<大空を行く>
一機でも多くの飛行機を同時に飛ばすというのは空での戦いの基本だ。そのため帝国では敵艦を索敵するのは味方の飛行戦闘艦が行ない、見つけてから飛行機を全機発艦させるのが常道となる。
前までは飛行機を偵察に出して敵艦の索敵を行なうという作戦を帝国でも行なっていたが、飛行母艦一隻には四機しか飛行機を搭載できないうえ、たとえ見つけたとしても飛行機には無線は搭載されていない。そのため、偵察に出した分戦力が減るうえに、飛行母艦が攻撃を受けても救援を求められないという事態になりかねないのだ。
また、偵察に出た飛行機が敵艦を見つけたとしても、飛行機は味方の艦隊の目視圏内まで戻ってきて手持ちの発光器を点滅させてしか連絡と取るしかすべがない。ひと昔前まではこれでよかったのだが、飛行戦闘艦に対空監視所ができてからは敵に自分が近くにいることを敵に教えてしまう危険な行為とされて帝国では完全に廃れてしまった。
パッ!パッ!
ルミカが発艦して俺の後ろへと着くと、艦橋の発光器から敵機と追っていった隊長の向かった方角を教えられる。その方向を見れば雲に隠れる敵機とそれを追う隊長の飛行機を何とか見ることができ、俺は手持ちの発光器で確認した旨を伝える。
一応、向こうが偵察に飛行機を割いていることを考えれば数的優位には立っていると考えていいだろう。そして訓練通り敵艦を発見しやすいように俺は隊長の姿を確認しつつ後ろ上空に陣取るように高度を上げていく。
・・・・・
しばらくすると、眼下に雲とは違う質感をした白い物体が見えてきた。気嚢には四角い赤地に黄色い歯車を書いた共和国の識別マークが書かれている。共和国の飛行戦闘艦の艦隊だ。確か四角い赤地は共和国の周囲に広がる赤土を現し、歯車は工業、ひいては荒野の真ん中にある国そのものを表しているのだという。帝国の四角い茶色地にひょうたん型の湖をかたどった識別マークとはとはだいぶ趣きがだいぶ違う。
艦隊としては飛行戦艦2隻に飛行母艦1隻という共和国の艦隊にしては小規模だが、とりあえずはルノカに先行させよう。左手を上げて指示を出すとルノカは待ってましたと言わんばかりに真ん中にいる飛行母艦へと機体を降下させる。
そして俺もそれに続いて機体を降下するが、さらに下では隊長が飛行母艦の下から出てきた敵機と戦闘を行なっていた。最初の飛行機と合わせて一対二という状況だが何のことはない。隊長が乗っている機体はニューイーグルという対飛行機戦に特化した戦闘機なのだ。最初の一機が葉っぱのように落ちていくと、すぐにもう一機の後ろを取ろうと隊長が愛機を反転させる。
ニューイーグルとはイーグルのエンジンを最新のものに換装した改良機であり、機首に7.7mm機銃を装備した対飛行機戦を行なう戦闘機だ。一方、俺とルノカが乗っているのはファルコンという対艦戦闘のために翼内に12.7mm機銃を装備した機であり、多少無理をして重武装化しているため速度と旋回性能がニューイーグルよりも劣る。
このようになったのは飛行艦の防弾化が進んだことにある。従来であれば7.7mm機銃でも簡単に飛行艦を落とすことが出来たのだが、今では相当近距離まで近づかなければ7.7mm機銃では貫通できず、今の12.7mm機銃を搭載することになったのだ。そんなこともありルノカは飛行母艦へ俺は遅れて飛行戦艦へ銃撃を加えると、12.7㎜機銃の銃弾は簡単に敵艦へ吸い込まれていく。
ババーン!
気嚢の中へ入り込んだ銃弾はどこかの骨組みにぶつかると火花を出し、それが水素に引火して大爆発を起こした。飛行戦艦も飛行母艦も一気にはじけ飛んで木っ端みじんになり、艦体の破片をまき散らしながらゆっくりと地上へと墜ちていく。