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 確かに、それを聞かされれば、俺とハルマに責任の一端があることは否めない、とも思うのだが。

 ショータも後から知らされたという、カノジョが『どうしても』その日に会いたかった理由、というのが……なんだっけか、そのカノジョの誕生日だったか、二人の何らかの記念日とやらだったか、興味も無いからもはやロクすっぽ憶えてもいないが、とにかくそういう、カノジョにとっての“二人で一緒に過ごさなければならない大事な日”、だったみたいで。

 そんなもの、オマエがきちっと把握してないのが悪いんじゃねーか! そもそも、途中で抜けるって事前に誰かに言っとけばよかっただけの話だろーが! と、あくまでもショータに全面的に非があることも主張したいところではあるのだが。

「ホント、面倒だよなあ……」

 ツマミをつつきながらタメ息まじりに相槌を返す、このミョーに情に篤いハルマが己の責任のように受け止め過ぎてしまっている風にも見受けられるので、それがまた厄介で。

 こういうハルマを迂闊にも放っておいたら最後、結局は俺まで巻き添えを食らうハメとなることは、もはや目に見えているのである。

「おい……幾らショータの頼みだからって、あんまし首つっこみ過ぎんなよ?」

「そこまで深入りするつもりはないけど……でも、可哀相じゃん。そのカノジョって、ショータが結婚まで考えてた相手だったんだろ? こうなった原因はオレたちの所為でもあるんだし、何か出来ることがあるなら、少しでも助けになってあげたいじゃん」

「周りが何をどうしようと、つまるところは当人同士の問題だ。それに、男女のイザコザに割って入ってやったところで、こっちにいいことなんてカケラも無い。だいたい、騒ぐだけ騒いだら、落ち着くところに落ち着くように出来てるんだ、こういうのは。まさに〈大山鳴動して鼠一匹〉ってなもんだ。割に合わないにもホドがある」

「うん……まあ、そうだろうけど」

「何かしてやるにしても、仲直りのキッカケ作り、程度のところまでにしておけよ。それから先は、ショータが自力で何とかすることだ。他人が手出しすべき領分じゃない。話が余計に拗れるだけだ」

「わかってる、でも……」

「確かに、あのショータじゃ自力で何とかできなさそう、てーのも分かりきっていることだが、だとしても放っておけ。そもそも、この程度で終わっちまうような仲なら、仮に今回のことが無かったとして、そう長くは()たなかっただろうさ。なら、ここで後腐れなくスッパリ終わらせてやる方が親切ってもんだろ」

「…相変わらずドライなことで」

「こういうことは、少し冷めてるくらいで丁度いいんだよ。何も一緒に泣いて悩んでやるだけが友情じゃねえ」

「…その本心(ココロ)は?」

「これ以上の面倒事はゴメンだ」

「…だと思った」

 呆れたように言ったハルマが、ツマミのナッツを一つ、指で弾いて飛ばしてくる。俺の眉間めがけて。

「相変わらず、己の面倒事を回避するための正論ぶつことにだけは、よく口が回りますねーコーチはー」

「コウイチロウだ。略すな、人の名前を」

「不服なら『チロウ』で略すけど、どっちがいい?」

「だから略すなと……」

「そうかそうか、人前で、でっかい声で、『そこのチロウくーん!』とか、呼ばれたいんだな君は?」

「…『コーチ』でいいです」

「まあ、そんなつまんないことよりさ。オレ今ふっと思い出したんだけど……」

 あろうことか人の名前の問題を『つまんない』のヒトコトで片付けやがってくれたハルマが、そこで傍らの卓袱台に片肘を突き俺の方へと軽く身を乗り出してきた。

「『夏の夜の夢』って、あるじゃん」

「あ? ――あー……確か『平家物語』」

「それは『春の夜の夢』だろ。『おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし』、儚いものの例えだ。――じゃなくて、オレが言ってるのは『夏の夜の夢』だよ、シェイクスピアの戯曲の方」

「ああ……それな」

「絶対わかってないだろ、その反応は」

「うっすら『ガラかめ』で読んだような記憶があったりなかったり……? 確か主人公が演じた妖精がハマリまくってて、『なんて怖ろしいヤツだ…!』みたいに思われたりなんだり……?」

「記憶のもとが少女マンガかよ。しかもウロ覚えとか。…でも、まあ、それだな。その妖精パックが、物語の中心にいるトリックスターだな」

 そこで一口ビールを飲んで口を湿らせてから、ハルマは続ける。

「簡単に言うと、妖精王と妖精女王の夫婦ゲンカに巻き込まれた人間たちが関係性めちゃくちゃにされてわっちゃわちゃ騒いでるだけの喜劇、なんだけどさ。でも結末は、めちゃくちゃになったものが上手い具合に纏まって大団円で終わるんだよ。オマエが言った、『騒ぐだけ騒いだら、落ち着くところに落ち着くように出来てる』っていう、まさにそのままだなーって。それでフと思い出した」

「ふうん……じゃ、やっぱり色恋の話なのか?」

「ま、そうだな。その、わっちゃわちゃしてる人間の中に四人の若者がいてさ。恋人同士のライサンダーとハーミア、そして、親に決められたハーミアの婚約者ディミートリアス、そのディミートリアスに恋するヘレナ。この四人の関係が、妖精パックの悪戯で惚れ薬を()られたことによって、ライサンダーとディミートリアスがヘレナに惚れてしまうことになるんだ。その後、すったもんだの挙句、終いには、ライサンダーとハーミア、ディミートリアスとヘレナ、という二組のカップルが出来上がって、めでたしめでたし、なオチで終わる」

「成程ね……上手いこと出来てる」

「いつの時代も、男女のイザコザは話の種となる、ってことは変わらないらしい」

「違いない」

 そこで顔を見合わせ、ひととき笑い合っていたが。

 しかし、おもむろにハルマが、笑みを消して真顔になった。

「ひょっとしたら……これ、使えないかな?」

「え……?」

「ショータとカノジョの仲直りのキッカケに、だよ」

「はア?」


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