<三年前の空の下>
初めての実戦から数日後、休暇にも関わらず電報で空軍基地まで来るようにとの要請を受けた。しかしその日は開戦三年目ということもあり、どこに行っても人が多くバス乗り場のある広場では戦時集会が行なわれていた。仕方なく集会の参加者である群衆を避けて遠回りしながら広場の反対にあるバス乗り場へと向かう。
「自分の国の湖すら何とも思わず汚し続けるような共和国の人間がもしこの湖に来たらどうなるだろうか!?奴らが指一本触れたとしても我が帝国の美しい湖が腐り果てることは間違いない!」
「「「そうだ!」」」
そもそも、この戦争は自国の湖を汚しすぎた共和国がきれいな帝国の湖を奪い取ろうとして始まったものだ。大昔より荒れた土地しかないこの大地。人々は数少ない湖に国をつくり、湖を命の源、どの国も神聖なものとして繁栄してきた・・・と俺は思っていた。
しかし、共和国ではそうでなかった。帝国では工業が登場した当時にひょうたん型であった湖を二つに分け、湖の一部を犠牲にしながらも発展すること選んだ。そして今でも帝国は戦時中である今でも工業の排水を可能な限り浄化すると同時に、工業そのものを管理・抑制しているのだ。
だが共和国はそんなことお構いなしに兵器を作り、金儲けのために周辺国へ輸出する工業品を作って湖を汚し続けているとも聞く。そのため、帝国は共和国に物量で負けているいるのだが負けるわけにはいかない。湖は帝国のものというだけでなく、帝国そのものなのだ。湖があったからこそ今まで我々は生きてきたのだ。湖を失うということは帝国国民、そして帝国の死を意味する。
「ファルコ!」
「ん?」
人だかりをかき分けて中から現れたのはルノカだった。どうやらお互い同じ理由で呼び出されているようで、俺たち二人は群衆を横目で見ながら郊外にある基地を目指す。そしてバスに乗り、二人して呼び出された理由を考えてみる・・・が、まったくもってわからない。
「久しぶりに家族と一緒にいられると思ったんだけどなー。そういえばファルコは何してたの?」
「適当に家の片づけだな」
「家族は?」
「死んだ。偽装事変で」
偽装事変。それは三年前に共和国が帝国に対して行なった民間船に偽装した船による爆撃と観光客に偽装した兵士たちの高射砲陣地への銃撃事件である。これによって当時街に買い物に出かけていた俺の母親と妹が死に、高射砲の砲兵であった父親が死んだ。
当時は海賊の仕業とも反政府思想の人間ともいわれたが、調査の結果共和国が貨物船を改造して見た目をそのまま爆撃艦にしたものだとわかった。なぜ共和国がこのようなことをするのか当時はわからなかったが、今ならわかる。
共和国にとっては湖しか興味がないのだ。湖とは限りある資源、当然そこに住む帝国国民は邪魔になる。この戦争は共和国の虐殺に抵抗するための戦いでもあるのだ。共和国に正義の鉄槌を与えるため、あんな奴らの思い通りにさせないためにもこの戦争には勝たなくてはならない。
「ごめん・・・」
「いいよ」
当時を思い出し、俺が一人熱くなる中でもバスは進んでいく。空軍基地まではもう少し、俺は無意味に興奮しながら空軍基地に行くことになった。