聖剣アルタドゥイン
たまたま見つけた錆で覆われた剣が、3000年前魔王を打ち倒した際に使われた聖剣だった事が判明し、どんな力があるのかを試す為に、家から離れた所にやって来ていた。
「加減を間違えたら、この前みたいになるし気を付けないとな」
ヴォグルさんの家で試し斬りした時に、勢いをつけ過ぎて地面が抉れてしまったので、肩の力を抜いて剣を振ってみた。
初めて使う剣ではあるが、何故か手に馴染んだ感じがして使いやすかった。
「うーん、何か特別な力とかあるのかな?」
流石に振り回しているだけでは、剣の性能が分からないので手頃な魔物でも居ないかなと思い探してみたが、見つからなかったので、
「ホープの所にでも行ってみるか」
妖精ホープが住むダンジョンであれば、ダンジョンコアのおかげで魔物を生み出す事が出来るようになったので、ちょうど良いだろうと思い向かった。
「こんにちは〜」
正規のルートとは別の道を通り最下層へとやって来たのだが、返事が返って来なかった。
「ホープー、いるー?」
部屋を歩き回っていると、
「あぁもう!なんでそうなるのよ!」
と小さな扉が少しだけ開いており、その中から微かに声が聞こえて来た。
「おーい、ホープ聞こえてるー?」
再度声を掛けてみたが、全く反応しなかったので扉をノックすると、
「きゃっ!」
と小さな悲鳴が聞こえた。
「もう一体誰なのよ!」
少し怒りながら扉を勢い良く開いて出て来た。
「邪魔してごめんね」
「あら?いつの間に来てたのよ?」
来ていたのが俺だと分かり怒りを鎮めた。
「今来た所」
「それで、なんの用?」
「剣の試し斬りがしたくて、ダンジョンの魔物を倒したいんだけど大丈夫かな?」
「試し斬り?別にそれくらいなら構わないけど」
「ありがとう。ちなみに魔物はもう配置されてるの?」
「一応10階層までの魔物は生み出せたわ」
「あんまり深くまでは行かないとは思うけど、トラップとかは設置されてない?」
「トラップは今は無いけど・・・念の為に私もついて行ってあげるわ」
「それなら助かるよ」
と言うわけで、ホープと一緒に地上まで戻り正規ルートを通りダンジョンを進むことにした。
「それにしても急に試し斬りがしたいなんてどう言うことよ?」
「最近、新しく剣を手に入れたんだけど、それの使い心地とか知りたくて」
「ふ〜ん、どんな剣か知らないけど、私のダンジョンの魔物も強くなったからね、痛い目見ても知らないわよ〜」
とホープは笑いながら言った。
そうして1階層を歩いていたのだが、配置されている魔物がスライムしか居なかった。
「1階から3階はただのお試し階層だからそんなに強い魔物は配置してないわよ。本番は4階からよ」
そう言うので、スライム達はスルーして4階へとやって来たのだが、本番はここからと言うだけあって、手に剣や槍などを持った人型の魔物が集団で徘徊していた。
その魔物は、骨だけしかなく頭に兜を装備していた。
「あれはボーンナイトって言う魔物よ!さっきまでのスライムとは違って武器を使うから簡単には行かないわよ」
まず、剣を持っているボーンナイトが1体だけ集団から離れていたので標的にして向かった。
ボーンナイトはこちらが接近しているのは気がつき、カタカタと体から音を発しながら剣を構えた。
俺は走りながら、相手に近づき剣を上から斜めに振りかざした。
ボーンナイトは、俺の攻撃に合わせて剣で攻撃を受け流そうとしてお互いの剣が触れた瞬間・・・
バキッと大きな音を立てて、ボーンナイトの剣が真っ二つに折れたのだ。
そして、俺はそのままボーンナイトを一刀両断するとカランカランと音を立てながら崩れ去っていった。
「へっ?」
簡単に倒されてしまったボーンナイトを見て、ホープは素っ頓狂な声を上げた。
「ちょ、ちょっと何よその剣!なんでボーンナイトの剣をそんな簡単に破壊できるのよ!」
