1-6 街で出会ったのは・・・?
翌日、シャイルとスコティーは必要な物の買出しをするために、学園がある南地区の商店街へと繰り出していた。
最初はシャイル1人で行こうとしていたのだが、スコティーも買う物があるからと言うので、それならばと2人で出かけている。
買う物は部屋着や普段着・下着などの衣料品や、タオル・歯ブラシなどの日用品がメイン。
他にも、ぶらぶらしながら欲しい物を見つけたら買っていく予定である。
シャイルは旅をするにもお金が無いと生活が出来ないので、この街に来るまでに様々な事でお金を稼いできた。
そのため、普段生活するには全く困らない程度にはお金を持っている。
スコティーも仕送りと、少しだけ自分で稼いだお金があり、無駄遣いしなければ生活できる程度には持っている。
生活とは言ったが自分の力でと言う意味であり、二人は寮生活となるので実際にはそんなにお金は必要ない。
そして買った物に関しては、シャイルはマジックポーチを持っているので荷物は困らない。
ただ、シャイルの魔力量が少ない為、容量自体はそんなに大きくはない。
スコティーもマジックポーチを持っているのだが、シャイルとは逆に入れ口を通せる大きさはそれほどでもなく、魔力量はシャイルより多いので入る容量が大きい。
二人はとりあえず、衣料品を見るために服屋へと足を運ぶ。
中に入り二人は、各々自分で好きな服を数着選び購入する。
その後も他の衣料店を回り先程買わなかった下着や、他にも気に入った服などがあれば購入していった。
その後、日用品を購入するために雑貨屋を回る。
シャイルはとりあえず必要な物だけ先に買ってから、ゆっくりと店内にある物を眺めていた。
置物やアンティークがあったりして面白いし欲しいと思うものがあったりするのだが、寮生活なので買っても無駄になるので、ただ眺めて楽しんでいる。
そうしている間にスコティーも買い物が終わったようで、品物を眺めているシャイルの元に向う。
二人は必要な物の買出しが終わったので、少し街を見て周る事にした。
シャイルは南地区と東地区はある程度見てきたので、西地区を周ることを提案する。
スコティーは特に何か見たいという物がなかったので、それを承諾し西地区へと向う。
西地区には鍛冶錬金学校があり、鍛冶師や錬金士・錬金術師を目指すものがこの学校に入る。
その学校があるせいなのか、鉱物や武具、魔法付加アクセサリーなどを扱っている店が多い。
特にこの時期の広場では、学生達が自分の学費や小遣い稼ぎを兼ねて、シートの上に自分達の作ったものを並べて売りに出すフリーマーケットの場となる。
ただ学生達にとってはお金目的以上に、自分の腕が通用するかどうかが試される場だと考えているため、自身が作れる最高の物を出す。
そこで売れるかどうか、要は一般的に受け入れられるかどうかで、今後自分の進むべき・目指すべき道を考える事が出来るからだ。
これは学園都市セントヘプタグラムが学生の意欲・技術の向上に繋がると考え容認している事でもある。
このフリーマーケットには特別な許可は必要なく、条件は学生もしくは今年度の入学生であれば誰でも参加できるので、予め学生である事を証明出来ればいいのである。
売る場所に関しても広場自体がかなり広い上、全員が毎日売りに来るわけでも無いので、取り合いをする必要はないのだが、たまに良い場所を取りたいと考える者達で諍いが起こる事もある。
ただ、揉め事を起こすと後々に響く事もあるため、それほど大事に発展する事はない。
シャイルとスコティーは店を周るより先に、広場を見てみようという事になった。
学生が出している品物とはいえ、将来はその道へ進もうとしているだけあって、本当に粗悪品であるというものはそんなにない。
ただ、やはり学生の作った品なので、一流の鍛冶師・錬金(術)士が手がける物には程遠い。
それでも、値段が安く掘り出し物があったりするので、見に来て買って行く人も結構いるのだ。
二人も武具やアクセサリーで、何かいい物がないかを順に見ていく。
試しに、シャイル達と同年代くらいの少年が打ったと思われる武器を手にとって見てみた。
訓練に使ったり対犯罪者程度であれば悪くはないのだが、魔物などと戦ったりするには些か物足りない。
他の人の品物を見てもほとんどが似たり寄ったりだ。
その中で、少し離れた場所にシートを広げて品物を並べている少年を見つけた。
