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デビスローウ物語  作者: 零位雫記
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04 街外れ

04 街外れ

この街で生まれこの街の外から出たことがなかったオレだったが、街外れにはこれまで一度も行ったことがなかった。

幼少期にあそこには乗り合い場があり、馬の交通があるから危険だとか、それ以外にもひとけがあまりないので近寄るなと言われ近づくことはなかったのだ。

もっともオレは幼いときからあまり外出もせずに学校が終わればすぐに家に帰っていたので近寄るという意識さえなかったのだが。

ということでオレは乗り合い馬車の存在を知ってはいた。

ビフの話ではもう店はたたんだということだったが、とりあえずコペン村までの詳しい道のりをガウディオという人が知っているようなので行ってみよう。

段々と民家が少なくなってきて、ひとけもなくなってきた。

そして街外れに着いた。

そこにはビフの言うとおり家、いや、大きな屋敷が一軒建っていた。

どんな人かもよくわからない人物に会うのはとても緊張するが、今のオレには失うものはなにもなく怖いものはない。

姿勢を正し屋敷へと一歩を踏み出そうとしたそのときだった。突然背後から声がした。

オレは肩をすくめ目を見開きそのまま全身を硬直させた。

怖いものはないと胸を張った途端、背後の声にびくついてしまうとは情けない。

しかしなんと声をかけられたのかほとんど聞き取れず、オレはその場でかたまったまま背後にいる人の挙動を背中で感じようとした。


「――あのぉ」


再び声。しかし今回はなぜか緊張はしない。それは声の性質が女性だとわかったから。しかもトーンも優しげ。

声に安堵したオレは、硬直した体を解き、しかし警戒心は頭の片隅に残しつつゆっくりと後ろを振り返った。


「えっ?」


オレの背後には二人の人物が立っていた。二人は共に焦げ茶色のローブを身にまとっており、各々が目深にフードをかぶっていた。


「驚かせたか?」


向かって右側の身長の高い方が話しかけてきた。こちらも女の声。しかしこの声は先ほどの、あのぉという声とは明らかに違う声質だった。


「いいや大丈夫だ。それよりなにかオレに用か?」


「はい」


これは背の低い方の返事だ。

この人があのぉと言った人物。

背の低い人は返事とほぼ同時にフードをめくった。


「お初お目にかかります。わたくしどもは、二人して各地を放浪している冒険者です」


「はぁ」


フードを捲った小柄な人物は確かに少女だった。目はいやみなぐらいバッチリ二重でこの場所は日陰で瞳は太陽の光を浴びていないのになぜかキラキラと輝いていた。


「先ほど、あなたさまは、『旨いもん亭』でお食事を摂られておられましたよね?」


背の低い瞳キラキラが問うてきた。


「旨いもん亭?」


ああ、あのビフの経営する食堂のことか。あの店、旨いもん亭ていう店名だったのか。ダッセ!


「ああ、旨いもん亭ね。ああ、その店でさっき朝食セット、食べてたよ」


「そのとき、あなたと旨いもん亭のご亭主の会話が自然とわたしたちのテーブルまで届いてまして」


その言葉を聞いてオレは思い返した。

さっきビフの店にいたテーブル席のフードを被った二人はこの目の前にいる二人だったのかということを。


「その、店主とオレの会話の中で、なにかあんたらに対して機嫌を損ねる内容でもあったのかね?」


「いや――」


次に答えたのは小柄な方ではなく長身の女だった。


「いや、そんなことじゃあなく、あんたが、ミロスの街に行くっていうことをさっきの食堂で耳にしたもんで」


「それがどうした?」


「あたいらもそのミロスに行き、ミロスの近くにあるダンジョンにもぐりその地下迷宮に点在している金銀財宝を得るべく、その地に向かおうとしているのよ。あんたもその類いかな、と思ってね」


「まぁそんなとこだ」


「やっぱりね。でも見たところあんた、連れもいない独り身のようだが、まさか本当に単身でミロスのダンジョンに挑むつもりなのか? それともミロスで仲間の募集をかけようとしてんの?」


