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吟遊詩人グラスの異世界怪談  作者: 百鬼萬斎F/ハシビロコウ
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手招きするガマの葉

 W峠を縦断する街道筋には、古くからある宿場町があります。疾風の勇者が最初の魔王と戦った頃には、すでにそこにあったとも、まことしやかに言われるほどですから、真偽は別にしても、本当に古い宿場です。


 この宿場町から速足で半日ほど行ったところに、一本の大きなガマの木があります。周囲にはほとんど木らしい木も生えていない荒地なので、昔から旅の目印として重宝されてきました。


 その幹は、言い伝えにある虚空の雷龍の後ろ足もかくやと思われるほど太く、霧降山の巨人族でさえ、三匹がかりでも腕が回らないくらいでしょう。

それほど迫力のある幹でありながら、ほっそりとした枝は幾重にも分かれて伸び、先へいくほどさらに細りながら、枝先には大きな葉をいくつも付けています。しかも、その数十万、あるいは数百万もあろうかという葉は、それぞれが手のひらのような形、それも美しい女性の掌のような繊細な形なのです。

 ガマの木と言われていますが、このような葉を持つガマは他にはなく、世界でここにしかないのです。このガマの木は、唯一無二のユナル・シー・スガーマとも呼ばれています。

 これは古い東方の言葉で、今では本当の意味は失われていますが、共通語では「ガマの女長老」と翻訳されるようです。


 このようにとても珍しく、美しい木ですが、誰もこの木、とりわけ葉をじっくりと観賞することはありません。特に冬が来る前の葉が黄金色に染まる時期はなおさらです。一般にガマの葉は、この木に限らずとても固く、武具加工の材料にしている地方もあるほどです。

 それほど固いはずの葉ですから、他の木の葉のように風に靡くこともありません。

 しかし時折、無数に繁ったその中の一枚だけが、女性の掌のような形の葉が、なぜかユラユラと揺れることがあるそうです。


 まるで、手招きをするように。

 

 ところが、この不思議な現象を見た者は誰もいません。正確には、見た者は“いなくなって”しまうからです。


 ユナル・シー・スガーマに呼ばれたのだと、土地の者は言うそうです。そして、ユナル・シー・スガーマに呼ばれた者は、この地と冥界の狭間に堕ちて、二度と戻れなくなってしまうそうです。

 もちろん、それが本当なのかどうかもわかりませんが。






 

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