08 馬車
08 馬車
新たな仲間、ロマーズを加えオレたちは街を出発した。
その新たな仲間ロマーズは今、馬車の御者として手綱を握っている。そうオレは今、馬車の中で地面から四つの車輪に伝わる振動を体で感じていた。
ガウディオは約束通り、オレたちに馬車を提供してくれた。しかし初め、オレとライラとミラーは、馬車を操縦したことがないから馬車を頂いてもどうすることもできないからとガウディオの申し出を丁重に断ったのだが、何を隠そうロマーズは、馬車を巧みに運転できるのだと言う。なんでも彼女の両親と彼女の妹なのか弟は、馬車が崖から転落しての横転彼女は馬車の操縦はもちろんだが、馬術の心得もあるそうで、それは一国の騎士でも敵わないぐらい馬術の技量が高いということだ。さすがは乗り合い馬車を経営していた主の孫といったところか。
馬車の馬がひく箱の部分にオレとライラとミラーはその中で座っているのだが、その内部はいかにも豪奢で、二人が並んで腰をおろす長椅子が向かい合う形であるのだが、その座る部分と背もたれは、紫色でクッション性が高く、馬車の振動を軽微にしてくれていると予測できる。内装は黒一色で、ガラスがはめ込まれた小窓が出入口側とその向かい側に計二つ設置されていた。あと、ロマーズが馬車を運転する席側の壁には小さいくぼみがあり、それには取っ手がついていてそれを横にスライドすると、ロマーズと会話できる仕組みになっていた。
馬車の箱の上部にあたるてっぺんには、オレたちの荷物が積載されていた。ガウディオは、四人で食べれば三日ぐらいはもつ保存食も提供してくれており、それは馬車の箱部分のてっぺんに取り付けられていた柵に収め、ロープでしばって固定していた。ちなみにてっぺんにはオレのリュック、それにみんなの荷物も積まれており、馬の食事(藁ととうもろこし)もあった。馬車の内部の席は四つあるのだが、ロマーズが御者として運転してくれているのでオレの横の一席は空いている。オレの真向かいにライラ、その横にはミラー。オレは馬車が動き出すとだれもいない横の席の方に顔を向け、たまにはその先にある出入口の小窓なんかを見たりして時間を経過させていた。
オレたちが目下目指している地は、コペンの村。歩けば我が街から五日はかかる距離の村だそうだが、馬車をとばせば三日ほどで着くという。馬車は二頭の馬で快調に走行していた。走る道は石畳による舗装された道ではないが、我が街からコペンの村までミロスの街を目指す冒険者によって自然均
なら
され、多少の衝撃は体に感じていたが、馬車の車輪はいたって大きい衝撃を感じることなくスムーズに走行することができていた。このルートを教えてくれたのはガウディオで、ロマーズもその情報を知っていて、道取りも彼女に任せていた。
「――ねぇ」
快調な馬車の走行中、唐突にライラが口を開いた。
ライラは向かえに座るオレに視線を送っている。
「どうした?」
オレはライラに目線を合わせて返事した。
「あんた、本当に独りでミロスのダンジョンに挑もうとしていたの?」
「ああ。そうだ」
「なぜなの? なぜそんな無謀なことをしようとしたの?」
「うぅん、それはあれだ、実はオレは、長期間自宅にとじ込もっていて、三日前に親にいい加減この家から出ていってくれと言われそれに従い今日家を出たんだ。家を出る前にネロスのダンジョンのことは耳にしていて、かのダンジョンには凶悪な怪物はいるが、金銀財宝もあるということだからそのダンジョンに潜り一攫千金を狙おうとしたんだ。しかしオレは、長年引きこもっていたから親しい友人もいないし、といってネロスの道中でも仲間を募るという社交術も持ち合わせていない。元々、その社交性がないから引きこもったのだから当然だろ? だからミロスには独りで挑戦しようと思ったのだ」
