大賢者
「いかにも、私こそ大賢者ウルファ・アークホルムである!」
テンメルスさんに呼ばれ、ラーブルクへとやって来た大賢者を探して欲しいと頼まれ、街中で偶然出会った老人が実は大賢者だと判明した。
「ちなみに、大賢者本人だと照明出来るものはございますか?」
大賢者と偽っている事も考え、大臣の1人が聞いた。
「ふ〜む、では転移魔法を使うと致しましょう。この時代、私1人にしか転移魔法を使える者は居ないでしょう。ここから遠い場所にある物を瞬時に取りに行って差し上げますよ」
そう言われてテンメルスさんが、
「それでは、アッシュフルーツを取りに行って貰いたいのですが?」
と返した。
ちなみに転移魔法であれば、魔王のラヴィさんが使える様になったので、実際には2人は使える事になる。
「かしこまりました。では」
と言い、大賢者は姿を消した。
そして、20秒後再び姿を現した。
「こちらをどうぞ」
そうして、1つの虹色の果実を取り出しテンメルスさんへと渡した。
側に控えていたハウザーさんがナイフで切り分け、テンメルスさんが一切れ口に入れた。
「これは!・・・大賢者本人に間違い無さそうですね」
他の大臣達もそのフルーツを食べて頷いた。
「ご理解頂けた様で何よりです」
「なんで、あのフルーツで大賢者って分かるの?」
一連の流れを見ていたが、俺にはさっぱり分からなかった。
「アッシュフルーツというのは、ここより遥か南の方に位置する島の木になっているフルーツなのですが、取ってから10分間はあの様に虹色をしているのですが、それを過ぎると黒く変色してしまうのです。そして味も、世界中のどのフルーツよりも甘いと言われているのです。私は食べた事が無いので分かりませんが・・・」
とアリーが説明してくれた。
「でも、それだったらマジックバックに保存しておいたら駄目なの?確か腐敗しにくくなるよね?」
「それが不思議な事にあのフルーツはマジックバックでも鮮度を保てない様なのです」
この世界にも不思議な事がある様だ。
「それで?皆様が私を探していた理由をお聞きしても?」
と大賢者がテンメルスさんに聞いた。
「是非とも我が国に知恵を貸して頂きたいのです」
「ふむ?」
と首を傾げて眉をひそめ、
「それをして私に何か得がありますかな?」
と答えたのだった。
「望む物を出来る限りご準備致します」
「なるほど・・・ですが私は大賢者と呼ばれる身でして、大抵の物は自分で調達出来るのですよ」
そう言われて、テンメルスさんは渋い顔をしていたのだが、
「まぁ、でも今回は特別に協力して差し上げましょう」
と大賢者があっさりと了承して、驚いた表情に変わった。
「よろしいのですか・・・?」
「えぇ、私を見つけられたご褒美みたいなものでしょうか?」
「それは大変ありがたいのですが、知恵を貸して下さる対価として何かお礼もさせて頂きたいのです」
「ふ〜む」
と大賢者は考えるそぶりを見せて、
「では、龍王様をください」
と言い出し俺達を含め全員が驚いた。
「それは・・・できかねます」
「おっと!失礼、言い方が悪かったですな。正確には龍王様の鱗や爪を頂きたい」
「鱗ですか?」
「恐らく、生え変わりで落ちた物を国で保管しているのでは無いですか?」
「確かに仰る通り保管はしておりますが・・・」
そう言いテンメルスさんはチラッとティーの方へ視線を向けた。
「別に妾は構わんぞ。使い道はないしな」
「ティーフェン様がそう仰るのであれば、お好きなだけお持ちしていって下さい」
「では、遠慮なく頂くとしましょう」
そうして大賢者から知恵を借りる代わりにティーの鱗などを渡す事となった。
ちなみにティーによると、鱗や爪などは数百年単位で生え変わるそうで、その鱗などには大量の魔力が含まれており武器や防具などに加工する事で、かなりの性能の物が出来るらしい。
ただ、その分価値も高くなるため、基本的には国で保管して万が一の際に使用するらしい。
「それでは先に、そちらの相談事を聞くとしましょうか」
「それは助かります。そうしましたら別室に移動願いますか?」