少年の所にはあまり人はおらず、通りがかる人も手にする事無く素通りしている。
シャイルはその少年の出している品物が気になり、見に行ってみることにした。
その少年が出している品物はアクセサリーがメインだった。
シャイルはその内の一つである指輪を手にとって見る。
「――おお、これは!!」
その指輪を確認したシャイルは驚いた。
「どうかしたの?シャイル君」
その様子をみたスコティーが、首をかしげながら聞いてくる。
「あ、手にとって下さりありがとうございます。その指輪ですね?僕は錬金術師を目指して今年入学するのですが、恥ずかしながら魔法付加が苦手でして、僕が得意なのがその魔力除去なんです。といっても、自己流なのでまだまだですが・・・」
シャイルがスコティーに答えようとする前に、目の前の少年が自分の事も含めて説明してくれている。
「いや、魔力除去に90%近く成功しているのはすごい。しかもそれが自己流だと言うんだから、なおさらだな」
「そんなにすごい事なの?」
シャイルが褒めている中、よくわかっていないスコティーがシャイルに尋ねている。
「ああ、普通ならある程度の魔力除去が出来ても80%ちょっとがいい所だろうね」
「ふ~ん、そうなんだ?それが何か関係してくるの?」
シャイルの言っている事に、いまいち要領がつかめないスコティーはさらに尋ねた。
実際、装備品の製作に携わる事も無く興味も無い者では、スコティーと同じような反応をするだろう。
使用者が装備する物などは、既製の物を購入しその性能を理解し扱えるようになれば良いだけなのだから。
「全ての者に魔力があり、その魔力には必ず属性が存在する事はわかっているだろう?」
「うん、それはもちろん」
「物を・・特に装備品を作るというのは、作っている人の魔力が影響してくる。それは一生懸命作る過程で、自分の意識しないレベルで体に魔力を帯び流れこんでしまうからだよ。それはどのくらいかと言うと、作る物には魔法付加できる魔力量が決まっているんだけど、その内の50%近くにもなる。作る人によってはそれ以上の可能性もあるが・・・その状態で魔法付加した時どうなるかわかるかい?」
「え~と・・・」
「本当なら100%の魔法付加をしたいのに、50%はすでに無駄な魔力が滞在している。それを考えたら自ずとわかるだろう?」
「あっ、本来の半分の効果しか得られないという事だね?」
「そう。不純な魔力の滞在、それに対する魔法付加の割合、それが店で売っている装備品の魔法付加による効果の違いだ。さらに言えば、複数の魔法付加をしたいと考えた時、50%の魔力が入っている状態だと残りの50%の中でしなければならないため、その効果はさらに薄くなるんだよ」
「なるほど・・・」
「さらに付け加えると、例えば水属性を持っている者が作った装備品に火属性の魔法付加をつけようとすると、水属性の魔力のせいでさらに効果が半減する」
「相対も関係してくるという事だね?」
「ああ。それでも武具製作者の大半は魔法付加の事を考えず、品質がよければそれでいいと考えてそのまま売る者がほとんどなんだ。魔法付加の事を考えたり、自分の適性により彼のように魔力除去を行う者もいるけど、さっきも言ったようにある程度出来る人で80%ちょっと、熟練した者で90%以上、100%出来る者などはほんの一握り程度しかいないんだ」
「へえ~、そうなんだ」
「魔法付加も技術が必要で大変な事だけど、それ以上に魔法除去する事の方が圧倒的に難しいんだよ。なぜなら、少しでも間違うと逆に自分の魔力を流し込んでしまう可能性があり、かなりの集中力と繊細な作業が必要だからね」
「知らなかった・・・そんな事考えた事も無かったなぁ」
シャイルが目の前の彼の指輪がそれほど凄い事なのだと説明する事で、ようやくスコティーも納得し驚いていた。
その間、少年もシャイルの説明を素直に聞いていた。
「凄い、随分詳しいんですね!貴方も鍛冶・錬金学校の生徒とかですか?」
「いや、勇者養成学園の生徒だよ。君と同じく今年入学するんだけどね」
「あ、それは失礼致しました。あまりに詳しいので・・・もし同じ学校なら、色々と教えていただけるかもしれないと思ったものですから」
「いや、俺の知識はここに来る前に知り合った人の受け売りだよ。ま、おかげで魔法付加は出来るようにはなったけどさ」
「え?さっき魔法付加も難しいって言ってたよね?シャイル君出来るんだ!?」