「何って言われても、せいけ・・・」
俺が聖剣である事を言おうとした時に大きな影がダンジョンの奥からやって来た。
それは、先程倒したボーンナイトよりも2倍の大きさで鎧も着込んでおり、2mの大剣を手に持った骨の魔物だった。
「あっ!ボーンキングのお出ましよ!流石にあいつは簡単には行かないわよ!なんたって私が配置した魔物の中でもトップ3の強さに入るくらいの魔物だからね」
確かに見た感じ、かなり強そうだった。
「ふふん!今度こそ怪我をしない様に気をつける事ね!万が一があったら私が魔物を止めるから安心しなさい!」
ホープがここまで言うのなら気をつけないとと思い、魔物達はホープの言う事を聞くらしいので最悪の場合は止めてくれるのだろうが、俺は剣を握る手に力を入れた。
そして、ボーンキングがこちらに向かって来て、剣で薙ぎ払い攻撃をして来た。
ボーンナイトよりも大きな体躯に、2mの大剣から繰り出される攻撃は、さぞかし強烈だろうと思い、後ろに引いて攻撃を避けようと考えたのだが、急に何故か受け流しても大丈夫だろうと思い剣でガードをした。
すると、ボーンキングの剣が触れた瞬間に少しの衝撃はあったものの、体が動く程のものでは無かった上に、相手の剣がガキンと大きな音を立て、また折れてしまったのだった。
折れた剣を見つめて、ボーンキングは何が起きたんだろうと言った感じで首を傾げて、俺も首を傾げた。
「ちょっとー!ストップ、ストップ!」
そこにホープが慌てて、割って入って来た。
「だからなんで、剣が簡単に折れちゃうのよ!?ボーンキングって結構強めの魔物なのよ?そいつが持つ剣だってかなり強化されてるのに」
「なんでって言われても・・・この剣が聖剣だからかな?」
「は?」
「実はこの剣、3000年前に魔王を貫いた聖剣なんだって」
それを聞いて、ホープはプルプルと震えて、
「バカーーー!そう言う事はもっと早く言いなさいよー!」
と大きな声を上げた。
「さっき言おうとしたんだけど、タイミングが・・・」
「そんな剣に普通の魔物が勝てるわけないじゃ無い!もう、試し斬りは中止中止!」
と強制的に終了させられた。
「あと、その剣も今後うちのダンジョンで使っちゃダメ!反則だから!」
「えぇ〜」
「はっ!それよりも、もしかして今の人間達ってそんな剣をいっぱい持ってたりするの!?それだった、ダンジョン作り直さないといけないじゃない!」
「流石に、こんな剣は稀だと思うけど」
「それでも、その剣に対抗できるくらいのダンジョンにしないといけないわ!」
と無駄にダンジョンの難易度を上げる決意をさせてしまった。
翌日、あれだけの試し斬りでは消化不良だったので、エレオノーラさんの紹介でワイバーンの討伐クエストに同行した。
今回は俺だけで倒したいと伝えた所、それは構わないが身体能力が一般人の俺にはそのままだと相手するのは厳しいとの事なので、一緒について来ていたティーに、魔法で身体能力を上げて貰った。
結果は圧勝だった。
ティーの魔法のお陰もあるのだろうが、ワイバーンが攻撃の際に空から降りて来た瞬間を狙って剣を振うとスパッと簡単に両断が出来て、ワイバーンを10体討伐という目標をものの10分程度で終わらせてしまった。
「妾でも簡単に貫かれそうじゃな」
とティーは身震いし、
「私も一本欲しいな・・・」
とエレオノーラさんは羨ましそうな表情をしていた。
後日、ラーブルク龍王国に行った際に大賢者に聖剣の事を聞いたのだが、剣に書かれている文字列は古代文字だそうで、剣の斬れ味や耐久力などを強化しているそうで、それのおかげでより一層強い剣に仕上がっているらしい。
「勇者がその剣を使っていた時は、斬撃を飛ばしたり魔法を放ったりしていましたね」
と言っていたので、この聖剣にはまだまだ隠された力がありそうだった。




