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1-4 勝負の行方

 

 二人は部屋を出て訓練場に向おうとしたが、その前に使用許可を貰いに行かないといけない事に気づき、許可を貰う為に先に管理人室へと向った。


「エンジー!いるかー?」

「ほいほ~い!やあ、シャイル君じゃないかぁ!どったの~?」


 管理人室に着くなり、シャイルはエンゼルランを呼びかけた。


「え?シャイル君、エンゼルランさんと親しいの?」


 シャイルとエンゼルランのやり取りを見ていたスコティーは、二人の仲よさげな様子を見て驚いていた。


「いや、昨日一回会っただけだけど?」

「んもう~、つれないなぁ~!あんなにも濃密な関係になったというのに・・・」

「え?え?えええええええええ」


 そっけなく返事を返したシャイルにエンゼルランは意味深な言葉を投げかけると、スコティーは顔を真っ赤にしながら大声を上げた。


「ちょ、こら!変な言い方をするんじゃない!勝手に背中に乗ってきたから、そのまま部屋に案内してもらっただけだろう」

「え?あっ」


 シャイルはエンゼルランの言葉を即行で訂正した事により、スコティーもエンゼルランの冗談を真に受けてしまった事に気づき、さらに顔を赤くして下を向いていた。


「シャイル君ってば、ネタばらすの早すぎだよぉ。もう私の体には飽きちゃったというの?」

「飽きるも何もないだろうに・・・」


「およよ・・・一度体を合わせた女性には興味が無いというのね」

「おい、言い方!・・全く、人聞きの悪い事を・・・」


 エンゼルランが明らかに演技臭い演技をしながら倒れこみ、ハンカチを口に噛み締めながら冗談を続けている。


「いい加減話を進めたいんだけどさぁ・・・」

「あはっ!ごめんね~。それでそれで?私に何か用なのかな?あ、やっぱり私に会いたくなったからとか?」


「いや、それはない!」

「がぁ~ん!」


 話が進むかと思いきや、またもや冗談を言うエンゼルランにきっぱりと否定するシャイル。

 エンゼルランは口でショックの言葉を言いつつ、また倒れこんだ。


「頼むから話を進ませてくれよ・・・」

「あははっ、ごめんごめん。なんか楽しくなっちゃって。それで本当に何の用なのかな?」


「ったく・・・いや、訓練場を使いたいんだけど、エンジーに言えばいいのかな?」

「ああ、訓練場ね!うん、そうだよぉ。この用紙に使用開始時間と名前を書いてね」


 ようやく話が本筋に戻り、エンゼルランが訓練場使用者名記入用紙を持ってきたので、シャイルはそれに現在の時間と自分の名前と人数を書く。

 一回での使用時間は最大で1時間半であり、終わったらまた戻ってきてこの用紙に終了時間を書けばいいとの事。

 再使用には時間を置かなければならない。

 訓練場はそれなりの広さがあるとは言え、寮生活をしている生徒の人数を考えると全員が入る事など出来ない。

 そのために最大使用時間と人数制限を設け、このようにして開始時間を書く事で空いている時間が一目でわかるようにしている。


「あ、これからすぐに使うんだね?」

「そうだけど問題ある?」


「んにゃ、全然!じゃあ行こうか!!」

「えっ?」


 エンゼルランが先頭を切って歩き出したため、シャイルは困惑してしまった。

 まさか付いてくるとは思っても見なかったからだ。


「い、いや、エンジーは管理人の仕事があるだろう?」

「大丈夫だよぉ!多分・・。この時間なら多分誰も来ないし、来たとしても多分誰か他の人が代わりにやってくれるよ!多分・・・」


「いやいや、多分が多すぎる!仕事に戻りなさい!」

「い・や!!私も行くの!」


 はぁ~と溜息を吐きながら、シャイルはこれ以上言っても無駄だろうと思い、諦めてスコティーと並んで男子寮側から訓練場へと向うのだった。




 訓練場に着くと、シャイルとスコティーは軽く準備運動を始める。

 それをニコニコしながらエンゼルランが眺めている。


 武器は訓練場にあるため、自分達の武器は持ってきてはいない。

 どの武器職でも対応できるように、模擬剣や模擬槍、木剣、弓矢、杖など、様々な訓練用の武器が揃っている。


 今回は剣での勝負をするため、二人は怪我の事も考慮し模擬剣ではなく木剣を使う事にした。

 木剣を手に取ると互いに一定の距離を取り構える。


 エンゼルランは審判をしてくれるとの事で、二人の真ん中に立ち合図を出すタイミングを伺っている。