シャイルがさらっと述べた事に対し、聞き捨てなら無いとばかりにスコティーがすかさず聞いてきた。
「あ、ああ、まあ簡単なものならな。」
シャイルは余計な事を言ってしまったな、と少し反省した。
「まあ、俺の事はいいとして、今の段階でこれだけ出来るなら、勉強したら将来的には100%とかも夢じゃないかもしれないな」
「そ、そんな、僕なんて・・・」
スコティーといい、目の前の少年といい、力があるくせに何でこんなに自分に自信が無いんだ?とシャイルは心の中で溜息を吐いた。
ただ、目の前にいる少年の場合は何となくわからなくはない。
というのも、魔法付加が出来て初めて魔力除去が出来るようになるのが一般的だ。
むしろ、魔力除去よりも魔法付加が出来る人の方が優遇される場合が多いのだ。
「まあいいや、とりあえずこの指輪をもらえるかい?」
「あ、は、はい!ありがとうございます!」
シャイルは提示された金額を出し指輪を受け取る。
まさか学生が作った物でこれほどの品物に出会えた事に、シャイルは内心喜んでいた。
しかも一般の店では無いので格安である。
「あ、そうだ、俺はシャイル。よかったら君の名前を教えてもらってもいいかい?」
「あ、はい、僕はペキニーです。よろしくお願いします」
「僕はスコティーです。よろしく」
シャイルが名前を尋ねると、ペキニーは快く応えてくれた。
そしてスコティーも律儀に自己紹介をしている。
「ペキニーだね。もしかしたら、その内世話になるかも知れないから、その時はよろしく」
「え?え?え?は、はい!」
シャイルは立ち去ろうと手を上げながら述べた言葉に、ペキニーは頭の上に疑問符を浮かべながらもなんとか返事を返していた。
その様子を見ながらシャイルはこの場を後にする。
ペキニーはシャイルが立ち去る姿を見ながら、自然と笑みがこぼれてきた。
というのも、今までずっと魔法付加が全く出来ず、魔力除去しか出来ない事を周りから馬鹿にされ続けてきたのだ。
その為、自分の手がけた物が褒められるとは思ってもいなかったし、買ってくれる人がいるとも思っていなかったからだ。
自分が認められたような気がして嬉しかったし、頑張ろうという気を起こさせた。
この出会いがペキニーの人生を大きく左右するのだが、それはまだ先の話である。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
シャイル達はペキニーの元から立ち去った後も広場を少しだけ見て周ったが、目ぼしい物がなかったのでそのまま広場を後にした。
その後は武具の店など見たりしながら南地区に戻り、少し遅めの昼食を取る事にする。
どこで食べようかと探しながら歩いていると、少しオシャレなオープンテラスがあるカフェを見つけた。
昼食もやっているようなので、2人はこの店で食べる事にした。
二人は中に入ると、やってきた女性店員に店内とテラス席を聞かれたので、テラス席でお願いする。
店員の案内に従い、示してくれたテラス席に腰を下ろして寛ぐ。
ピークとなる昼食の時間を過ぎているため、客はそれほど多くないので落ち着いて食べる事が出来そうだ。
カフェというだけあって、メニューを広げて見るとがっつりというよりはパンやパスタのような軽食が多い。
二人は店員を呼び注文をし終えると、客が少ないせいなのか思ったより早く料理が出てくる。
出された料理を二人は食べ始めると、かなり美味しくてあっという間に平らげてしまった。
値段はそんなに高くないのに、これだけ美味しいのであればかなり当たりだ。
機会があれば、また来たいと思わせるほどだった。
二人は食事を終え、食後のドリンクも注文する事にした。
ここは基本カフェであり、特にこの時間はマッタリする客が多い。
二人もさっきまで色々と見て回っていたので、少しゆっくりしたいと思っていたのだ。
シャイルは店員が持ってきたドリンクに口をつけ、ほっと一息ついた。
そして、何気なしに通りを見渡していると、遠くの方で何か揉め事が起こっているようだった。
「ん?何かあったのか?」
「え?どうかしたの?」
シャイルがボソッと言ったのを聞いたスコティーは、シャイルの目線の先を追った。
すると、その揉め事は段々エキサイトしてきて、その場にいた数人での殴り合いに発展してきていた。
「大変だ!止めないと!」
「え、なんで?」