「いや、さっき食堂でビフに言った通りダンジョンには独りで潜ろうと思っている」


「マジか?」


長身の女は地面に視線を落とした。


「おまえアホか?」


長身はオレに向きなおし、そう言ってきた。


「ふむ。アホかもしれんが、オレは単身でダンジョンに挑もうとしている。独りの方が気が楽だ」


「自殺行為や」


長身がそう言った。


「あの洞窟には、聞くところによると、徒党を組んだ歴戦の勇士が何組も挑んでいったみたいやけど、ある程度の戦利品を得て帰ってきたやつらは、その中でも片手で数えるほどしかおらんらしいわ」


「ふうん、そうなのか」


「ふうんそうなのかってあんた・・・・・・。まぁいいわ。独り身の方が気が楽っていうあんたの意見はわかったけど、それでも聞いて。単刀直入に言うと、あたいら、あんたにあたいらとパーティーを組んでもらいたいんや」


「パーティー?」


「そや」


「つまり、オレと君たちで徒党を組むということか?」


「そういうこと」


「――ダメでしょうか?」


背の低いキラキラ瞳が割って入ってきた。


「うん、ダメだ、ダメだが、一応尋ねたい。なぜオレを誘う? さっき食堂でオレと店主の話を聞いていたのなら、オレが冒険未経験者ということも耳にしたはず。そんなオレをなぜ仲間にと誘うのだ?」


素朴な疑問だった。なんでオレみたいな冒険未経験者にこいつらは仲間にと声をかけたのだ。普通なら戦闘経験豊富な戦士やら、魔道を極めた魔法使いやらを仲間にするだろ? なぜオレ?


「ああ、確かにあんたが冒険未経験ということはさっき食堂で聞いた。でもあんた、タッパはあるし見た目がっしりしてて、それだけでもかなり周り対して圧力がある」


「それがどうした? オレの見た目だけではダンジョンは攻略できないぞ」


「そう、そうだ、おまえみたいな冒険未経験者と組んでもダンジョンは攻略できない。なにせあのミロスのダンジョンには多くの奇っ怪で強いモンスターがいるのだから。でもあたいらはあんたに期待するのはあんたの戦闘技能じゃあないんだ。あんたに期待するのは、ダンジョン攻略というよりも、あんたがいることであたいらには、ごつい男の連れにいるという、他者に対して、ええと、この場合の他者っていうのは、男限定になるんだけど、その男たちを排除するための存在としてあんたにあたいらといてもらいたいの」


「はぁ? なんだそれ?」


「こんだけ説明してもわからない? まぁそりゃわからないか。ええとね、あたいら、自分らで言うのもなんだが、二人がふたりともかなり見た目イケてるんだ。だから放浪する先々で餓えたオスらに声かけられるの。その対策としてフードを目深にかぶるんだけれども、ばれるときはばれる。ばれたときにはオスから、『ありゃ? このフードの影に隠れているのは、可愛いおなごのようだ。どうれもっと近くでみてみよう。やっぱりそうだ。ねぇ、わしらがおごるから、おれたちと飲まない、ねえ、ねえちゃんたちい』とか、ひどいときは『あんたら二人をオレひとりでいかしてあげんぜ!』とかかなり卑猥な言葉を投げかけてくる、ということがあるの。もうそんな類いの会話、めんどくさいの。こりごりなの。だからその防止策のためにあんたをあたいらの仲間に引き入れたいわけ。あたいらに男の連れがいりゃあ、あたいらに声かけてくる男もいなくなるんじゃあないってということで、あんたに声かけた」


オレはその言葉を聞いて合点した。

たしかにこの二人、見た目はかなりイケてる。

長身は、相当綺麗な顔立ちしてるとオレは感想した。目は二重で切れ長く、まつ毛も長く、三、四回連続でまばたきすれば、そのまつ毛の羽ばたきでこちらに風が軽くなびいてくるような気がしてしまうようだった。

背の低い方も顔立ちは長身同様整っている。というか、この二人どことなく似ている。まぁそんなことどうでもいいか。


「オレがいることでナンパ抑止力の効果を期待したいわけだな」


「そう」


こいつらのオレに対しての期待はわかった。

しかしまた疑問が出てくる。

なぜオレなのか? なぜこいつらはオレにナンパの抑止力のため声をかけてきたのか? 

