に
私は公爵家の紋章が入った豪華な馬車に揺られ、窓の外をぼーっと眺めながら、先程の出来事を思い返していた。
「ディアナ、もうすぐ家に着く。家に着いたら身綺麗にして、それから家族を紹介するよ」
「はい、お父様」
満面の笑みを浮かべて嬉しそうに喜ぶ私を、お父様は満足そうに見ていた。
ゲーム内では天真爛漫で、いつも頭の中はお花畑なディアナ。
私もそれに習って、大袈裟に喜んで見れば、お父様の反応は上々。
チョロイなと思いつつも、油断は禁物。
記憶の中のガーヴィラ家は、ディアナにとってあまり居心地がいい場所ではない。
ガーヴィラ家の正妻レリアナと長男のルイスがいるからだ。
実母の事を思えば、レリアナはそんなに脅威ではない。
内心私を嫌っていても、お父様の目があるので、精々嫌みを言われるのとルイス贔屓な事ぐらいだ。
それぐらいなら、まだ我慢ができる。
問題は長男のルイス。
私が浮気相手の子供であり、庶民の血が流れているって事で公爵家に相応しくないと、彼も私を嫌っている。
そこまでは「器のちっせぇ男だな」ぐらいで済むんだけど、ゲーム内でのルイスは悪役令嬢側の人間。
ルイスは、王太子殿下の婚約者で私を虐める悪役令嬢 アイリス・ローレンティー侯爵令嬢に恋心を抱いている。
王太子殿下の婚約者に彼女が決まった時、彼は彼女の幸せを守ろうと誓った。
王太子殿下のルートに入ると、アイリスを悲しませる私が邪魔に思い、ルイスとアイリスは私に嫌がらせから始まり、最終的には私を殺そうと誘拐までする。
まぁ、殺されそうになった所で王太子殿下が助けに来てくれるので、死ぬ事はないけれど怖いもの怖い。
そうなると分かっていて、何も対策をしないなんてただの馬鹿でしょ。
回避するのは至極簡単で、王太子殿下のルートを選ばなければいい。
でも私は王妃になりたい。
自分の選択次第でこの国の女性の頂点になれると分かっているのに、それを選ばないわけないじゃない。
私の幸せは、きっとそこにあると思うから。
皆にかしずかれ、敬われて、贅沢三昧の日々。最高じゃない!
公爵家でも十分に贅沢はできるとは思うけど、それをレリアナが黙って見過ごすとは思えない。
私は好きな時に、誰の顔色もうかがう事なく自由にお金を使いたいのだ。
前世のまだ幸せだった頃のように……。
だから、王太子殿下ルートは避けては通れない道なのだ。
では、どうするのか……。
私の王妃計画の邪魔になる、アイリスとルイスをくっつければ皆幸せ、ハッピーエンド!
私って天才!!
名付けて「愛のキューピッド作戦」。
私のネーミングセンスもいけてるわ!
そうと決まったからには、アイリスと王太子殿下がどれ程親密なのか調査しなくっちゃ!
お父様にキラキラの瞳を向けて、探りをいれようとした時、丁度馬車が止まった。
「さぁ、ディアナ着いたよ。ここが今日から君の家だ」
タイミング悪いわね……まぁ、後で聞けばいいかと気持ちを切り替えて、窓の外に目を向けた。
目の前にはガーヴィラ公爵家の屋敷と思われる建物があるのだが、前世でも見たことのないような大きな屋敷だった。
前世ではそれなりに裕福な家庭だったため、家は大きい方だったが、ガーヴィラ公爵家の屋敷はその4倍ぐらい横に大きかった。
外観は西洋風で白い壁に、屋根は深みのある落ち着いたオレンジ色。
屋根の色がアクセントになって、可愛らしい雰囲気があった。
興味津々に馬車の窓から屋敷を見ている私がおかしかったのか、いつの間にか馬車から降りていたお父様はクスリと笑い、私の名前を呼んだ。
「ディアナ、そんな所で見るよりも、馬車から降りてから見てはどうだい?」
そう言って、お父様は私に手を差し出した。
私は呆けている姿を見られていたのがなんだか恥ずかしくて、かーっと赤くなった顔を隠すようにうつむき、お父様の手に捕まって足早に馬車を降りた。
そっと顔をあげると眼前には大きな噴水と、それを囲むように綺麗に整えられた庭木があった。
後ろを振り返れば、可愛らしい大きな屋敷。
転生しているのに、なんだか私はテーマパークに遊びに来ているような気分になった。
私はチラリとお父様を盗み見て、改めて貴族って凄いなって思った。
公爵家でこれなら、王族はもっと凄いのだろうか?
私はまだ見ぬ王宮に思いを馳せながら、お父様に手を引かれ、屋敷に足を踏み入れた。