最終話 世界を壊したい少女
いよいよ最終回です!
最近、同じ日々を繰り返しているような気がする。それが私、加藤瑠奈。高校2年生の心境だ。と、言っても毎日毎日同じというわけではなく、ある時ふと、こんなこと前にもあったような…と思うだけ。正直言って確信は無いし、証拠も無い。ただ、1つ言えるのはなんとなく見たことある光景が繰り返され、次第にそれが鮮明になっているように思えるってこと。
例えば、授業中に次クラスの誰が当てられ、どう答えるか。最近はよくわかる気がする。授業の内容もなんとなく聞いたようなものばかり。私は塾とかに行ってないし、クラスにたまにいる頭がずば抜けた人たちと仲が良いわけでもない。ましては予習なんてことは天地がひっくり返ってもあり得ない。
そんなこんなで今日も私は前に聞いたような気がする授業を何度も書いているような気がするノートに書き留めつつ、外を眺めていた。そとでは、蝉がうるさく鳴いている。すっかり夏だなーと思いつつ、授業に耳を傾ける。私の記憶というか…経験?が正しければそろそろ私が指されるはず。数学…正直言って苦手だけど、答えもなんとなく覚えてる。
「では、この問題は…加藤。前に出て解いてくれ」
予想通り。私はゆっくり立ち上がり、スカートの皺を軽く伸ばす。以前、変な座り方だったのか、スカートが捲れたまま歩いている娘がいて、男子がその姿を凝視していたのを覚えている。ちなみにその娘はスパッツ着用済みだったので本人はそこまで気にしてなかったらしい。私も普段はスパッツ着用だが、最近は暑くて蒸れるので穿かないことが多い。だからこそ特に注意する。好きでもない人に見られるのは嫌だからね。私はいたって普通の女子高生だから。少なくとも見られて興奮するような変態じゃあない。
とりあえず、記憶に従い黒板に計算過程を書いていく。計算のやり方は全く覚えていないが、文字列としてなんとなく覚えているから、とりあえず正解はできる。もちろん、こんなやり方だとテストではうまくいかない。それは知っている。でも、できないんだから仕方ない。
席に戻って外を見る。通っている高校は都立だけど、一応プールがある。ただ、職員室とかがある棟の近くで屋根の上。いわゆる屋上にあるから、男女別でもたまに男子が見ていることがある。というか、よく見てる。まあ、女子もイケメンだったり、締まっている男子がいれば見るからお互い様なのかもしれない。
授業が終わり、昼休み。私は親友の大森美紅と一緒に屋上で昼食を食べる。学校にしては珍しく昼休みの昼食限定だけど、屋上が解放される。
美紅は長めの髪をツインテールにしている、なんとなくほんわかしている系の女子だ。男子からの人気はまあまああるが、女子からはあざといだの言われていてあまりに人気はない。まあ、私はあまり気にしてないし、なんだかんだで小学校からの付き合いなのでもう美紅の性格には慣れている。
だいたい、美紅の話はアイドルやらドラマに出ているイケメン俳優の事とか、そういうことが多い。いやいやJKなんだし、恋バナとかないのかよと思うが、美紅はそういうのには興味は無いらしい。私は、人並みに興味はあるが、縁というか、運が無い。不公平だよな…人生って。人によってはイージーモードだと思ったらハードモードやエキスパートモードみたいな人もいる。私の人生はハードモードかベリーハードモードぐらいだと思ってる。美紅はよくわからない。
「そういえばさ、瑠奈って願いを叶えてくれる不思議な像の話って知ってる?」
「願いを叶えてくれる像?知らない」
唐突に今まで聞いたことのない話題が出てきた。美紅は続ける。
「あたしも詳しくは知らないというよりもー、ネットで見た情報なんだけどねー。都内の〇区にある大きな公園の自然保護区画に洞窟があって、その中にあるらしいんだよねー」
「ふーん」
正直言ってそこまで興味がない。と、いうかそういうのは大抵ガセネタだから、基本信じないようにしている。
