訪問
「コタケ殿、少し良いだろうか?」
ある日の夜、部屋へ戻ろうとするとエレオノーラさんに呼び止められた。
「どうかしましたか?」
「実はメアさんがこちらの家に来たいと言っていて、近日中に招待しようと思うのだが大丈夫だろうか?」
メアさんとは、ストラウド王国と呼ばれる獣人の国の第三王女だ。
以前、大使としてアリーの実家に1日泊まっていた際に歳が近いとの事で話し相手になる予定だったのだが、まさかの王女がエレオノーラさんに惚れてしまい結婚を申し込んできたのだ。
流石に断ったものの、エレオノーラさんとは友達となり、それ以来手紙でやり取りをしている。
「別に構わないですよ。あの時に会ってない人達の紹介もしたいですしね」
「ありがとう。それでは早速、返事の手紙を書くとしよう!」
それから5日後、今日我が家にメアさんがやって来る事となった。
お昼を食べた後エレオノーラさんは、メアさんを迎えに森の外に行って家には不在だ。
「エレオノーラに求婚するとは、とても気になる奴なのじゃ」
「だよね!しかも女の子なんでしょ?話を聞いた時にはびっくりしたよね〜」
あの日は、俺とアリーとエレオノーラさんのみの3人しか会っていなかったので、後日話を聞いて実際には会った事の無かったメンバーはメアさんに興味津々だった。
「それにしても遅いですね?」
とルインが言った。
「何処かでイチャついておるんじゃないか?」
「流石にエレオノーラさんに限ってそれはないでしょ・・・」
ただ予定の到着時刻より30分は遅れているので、少し心配になって来た。
「ただいま〜」
「お邪魔致します!」
とそんな心配を他所にエレオノーラさんが帰宅したのだが、少し疲れた声をしていた。
そして、もう1人の声も聞こえたのでそれはメアさんだろう。
「ただいま戻りました」
そう言いながら、リビングへ入って来たエレオノーラさんを見ると、メアさんが腕を掴んでくっついていたのだ。
「おーおー、これはまたお熱い2人じゃの」
「龍王様、変な事言わないでくださいよ。これはメアさんが勝手に・・・それで遅れたんです」
「久しぶりのエレオノーラ様ですもの、しっかりと堪能しませんと!」
「ふふ、こんなに狼狽えてるエレオノーラは初めて見ますね」
「あっ!アリシア様、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「はい、変わりはございません。メア様もお元気そうで何よりです」
「エレオノーラ様に会えて元気一杯になりました!」
「ねーねー、そろそろ私達も紹介してよー?」
「そう言えばそうだった。メアさん、以前居なかった人達を紹介しても良いですか?」
オルフェさんにそう言われて、俺はメアさんに皆んなを紹介した。
「話には聞いていましたが、本当に様々な種族の方が暮らしてらっしゃるのですね。いずれ私もここに・・・」
最後の方に何か言っていたが、聞き流す事にした。
「メアさんの滞在は3日間でしたよね?」
「はい、少しの間ですがお世話になります」
「それで寝泊まりする部屋なんですが、実は空きが無くてですね」
「私はこちらのリビングを使わせて頂ければ結構ですよ」
「いえ、それでは申し訳ないのでエレオノーラさんの部屋で一緒に寝てもらおうかと」
「まぁ!」
「なに!?」
メアさんは喜びの声を上げて、エレオノーラさんはそんなの聞いていないと驚きの声を上げた。
「コタケ殿、ちょっと待ってくれ。私はそんな話一度も聞いていないのだが?」
「まぁさっき決めましたから」
エレオノーラさんがお迎えに行っている間、泊める部屋がない事に気が付きどうしようかと考えた結果、1番仲の良いエレオノーラさんの部屋で寝てもらう事にした。
「ちゃんと、アリーの許可も取ってあるので」
「いや、私の許可は・・・」
エレオノーラさんに事情を説明していると、その隣でメアさんが、
「エレオノーラ様と同じ部屋なんて、私耐えられるのでしょうか・・・?いえなんとかして耐えませんと」
ハァハァと興奮しながら、自分に言い聞かせていた。
「エレオノーラ」
「お嬢様!」
「貴方なら出来るわ!頑張りなさい」
「そんなぁ・・・」
アリーに助けを求めようとしたが、残念ながら無意味だった。
エレオノーラさんの貞操の危機だが、他にどうしようも無いので、結果この案が通る事となった。
