友達
「けっこん・・・?」
メアさんとの模擬戦に勝利したと思ったら、いきなりプロポーズをされたエレオノーラさんは目を丸くしてポカーンとしていた。
周りにいた俺達も驚いていたが、メアさんの従者達は全く驚いていなかった。
「はい、私の伴侶となってください!」
「あの、急過ぎて考えが纏まらないのですが、まず私は女ですよ?」
「はい、存じております!」
「それなら尚更・・・」
「性別など大した問題にもなりません!」
「それに私は平民出の騎士で、メア様はストラウド王国の第3王女です。それにお互いの事など全く知らないでは無いですか」
「身分など関係ありません。現にアリシア様も身分に関係なくご結婚なされているではないですか。お互いの事も結婚後でもいくらでも知る事ができます!」
「そもそも何で私に・・・」
「私は常々、自分よりも強い者と結婚したいと思ってたんです!」
「それなら私よりも他に居たのでは」
「お嬢様はストラウド王国内で開かれる武闘大会で優勝するほどの実力者なので、並大抵の者では話になりません」
と側に控えていた、猫耳の騎士が言った。
「確かに剣を交えて実力が確かである事は分かりましたが・・・」
「でしたら是非、私と!」
メアさんは尻尾をブンブンと振り回して興奮していた。
エレオノーラさんは困り果てた表情して、
「ご、ごめんなさい・・・」
と言い屋敷の中へと駆けて行った。
「あぁ、エレオノーラ様ぁ」
メアさんはガクッと膝をついたのだった。
どうやって収拾をつけようかとなったが、夕食の準備が整ったとの事で、先にそちらを済ませる事となった。
「皆様、私のせいでご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
夕食会を開始して、暫くしてからメアさんがそう言った。
先程のエレオノーラさんとの事もあり、どう話を切り出せば良いか分からず、静かな食事になっていた。
ちなみにエレオノーラさんはというと、あれから部屋から出て来てないそうだ。
「とても驚きましたが、エレオノーラじゃなきゃダメなのでしょうか?」
「私達獣人は強者の匂いに敏感で、初めてエレオノーラ様に会った時にそれをとても感じたのです。そして、エレオノーラ様は初めて私を打ち負かした方なのです。なので、あの方以外は考えられなくなりあの様に求婚してしまいました」
「そうでしたか・・・」
アリーもどう対応すれば良いのか計りかねていた。
「嫌われてしまったのでしょうね・・・」
「そんな事はないと思いますよ。ただ、いきなりの事だったので頭がいっぱいになって、整理が追いついてないだけだと思いますよ」
「そうだと良いのですが・・・それに、アリシア様にもご迷惑をおかけいたしましたよね。大事な騎士なのに」
「迷惑だなんて思ってませんよ。それに私のせいでもありますが、エレオノーラには今まで男っ気が無かったので、相手が女性だったとしてもこれだけ好意を持ってくれるのは嬉しいですよ」
「その、良ければ昔のエレオノーラ様のお話をお聞きしてもよろしいですか?」
「もちろんですよ!」
こうして、メアさんに今までのエレオノーラさんの話をして、夕食会は終わった。
夕食後、部屋へと戻ったのだがエレオノーラさんはまだ部屋から出て来て無いそうで、アリーが様子を見に行った。
エレオノーラさんの部屋から戻って来たアリーの話によると、やはり求婚された事に戸惑っている様で、どう対応すれば良いのかが分からない様だ。
「一応、自分の気持ちを素直に伝えれば良いと伝えはしたのですが、あの子は真面目な性格ですからね、明日までに考えが纏まれば良いのですが」
エレオノーラさんの事は心配だが、あとは本人次第なのでそれ以上は何もしない事となった。
翌日、メアさん達と朝食をとったがその時もエレオノーラさんが現れる事は無かった。
そして、王都に向けて出発するメアさん達を見送る為に外へと出て来た。
「皆様、1日だけではありましたが、ありがとうございました」
いまだ姿を見せてくれないエレオノーラさんにメアさんは悲しそうな表情でそう言った。
オーウェンさんが軽く挨拶を済ませて、メアさんが馬車に乗り込もうとした時に、屋敷の扉がガチャッと開いた。
そこには、エレオノーラさんがいた。
「エレオノーラ様・・・」
と小声で呟いた。
エレオノーラさんは、ゆっくりと歩きメアさんの前までやって来た。
「あの、エレオノーラ様には大変ご迷惑をお掛けしました。昨日、私が言った事など忘れてしまって構いませんので、ありがとうございました」
そう言い、急いで馬車に乗ろうと振り返ったメアさんの手をエレオノーラさんが掴んで引き留めた。
「最初は驚きましたが迷惑だなんて思ってません。私は今まで恋などには疎かった身ですが、メア様からの好意が本物である事は伝わって来ました。ですが、どの様な反応すれば良いか分かりませんでした・・・」
メアさんは泣かない様にエレオノーラさんの言葉を目を瞑って聞いていた。
「でも、私も好意を持って頂けて嬉しかったです。ですので、まずは友人としてお互いの事を知っていかないでしょうか?」
エレオノーラさんの口からそう発され、メアさんは目を見開いた。
「お互いの立場もありますし、私が今住んでいる場所はかなり特殊な所でもありますので、文通などでやり取り出来ればなと思うのですが・・・」
「本当によろしいのですか・・・?」
「はい、いきなり結婚というのはなかなか難しいですが、友人という形で・・・」
「それでも構いません!エレオノーラ様との繋がりが持てるのでしたら何だってやります!」
「いや、何でもはしなくて良いですよ・・・」
「いえいえ、それくらい私は本気ですので!」
模擬戦以降、あまり元気の無かったメアさんに活発さが戻って来た。
「お嬢様、そろそろ出発致しませんと」
控えていた騎士の1人がそう言い、メアさんは渋々馬車へと乗り込んだ。
「エレオノーラ様、必ずお手紙を出しますので、これからよろしくお願いいたします!」
メアさんは動く馬車の窓から身を乗り出し、そう言って手を振りながら王都に向けて旅立って行った。
「ご心配をおかけ致しました」
馬車が見えなくなると、エレオノーラさんはこちらを振り向いて頭を下げた。
「エレオノーラ、顔を上げてください。まずは、貴方があの様に答えを出した事を嬉しく思います。私が、今まで貴方の時間を奪って来た様なものですから」
「そんな事はありません。アリシア様の騎士になりたいと申したのは私の方ですから!」
「そんな貴方に、好意を抱いてくれた方が居るのは私も嬉しいのです。ですから、これからメア様との関係を大切にして下さいね」
「ありがとうございます」
「ところでプロポーズをされた気分はどうでしたか?」
ひと段落ついた所で、アリーがからかうように聞いた。
「とても気恥ずかしかったです。それとコタケ殿の気持ちがよく分かりました」
俺もアリーからいきなりプロポーズをされて、驚きと困惑があったなと思った。
「ムッ、それはどういう意味ですか?」
それを聞いて、アリーはプクゥとほっぺを膨らませていた。
色々とあったが、当初の大使の話し相手という仕事は終えたので俺達は家へと帰って行った。
その数日後、アリーの実家に再び行くとメアさんから手紙が届いた様で、エレオノーラさんは初めての文通に何と返せば良いのかと悪戦苦闘するのだった。
 




