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デビスローウ物語  作者: 零位雫記
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02 朝の空気

02 朝の空気

だんだんと明るくなりつつある早朝の街を歩くのはほんと何十年ぶりだろうか。

住宅街の道には人っ子ひとりいない。

オレはたまには散歩のため外出していたが、それは夕暮れの時間帯。

理由はもちろん人目が少ない時間帯を狙ってのこと。

それにしても朝の空気は問答無用でいいもんだ。今日出来立ての空気とでもいうのか、誰も呼吸していない新鮮で清々しい空気は脳内を活発にしてくれるようだ。

その清々しい空気のあとにオレの鼻腔をくすぐった匂いがあった。


「朝メシか」


オレは立ち止まって辺りを見渡す。

視界にうつる家々の煙突からは煙が風に揺られ立ちのぼっている。

でもそれはまばら。


やっぱり空き家が増えてんかな?

オレがそう思ったのには理由があり、前々にオレの唯一といっていい情報源だった母親から聞いた話では、三年ほど前に、オレの今いる街から歩いて十日ほどかかる距離に、ある洞窟が発見されたということだ。洞窟には金銀財宝が眠っているらしく、一攫千金を夢見る、主にこの街の若者がそちらに出来つつある街に移住したから人が減ったと聞いていた。

それが原因なのだろう、オレの父の工房は仕事が激減し、なんなら発展しつつある洞窟近くの拓かれた街へ工房の移転をと、工房主と考えてたようなのだが、いかんせん、工房主も父も年が年で、新たな地で新たな店をひらくという気概はなかったようなのだ。

そんなこともあり、収入が減っている我が家に何もしない息子がいるということは、両親にとって収入のこともそうだが、何もしない息子の存在そのものが精神的に堪えられなかったのかもしれなかった。

32という歳が若いのか歳くっているのかよくわからないが、両親にしたら少なくとも自分たちより若い我が子にはまだまだこれから先何かしらやれると思ったに違いない。なんでおまえはここにいる? 洞窟の街行きなさいよ、我々より若いあなたなら、なにかをつかめるかもよ、そんなやるせなさか期待が両親に去来したかどうかは知らないが、もうこの家から出て自分の力だけで生活してと思ってオレを家から出したのだろう。

具体的に洞窟の街へ行けという指示はなかったが、歩いて十日の距離があるとはいえ、新興の洞窟があるのだから、洞窟の街へ行けば人生ひらけるかもよという母親か父の無言の意思表示があったのかもと勘ぐってしまう。

ともかくオレは家を出た。

もう家を出ると決めたときの心境は、開き直りの極地だった。

このまま旅をし、結果野垂れ死んでもいいと真剣に思った。

しかし、背負うリュックの中には、両親からもらったお金がある。

昨日買い物でいくらか使い今残っているのは、金貨11枚銀貨40枚銅貨38枚だったはず。

両親がオレに与えたお金は多分、老後の生活のために毎月少しずつ蓄えていた内の一部かもしくは全部に違いない。

これは有効に使わないといけない。そして有効に使いつつも職がみつかずお金が無くなり空腹になり旅路で餓死しても本望、とオレは考えていた。

オレが目指す地は、洞窟の街。 街の名前は確か、ネロスだっけ。しかしその街まで歩いて二週間かかるって話。

街に到着するまでに所持金の半分以上は無くなっているだろうな。


――ぐう


腹が鳴った。

まずは腹ごしらえしようか。

オレは街の中心部へと歩き出した。

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