丘の上のあの子
中学に上がった最初の春。
僕は、恋をした。
初恋だった。
相手は、僕が通う学校の女子生徒。
学年やクラスは分からない。
名前も知らない。
ただその子は、帰り道の夕日に照らされた丘の上で、一人、たたずんでいた。
真珠のように澄んで輝く瞳。
左右に分けてリボンで結んだ豊かな黒髪。
スラッと細い手足。
そんな彼女を包む雰囲気は
優しさと、可憐さと、清らかさと、不思議な魅力に満ちあふれている。
まるで、僕の好きなモンゴメリの小説に出てくる、ヒロインのようだ。
きっと、クシャミをしても可愛いんだろうな。
そんな事を思いながら、僕は今日も彼女に見とれていた。
するとその時、不意に彼女の体が少しのけぞった。
クシャミが出そうなのかな?
何だか凄く鼻をフゴフゴさせている。
そして口をト○ロのように大きく開いた。
さらに彼女は上半身を、頭が後ろの地面につきそうなくらいのけぞらせ、
思い切り引き絞った弓矢を解き放つように、
クシャミをした。
「でぃやックショイやマンドラゴラかかってこんかいオラァーッ!」
その言葉の意味は全く僕には理解できなかったけど、
そんな豪快なクシャミを見たのは、僕は生まれて初めてだった。
そしてそんな彼女のクシャミに吹き飛ばされたのか、
僕の彼女に対する恋心は、どこかへ飛んで行ってしまったようでした。
さようなら、僕の初恋。