<発艦>
「三時方向に未確認の飛行機!各自戦闘配置、飛行機発艦せよ!」
飛行母艦では警報とともに飛行兵たちに発艦が命じられる。未確認の飛行機といっても飛行機を使っているのは軍だけであり、この空域にいるのは共和国の以外ありえないのだ。
「おい、ファルコ!ルノカ!」
「はい!」
「訓練通りお前はルノカの一緒に敵艦を探して攻めろ、チャックを防空にして俺が敵機に対応する」
「「了解!」
俺にとってそれは初めての実戦だった。空軍に入隊して哨戒艦隊の飛行隊となって一年ではあるが、この広い大空では敵と会うことすら難しかったのだ。俺が意気込みながら飛行兵詰め所を出ると、隣にある格納庫では整備兵たちが艦底の扉を開けて発艦の準備をしているところだった。俺たち四人は艦内の寒さもあり、常に飛行服を着ているためいつでも飛行機に乗り込む準備ができている。
しかし、今は待つことしかできない。飛行母艦には全部で四機の飛行機が格納されているのだが、飛行艦は大きさの割に自由になるスペースは狭く飛行機は棚のように二段になった格納庫に入れられているのだ。そのため、まずはクレーンで格納庫から出さなければ搭乗することが出来ないし、発着艦だって一機ずつしかできない。
「レイン隊長!乗ってください!」
整備兵の呼びかけを聞くと隊長は颯爽と愛機に乗り込む。エンジンがかかるとクレーンに吊るされた機体は外へ出ると同時にエンジンを大きく唸らせていく。そして揚力を得た機体が少し浮いたかと思うと、流れるようにワイヤーをフックから外して空へと旅立っていった。
毎度のことながら器用なものだと俺が感心しながら戦闘への意欲を高めていると、仲間であるチャックが声をかけてきた。
「いつも通り訓練通りやればいい・・・まあ、ルノカちゃんには訓練以上に頑張ってもらわないとな」
「なっ!女だからって甘く見ないでください!私だってやるときはや―――」
「チャック飛行兵!」
整備兵の呼びかけにこちらの反応を待たずに向かうチャック。不意打ち的に何かを言ってその反応を楽しむのはいつものことなのだが、実戦前でもいつもの訓練の時と変わらない様子を見せてくれる。ここだけ見れば本当にいつもの訓練と同じような感じだ。
「ああもう!ぎゃふんといわせてやるんだから」
そして、俺と同じで初めての実戦であり同期でもあるルノカはいつも通りチャックを逃がして地団太を踏んでいた。彼女は人一倍負けず嫌いな性分であるが、あと一歩、追撃で攻めきれないのが欠点で攻撃の手を緩めてしまうことがあるのだ。チャックもそこを分かった上で、どこまで言い返してくるのかというのを試しているのだろうが、ルノカ本人はまだそのことに気が付いていない。
「敵の飛行艦見つけたら私が先に仕掛けますからね」
ルノカはそういうとこれでもかといわんばかりに俺よりも小さい体に息を吸い込み、ふんす、と大きく息を吐く。隊長が対飛行機戦に当たりチャックが防空に当たるので、敵の飛行艦には俺とルノカの二人が当たるのでルノカが俺に負けないようにと意気込むのも分からなくはない。
そして次に俺に呼び出しがかかった。いつもの訓練通りの手順で機体を発艦させると次に発艦するルノカとの合流のため飛行母艦の横で待機をする。