こいつらは、その自分たちに声をかけてくる鬱陶しくウザイ存在である『オス』と同族であるこのオレになぜ声をかけた。


『なぜオレなのだ? なぜ君らはオレに声をかけた? 男なら他にもたくさんいる。その中でなぜオレを選んだのだ?」


「ああ、そのことね。それはこの子にきいた方がいいかも」


長身が横にいる瞳キラキラを見下ろした。


「あの、わたくし、あ、そのわたし、なぜだかわからないのですが、人をじっと見ればその人が良い人かどうかわかるのです」


「はぁ?」


何を言っているのだ、この瞳キラキラは? こいつちょっとぶっトンだキャラじゃないのか?


「わたし、人をじっと見つめるとその人が良い人か悪い人かが色でわかるんです」


「色?」


「はい。わたし、人を10秒ほどじっと見つめると内面が良い人は、その人の体全体が輝いてみえるのです。先ほど食堂であなたを見ていたらあなたは光輝いてた。だからお声をかけさせてもらいました」


「なるほど」


とおれはとりあえず納得した返事をしたが、やっぱり瞳キラキラは、やばキャラちゃんと認定した。


「そちらがなぜ声をかけてきたのかは今の説明でわかった。オレが君の特殊な能力で善人とわかったから仲間になってほしいということだな。しかしオレは君たちが善人かどうかわからない。オレには人をじっとみてその人が善人か悪人かの判断はできない。オレも共に行動する人物がどんな人柄なのか知ったうえで一緒に旅がしたい。さて、オレは君たちのどこを見て君たちが善人だと判断すればいいのだろうか?」


長身の表情が明らかに曇った。

オレのことをめんどくさいヤツと判断したのかもしれない。

そう思ってオレへの勧誘を諦めるならそれでいいのだか。というより諦めてもらうためにめんどくさい返答をした、ということもあった。


「そうね、あんたから見たら確かにあたいら、なにを考えてるかわからない不信なヤツかもしれないわね。女とはいえこっちの方が人数も多いわけだし」


「なあ。そうだろ?」


「すまない、女という立場だけでだれにでも受け入れられるだろうとこっちが勝手に判断してあんたに声をかけてしまった。そうだな、よくよく考えればあたいらも他者にとってどう思われているのか考えなければいけなかった。男たちからの声かけにうんざりしてそれから逃れたくてあんたを、言い方は悪いかもしれないが、男からの護衛として一緒に行動をしようとした。確かにあたいらは他人にあたいらが善人という証拠は提示できない。しかしあたいらは抱えている問題に対して切実に真剣にあんたに勧誘を行っている。それでもやはり共に行動するのは無理か? 無理ならあたいらはここから立ち去る」


「むむむ」


二人はまっすぐオレを見る。ここまで言われたら承諾するしかないか。まぁあ、この旅は破れかぶれ開き直りの考えから始まった。この二人がオレに対してどうのこうのしたところでそれはそれまでだったということ。


「おれは自分が善人という自覚はない。おまえたちに危害を加える考えはないと言葉では言えるが、それは本心かどうかわからないぞ?」


「大丈夫です。あなたは悪い人ではありません。わたしたちに危害は加える意思はまったくありません」


と、瞳キラキラが返事した。


なぜ他人の意中がわかるのかおれは理解に苦しむが、魔法がある世界だ、この娘には本当に人の善悪を見分ける能力があるのかもしれない。


「わかった。こんな冒険未経験者のオレでよければ、君たちと共に旅に行こう」


「よし、決まり! 早速自己紹介を。あたいの名前は……ライラ・クラース……。で、こっちが、ミラー・……ラール」


「ライラ・クラースにミラー・ラール。名字が違うな。そうか君たちは姉妹ではないのか」


「もちろんだ!」


とライラが答えた。


「オレは、デビス・ローウという者だ。よろしく」


「よろしくお願いいたします」


小さい少女ミラーが頭を下げてくれた。


「あんた、あそこにある乗り合い馬車屋のガウディオを訪ねるのだろ?」


と、ライラはオレの後方を指差した。


オレは指された方角へ振り返った。


「食堂で聞いていたか。ああそうだ、あそこに行く。あそこに行き、コペンの村までどうやって行くのか尋ねてみる」


「ほな早速いこや」


オレたち三人は横に並んでガウディオの屋敷へと向かった。

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