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デビスローウ物語  作者: 零位雫記
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07 試合

07 試合


ガウディオの屋敷の裏庭は、広大だった。柵で囲まれた裏庭は、昔はその場所で馬を二十頭ほど放し飼いにしていたようだが、今は屋敷側の隅の一角に仕切りを造ってその中に二頭の馬がいるだけだった。

それでもその仕切りの中も、二頭の馬にはもったいないぐらいの広さがあった。その馬がいる対角の奥の隅にガウディオが訓練所と呼ぶ空間があった。訓練所も柵の仕切りで正方形に囲まれている。訓練所は床が石畳で整備されていた。

その石畳の中央にライラとロマーズが面と向かって対峙していた。二人とも手には物置小屋で見つけた木剣を手にしている。ちなみにライラはローブを脱いでそれをミラーに預けている。彼女は革製のベストを着用していた。対するロマーズは布のシャツ一枚という軽装中の軽装だ。

その二人からやや離れてガウディオが審判役として試合の方法をもう一度二人に説明しているようだ。さっきガウディオが広間で試合の方法を軽く話していたことによると、あくまでも今日の試合はロマーズの剣技をはかり知るもののため、双方剣をふるっても相手の体に木剣を当てないようにすること、ということだった。要するに力を抜けということ。

オレとミラーは訓練場所の端で並んで試合を見届けようとしていた。


「ライラは剣に自信があるみたいだが強いのか?」


オレは傍らに立つミラーに尋ねた。


「はい、強いです。彼女は、剣を扱う専門家に剣術を学んでいて、その剣技で今までもいくつもの戦闘を掻い潜ってきました」


「そうか」


「あッ、試合が始まるようです」

ミラーの声でオレは訓練所中央に目を向ける。

ガウディオをみると彼は片腕を天に上げていた。どうやらそれを降り下ろすと試合が始まるようだった。


「――双方、用意はいいか!」


ガウディオが、ライラ、ロマーズの二人に確認をとる。

ライラは身構えて頷き、ロマーズは、身構えることなくだらんと木剣を石畳に下げたまま、


「は、は、はい!」


と大きめな声で返事をした。


「では、始め!」


ガウディオが腕を降り下ろし試合開始を大声で宣言した。

その途端ロマーズがライラに向かって一歩踏み出しそれから下げていた木剣の先を彼女の喉元付近に腕を伸ばして素早く繰り出した。いわゆる突きと言われる技を出したロマーズだったが、その速さは剣に素人のオレから見ても凄まじく、しかしライラはその突きを体を半身にして避けた。


「ちょ、ちょっと待て! 今の突きは本気の突きだぞ!」


ライラが血相を変えてガウディオかロマーズに大声で訴えかける。しかしロマーズは手を止めない。突きが避けられたあとそのまま木剣を真横に凪ぎはらった。ライラは今度はロマーズの木剣を自分の木剣で受けとめた。そのまま二人は剣で相手を押すという状態になり、そのままその場で力比べを始めた。


「ガウディオさん! ロマーズは本気の力で剣をふってきている!」


ライラはガウディオの方を見て訴えた。その訴えは悲鳴に近い。


「ロマーズ、一旦剣を収めよ。ライラさんが驚かれている!」


ガウディオがロマーズを制止させようとする。


「ラ、ラ、ライラさん、ライラさんも、も、ライラさんも、本気を、だ、だ、出してください、本気を出して下さーい!!!」


ロマーズはそう叫ぶとつばぜり合いで接触していた木剣を更にライラの方へ押し、ライラを吹っ飛ばした。ライラは後方に飛んだが、腰を落として踏ん張りすぐに自分の体を静止させた。


「いいんだねロマーズ、あたい、本気を出しても」


「は、はい」


「じゃあいくよー!」


ライラが剣を両手で構えなおしてロマーズに突撃を開始した。

ロマーズもそれを迎え撃つべく、ライラに駆け寄る。

二人は激突した。それからは、お互いの剣技を相手にぶつけるということを二人は繰り返した。ライラの木剣をロマーズが受け、その直後ロマーズは木剣を引き、ライラに一撃をお見舞いする。しかしライラは上手くそれを避ける。こんなことが交互に繰り返された。オレは口を開けその様子を見ていた。圧巻だった。先に言ったようにオレは剣術のけの字も知らない剣の素人。しかし目の前で繰り広げられている二人の剣技の凄さはオレにでもわかった。二人ともただ者ではない。剣速というのだろうか、それが二人とも目にも止まらぬ速さで、しかも二人ともそれを避けて体に当てさせず、また剣で受けたりしていた。しばらく訓練所には、乾いた音が何回も何回も鳴り続けていた。


