メアさんが答えた。
「これが学校の授業ですか・・・仲間と競い合って勉学に励むのですね。燃えてきました!」
謎のスイッチが入って周りにメラメラとした炎が見えてきそうだが、とりあえずメアさんが楽しそうにしていたので良しとした。
その後も学校ごっこは続き、次第に日も暮れて来たので、お開きとなり夕食の時間となった。
「学校ごっこ楽しかったです」
「満足頂けて何よりです。学校は勉強する場と共に色んな人と出会える場でもありますからね。私も学校に通ったお陰で素晴らしい友達を得ましたし」
「なるほど、今から学校に行くのも楽しそうですね・・・今度、父上に短期間だけでも通えないかお願いしてみます!」
と2日目は、働いたり遊んだりと色々な事をした。
そして、最終日の3日目の朝。
皆んなで朝ご飯を食べていると、今日の夕方には国へと帰るメアさんが別れを惜しんでいた。
「はぁ〜、今日で皆さんともお別れですか。とても名残惜しいです」
「またいつでも来てもらって大丈夫ですからね」
「コタケ様、ありがとうございます。また必ず来ます」
メアさんが、帰りたく無いですと呟きながらご飯を食べていると、急に口に運ぼうとしていたスプーンを途中でピタッと止め、頭に生えている狼の耳をピクピクと動かしていた。
「何か来ます!」
そう言って外へと駆け出して行ったので、俺達は慌てて後をついて行った。
「急にどうしたんですか?」
「たくさんの気配を感じました」
そう言いながら森を見つめていた。
獣人特有の能力なのだろうか、何かを敏感に感じ取っているらしい。
そうして、3分程外で待っていると森の奥の方から、
「た〜す〜け〜て〜」
と声が反響しながら聞こえて来た。
その声はだんだんと近づいて来て、遂に正体が露わになった。
「たすけてーーー!」
なんとそれは・・・
ただのホープだった。
ホープが凄いスピードで、俺の顔面に向かって飛んで来たのでパッと回避した。
「うぎゃっ!」
俺が避けた事で、家の壁に衝突したホープは変な声をあげた。
「ちょっと、なんで避けるのよ!」
「ぶつかりそうだったし」
「それなら何か柔らかい物で受け止めなさいよ」
「そんな理不尽な・・・」
「って!そんなことよりも!私のダンジョンがっ!」
「皆さん、構えて下さい!」
ホープが何か言いかけた時、メアさんが剣を抜いてそう言った。
するとホープが来た方向からドッドッドッという大量の足音共に30匹のハイウルフの群れが現れたのだ。
「あれはまずいのじゃ!」
ティーは急いで、ドラゴンへと変身して尻尾を振りハイウルフを攻撃した。
ただ、数匹撃ち漏らしていたがエレオノーラさんとメアさんが対処して事なき終えた。
「一体急にどうしたんじゃ?」
「ホープ何か知ってる?」
「急に魔物の群勢が現れて、私のダンジョンの魔物たちが全部倒されちゃったのよ!」
「30匹のハイウルフに?」
「あれだけじゃ無いわよ!もっとたくさん居たわ!」
まさかなと思いつつ、メアさんを見ると警戒を解いていない。
ティーもすぐさま上空に上がり、魔物が来た方向に飛んで様子を見に行き帰ってきた。
「まずいのじゃ、500匹くらいこちらに向かって来ておる」
「とりあえず、お嬢様達は家の中に避難していて下さい」
「分かったわ」
「戦える者は準備を」
エレオノーラさんの指示の元、俺とエレオノーラさんとティーとオルフェさんとヒルズとリッヒさんとメアさんの計7人とクロ達とで迎撃する事になった。
「妾が大きいのをやるから、お主らは撃ち漏らした奴らを仕留めてくれ」
聖剣を取り出して構えていると、だんだん先程よりも大きな足音が近づいて来ていた。
そして、森の奥からハイウルフの他に以前も見たことのあるグロスバットと呼ばれる3m超えの巨大なコウモリや6m超えの巨大カマキリに、全長20mを超えるバジリスクと呼ばれる巨大ヘビの魔物などが次々と現れた。
「先手必勝じゃ!」
ティーはそう言いながら、腕を振るいバジリスクを引き裂いた。
引き裂かれたバジリスクは強力な毒を撒き散らし周りを巻き込みながら倒れた。
ただ、流石のティーも毒のダメージを受けていた。
「痛いのじゃ・・・じゃが、これくらいならまだまだ行けるのじゃ!」
大きな魔物はティーに任せて、他の魔物達は俺らが対応する。
オルフェさんとヒルズとクロ達は魔法で、エレオノーラさんとメアさんと俺は剣で魔物を相手どる。
向かってくる魔物を倒し続けて30分一向に終わりが見えてこない。
「流石にきつい・・・」
聖剣使用時は、俺の体力等は強化され無いのでかなりきつい。
一度、腕輪の剣と聖剣の二刀流を試したのだが、聖剣によってなのか腕輪による身体能力向上の効果が効かなかったのだ。
どうしようかと思い、ふと昨日の事を思い出してヒルズの側まで行った。
「コタケ様どうかされましたか?」
「ちょっと試したい事があって」
ヒルズに俺は作戦を伝えて聖剣を構えた。
そして、聖剣を横に振るうと同時にヒルズが魔法を発動した事で斬撃が飛んでいったのだ。
これこそ、昨日メアさんがやっていた攻撃方法だ。
今回は周りの被害に構ってられそうに無いので、試しに使ってみたが、かなり使い勝手が良く動き回る事なく一気に20匹近くの魔物を倒す事が出来た。
ただし、
「これは後で、エムネスさんに謝らないとな・・・」
斬撃が広範囲に飛んでいくので、周りの木々を薙ぎ倒してしまうのだ。
無駄な伐採を好まないドリアードのエムネスさんからお叱りを受けそうだが、今回は出来れば大目に見て欲しい。
そうして、それから1時間経過した所で、
「これで終わりじゃー!」
ドーンと最後の1匹をティーが叩き潰して、戦闘は終了した。
辺りは倒れた木々と魔物が落とす魔石で埋め尽くされていた。
流石にこの量を相手にすると、無傷とはいかず多少の傷は受けたものの、致命傷は受けていないので皆んなアリーの回復魔法で治して貰った。
「それにしても一体何だったんだろう」
「ホープよ、こやつらは何処から現れたんじゃ?」
「私のダンジョンよりも奥から来たわ」
「となると、中心地に近い所か・・・何かあるかもしれないな」
それを聞いたエレオノーラさんがそう言った。
「早急に調べた方が宜しいのでは?」
「妾もリッヒに賛成じゃ」
「分かりました。では、オルフェ殿とメアさんには拠点防衛の為にも残って貰います」
「了解〜」
「エレオノーラ様、私も同行致します!」
オルフェさんは了承したものの、メアさんは反対した。
「しかし、何があるかは分かりませんので・・・」
「私の獣人の能力も使えると思います」
先程もいち早く襲撃を察知していたので、うーんとエレオノーラさんが悩んでいた所、
「あの、私が代わりに残ります」
とリッヒさんが言った。
「恐らく、魔物との戦闘においては私よりもメア様の方が強いと思うので」
それでもリッヒさんも十分強かったが・・・
クロ達にも拠点に残って貰う事にして、
「分かった、では2人を除いて5人で今から調査に向かうとしよう」
そうして俺達は、戦闘を終えてすぐさま原因を探りに行くのだった。
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