とティーとテンメルスさんと大臣達、大賢者は別室へと移って行き、残された俺とアリーとエレオノーラさんは話し合いが終わるまで他の部屋で待機する事となった。
それから、お昼が過ぎて夕方になった辺りで、やっと話し合いが終わったらしい。
「はぁ〜疲れたのじゃ〜」
「お疲れ様です。いかがでしたか?」
とアリーがねぎらいの言葉をかけた。
「まぁまぁじゃな。あー、それとこれからお主達も交えて大賢者と食事会をするみたいじゃから準備しておく様に」
「食事会?」
「大賢者からの希望じゃ、家に残っておる者達も呼んでこんといけんな」
「今から往復するのはきつくない?」
「そうじゃな〜」
とティーが悩んでいると扉がノックされたので返事をすると大賢者が入って来た。
「皆様、失礼します」
「どうかされましたか?」
「皆様の家がここからかなり離れていると王より聞きまして、手伝いに来た次第です」
「手伝いというと・・・」
「転移魔法で他の方達をお連れしようと思いましてね」
「それは助かりますけど、場所とか分からないですよね?」
「はい、ですのでお1人に手伝って頂きたいのです」
「それでしたら俺がやりますけど、どうすれば良いんですか?」
「ご自身の家を頭の中で思い浮かべて下さい。それに合わせて私が転移魔法を発動致します」
「分かりました」
俺は言われた通りに家を思い浮かべた。
すると目の前が真っ白になり、次の瞬間には家へと戻って来ていた。
「こちらが皆様の家ですか。これまた面白い所に建っておりますね」
「ここが何処か分かるんですか?」
「えぇ、こちらは魔の森ですよね?何度か訪れた事があるので分かりますよ」
流石は大賢者と言った所だ。
ひとまず外で待っていて貰い、俺は残っていた人達に事情を説明した。
皆んな、本当に大賢者が実在したのかと驚いていた。
全員の準備が整ったので家から出ると、大賢者がクロをジッと見つめていた。
「あぁ、すみません。こちらのスライム達ももお仲間なのでしょうか?」
「そうですが、何かありましたか?」
「いえ、とても面白いと思いまして・・・」
大賢者は特にそれ以上は言わなかった。
「さて、それでは戻ると致しましょうか」
再び転移魔法を使い、クロ達も含めて全員で城へと戻り夕食の席に着いた。
今回、大臣達は不参加でテンメルスさん一家と大賢者のみだった。
「それでは乾杯!」
テンメルスさんの音頭で始まった。
「大賢者様は何かお好きな食べ物はあるのでしょうか?」
「実は私は食事や睡眠といったことは全く不要な身となっておりまして好きな物などはありませんな」
「そ、そうでしたか・・・」
「気にしないで下さい。味覚などはしっかりと備わっておりますので是非頂きますよ」
「はいはーい!大賢者さんって何歳なんですかー?」
オルフェさんが話を逸らしてそう質問した。
「しっかりと数えた事はありませんが、かれこれ7000年は生きてますでしょうか?」
「えっ!?すごっ!」
「皆様の中にも長命の方が数人いらっしゃるでは無いですか」
ティーをはじめ、オルフェさんやルインの2人も長い間生きている。
ルインに関しては生きていると言っていいのかは分からないが・・・
「数千年も数百年も変わりは無いですよ」
「いや結構変わると思うんじゃが・・・」
「でも、どうやってそんなに長く生きているのでしょうか?」
とリッヒさんが聞いた。
「私は不老不死ですので死ぬ事はありません」
「なるほど、だから見た目も若いままなんですね」
「えぇそうなんですよ。それと長く生きるコツは適度に寝る事ですね。私は睡眠を必要としませんが、やはり起き続けているのも中々大変でしてね。1000年に1度、魔法を使って数十年の眠りにつくんです。そうすれば頭の中もスッキリして正気で居られるんですよ」
「それは大変そうですね・・・」
「でも、私としては世界中のあらゆる知識を学ぶ事が出来るのでこの体には満足しておりますとも」
大賢者は特に気にする様子もなくそう言った。
「ところで、皆様のお話もお聞きしてもよろしいですかな?人間だけではなく様々な種族が一緒になって暮らしているなんて珍しいですからね」