 だが二人が構えているにも関わらず、エンゼルランは開始の合図を出さない。


 なぜならば、スコティーは不安そうな顔をしながら構えている剣がブルブル震えているからだ。

 エンゼルランもそんな状態では勝負にならないと考え、落ち着くまで待っているのだ。

 そんなスコティーを見たシャイルは。


「スコティー!!」


 スコティーに向って一喝した。

 その声にビクッとしたスコティーは、ハッとした顔をして一度下を向いたと思うと大きく深呼吸をした。


 そして再び上げた顔には、さっきまでの不安な顔は無くなり、シャイルを真っ直ぐに見つめていた。

 まだ自信があるという顔には程遠いが、それでも一段階を乗り越えたと言った所だろう、とシャイルは思った。


「よし、大丈夫そうだな」

「うん、ごめ・・・いや、ありがとう」


 シャイルはその言葉に一瞬ニコッと笑顔を見せると、次の瞬間には真剣な顔に戻った。

 その様子を見ていたエンゼルランは、それを二人の準備が整ったものと見て合図を出す。


「それでは始め!!」


 開始の合図が出された後も、二人はお互いの出方を伺っていて動かない。


「どうした?来ないのか?未だに自分から行くのは恐いのか?だったら俺から行くぞ!」


 そう行ったシャイルは駆け出し、スコティーとの距離を一気に詰める。

 上から振り下ろしたシャイルの木剣は、スコティーに軽々と木剣で受け止められる。


 シャイルはそれに動じず、すぐに木剣を引き今度はスコティーの左腹に向けて横薙ぎに剣を払う。

 それにもスコティーは反応し、木剣の腹で受け止める。


 連続で受け止められてもシャイルには動じる事はない。

 実際、それなりに戦える者にとっては、シャイルの攻撃は受け止められない訳がない。

 それほどシャイルの木剣を振るう速度は普通だし、押し切るほどの力がない。

 シャイルは自分でその事を理解している。


 むしろ、自分の攻撃を凌ぐ事が出来ない様な者なら、その程度なのだろうとも思っている。


 シャイルは一度距離を取って構えなおす。

 今度はスコティーから攻めてくるのを待つことにした。


 スコティーもその意を酌んだようで、今度はスコティーが距離を詰めた。

 シャイルと同じように、最初は木剣を振り下ろしてきた。


 思っていた以上に剣速があり、シャイルはギリギリの所で受け止める。

 しかし、振り下ろした木剣の力もかなりのもので押し切られそうな所を、シャイルは木剣を斜めにして体を捻り受け流す。


 スコティーは一瞬体勢を崩したものの、受け流すのと同時に一歩下がったシャイルに食い下がり、シャイルの右腹を狙い横薙ぎに木剣を振るう。

 それにも剣の腹でギリギリに対応したシャイルだが、力で押し切られそうになる。

 その瞬間に木剣を横に寝かせスコティーの木剣を流すのと同時に、その流した勢いを利用して木剣の上を側宙して避ける。


 がら空きになったスコティーの左側面を目がけて、シャイルが剣を振り下ろす。

 スコティーは木剣を横に振るい終わった状態のため、タイミング的には防ぐ事は出来ないはずである。

 しかしスコティーはシャイルの方を見ることなく、両手持ちだった木剣を左手だけで持ち替え自分の側面の頭上から振り下ろされる木剣を受け止める。


 片手のスコティーを押し込もうとシャイルが力を込めるが、スコティーが片手で持っていた木剣を両手で持ったと同時に、力任せにシャイルの木剣を押し返すように思い切り振るう。


 すると、その勢いでシャイルの持っていた木剣が手から離れてしまった。

 その瞬間をスコティーは見逃さずに、シャイルの首筋に向けて木剣を振り当たる直前で止める。


「それまで!」

「え?あ!ぼ、僕が勝ったの?」


 エンゼルランの言葉で、スコティーは我に返り自分が初めて勝った事が信じられなくて驚いていた。

 そしてエンゼルランの指示で、お互い向き合い一礼をした。


「やっぱりスコティーは俺が思っていた通り、実力はあるようだ」

「え?い、いや、やっぱりシャイル君のおかげだよ!」


「スコティー!もっと自信を持てよ!俺が相手だとはいえ、勝てたのはお前自身の力なんだよ」

「う、うん、ご・・・ありがとう」


「ただ、うぬぼれる事だけはしないようにな?自信を持つ事とうぬぼれる事は全く別の話。それと勝った後に敗者に情けをかけるのも止めておく事。スコティーならやりかねない」