「それじゃあまずは歩いてお疲れでしょうし、お風呂でゆっくりしてもらいましょう!」
アリーがそう提案した。
「我が家のお風呂の説明も必要ですし、エレオノーラにも一緒に入って貰いましょう」
「そ、そんなエレオノーラ様と裸の付き合いなんて・・・私耐えられません!」
「でしたら、私も一緒に入りましょうか?」
「アリシア様が一緒なら、もし私が暴走したら止めてください!」
「は、はい頑張りますね」
とアリーは苦笑いしながら答えた。
3人がお風呂に入っている間に夜ご飯の準備をし出した。
今日はアンさんとリビアさんが腕によりをかけてご馳走を作ってくれた。
お風呂に行ってから1時間程経った所で3人とも戻って来た。
「とてもいいお湯でした。お城のお風呂とは全然違いますね」
「家は、温泉を利用してるので美肌にも効果があると思いますよ」
「なるほど、皆様のお肌が綺麗なのはそれのお陰なんですね。とっても羨ましいです。それに外にあったお風呂もまた格別ですね。温泉と景色を一緒に楽しめるなんて思いませんでした」
露天風呂もすっかり気に入った様で、俺も嬉しかった。
「お風呂でゆっくりして貰ったら、次は食事ですよ。こちらの2人が腕によりをかけて作ってくれました」
「アリシア様のメイドさんですね。城では普段から一流シェフの料理を食べておりますから、果たして私の舌を満足させられるでしょうか!」
と冗談ぽく言った。
それから、ご飯を食べ始めるとメアさんはすぐに、
「美味しい!」
と言ったのだ。
「城のシェフと同等かそれ以上ですね。まさかただのメイドさんがここまでの料理を作れるとは・・・もしや、名の通ったシェフだったりしますか?」
「ふふ、アンとリビアは幼い頃からメイド一筋ですよ。ただ色んな事をマスターし過ぎて、普通のメイドとは思えませんけどね」
「本当にここにいる皆さんは凄いですね」
「メア様も十分凄いお方ですよ。よければ、メア様の家族の事をお聞きしても良いですか?第三王女という事は、他にも兄弟がいらっしゃるんですよね?」
「はい、兄弟はたくさんいますよ。姉が2人に妹が2人、兄が3人で弟が2人です」
「10人兄弟ですか!?」
それを聞いたリッヒさんが声を上げて驚いた。
俺も驚いていたが、王族だとそれが普通なのだろうか?
「それぞれ母親は違いますがね。姉と妹とは仲は良いですが、兄達は次の王位を継ぐ為に争っているので、あまり関わってはないですね」
「聞くところによれば、お主はかなりの剣の腕の持ち主なんじゃろ?それだと王位継承権は上がりそうじゃが」
「実際私が国内の大会で優勝した時は、国民からの支持が上がり継承権が2番目になりましたね。本来王になるのは男性がほとんどなんですが、獣人は強い者が上に立つという風潮もありますので」
「それではどうしたんじゃ?」
「継承権を捨てました」
メアさんはあっさりと言った。
「なかなか思いきりが良いの」
「もともと、王座に興味はありませんでしたので」
「それなら争いに巻き込まれる事もほぼ無いですしね。でも、私的には姉妹と仲が良いというのは驚きですね」
アリーがそういう様に、王族の女性達は裏で争っているイメージだった。
「姉と妹も王座に興味がなく、それなりの所に嫁げれば良いと考えてますからね。そもそも争う必要は無いんですよ」
「姉妹がいると憧れますね」
「アリシア様は一人っ子でしたね」
「妹の様な存在は2人程居ますけどね」
恐らくアイラさんとリッヒさんの事だろう。
その後ご飯を食べ終えた後も、色々と話をしているとメアさんがウトウトとし出した。
「移動でお疲れでしょうし、今日はもうお休みになられた方が良いですよ」
「では、お言葉に甘えて先にお休みさせて頂きます」
「それじゃあエレオノーラも、部屋に向かいなさい」
アリーに言われて、そうだったと思い出した顔をした。
「では、こちらに」
「は〜い」
メアさんは眠たげな声で、エレオノーラさんの腕に抱きついて、2階に上がって行った。
「なかなか面白い子だったね〜」
「エレオノーラお姉ちゃんが、アタフタしてたー」
「珍しかったね〜」
と皆んなで、慌てるエレオノーラさんを思い出し笑ってしまった。
「それじゃあ明日も、色々とありそうだし皆んなも寝よっか」
とメアさんを迎えた初日は終わったのだった。