臆病でありながらも揉め事が嫌いなスコティーが止めに行こうと言い出す中、シャイルは人事のように聞き返す。
「なんでって、殴り合いなんてよくないよ!」
「揉め事の理由もわからないし、男同士で殴りあう事くらい大した事じゃないさ」
「そんな事言って、怪我人が出たらどうするのさ!」
「見た所、連中は血の気が多そうだ。そういう輩は怪我しようがなんだろうが、ある程度発散させた方がいいんだよ」
「もう!シャイル君が言うように最悪、彼らが怪我するのは仕方が無いとしても、周りの人が巻き込まれたら大変じゃない!」
「悪いけど、俺は知らない人の事情に首を突っ込むつもりはないし、助けようとも思わない。ましてや、一方的に殴られているならまだしも、殴り合いの喧嘩程度の仲裁をするつもりなんてない。そんなに言うのならスコティー一人で行ってくればいいだろう?」
シャイルは他人同士の喧嘩の仲裁などする気はサラサラ無い。
それが殺し合いとなれば別だが、たかが喧嘩程度であればいくら仲裁してもきりがない事を知っている。
というのも、一度喧嘩の仲裁をするという事は、これ以降は喧嘩を目の当たりにする度にまた止めないといけない事になる。
今回の喧嘩は止めたのに、他にも喧嘩をしている人がいた時に止めないという選択肢が無くなってしまうだろう。
それに結局は喧嘩そのものを止めた所で、喧嘩に発展した問題を解消しない事には根本的な解決にならない事がわかっているからだ。
その根本を解決してこそ、本当の意味で喧嘩を止めるという事である。
そしてシャイルは、誰でも彼でも助けるようなお人よしでは無い事を自覚している。
ましてや正義の味方などを気取るつもりも無い。
だからといって、それをする人を否定するつもりも無い。
そのため、スコティーに行ってこいと言ったのだが・・・
「で、でも、僕一人じゃ・・・」
「スコティー!!」
シャイルは少しだけ怒気を含んだ声をスコティーに向けた。
それは一人だと不安だと言っている事に対してではない。
確かにそれも無きにしも非ずだが、それとは別の理由だった。
自分の名前を呼ばれたスコティーは、少しだけビクッとしてシャイルの顔を見た。
「俺は昨日言ったよな?自分を卑下するなと。それ以上に、出来ないだの何だの言い訳する前にまずはやってみろとな」
「――!!」
「お前が喧嘩を止めたいと思ったんだろう?だったらやってみろよ。それとも、もう皇帝守護騎士になるのは諦めるか?」
「ううん、諦めないよ!ごめ・・・ありがとう。もうなるべく言わないつもりだけど最後に一回だけ言わせて?知り合って間もないのに、色々迷惑かけてごめんね」
シャイルが発破をかけるとスコティーの目の色が変わり、先程の怖気づいたような様子は無くなった。
そして最後だからと付け加えて、一言謝った。
「大分顔つきが変わったな。じゃあ、行ってこいよ」
「うん、行ってくるね!」
とスコティーが意気込んで行こうとした瞬間、踏み出した足を止めていた。
なぜなら・・・
「何をしているのですか!喧嘩は止めなさい!」
と、結構離れているにも関わらず、ここまで聞こえる声を発しながら男達の間に入る女性の姿が見えたからだ。
それと同時に、殴りかかってきた相手を投げ飛ばしていた。
その佇まいは凜としており、ライトブルーのロングヘアーで誰が見ても綺麗だと思えるような美人だった。
彼女は全然余裕がありそうで、加勢に行く必要はなさそうである。
折角、やる気になり行こうとした矢先の事で、スコティーも少しばつが悪そうに「あ、あははっ・・・」という事しか出来なかった。
「まあ、今回は仕方が無いさ」とシャイルは慰めると、スコティーは意気消沈しながら席に腰を降ろした。
そしてシャイルと一緒に、この場で見守る事にした。
スコティーは女性に全てを任せて自分が何もしないという事に罪悪感を抱いたのだが、実際行かなくて良かったとも思った。
というのも、その女性は先程の余裕ある態度は過信でも何でもなく、きちんとした実力に裏付けされた物であったからだ。
この世界では、女性だから弱いという先入観は一切通用しないのである。
争っていた男達全員が喧嘩相手の矛先を女性に向け、素手で殴る蹴る・角材を拾って殴りかかるなどをしているが、その全てを何事も無いように避けている。
そして、短剣道で使われる制体技のように相手の体・攻撃を制しながら一撃を入れたり、素早く後ろに回っては首筋に手刀を入れて意識を刈り取ったり、全員を一撃でしかもダメージが極力残らない力加減で意識を失わせている。
