<空の戦争>
初めての戦果であるが、そう見入ってもいられない。残る一隻を墜とすため、ルノカは再び上昇していた機体を反転させる。しかし、その時ルミカを見上げていた俺はさらに上空からやってくるもう一機の飛行機に気が付いた。確認すると隊長は下にまだいる、偵察に出ていた敵機が戻ってきたのだ。
ルノカは敵機に気が付いていない。今しがた二機目の敵機を墜とした隊長だって気づいてはいないし、もし気づいていても距離的に何もできない。俺は機首を敵機のほうにむけると一気にエンジンを唸らせる。俺に気が付き接近しすぎるなと手を振るルノカ、一方敵機も俺の動きに気付いたのか俺のほうへ機首を向けた。
ダダダダダ!
ドドドドド!
お互い正面から撃ち合った銃弾は確実にこちらの翼を撃ち抜いてきた。機銃のある場所がプロペラの裏なだけに一部は敵自身のプロペラではじかれるのだが、そんなのはごく一部なうえにこっちのように両翼に機銃があるよりも命中率させやすい。
しかし、こっちだって負けてはいない。口径はこちらの方が大きいのだ。こちらの銃弾は完全に翼の骨組みを打ち砕き、翼をもぎ取られながら俺とルノカの機体の間をもだえるように墜ちていく。
「さすがにパワーがあるな」
実際7.7㎜では撃ち抜けないものを撃ち抜くのだから当然なのだが、実際にそれを見比べるようなことは初めてであり率直な感想が出る。一方のこちらは翼に穴が開いただけであり隊長もチャックもよくあんな機銃で敵機を撃ち落とせるものだと思う。
バーン!
急上昇させた機体を立て直しているとき、背後の爆発音に振り向くと最後の戦艦が爆発して落ちていくところだった。「何事も動揺するな・迷ったら突っ込め」がレイン隊のモットーであり、どうやらルノカは動揺することもなく敵艦を墜としたようだ。
そして太陽とは違う光、隊長からの発光信号である。翼に穴が開いたことを伝えると帰投する際は急旋回や速度に注意しながら帰れと返され、周辺警戒のために高度を上げてさらに上空へと昇っていた。
それから俺は被弾箇所に気を配りながらゆっくりと空を飛んでいく。穴から見える景色に様々な考えを巡らせながら。
・・・・・
「大丈夫でしたか!?」
機体が収納されて最初に声をかけてきたのはルノカだった。
「大丈夫、翼に穴が開いただけ」
俺は機体から降りると特に何事もなかったように平然と答える。それからしばらくして隊長、艦隊の防空に当たっていたチャックが戻ってくる。飛行機は再びいつでも発艦できるよう整備や補給、翼の応急処置を行なわなくてはならない。そのため邪魔にならないよう、あとのことは整備兵たちに任して俺たち四人は詰め所へと戻った。
二十六時間の哨戒勤務。残りの数時間、敵と出会うこともなく艦隊は帝国へと戻った。ちなみにルノカは俺の恐縮しきりで、チャックの目の前で特に大見得も切ることなく控室で待機していた。