〜前兆〜
鐘雲と紀は普段は仲が良いのですが…紀はすぐに笑ってしまうので、少し喧嘩が絶えません。
これから起きる災厄とは…?
第3話「〜前兆〜」
いきなり紀が自分の前に迫ってきたので、鐘雲は少し後ろに引いてしまった。
紀「あれ…何で逃げるのさ」
鐘雲「すみません…つい」
と鐘雲は両手を自分の前に出し、紀をこれ以上近づけさせないようにした。そして鐘雲は申し訳なさそうに謝る(あやまる)と続けた。
鐘雲「さっき言ってた移動手段の件とは?」
鐘雲に静かに拒絶された紀は鐘雲からすっと離れ本来の目的を話し始めた。
紀「あーそうだった!えーっとね…是非とも僕の式である!鐘雲の背に僕を乗せて貰おうと思ってね!」
と紀は満面の笑みで鐘雲に言った
鐘雲「え…?私の背にですか?そりゃあ私は妖狐ですから空ぐらいは飛べますけど…その…」
鐘雲は紀の言葉を聞くと少し戸惑い(とまどい)ながらもごもご何かを呟いていた。それを見た紀は
紀「ん?何か乗せられない事情でもあった?」
紀は少し意地悪な笑みを浮かべ、質問を鐘雲に投げかけてみた
鐘雲「!?…それは…」
暫く鐘雲は黙っていたが、紀にはこの手は通用しないと分かったのか、ため息をついて話し始めた
鐘雲「はぁ…私は背に乗られのが嫌なのではなく…乗っている時、背中の毛が毟られる(むしられる)のが1番嫌なんですよ…前に小物を背に乗せたら見事に毟られ(むしられ)まして…それから嫌になったんです!」
鐘雲は少し不機嫌そうに話した…それを聞いた紀は顔を手で覆い(おおい)小刻みに震えてた
鐘雲「主様…?どうされたんですか?」
と心配する鐘雲をよそに紀は笑い転げ始めた
紀「ふふふ…あっはははははっ!くっ…僕と会う 前に…そんな事があったん…だ…ふふふ」
自分の嫌な事を主にここまで笑われるとは思ってもいなかった鐘雲は紀を睨み(にらみ)つけた
鐘雲「主様…酷くないですか!?主様なら笑わないと思っていたのに!!」
そう主に訴えている鐘雲の可愛らしい耳がペタンと後ろに倒れてしまった…そしてフサフサの尻尾もさっきまでは上がっていたものの今はもう下に下がっている。
紀「ふふふ…ごめんごめん…笑い過ぎたね」
と優しい声で鐘雲を宥めるとそっと頭に手を置いてゆっくりと撫で始めた。撫でられたのが気持ちいいのか自然と鐘雲の目が細まる
紀「ごめんね?意地悪な事して、でもね僕は君の主だよ?君が嫌がる事は絶対にしないよ」
紀は撫でるのを辞めると、真剣な表情で鐘雲に言った。
鐘雲「主様…分かりました…主様の頼みとあれば私が主様を東の村までお連れ致します。」
紀の真剣な眼差し(まなざし)に負けたのか、鐘雲はそう言った。
紀「本当!?ありがとう!鐘雲!さすが僕の式だね!!頼りになるね〜」
紀は鐘雲の手を握り(にぎり)喜んでいた…しかしこの後起こる災厄の事は誰も知る由もなかった
紀「じゃあ明日の朝一にここを立とう…それでいいね?鐘雲」
鐘雲「はい!承知しました」
〜次の朝〜
紀「では!いざ!東の村へ!!」
と紀は高らかに声をあげた
鐘雲「御意」
鐘雲がそう言うと「どろんっ!」という音がしたかと思うと鐘雲の周りに煙が出始めた、するとみるみる鐘雲が大きく美しい狐の姿に変わったその姿はまさしく大妖怪九尾の妖狐の名に相応しい(ふさわしい)姿だった。
紀「じゃあ…失礼して…よっと」
すると紀は軽やかな足取りで鐘雲の背に(せに)股がった(またがった)
鐘雲「本当に本当に!毛だけは毟らない(むしらない)で下さいね!」
これでもかと鐘雲は紀に口を酸っぱくして言う。
紀「分かってるよ!大丈夫!」
と親指を立て「ぐっ!」と言うと笑っていた。
紀「あ…そうだ…この姿のまま空を飛ぶと怪しまれちゃうから目眩しをかけておこうか。」
そう言うと紀は袖口から1枚の小さな紙を取り出した。その紙は人の形をしている、この紙は呪紙といい、この紙に術者の妖力を流し込み呪を唱えれば式と同じ役割をさせる事が出来るのだ。それ故に式を一体しか使役していないもしくは式を使役していない祓い屋からは重宝されている代物だ
紀「我が言霊を聞き届けし物よ…現し世の者に我々の姿を眩ませよ(くらませ)…」
と静かに唱えると(となえる)呪紙は浮かび上がると光を放ちそのまま中へと消えた…すると紀と鐘雲の周りに見えない結界が張られた。
紀「よし!これで大丈夫だね!じゃあ行ってくるね!東雲!」
そう紀が1人の女性に言った。
鐘雲「はい!では参りましょう!それでは行って参ります!東雲さん!」
彼女は言葉を発することは無く、静かに手を振っていた
その様子を見届けた鐘雲は紀を背負った(せおった)ままそう言うと「たっ!」と地面を強く蹴る(ける)と東の空へと消えていった。
その様子を静かに見つめる者の姿があった…彼女は東雲その姿は容姿端麗な美しい女性だ、長髪でいつも髪を後ろで結っている。
髪の色は純白の白、眼の色は深い翡翠色、いつも美しい満開の藤が描かれた着物を着ている…清楚な式だ、東雲は巽家に代々仕える古株の式だ。
東雲は攻撃に特化した式ではなく、家の家事や洗濯、炊事などを主にやっているのだ。いわばお手伝いさん的な式なのだ。
今回も読んで頂きありがとうございました!楽しい作品にしていきたいと思いますのでよろしくお願いしますm(_ _)m