「でもダンジョンに潜れば死ぬ可能性があるのよ? あのダンジョンにはあんたの言うとおり凶悪最悪の怪物がいるってこと。それでもなぜ挑戦しようとしたの? いいえいいえ、ミロスに挑む前にだってコペンの村までいかなきゃいけない。その間にも追い剥ぎや猛獣に出くわす恐れがあるのよ。それでもミロスに行こうとしたの?」
「うん行こうと思った。うぅんそれはあれだな。いわゆるオレは母親からこの家から出ていってと言われた瞬間に開き直りというか、もうどうにでもなれといった心境がオレの心に到来したということなのだろう。親から家から出ていってと言われたということは、もうオレには帰る場所はないということ。つまりこの世でオレの安住の地は、自宅を出た瞬間になくなったということになる。だから開き直りの状態でいつ死んでもいいという心境でミロスに挑んだわけだ。これがお前の問の返答になっているかな?」
「ええ、なんとなくわかったわ」
ライラがオレから視線を外し小窓の方へと顔をむけた。
「――でもデビスさん、よかったですね、私たちと出会って。ライラは剣を扱わせては右に出るものはいないし、ロマーズさんもそれに匹敵するぐらい剣の扱いが上手い。きっとミロスのダンジョンに潜っても金銀財宝を獲得して生還することができますよ」
「そうか。そうなったら嬉しいな」
オレはミラーに微笑みかけた。
「――しかも、しかもだ。このミラーもわたしほどではないが、剣を、特に短剣を扱わせたら、そこらへんの並みの戦士なら圧倒する実力を持っている。それを考えれば、あんたあたいらと出逢って本当に良かったと思うよ」
ライラの発言を聞いて、なっ、そうなのか! とおもわず驚きの声を上げそうになったが、オレはそれをこらえた。というのも、ミラーも剣をかなり扱えるということは、このチームでオレだけが剣に関して不慣れということになる。そのことはオレが冒険未経験ということで、装備する武器がダガー一本ということで、なんとなくライラとミラーには察知されていると予想はできるが、ガウディオの屋敷でロマーズは自分の命を守れるのかと大口を叩いた手前、オレとしては狼狽の声や表情を知られたくなかった。かわりにオレは何も言わず二人に対し出来うる限りの微笑で対した。
「なにその余裕のある笑顔」
ライラが言った。
「い、いや余裕ある笑顔なんてしていない」
「あっ、そう」
それからはオレたちは特になにも話さずロマーズが操縦する馬車に揺られた。小休止を数回入れつつ日が沈み始めた頃、オレたちは馬車を停車させ夜営することにした。馬車はその付近にたまたまあった岩影に止めた。焚き木に火を灯し、馬二頭に藁と近くに流れる小川から汲んだ水(水を運ぶのにオレとライラがバケツを持って二往復した)を与え、それからガウディオから頂いた保存食とパンをオレたちは食べ始めた。食べ始めるにあたり、ライラが改めてこれからここにいるみんなで団結して目下の目的、ミロスのダンジョンを攻略しようと宣言した。
オレたちは食事を食べ始めた。食事の間、色々とチーム内の決め事を決めることにした。まずチームを存続していくのに一番大事なお金のことだが、みんなの所持金をいったん一括し、それから平等に分けることとなった。金貨でいえばロマーズがガウディオから与えられた枚数が一番多く(40枚)、ロマーズの承諾も得て決定した。その他にも、ロマーズが馬車の運転をしてくれているので夜営をするとき彼女は見張りはせずずっと眠らせてあげるとか、宿泊費以外の買い物(装備品の購入とか)をするときは、みんなで相談して買うとか、その他に二、三決定事項を考えた。食事は始め水を飲みながら摂っていたが、途中からライラの提案で酒を飲むことになった。酒はオレが食堂屋のビフにもらった赤ワインに、ライラたちが携帯していたこれまた赤ワイン、それとガウディオがロマーズに持たせた赤ワインがあり、赤ワインがオレたちにははたくさんあった。焚き火を囲みながらオレたちは赤ワインを飲んだ。ちなみにオレはこれまでの人生で数回ほどしか酒を口にしたことがなくチビチビと飲んでいた。