「う、うん、わかったよ」


 スコティーはシャイルに言われた事を素直に受け止めた。


「それと、これで俺がそんなに強くは無い事がわかっただろう?」

「うん、とは言いづらいけど・・・でも・・・」


 スコティーの言葉をシャイルが手で制し、シャイルが言葉を発する。


「各地を周り様々な経験を経た事によって戦い方を知り、その上で今の俺は攻撃よりも回避に特化しているんだ。多分それが認められてこの学園に合格出来たんだろう」

「そ、そうなんだ」


「そんなわけで、俺の回避能力を超えられた攻撃をされてしまったら、今の俺ではどうしようもないな。スコティーがそれだけ鋭かったんだよ」

「そんな・・・いや、そっか、そうなんだ。うん、ありがとう!」


「まあ、今のまま俺は強くなるつもりだから、スコティーにも負けるつもりは無い」

「うん!僕も負けないよ!」


 シャイルが出した手をスコティーが取り、二人は固く握手をした。

 そんなシャイル達のやりとりをニコニコしながらエンゼルランは眺めていたが、ふいにシャイルに話しかける。


「ねえねえ、シャイル君。ちょっと二人だけで話があるんだけど、いいかな?」

「ん?いいけど・・・スコティー悪いけど先に戻っていてくれるかい?」

「うん、わかったよ」


 スコティーはシャイルの分も木剣を片付けると、「じゃあ、また後で」と言って訓練場を後にした。

 そのスコティーの後ろ姿を見送ると、シャイルは口を開く。


「それで、何の話なんだ?」

「うん、さっきスコティー君に言っていた貴方自身についての話・・・あれって、嘘だよね?」


 エンゼルランの思いもよらない言葉に、シャイルの目が一瞬見開く。


「・・・何の事だよ?俺は本当の事しか語ってないけど?」

「確かに、嘘という言葉には語弊があるかなぁ?真実を含ませつつ、ねじ曲げていると言った方がいいのかな?」


 エンゼルランはニコニコしながらも、目には確信している事が伺える。


「最初に会った時にも思っていたけど、エンジー・・・あんたは一体何者なんだ?」

「ん~、それは乙女のひ・み・つ!女の子の秘密を探る子はモテないよ?」


 エンゼルランは人差し指を口に当てながらウインクをしている。


「女の子って・・・はぁ、わかったよ。それで、何が言いたいんだ?」

「私も初めてシャイル君を見た時に思ったんだけど、貴方の身体の奥底に力強さを感じたんだよねぇ」


「・・・」

「だからかなぁ?シャイル君が戦っている所を見ていて、なんだか不思議と言うかもどかしい感じがしたんだよね」


「なんだよそれ・・・今の俺には、どう頑張ってもあれが全力だよ」

「うん、そうなんだろうねぇ。ただ、本気なんだけど本気じゃない、本気じゃないけど本気みたいな感じ?」


「いや、俺に聞かれても・・・」

「あはっ、そりゃそうだね。それとシャイル君の言葉で気になってたけど、さっきから今の俺とか今のままって言っているよね?」


「それは・・・今は弱いけど、これから強くなるって意味だよ」

「そっかぁ。シャイル君がそう言うなら、そう信じるよ。でもね、私がシャイル君をもどかしく感じた理由はなんとなくわかったよ」


 エンゼルランはそう言いながら、シャイルが両手の中指にしている指輪を示した。


「その指輪って・・・」

「!!」


 シャイルが一瞬だけ反応したが、何事もないような態度で次の言葉を待っている。


「・・・って、なんてね~!私もさっきは誤魔化したし、シャイル君にも事情があるようだし、これ以上は詮索しないよぉ」

「・・・」


 色々突っ込まれるかと身構えていたシャイルは一気に気が抜けた。


「あ、あれ?怒っちゃった?」

「いや、怒ってはいないけど、なんか疲れた・・・」


「あははっ、ごめんね。じゃあ、代わりに誰も知らない私の秘密を教えてあげようか?」

「いらない」


 気の抜けたシャイルに、エンゼルランが艶めかしいポーズを取りながら言っているが、いかんせん見た目が幼いので色気を感じなかったシャイルは即答した。

 それにモテるモテないは別として、さっき乙女 (?)の秘密を探るなと言われたばかりでもある。


「がぁ~ん!・・・即答で否定って!シャイル君、私に対する態度がぞんざい!ぞんざいだよぉ!」


 シャイルはその言葉すらスルーして、スタスタと訓練場を後にしようとする。


「ちょ、ちょっと待ってよ~!ごめん、ごめんってば~」


 半泣きになりながら必死に付いて来るエンゼルランを見て、シャイルは少しだけ可笑しくなり笑っていた。

 シャイルに兄弟はいないのだが、年上に向って失礼だと思いながらも、もし妹がいたらこんな感じなのかな?と考え、一度立ち止まりエンゼルランに向けて自然に手を差し出していた。


 それを見たエンゼルランはニコッっと笑顔になり、シャイルの手を取って二人並んで訓練場を出て行く。



「・・・・・って!!」


 訓練場を出る直前に、シャイルは何か声が聞こえたような気がしたのだが、特に気にする事無くその場を後にした。




登場キャラ

シャイル:本作主人公

スコティー:シャイルと同室の少年

エンゼルラン:学園寮管理人


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