彼女はそれを簡単そうにやっているが、普通はそんな事簡単に出来るわけが無い。
意識を失わせるにはそれなりの力を加える必要がある。
であれば、ダメージが残らないわけがないのだ。
ダメージを残さず意識を失わせるギリギリのラインを見極め、それを寸分違わず、力の調整を平然とこなしている彼女の力量が窺えるというものだ。
シャイルはその軽やかな動き・華麗さ、そして正確さに目を奪われていた。
スコティーも目を奪われていたようだが、シャイルと同じ理由かどうかは定かではない。
彼女が全員を倒し終えた時、周りで見ていた人達から歓声が上がった事で、それまで彼女の動きに見とれていたスコティーは我に返って言葉を発した。
「あ、あの人は・・・生徒会長のフランボワーさんだ」
「生徒会長?」
シャイルには何の事やらさっぱり検討もつかず、少し間の抜けた声で聞き返した。
「うん、僕らの2つ上の先輩で勇者養成学園の生徒会長だよ。去年の都市対抗戦、個人種目の優勝者なんだよ」
シャイルが聞きたかった事と少し違ったのだが、スコティーの説明で学園の生徒を纏めている人物なのだろうと何となくで理解した。
「都市対抗戦って、確か学校案内資料で見た気がするな・・・たしか、夏休み明けの9月に行われる各都市の勇者養成学園の代表者を選出して戦う大会だっけ?」
「そうだよ。あの大会は学園の選りすぐりが出てくるだけあって、皆かなりの実力を備えているんだ。その中で2年生でありながら優勝したんだから本当に凄いよね」
フランボワーだとわかり目を輝かせながら説明するスコティーに話を合わせながらも、シャイルは別の事を考えていた。
彼女のような戦い方なんてした事のないシャイルにとっては、その戦い方には目を見張る物があった。
それに対し、対抗戦だの優勝者だのといった事に関しては正直どうでもよかった。
実戦に置いて、実績や肩書きなんて物は全く意味が無いと理解しているからだ。
なので・・・
「ふ~ん、そうなんだ」
と気の無い返事をしていた。
「ふ~んって・・・あの大会は生徒や一般の人に限らず、各国の重鎮達も見に来るとあって、大会に出られるだけで名誉な事なんだよ?出ただけでスカウトされる可能性が高いし、ましてや優勝者なんてスカウトからの声がかからずとも自分の望む将来が約束されたようなものなんだから」
「なるほどねぇ。ま、どちらにしても俺にはあまり関係の無い話だな」
皇帝守護騎士になりたいスコティーにとっては、対抗戦での優勝と言う肩書きは喉から手が出るほど欲しいものなのだろう。
それがわかっているからこそ、シャイルは肩書きに意味が無いと思いつつもスコティーを否定する事はしない。
だから一言だけ・・・
「対抗戦で優勝したい気持ちはわかるし優勝した彼女に憧れるのはいいけど、出来れば彼女の肩書きを見るよりも戦い方・動きや技の方をもっとよく見て学んだ方がいい」
「・・・あ、そうか、そうだよね・・・」
スコティーはシャイルが何を言いたかったのかをすぐに理解した。
自分を高める為・目標の為に憧れるのはいいが、肩書きに囚われていると強くはなれないという事を。
スコティーは少しだけ俯いたが、それは落ち込んだのではなく、その言葉を深く心に刻み込もうとしていた。
その間、シャイルは大分収拾がついた先程の現場に目を見やると、事後処理をしているフランボワーとかなり距離が離れているにも関わらず目が合ったような気がした。
(はっ?)
いや、それはたまたま目が合ったとか、何となくこちらの方を見ているとかではなく、完全にシャイルを見ていたのだ。
シャイルには見られる意味も理由もわからず戸惑った。
なんかいやな予感というか面倒くさい事になりそうな予感を感じたシャイルは、すかさず二人分の会計を済ませる。
そして、そそくさとカフェを後にしようとする。
顔を上げたスコティーの目に、シャイルが急に店を出て行く姿が映り「え?え?ちょ、ちょっと待ってよ!」と言いながら急いで後を付いていった。
登場人物
シャイル:本編主人公
スコティー:シャイルと同室の少年
ペキニー:錬金術師を目指す鍛冶錬金学校の入学生。
フランボワー:勇者育成学園生徒会長
錬金術師:作り出された鉱物の加工・魔法付加をメインとする
錬金士:武具や装備品に加工する前の鉱物を作り出す事をメインとする
魔法付加
魔力除去