ライラはすぐに一杯目の酒を平らげた。ライラが飲み終えたと同時に今度はおれからまずはライラとミラーの関係性を尋ねた。
「おまえたちはどうなんだ? どういったいきさつで二人して冒険をしているんだ?」
と。
「あたいたちかい?」
そこでライラとミラーは見つめ合った。
「あたいらというか、そうね、あたいらは、幼なじみで、ここからはるか東にある村で過ごしていたんだけど、あたいら二人の親が流行り病
やまい
で死んじゃって、身寄りがなかったあたいらは、ここは一攫千金を得ようじゃないかと旅に出たの」
「えええ、親がいなくなったから冒険に旅立ったのか? えらくおもいきった行動に出たな」
「ま、まぁね。二人ともお金もそんななかったから、ここはということで大博打にうって出たのよ」
「本当に大博打だ」
しかし普通、女二人で冒険に出るかね。しかもこの二人、村を出たのが二年前ということだ。ライラは現在19歳、ミラーは16歳という。てことは、ミラーは14歳のときに村を出たことになる。14歳といえばおれからすればまだ子供といった感覚だが、それでも旅に出ようと思ったこいつらの感覚がよくわからない。まぁ親がいなくなって、冷静な判断ができなかったかもしれないが。
「おれはてっきり二人は姉妹なのかと思った。背丈は全く違うが容貌はどことなく似ている感じがしたから」
「あはは、そ、そうかな? あたいらはそんなこと思ったこともなかったけど。なぁミラー?」
「えッ? ええそうね。二人が似てると思ったこともありませんわ。はははは」
ミラーは笑うとコップの酒を平らげた。
「お、おい大丈夫か?」
思わずミラーに声をかける。
「大丈夫大丈夫。この子、あたいより酒強いから」
「16なのにか?」
「そうよ。デビス、あんたさっきからチビチビやってるけど、もっと豪快に飲みなさいよ。見てよ、ロマーズも一杯目を飲み干したわよ」
ロマーズをみると、彼女もコップを真上に向けて中身を平らげたようだった。
「ロマーズ、あんたお酒いけるくち?」
「は、はい。お酒は好きで、たまにお、お家で飲んでい、いました。お、おじいさんには飲み過ぎはよくないと注意され、されていましたが、飲むと気持ちがよくなるので飲んでいまし、た」
「そうなの。それはいいことだ。どんどんいきな」
とライラがロマーズに酒をつぐ。
「あ、ありがとうございます」
ロマーズはさっそくコップに口をつける。それからロマーズは、ドンドンコップを傾けそのままお酒を飲み干してしまった。
「いい飲みっぷりじゃねぇかロマーズ! 酒はいっぱいある、飲め飲め!」
「はい!」
ライラはまたロマーズに酒をつぐ。
「ほら、デビス、あんたもコップの中身飲み干しな」
おれの隣いるライラが、赤ワインが入った革袋の注ぎ口をこちらに向けて言ってきた。
「お、おい、大丈夫か? みんなが酒飲んでへべれけになったら、今もしも悪漢や、凶悪なモンスターに襲われたら対処できなくなるぞ」
「なんだい、あんた破れかぶれの心地で家を出たんだろ? そんなあんたが酔ってもし何らかの襲撃があったら防がれないぞってそんなことでビビってんの?」
「いや、ビビってはいないが、おれはもうひとりではない。自分のことには自分のことだけだから無責任でいられるがお前たちが仲間としてそばにいれば、破れかぶれの心境というのは少し変わってくる」
「大丈夫大丈夫。あたいらのことは気にすんな。あたいら、いやロマーズは知らんけど、あたいとミランダは酒飲んだ方があらゆる面で調子が良くなる」
「うん? ミランダ? ミランダって誰のことだ?」
「えッ? ミランダ? あたいそんなこと言った?」
