〜妖狐と弟子〜
これは人の愚かさが生んだ1つの悲劇…妖と祓い屋相見える関係…今此処に紡がれる…
第1話「〜妖狐と弟子〜」
珠鈴「ここが例の場所か…師匠一体何処に行かれたのですか…?」
彼は珠鈴、巽 紀という祓い屋の弟子…巽家とは古くから栄え(さかえ)る祓い屋の名家だ…
何故彼がここに居るのか…それは1か月前に彼の師匠、紀が忽然と姿を消したのだ…何故姿を消したのかその理由を探るべく彼は師匠が残した1つの文に書かれた場所へと足を運んだのだ
珠鈴「ここに一体何があるというのだろうか…ただただ広い草原が広がっているだけ…っ!あれは…!」
珠鈴が目にしたのは無残にも破壊された村だった…少し進むと鋭い噛み傷や引っかき傷を負った村人の亡骸が無数に転がっていた…
珠鈴「酷い…この有様は何だ…?これは獣の噛み傷と引っかき傷?一体どんな獣が…?」
暫く村の中を歩いていると開けた場所に出た…すると何処からともなく声がした…低い声が辺りに轟い(とどろい)た
???「何だ?まだ人の子が残っていたか…案ずるな…すぐに楽にしてやる」
そこに居たのは金色がかった毛並みをした大きな九尾の妖狐だった。眼の色は鮮やかな碧、首には白と赤のしめ縄、それと少し大きい鈴らしき物も付いていた。
すると妖狐はニヤリと不敵な笑みを浮かべるとゆっくりと珠鈴に近づいて行った
珠鈴「っ!九尾の妖狐!?何故こんな所に!?」
驚いた珠鈴は妖狐と距離を置く為に後ろに下がった。
九尾の妖狐は狐の妖の中でも折り紙付き(おりがみつき)の強さを誇る(ほこる)妖だ…到底珠鈴のような見習いの祓い屋では適う(かなう)相手ではない
珠鈴「ここは一旦態勢を整えるために引くか…」
と珠鈴が心の中で考えていると
???「この我が貴様を逃がすとでも思っているのか?小僧」
珠鈴「っ!私の心が読まれている…!?」
妖狐は相手の心を読むことに長けている即ち(すなわち)妖狐の前では考えている事今から行動しようとしている事は全て筒抜け(つつぬけ)だ
珠鈴「闘うしかないのか…だが…こいつにそんな隙があるとも思えない…っ!そうか!」
珠鈴が考えた事はこの妖狐にどうにか隙を作りその一瞬を狙い印を結ぶという事だった…だがこの考えも当然妖狐にも筒抜けだ
???「ほう…我に隙が出来た一瞬を狙い印を結ぶ…中々面白い考えをするな小僧…ふふ…」
と妖狐が言った途端姿が忽然と消えた
珠鈴「っ!?一体何処に?あの一瞬で消えるなんて…」
珠鈴が辺りを見回していると…すぐ後ろで声がした…
???「小僧…何処を見ている?」
珠鈴「っ!いつ間に!?」
驚いている珠鈴を他所に妖狐は九つ(ここのつ)の尻尾をなびかせ、そして思い切り尻尾で殴り付けた。
珠鈴「ぐっ!がはっ…」
珠鈴は強力な一撃を喰らった衝撃で殴り飛ばされた、そして近くにあった大木に思い切り叩き付けられてしまった。その衝撃で珠鈴はまともには立っていられなくなってしまった。
珠鈴「くっ…がはっ…はぁはぁ…こんな時…師匠…紀さんだったらどうする?」
よろめきつつ立ち上がった…そして小さな声で珠鈴が呟いたすると…
???「っ!紀…だと!?」
その言葉を聞いた途端一気に妖狐の様子が変わった…それを好機とみた珠鈴は力を振り絞り(ふりしぼり)人差し指と中指を立て印を結んだ(むすんだ)
珠鈴「我が言霊を聞き届けし物よ!我に仇なす(あだなす)愚かなるものを束縛せよ!縛訃!」
すると妖狐の真下に陣が浮かび上がったと思うと陣が1本の帯となり妖狐の体に巻き付いた
???「ぐっ!何たる失態…この我がこんな小僧に遅れを取るとは…っ!」
妖狐は見習いの祓い屋に動きを封じられ不服の表情を浮かべていた
珠鈴「妖狐1つ聞きたい事がある…何故お前は私の師匠の名を聞いて動揺した?」
???「………」
妖狐は何も答えようとはしない
珠鈴「答えろと言っている!」
珠鈴が声を荒らげると…妖狐は耳を少し動かし…静かに語った
???「我は…あの方の…紀様の式だ」