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第7話 悲しみ嘆く魔女/悲しみ笑う少年

 俺はしばらく茫然としていたがやっと整理できた。


 ミエダの話が本当なら、親父は魔王を倒したせいで、知ってか知らずか魔王に呪われていた。その呪いのせいで俺に魔王の力が伝わった。それも生まれた時から。それがあの本の影響で覚醒した。その力を人前に、両親にも幼馴染たちにも見せたことで俺は全てを失った。そして現在に至るのだ。


 つまり、俺は勇者の才能よりも魔王の力を受け継いでいたことになる。


 ……なんてことだ。……そういうことかよ。…全部…これまでのことも……。


「はは、ははは、あははは、はは……」

「ゼクト?」

「あははははは! あーははははははははははははははは!! あははははは!!」

「ゼクト!?」

「なんだよそれ! そういうことだったのかよお! あははははは! なんてひどい笑い話だよなあ!」


 なんだか、洞窟の中に迷い込んだ時の気持ちがよみがえった。そうだ、もはや笑うしかないじゃないか。そうしないと押しつぶされそうなんだ。絶望に。いやもう潰されてるんだよな、俺の夢が。もう笑ってしまおう、そうしないとやっていけない、もう俺は何もないんだから!


「あははは! 俺は親父やお袋みたいになりたかったのに! 勇者になりたかったのに! 最初から無理だったんだ! ありえなかったんだ! 勇者の息子なのに! いや、勇者の息子だからこそか! ははははは!」

「!?」

「ははははは! 呪われてたのか! 親父が呪われてたせいか! だから俺は才能が無かったんだ! 勇者より魔王の力があるって! なんてひどい笑い話だ! ふざけんな!」


 あれ? 笑うつもりだったのに、怒りが込み上げてきた。そして、悔しさが。……もうだめだ、気持ちの整理がつかない。もうどうでもいいや……。


「なんで俺なんだ! 俺は関係ないだろうが! 俺が何をしたってんだ! 親父と魔王の因縁を俺の代まで持ってくるな、巻きもむな!」 

「…………」

「何だったんだ俺の人生は!? こんな苦しい思いをするくらいなら、俺なんか生まれなければっ!?」

ガシッドサッ

「もういいいよ!」


 ミエダが抱き着いて押し倒してきた。なんだか強く抱きしめられてるが、どういうことだろ?

 ん? もしかして……。


「もういいいよ、ゼクト! もういいから!」

「……ミエダ?」

「ごっごめん、ごめんなさい! こんな、こんなに傷つけちゃうなんて! ゼクト、ごめんなさい! 私がこんな事実を見つけなければ、言わなければ! ゼクトがこんなにつらい思いをしなくて済んだのに! 私のせいで!」

「何を言ってんだ?」


 ミエダが、泣きながら謝ってくる。どうやら、罪悪感を感じたんだな。でも、今更、そんなことを言ってもな……。


「ははは、気にするなよ。どうせ遅かれ早かれ分かることだったと思うぜ? ていうか、俺としては、自分のことが理解できてよかったと思うんだけど」

「それなら……」

「?」

「どうして泣いてるのよ!」

「!?」


 俺が、泣いてるだって? あれ? 本当に泣いてるじゃないか。笑い続けてたから気が付かなかったのか。……いや違うな。本当は泣きたくなかったから笑って誤魔化そうとしてたんだ。……ふん。だけど、結局泣いてたのか。なんか、自覚すると体から力が抜けたな。


「私はゼクトに救われた、希望を持つことができた! それなのに私はゼクトを絶望させてしまった!」

「……元々、絶望してたんだけど……」

「だとしても! さらに絶望させたことに変わりないわ! 私は、私は! うう……」

「……?」


 ミエダが顔を覆ってしまった。それに対して、俺の方は力が抜けて落ち着いてきたな。あれだけ笑ったり、怒りを叫んだりしたからな。……泣きながらだけど。

 それにしても、ミエダは優しいな。俺のことでこんなに泣いてくれるなんて。でも、男として女の子が泣いてる状況は嫌だな。しかも、俺が原因だし。


「……ミエダ、ごめんな」

「うう、ぐすっ、……どうしてゼクトが謝るの?」

「ミエダが泣いてるのはさ、俺のせいだし、悪いことしたなと思ってさ……」

「ゼクトだって泣いたでしょ、しかも、笑いながら……ひどい泣き方だったわ」

「そんなにひどかったか? ははっ、俺たち泣いてばっかだな」

「そこで笑う? ゼクトはおかしいわ」

「おかしいか……俺はあの時で全部失ったからな、おかしくなって当然だよな」

「あっ……それは……」

「ちょっ、そんな顔するなよ。大事なのはこれからなんだからよ」


全部失った。自分で言っててなんか悲しくなるな。ミエダもまだ、悲しそうな顔を向けてくるし、どうすればいいんだろう……。あれ? ちょっと待てよ、本当にどうすればいいんだ? 俺達のこれからは? ミエダのためにそんなことを言っちゃったけど、何も思いつかないや。

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