その1 出世したい男
初めまして。碇亜琥翹と申します。
小説は読むのも書くのも好きだったというのもあり、投稿してみました。
高校時代の部活で書いた小説をリメイクしてみました。サイトでの名前は当時と同じですので、高校時代を知っている方が見たらバレます。
いないと信じてますけどね。
できる限り、毎日投稿していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
今、男の前に奇妙な像が立っている。人とも岩とも形容しがたい異様な姿、敢えて例えるならファンタジーの世界に登場するゴーレムと言ったところであろう。
「我は、汝の願いを叶える者。汝の願いはなんだ?」
どこからともなく低く暗い声が聞こえる。その声に男はゆっくりと口を開いた。
急速なインターネットの発展による超情報化社会となった今、少し検索すれば真偽入り混じったあらゆる情報を容易に収集できる。そんな中、とある公園の中の保護区となっている屋敷跡、その中にある洞窟に何でも願いを叶えてくれる謎の像があるという情報が小さく話題となっていた。もちろん、多くの人はその情報を虚偽と物として見ていた。それが当たり雨であり、情報リテラシーの観点から見ても至極まっとうな反応だろう。しかしある男、吉沢満彦は違っていた。
「何でも願いを叶えてくれる謎の像か…ここから近いし今度の休みに行ってみるか」
そして次の日曜日、満彦は自転車に乗り、件の公園へと赴き、屋敷跡の保護区へと入った。
「保護区の真ん中付近にある井戸、そこから北東の方向へ向かうと洞窟があってそこに像があるのか」
井戸にたどり着いたところでスマートフォンのコンパスを見る。北東の方向には草しか無かった。
「道なんてないな…やっぱりガセネタだったか」
満彦が帰ろうかと思ったとき背中を押すかのように風が吹いた。
「風…?道は無さそうだけど、行ってみるか。よく見ると草が周りに比べて若干短い気がするし」
満彦は草がわずかに短い場所を探りつつ歩きだした。5分ほど歩くと洞窟らしき洞穴が目の前に現れた。
「ここが噂の洞窟?思ってたよりも入口は狭いな」
洞窟の中に入るとドーム状の天井のある広めの場所に出た。その場所の中央に謎の像が立っていた。満彦はゆっくりと像に近づいた。今、満彦の前に奇妙な像が立っている。人とも岩とも形容しがたい異様な姿、敢えて例えるならファンタジーの世界に登場するゴーレムと言ったところであろう。
「我は、汝の願いを叶える者。汝の願いはなんだ?」
どこからともなく低く暗い声が聞こえる。その声に満彦はゆっくりと口を開いた。
「願い…今の会社で出世したい…かな。できるのか?」
「可能だ。しかし今すぐというわけにはいかん。少しの間待ってもらう」
その言葉とともに像がわずかに動いたように見えた。しかし、満彦はそれには気が付かなかった。
翌日、会社へと出勤した満彦は会社の様子が普段と違うことに違和感を覚えていた。普段よりも人の往来が激しく、また慌てているように見えた。隣の席の同僚に聞いたところ、上層部が主体となった大きな捏造が発覚したらしいとのことだった。その対応追われているため多くの人が忙しなく動き回っているという。それからしばらくの間満彦を含めた全社員は対応に追われていった。
事件の発覚から数か月が経過し、芸能人のスキャンダルや引退報道の中に事件が埋もれていった頃、上層部の面々が自己都合退職という名の処分を受けた後、新たな人事異動が発表され、満彦は平社員から課長まで昇進した。
「確かに出世はできたけど…この会社大丈夫何だろうか…?」
と満彦は呟くのであった。
その頃、謎の像のある洞窟に1人の男がやってきた。
「出世をしたいという願いに対して、会社の不正を暴き、上層部を失墜させたうえでそのポストに入れる…か。不正を無くすという観点から見れば良いことだが、自己都合退職させられた人たちとその家族は路頭に迷うことになってしまったな。その点については感心できん…まあ良い。所詮人間がどうなろうと私には関係のないことだ。それに契約は契約だ。これで残りの願いは98だ。100人の願いを叶えたとき、お前を自由にしてやるといった私とお前の間で結ばれた契約。せいぜい頑張るといい」
謎の男は像の前から突然消えた。後には像だけが残されていた。
ここまで、読んで頂き、ありがとうございました。
像の願いが残り98となっているのは、ネットに情報を流した人が最初の願いを叶えてもらった人であるためです。
なぜ願いを叶える像があるのか、そして最後出てきた謎の男については徐々に明らかにしていこうと思いますので、気長に待っていてください。
ではでは、また次回お会いいたしましょう。
残り98の願いとともに。