源泉
ある日のお昼時に、リビングで心地よい日差しに誘われて眠っていると、ドーンという大きな音が鳴り響き目を覚ました。
音は家の外から聞こえたので急いで向かった。
すると、風呂のある建物のすぐ側に大きく円状に広がった深さ3m程の穴が空いており、その真ん中にティーが大の字になって寝っ転がっていた。
「どうしたの!?」
「痛かったのじゃ・・・」
俺がそう聞くとティーはそう言いつつ体を起こした。
「すまん、魔法の実験をしておったら失敗してしもうた」
「そうなんだ、怪我とかしてない?」
「大丈夫じゃ・・・驚かせたな」
大きな音だったので、家に居た他の人達も外へとやって来た。
「次からはもうちょっと離れた所でやろっか」
「そうじゃな、気をつけるとしよう」
そう言って、ティーが這い上がって来ると、空いた穴の地面がボコボコとし出した。
そして、プシューと真っ白な湯気と共に水が湧き出したのだ。
「うわっ!なにこれ?」
水はどんどん湧き続けて穴から溢れ出そうになったので、ティーが近くの木を切り倒して水が出て来ている部分を塞いだ。
「なんじゃろうな?」
と言いながらその水に触れると、
「あちっ!」
とすぐさま手を引っ込めた。
「そらゃ湯気も出てるんだし、熱いよ・・・」
「これってもしかして、温泉じゃないですか?」
リッヒさんがそう言った。
確かに少しだけ硫黄の匂いが漂っている。
「本当ですか!?」
それを聞いたアリーが嬉しそうな反応をした。
「そんなに嬉しいの?」
「はい!温泉に入れば肌がスベスベになると聞いた事があるので、入ってみたかったんです!」
確かに前世の温泉も色々な効果があった。
「それなら、今の風呂場のお湯を温泉に変えよっか?」
「お願いします!」
とアリーが目をキラキラと輝かせながら言った。
そして俺は、すぐさま工事に取り掛かった。
まずは、先程貯まった温泉を抜いてから穴を少しだけ埋めた。次に、源泉の周りを囲う為の建物造りから始めた。
建物はいつも通り木材を使い建てるのだが、湿気などで腐食が進みやすくなるので蒸気を逃す為の穴を開ける事にしたが、定期的に建材のチェックも行わないといけなさそうだ。
3時間程で建物自体は完成したので、次の作業に移る事にした。
それは、湧き出る温泉を止める方法だ。
湧き出ている部分の穴は1m程に広がっており、応急的にティーに木で塞いで貰ったが、必要な時に開け閉め出来た方が便利なので、どうしたものかと頭を悩ませていた所、
「井戸の様に滑車を使うのはいかがでしょうか?」
とリビアさんが提案して来た。
確かにそれなら必要な時に開け閉め出来そうだった。
その案を採用し、木材を切り抜いて滑車を作り、石もティーに運んで貰い準備は出来たのだが、石を吊るす為のロープが無かった。
なので、急いで街へと向かいロープを買って来た。
買ったロープは何やら魔法で強化されて、耐久性が上がっているそうだ。
ロープを早速、石に取り付けてティーに木を抜いて貰い急いで石で穴を塞いで貰った。
天井に取り付けた滑車にロープを通して一応完成した。
試しにロープを引っ張ってみると、多少重いものの滑車のお陰で石を持ち上げる事が出来たので、後は引っ張ったロープを固定する為の物があっても良さそうだった。
ここまで作業をして、夜になったので続きは翌日にやる事にした。
工事2日目、風呂場へと温泉を流し込む為の水道を作る事にした。
水道の部分は石を加工して作る。
ただ、源泉の貯まる位置が風呂場の位置よりも低いので、穴を上に数十cm延ばして風呂場よりも高い位置から水を流す様にして、試しにやってみるときちんと風呂場まで流れて来たので完成だ。
そして、夜になり完成したと皆んなに報告しにいった。
「お風呂の工事終わったけど、1番に入りたい人!」
そう聞くと全員が目を合わせて、
「ワタルさんが作って下さったのですから、是非1番目に入ってください!」
とアリーが言った。
「良いの?アリーとかは楽しみにしてたんじゃないの?」
「大丈夫ですよ、遠慮なさらず」
そう言うので、1番風呂は俺が貰う事となったので早速風呂へと向かい体を軽く洗い流してから温泉へと浸かった。
「はぁ〜〜」
やはり、魔法で生み出したお湯に浸かるのと本物の温泉に浸かるのとでは全然違った。
温泉の方が体の芯まで温まり、疲れがよくとれそうだ。
しばらく温泉に浸かっていると、ガチャッと風呂場の扉が開いたので後ろを振り向くと、アリーが入って来ていた。
「どうしたの!?」
「その〜、久しぶりに一緒に入ろうかなと思いまして・・・」
以前もエレオノーラさんとティーに唆されて、一緒に入ったが、今回もまた2人に何か言われたのだろうか?
アリーは体を洗って、浴槽へと入って来た。
「ちょっと恥ずかしいので、後ろ向きでも良いですか?」
そう言って、お互い背中合わせになった。
結婚してから何度もアリーの体を見ているものの、風呂場だといつもとは違うので、少し緊張した。
「はぁ〜、これは気持ちいいですね〜」
温泉に浸かり、リラックスした声でそう言った。
「これでお肌がスベスベになる効果があれば良いね」
「はい、温泉には色んな効果があると聞くので楽しみです」
10分程2人で浸かっているとアリーが、
「ワタルさん、あんな所に扉なんてありましたっけ?」
風呂場へと入ってくる扉とは別にもう一個扉がある事に気がついたアリーがそう言った。
「説明するよりも見てもらった方が早いかな?」
俺はそう言って、アリーを連れてその扉へと向かった。
扉を開けると、少し肌寒い風が入るのと共に外へと出たのだ。
「外?それにあれも温泉でしょうか?」
木の柵に囲われ、ポツンと1つだけ温泉があるのだ。
「露天風呂だよ。聞いた事無いかな?」
「私は聞いた事無いですね」
「気持ちいいから入ってみて」
俺はそう言い、一緒に露天風呂に浸かった。
「確かに室内とは違って冷んやりとした風が顔に当たって気持ちいいですね」
「だよね。それに上の方を見ると凄いよ」
アリーが上に視線を向けると、
「わぁ〜!」
と感嘆の声を上げた。
上には、いくつもの星々が浮かび夜の空を輝かせていた。
「綺麗ですねぇ〜」
辺りに光源が少ないので、星をしっかりと視認できるのだ。
その後も2人で露天風呂をゆっくりと堪能した。
ちなみに温泉の効果かは分からないが、何回か入っていると肌がスベスベになったと女性陣が喜び、我が家では温泉が人気となった。
 