そう言われたので、俺が転移して来た事は秘密にして皆んなとどうやって出会ったのかを話した。
「なるほどなるほど、皆様もかなり苦労なさって来たのですね。時にコタケ殿、こちらのスライムの正体はご存知ですかな?」
大賢者はクロを見ながらそう言った。
「クロの正体ですか?」
「話を聞く限りご存知ないと思いましてね」
「確かに知らないですが、普通のスライムでは無いんですか?」
「いえ、クロさんはプライマルスライムと呼ばれるスライム達の始祖です」
「スライム達の始祖?」
「遥か昔に生まれ、他のスライム達を従える力を持っています。他にも様々な能力があると言われています」
(だから急に赤スライム達を引き連れて来たのか)
「でも、なんでそんな凄いスライムが俺に?」
「コタケ殿のお話ですと、出会った当初のクロさんは色が薄かったんですよね?」
「はい、持っていた食糧を分けたらだんだんと濃くなっていきました」
「プライマルスライムは数千年に一度生まれ変わるのです。今までの記憶を捨て新たな肉体へ移り変わるのです。恐らくコタケ殿が出会ったのは生まれ変わってからすぐなのでしょう。その時に食糧を貰った事で懐いたのではと思います」
「なるほど・・・クロは自分がどういう存在か知ってたの?」
と聞いてみると、ピョンと跳ねて肯定した。
「そうだったんだな、まぁクロがなんであれ俺が初めて出会った相棒だしな、これからもよろしくな」
そう言うと、クロは嬉しそうに跳ねた。
後ろに居た他のスライム達も、俺達も忘れるなよといった風に飛び跳ねた。
クロの意外な事実を知った所で、続いて話は大賢者の事へと戻った。
「大賢者さんは冒険者なんですか?」
ルインが気になったのか、そう質問した。
「今はあまり活動をしていませんが、昔はよく冒険をしたものですよ」
「それなら是非その冒険譚を聞きたいです!」
ルインをはじめ、ベルやテンメルスさんの子供達が目を輝かせながら期待していた。
「分かりました。では勇者と共に魔王を打ち倒した話といきましょう」
すると、大賢者は魔法を使いテーブルの上に砂を出現させた。
その砂は、人の形へと変わり動き出したのだ。
「あれは私が1000歳の頃でしょうか、当時は魔王軍が世界を征服しようと他の種族達と長い争いをしておりました。私は関わらない様にしていたのですが、当時の勇者にお願いされ仕方なくパーティーに加わる事になりました。個人的に魔王がどういった者かも気になっていましたからね。それからは魔王軍との激しい応酬が続きました」
大賢者が話すと同時に砂も形を変え、勇者パーティーと魔王軍に分かれ、それぞれが剣を交えているシーンを再現していた。
これには、子供に限らず大人達も夢中になった。
「勇者パーティーとして戦い1年が経った所で、魔王が住む城へと到着した我々は四天王と戦い、最後に魔王の待つ玉座へと向かいました。魔王との戦いは苛烈を極めました。お互いに剣や魔法での激しい戦いで傷だらけとなりました」
話はクライマックスに入り、砂による戦いの再現もだんだんと激しくなっていった。
「そして遂に、勇者が魔王の隙をついて心臓に聖剣を突き刺しました」
勇者が聖剣を刺したところで、砂で作られた魔王はボロボロと崩れ去った。
「こうして、魔王を倒し世界に平和が訪れたのでした」
話を聞き終え、全員パチパチと拍手をした。
「もっと聞きたいです!」
ベルがそう言い、その後も色々な冒険譚を砂の劇も交えて聞いた。
どの話も、とても面白くて聞いているうちにすっかり時間が経ってしまい、子供達が眠ってしまっていた。
「今回はこれでお開きと致しましょうか」
子供達の様子を見た大賢者がそう言い、会はお開きとなった。
「久々に楽しむ事が出来ました」
「そう言ってくださり光栄です」
「また皆様とご一緒出来るのを楽しみにしております」
テンメルスさんと大賢者はそう話して握手を交わした。
その後は、一泊城に泊めて貰えることになったので各自部屋へと戻り眠りについたのだった。