「――もうよい! 二人ともいい加減に剣をおろせ!」


試合が始まってしばらくしてガウディオが叫んだ。しかし二人は試合をやめない。


「やめよやめよ! ロマーズ、剣を収めろ!」


ライラとロマーズの距離が少し離れた時、ガウディオが二人に割って入った。


「ロマーズ、落ち着け! ライラ殿も剣を引いてくれ。もうお互いの力はわかっただろ!」


ここで二人はようやく木剣を下げた。

二人とも肩で息をしている。


「あのロマーズという方は、とてつもない剣の使い手です。ライラと互角以上に渡り合う人なんて、今の今までわたくしは見たことがありません。それにあの方もデビスさんと一緒で体全体から輝く光が放出されています」


「そうか……」


オレは試合を終えて立ち尽くすライラとロマーズを感心する思いで見ていた。あそこまでの剣技を習得するまでに二人は、きっと血の滲む努力を剣に費やしてきたことを想像すると尊敬の念を抱いてしまう。

二人はガウディオに木剣を預け、預けたらガウディオとライラ、ロマーズの三人はオレとミラーが立つところまで歩み寄ってきた。


「さっきのがロマーズの剣の実力だ」


ガウディオがオレたちの前で言った。


「ライラ、どうだ? じかにロマーズの剣を受けた感想は?」


オレが質問した。


「凄い」


すぐさまライラは返答した。


「師匠の教え方が良かったのか、この子が元々剣の才能があったのかわからないが、あたいの知る限りここまで剣の技量を持ち合わせている人をあたいは今まで出会ったことがない」


「そうか……。オレは剣はずぶのど素人だが、そんなオレでも二人の試合は凄いと思ったし鳥肌が立った。ライラはすでに仲間だが、それにもしロマーズ殿が加わったらと思うとこれほど嬉しいことはないとも思った。なにせ二人の剣技により旅の安全性が格段にアップするのだから。そこでだライラにミラー。オレとしてはロマーズ殿に我々の仲間になってもらいたいと考えているのだが、二人はどう思う?」


オレは首を振ってライラとミラーに尋ねた。


「あたいは、ロマーズにあたいたちと共に来て欲しい。デビスの言う通り、彼女が仲間になれば、これほど頼もしいことはない。だからあたいはロマーズが仲間になって欲しい」


「ミラーは?」


「わたくしも、デビスさんとライラと同意見です。ロマーズさんがよければ絶対に一緒に来てほしいです」


「うむ。ということだロマーズ殿。我々はあなたを仲間として歓迎したい。あなたも自分の剣の技量を外の世界で発揮したいとは思わないか? ガウディオ殿は、自分たちのことは気にせずそなたに外の世界に行ってよいと言ってくれている。これからは自分の力で自分の生きていく道を切り開いてみてはどうだろうか?」


そうオレが言い終わるとロマーズ以外の人は彼女を見て彼女の発言を待った。

注視されるロマーズは、手を前に組んでうつむいて考えているみたいだった。

みんな黙ってロマーズを見ていた。


「――お、おじいさん」


ロマーズは不意に顔を上げガウディオを見た。


「おじ、おじいさん、わたし、わわたし、この人たちと旅をしたい。そそ、そして、自分の力をこの外のせ、世界で試したい。いいかな? いいかな?」


「いいともいいとも。ワシとばあさんのことは考えなくてもいい。おまえはなにも気にすることなくここから旅立てはいいんじゃ」

「あ、あ、あ、ありがとう、おじいさん」


「――ということだ、みなさん。どうかロマーズをよろしくお願いする」


ガウディオが我々に頭を下げた。

「はい、我々の方こそよろしくお願いします」


三人でガウディオとロマーズに向かって頭を下げる。


「ほれ、ロマーズ、おまえもこの人たちに直接、仲間になる挨拶をするんじゃ」


「は、はい。――どうぞ、これこれこれからよろしくお願いします」


ガウディオに促されたロマーズがオレたちにウヤウヤしく頭をを下げた。


「よろしくお願いします、ロマーズさん」


ミラーがロマーズの手を取って挨拶を返した。

それからオレたちは屋敷に戻り、ロマーズは旅の荷造りをし、それが終わるとロマーズとオレたち三人でおばあさんに別れの挨拶をした。おばあさんはベッドから上体を起こし、泣きながらロマーズと抱擁した。オレはその様子をみて思わず涙ぐみ、ライラとミラーに至っては大粒の涙を瞳から垂らしていた。それが終わると最後にガウディオに挨拶をしてオレたちは屋敷を出発した。

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