「言った。なぁ、ロマーズ?」
「は、はい。ライラさん、今ミランダとい、言いました」
「なら、いい間違いだ。ミラーをかんでミランダってゆっちゃったんだな」
「しかし酒を飲んだらあらゆる面で調子が良くなるのではないのか? もちろんそれには会話も含まれるのだろう?」
「ま、まぁそうだが誰にでもミスはある。ほれほれデビス、飲んで飲んで」
ライラが強引におれのコップに酒を注いできた。
「や、やめろ」
「旅始めの祝いだ、デビスも飲め飲め! 周囲の警戒はあたいとミラーに任せ今日は飲もうぜ!」
ライラはドンドンおれのコップについできてついに溢れた。
「お、おい溢れてる溢れてる」
「口もってけ」
ライラに言われおれはコップに口を運び唇を尖らせ吸った。
「ははは、いいぞデビス! 上手上手」
ライラは拍手しながら笑う。
なにかムカつく。くそ、ライラのやつめ、ムカつくぞ。
「よぉし、そんなら今日は飲んでやる、飲んでやるぞぉ!」
おれは宣言した。そしてその直後おれはコップの酒を一気に飲み干した。
「おお、すげえぞデビス! 酒はたらふくある飲め飲め!」
それからはまさに宴会だった。
ライラが飲みミラーが飲みロマーズが飲みおれが飲む。みんながみんな水のように酒を飲む。それが何回も繰り返された。その飲みの中、おれは自分の新たな一面を見つけた。それは案外酒に強いということだ。飲むにつれ眠くなることもなく気分も悪くならない。それどころか、気分は開放的になってくるし、飲みの席はこんなにも楽しいものかと目から鱗だった。暗い印象だったロマーズですら表情が明るく、言葉数はほとんどなかったがおれとライラのやり取りを見ながら楽しくお酒を飲んでいる様子だった。ミラーはライラの隣で相変わらず瞳をキラキラさせながら一定のペースでお酒を飲んでいた。
それからもワイワイとみんな酒を飲み、主におれとライラが他愛もないやり取りで時間が過ぎっていった。
そんなときだった。
まず、ライラの向こう側にいる、終始笑顔だったミラーの表情かすっと無表情になり、続いてライラの表情も消えた。それから彼女たちは、彼女のたちの後ろに置かれている剣をとって立ち上がり腰のベルトに剣を装着した。
「おい、どうした二人とも」
おれは驚き彼女たちを見上げた。すると気配を感じおれの左隣にいるロマーズを見ると、ロマーズまでもがいつの間にか剣をもって立ち上がっている。
「ロマーズ、どうした?」
ロマーズはあらぬ方向を見ている。いや、睨んでいる。首をライラの方へ返すと、彼女とミラーもロマーズの見る方向に顔をむけている。あらぬ方向とはつまり、おれの背後。
おれは振り返った。
そこには一面の闇がただただ広がっているだけ。
「おい、みんなどうしたんだ? 何事か起きたのか?」
おれは現状の事態が理解出来ずあたふたするばかり。
――おい
と、もう一度彼女たちに声をかけようとしたとき、三人は揃って動いた。
動いたというのは、具体的にいえば跳躍したということ。
彼女ら三人は、おれの背後へと跳び着地したのち闇へ走り闇の中へと消えた。
おれはただただその真っ暗な暗闇を見るしかなかった。
すぐに闇から音が聞こえてきた。
なにかがなにかによって切り裂かれる音音音。なにかはここからだと正体は判明しないが、音からして生命体ということはわかる。なぜわかるかというと、音は、柔らかい感触音を響かせたり、硬い感触音を響かせたりと様々。それはまさしく、生物がなにかによって切り裂かれる音だったから。
そして切り裂いている者たちは、おれの同行者、つまり闇へと消えていった三人。もしかしたら正体不明の生命体が三人を切り裂いているかもしれなかったが、おれはそれはないと断言できた。理由は、三人が切り裂かれていれば音はもうやんでいるはずだったし、もう一つの理由としては、あの三人が強者ということだから。