「瑠奈ってそーゆーの信じないタイプだもんねー。でもでも、そのサイトによると像によって大金持ちになった人とかいるらしいよ!あとは、最近急に売れて事件があったアイドルグループ…えーっと何だっけ?」
「私が知るわけないでしょ。アイドルグループで殺人事件があったってことも初耳だし」
「そーいえばそーだね。瑠奈ってテレビも見ないし、ネットもあまりやらないし。帰ってから家で何してるの?」
「何も」
「うわー勿体ない!勿体ないよー。人生損してる」
「そこまで言われたくない」
「そう?まあ瑠奈のことだからあたしは心配してないよー。ところでさ、〇区って瑠奈が住んでいるところだよね?例の公園、瑠奈の家から近かったりするの?」
「私が思っており場所と同じだったら結構近いね。自転車で10分ぐらいかな?でも、その自然保護区画ってのは知らないから多分違うんじゃない?まあ、近いところは知ってるけど」
「だったらさー、今日の放課後に行ってみたらー?どうせ暇なんでしょ?」
「別に構わないけど、私願いたいことなんて無いよ」
「ほんとにぃ?まあ、試しだから。もしも本当にあったら明日、あたしに教えてね!」
とまあ、こんな感じで私は今日の放課後に願いを叶えてくれる像を探すことになった。
その日の放課後、私は像があるかもしれない洞窟の前に来ていた。
「予想通り。というか、考えた場所がドンピシャなんて。まあ、入ってみるか…」
私は、ゆっくりと洞窟の中に入っていった。洞窟は思ったよりも狭く、入ってすぐに大きな像があった。
「像は、実際にあったんだ…」
「我は汝の願いを叶える者。汝の願いは何だ?」
どこからともなく低い声が聞こえる。これが、美紅の言っていた像で間違いないみたい。そのとき、私は何を思ったのかたまに思うことを口走っていた。
「私は、この変化の無い世界が嫌い。この世界を消して」
「承知した」
像がゆっくりと動き出し、拳を左右に突き出した。その拳が当たった空間にひびが入り、それがどんどんと広がり、そしてガラスが砕け散るかの如く、色が景色が全てが砕け、闇とそこに佇む私だけが残されていた。
そんな闇の中をただただ漂っていた私は、気が付いたら寒さに震え、涙が知らない間に流れていた。
「これが、汝の真の願いか?」
像の声がどこからか聞こえてくる。私は
「違う。私は今の変化がない、ただただ同じ日々繰り返しているのに飽きただけなの。それを打開したくて。決して死にたいわけじゃないの…お願い。この状況を打開して」
「それが汝の真の願いなら、それを叶えよう」
空間が元に戻る。前には像が立っていた。
「どうやら、汝には乗り越えなければならない壁があるようだ。それを越えなければ再び同じ時の螺旋に飲み込まれよう。今回は我が何を時の螺旋から解放した。しかし、次は無いと思え」
像は、それきり動かなくなった。
私は、その洞窟を後にし、家へと帰った。乗り越えなければならない壁。それについて考えながら。私が私の記憶を封印してしまっている何か。それをぼんやりと思い出しながら。
翌日は特に変わり映えのない日だったが、一つだけ違うことがあった。というより、唐突に思い出したといった方が正確かもしれない。1週間ぐらい前。普段はアイドルとかの話しかしない美紅から相談された。それはクラスのある男子への恋心。わたしはできる限りのアドバイスをしたはず。美紅はそれを真剣に聞いていたような気がする。そして、その相手から私宛に届いた手紙。下駄箱の中に入れられていた白い封筒と便箋。
そこには、私への想いが綴られていた。私は彼の想いに対して応えなかった。美紅の為を思って。美紅はそのことを知らずに彼へ想いを伝えた。彼女なりの誠意を込めて。でも、それは私が彼にしたように彼に届くことはなった。そして、美紅は…美紅は…?たぶん、ここが私の乗り越えないといけない壁。だけど、それが思いだせない。そうこうしているうちに1週間が過ぎたある日。美紅から恋愛相談を受けた。
