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デビスローウ物語  作者: 零位雫記
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01 家を出る

01 家を出る

「これしかないけど、このお金を持ってこの家を出て、これからは一人で生活して」


それは母からの最後のお願いだった。

ついに来た。

ついに言われてしまったとオレは思った。

オレことデビス・ローウは今年で32歳。

32歳と言えば、一般的には、仕事はバリバリこなしていて、当然結婚もしており子供も一人二人いてもおかしくないってところだけれども、現在のオレはそのすべてがなかった。

嫁子供はいないし職も持たなかった。

それが今のオレ。

でも今まで生きてこられた。

理由は同居する親のすねをかじってきたから。

その親に今オレは見放されたのだ。

いや、見放されたはいい過ぎか。オレは15歳で街の幼年学校を卒業してまず特に何になりたいとかどんな仕事をしたいとかなかったから父の勧めもあって、父と同じ工房で武具修理の仕事に就いた。

でもこれは三ヶ月ほどで退職。これが起点かな、あまり家の中で父と話さなくなったのは。

それから、露店商で野菜を売ったり、宿屋の清掃、パン工場でパンの生地づくり、薬屋で助手をしたりと計十種類ぐらいの職を転々として結果、オレは自宅に引きこもってしまった。

元々人とコミュニケーションをとるのが苦手っちゃあ苦手だった。そんなオレをみて、両親、特に父親は、ひとりで黙々とできる武具修理の仕事をオレに勧めたと思うんだが、特段手先が器用でもなかったし、いや、それより致命的だったのが、我慢強く事を仕上げる能力を欠いていたオレは、武具修理はおろかあらゆる仕事に向いていなかったのかもしれない。

部屋に引きこもった当初は、母親は、部屋にメシを持ってくるかたわら仕事どうするのとか、これからの自分の人生どう考えているのとか言ってきたが、一年経った頃には、今後のオレ人生話などはせずに、部屋に食事を届け、たまには近所で起こった情報を一言二言言って立ち去るということだけになった。最後の仕事をやめてから15年、オレは仕事はせずに、気がむけばたまに散歩をし、気がむけば家で数冊しかない本を何十回と読んだり、体はある程度鍛えておいた方がいいと考えて筋トレをしたりとかたまには絵を描いて1日の時間を割いていた。

ここまでほとんど声を荒げずオレの行いをみていてくれた両親に出て言ってくれといわれてもオレは苛立ちを覚えなかった。実際、母親に出てってくれと言われたオレは、それはオレ自身でもびっくりするぐらいあっさり、


「わかった」


とだけ言い、それから二日後には長年居続けた家をあとにしていた。

家を出るのに二日の日数を要したのには一応今後必要となりそうな身の回りの物品を母親からもらったお金で調達したためだった。

家を出る間際、朝メシを食べていた父に会釈だけはしてきた。オレがすぐそばに立っていることはわかっていたと思うが、父はスープに顔を向けたまますくったスプーンを口元に運ぶということをひたすら繰り返し、こちらには一瞥もしなかった。

母親は玄関先まで見送ってくれて、


「元気でねデビス」


と言ってくれた。

オレはうなずき扉を開けて、扉をしめた。

その閉めた扉にもたれ、


(そういえば久しぶりに自分の名前を耳にしたな)


と、不思議な感覚にとらわれていることにそのとき気がついた。

そこでオレは笑みを浮かべ歩き出した。

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