しばらくすると音が止んだ。すると暗闇から人影が浮かんできた。やはりおれの予想通りそれは強者の三人だった。
「――やっぱロマーズ、お前剣の扱い上手だわ」
「い、いえ、ライラさんの方が剣の扱いが上手です」
「にしても、よかったですね、全員無事で」
そんなことを言いながら三人は引き上げてきた。
「おい、向こうでなにがあったのだ?」
おれはまずそのことが気になったから尋ねた。
「ああ、多分ゴブリンだと思うがそいつら十体以上がこちらを襲うべく差し足忍び足で近づいてきてたから迎撃してやった」
「十体以上!?」
ライラの返答におれは驚いた。
「そんなもんだろ、なぁ?」
ライラは他の二人に聞く。
「それぐらいだったと思います。わたくしは四体は切り伏せました」
とこれはミラー。
「わ、わわたしは、五体ぐらいだったと」
とこれはロマーズ。
「であたいが六体だったから合計15体だな」
「し、しかし、向こう側は暗闇だったはず。ゴブリンの動きはどうやってわかった?」
「暗闇ったって、いざその暗闇に飛び込めば、あたいらでこさえた焚き火の光があいつらの瞳や剣に反射してわずかだけど光がキラリとする。あとはその反射光めがけて剣を振るうだけ。なぁみんな?」
「はい」
「ははい」
おれは並び立つ三人を呆然と見る。が、すぐに別の疑問が浮かんだ。
「わかった。お前たちがゴブリンを何体倒し、どういう理由でそいつらの動きを読んで攻撃を仕掛けるのかもわかった。しかし、なぜ奴らがこちらに近づいてきていることがわかった? おれはまったくわからなかったぞ、奴らの存在を。しかしなぜお前たちにはやつらの気配を感じることができたのだ?」
「ああ、そんなことか。それはな、臭いだな」
「ニオイ?」
「やつらゴブリンは、とにかく衛生環境が劣悪な場所でも生活することができる。だから体臭も自然きつくなるし、それが集団となると臭いはその分大きくなる。あいつらしかし悪知恵だけはもっているから風下からあたいに近づいてきたけど、それでもやつらの存在はわかったわ」
臭い? おれにはまったく嗅げなかったぞ、そんな異臭は。
「まッ、敵は撃退したし、ここいらで宴会はお開きとして寝ようか。まずはあたいから見張りにつくから他の三人は、銘々好きな場所で寝てよ」
でそれからライラ以外の三人は、ライラの言う通り好きな場所で眠ることにした。おれとミラーは焚き火の周りで横になった。
ロマーズは馬車の中で眠るという。
ライラが、いくら好きな場所で寝ていいよと言ってもそんな狭い場所で寝んでいいがなといったが、ロマーズはここでいいという。確かに馬車の座席で寝ることはできるが、足は伸ばせず体を折って寝なければならない。それでもロマーズは馬車の中でいいと言う。
「本人が良ければいいか」
だれもロマーズに強制はできない。ロマーズは扉は開けたままの馬車の中で起床まで就寝。
あとの者は見張りの任務があり、順番は、ライラのあとがミラーでその次がおれとなった。つまりおれはこのあとぐっすり眠ることができる。
見張りの時間だが、ライラは砂計
すなはか
りという手のひら大の奇妙な道具を所持していて、それをひっくり返せば、上部のガラス容器に詰まっている砂の塊が、道具の中心にあるとてつもなく細い管から下部の空のガラスの容器に落ち、それが全部落ちきれば見張りは終了で、時間にして二刻が経過したことになるという。つまり見張り時間は二刻。
おれは毛布にくるまり目を閉じた。
毛布を通して地面から少し大地の冷たさが伝わってきた。季節は雨季の季節が過ぎ去り、徐々に温度は暖かくなってきたが、それでも夜の、しかも家屋内ではない外気に身をさらせば肌寒く感じ、それが気になり眠れないと思ったが、案外早くおれは就寝したみたいだった。
気付けば、ミラーがおれを揺らしながら起こしていた。