全て、私が思いだした内容と一致していた。つまり、もうすぐ壁が来る。だからこそ、私は記憶していることと違う行動を取ってみた。つまり、美紅に彼の私に対する想いを伝えた。そして、私自身はそれに応えるつもりがないことも。
「でも、瑠奈。それだと、あたしの勝率はかなり低いよね…だって、彼は瑠奈のことが…あたしじゃなくて…」
「そうなるね。でも、私は答えるつもりはない。でも今はそれを伝える時ではないと思ってる」
「でも、それだと余計に…返事が…来てないから…答えにくいんじゃないかな?」
「それはあるかもしれないね。だけど、人ってのは否定された直後に肯定されてもそれは同情のようにとらえてしまうことが多い。でも、先に肯定されていればそれは支えになるし、否定された後の道しるべにもなるって私は思うんだ。だから、私は美紅の後にきちんと伝えるつもり。だからさ…美紅は胸を張って全力でぶつかっておいで。私はここで、この屋上で美紅を待ってるから。どんな結果であれ…ね」
「うん…ありがと」
美紅はゆっくりと歩きだした。この先に待ち受けるであろう運命に向かって。
美紅は失恋した。その後私は彼に伝えるべきことを伝えた。結局誰も幸せにはならなかったけど不幸にもならなかったと思う。美紅は1時間ほど泣いた後、帰路についた。家まで送ろうかと私は言ったが、行くとこがあるからと断られてしまった。美紅がどこに行ったかは翌日に判明した。
美紅はトレードマークであるツインテールを切った。失恋で髪を切るって昭和の女子か!と私は全力でツッコミを入れたけど、美紅にとってはこれがケジメだったみたい。それからは毎日楽しく暮らしている。少し、クラスの男子との間空気が悪くなったような気がするけど、まあ、気にすることは無い。だって、私たちは生きているんだから。
それから少しして、私は例の洞窟に来ていた。一応、像にうまくいったことの報告をしに。まあ、聞こえているかはわからないけど一応と思っていたからだ。洞窟に入ると像の前に見知らぬ男性が立っていた。背中には白い羽…まさか天使?
「まさか、世界を壊したがる人間がいるとは驚きだ。しかし、蓋を開けてみたら自身の力によって時の螺旋に閉じこもっていただけとは。お前の力なら無理矢理にでも螺旋から出せたろうに、なぜ、アドナイスで止めたんだ?」
「あの娘には自力で何とかしたほうが良いと我が判断したからだ。それだけのこと」
「そうか…まあ良い。これでお前に課せられた100の願いはすべて叶えたことになる。ご苦労とだけ言っておこう。これでお前の魂も再び輪廻転生の輪に戻ることができる。もちろん、相応のペナルティとして人以外に転生となるだろうが…2度とここには戻ってくるなと言いたいが、再び人間になる時には忘れているだろうな…。そのとき、もしもまた罪を犯したなら再び会おう。さらばだ」
像がゆっくりと消えていく。そして、謎の男もゆっくりと消えていった。
気が付くと私は自然保護区の前に立っていた。その後その洞窟は何度探しても見つからなかった。
あれは、なんだったのか、今の私にはわからない。ただ1つ言えるのは、あの像のおかげで私は…私たちは前に進むことができた。それだけは紛れもない事実。
これから先、何があるかわからないけど精一杯生きていこうと思う。
短い小説でしたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
最終話は高校時代に書いた小説を記憶を頼りにリメイクしました。確実に当時よりは長くなっていますが、人物名はほぼ一緒です。美紅は当初は大森加奈という名前でしたが、双子っぽくなってしまうため、急遽変更しました。
次回はホラー系かオリジナルのバトル系のどちらかを予定しています。どちらも案ある程度はまとまっているので近いうちに投稿できると思います。
それではまたお会いしましょう!