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幕間 2人の正体 後編

 



「それに関しては、俺には種族隠蔽は通用しないとしか言えないな」

「くっ・・・」

「・・・」


「まあ、俺の様な者もいる事を知っておいた方がいい」

「「・・・・・」」


 実際シャイルは、見破ろうと思って見破っているわけではない。

 最初から本来の種族で見えているというだけなのである。


「納得はいかないが・・・それはもう仕方がないとしてもだ、なぜ私達に学園に来た理由を聞いたんだ!?」


 マカローナは諦めにも似た言葉を口にする。

 そして、自分達に話を聞いた理由を強い口調で尋ねる。


「ああ、それはこの指輪を渡すにあたって、お前達に悪意・害意はないかを確認したかったからだ」

「悪意だと!?」


「ああ、そうだ。というのも、2人に渡そうと思っているこの指輪には魔法付加(エンチャント)が施されている。その効力は、種族隠蔽を高めるというものだ。これを付ける事によって、例え俺が相手でも見抜く事が容易ではなくなるだろう」


 それはシャイルが相手の種族を本気で見抜こうとしない、と言う事が条件になる。

 だが日常の生活において、何もないのにわざわざ相手の種族を見抜こうとする者などいないだろう。


 従って、シャイルのように何もせずとも見抜ける者を謀る事が出来れば十分なのである。


「だからこそ、2人に悪意や害意がない事を確実にするために確認しなければならなかったんだよ。そうでなければ、これは渡せない。なぜなら、人間に化けて悪さをする可能性がないとはいいきれないだろう?」

「・・・・・確かにアンタの言うとおりかもしれないが」


 シャイルは悪意ある者に、その悪意に加担するようなつもりは全くない。


 ただ、クーヘンバウムとマカローナに関しては最初から疑ってはいない。

 だからと言って、完全に信用するというのはまた別の話。


 彼女達から直接話を聞き、自分の目と耳で確かめない事には信用するわけにはいかないのである。


「だが、なぜアンタが私達を気にかけ、その指輪を私達にくれるというのだ?」


 マカローナの疑問も最もであろう。

 なぜなら、先にも述べたようにマカローナとシャイルの接点はほぼないのであるから。


「・・・・・俺は最初にお前達を見た時から、お前達の正体には気づいていた。お前達が種族隠蔽している事も・・・だが、俺ははっきり言うと、その現状が気に入らない」

「・・・どういう事なの?」


 シャイルの言葉はクーヘンバウムとマカローナにとっては、自分達が種族隠蔽している行為が気に入らないと言っている様に聞こえた。

 そのため、マカローナが口を開くよりも先に、クーヘンバウムが悲しそうに尋ねた。


「ああ、すまない。そうじゃないんだ・・・人間世界で、他種族が種族を隠さないといけないのが気にいらないという事だ。もちろん人間世界だけでなく、どこに行こうが種族で差別される現状に嫌気がさす」


 シャイルの言葉で、自分が勘違いしていた事にクーヘンバウムは安堵する。

 マカローナもシャイルの言葉を受け、自分自身も思っている事なので苦虫を噛みつぶしたような顔をする。


「とは言え、この現状の中でタルトやプディンのように、開け広げなのも困りものだけどな」


 シャイルはそう言いながら、乾いた笑みを浮かべる。


「まあ、それはいいとして・・・・・そう考える俺の目に、お前達が映った。ただそれだけの理由だな」

「「・・・・・・」」


 マカローナは、たったそれだけの事で?とは思うものの、自分達が種族を隠している事に心を痛めてくれているのだと思うと、少しだけ胸が熱くなった。


 そしてクーヘンバウムに関しては、シャイルの言葉を素直に受け取り、少しだけ目に涙を溜めながら笑顔を浮かべていた。


「お前達はもっと納得のいく理由が欲しいかもしれないが、俺にとってはその程度の事で気にかけるには十分な理由だ。もちろん俺を信用する必要はないし、信用出来ない俺から物を貰う事など出来ないというのなら、それも構わないさ。クーは約束していたから別かもしれないが、マカローナにとっては俺から物を貰う理由はないだろうしな」


 シャイルはそう言うと、どうする?と目で訴えかけながら指輪を両手に一個ずつ持ち、2人に向けて差し出した。


 差し出された指輪を、クーヘンバウムは躊躇する事鳴く嬉しそうに受け取っていた。

 その様子をみたマカローナも、おずおずと指輪を受け取る。


 そしてマカローナは、まじまじとその指輪を見て確認すると口を開く。


「確かにアンタが言った以上の効果は無いようだね。私達を騙して拘束するという訳ではなさそうだ」


 そう、マカローナが警戒しているのは、プディンやスフレールの様に、クーヘンバウムもマカローナも珍しい種族である。

 特に妖狐に関しては、エルフと同じかそれ以上の希少種である。


 単独行動を好む妖狐は、発見する事が容易ではないからである。


 そして竜人族も人前に姿を現す事は珍しいが、種族として希少なわけではない。

 どちらかというと、戦闘種族である竜人族が捕まってしまった場合は、主に戦闘に関して最前線で扱われる事になる。


 それは軍事であれ盗賊であれ、いの一番に戦わされる為に使われる事は間違いないのである。


 マカローナは今まで、その事を警戒していたのである。


「確認はしてもらえたようだが、どうする?いらないなら、それはそれで構わない」

「ありがとう!クーは貰うよ♪シャイルは信用出来ると思うし、これでティラちゃんともお揃いだからね~」


 クーヘンバウムは全く疑う様子もなく礼を言って、自分の指にはめていた。


「・・・・・わ、私も・・・・有難くいただいておくよ」


 マカローナも少し戸惑う仕草をしていたが、クーヘンバウムが指輪を身につけたのを見て素直に受け取る事にした。

 そして彼女も指輪をはめる。


 その姿を見たシャイルは、フッと笑みを浮かべた。


「どうやら上手く効果が発揮しているようだな。俺から見ても人間にしか見えない」


 2人が指輪をはめた直後、シャイルの目には2人の完全な人間の姿が映っていた。

 これで余程の事が無ければ、恐らく彼女達の正体がばれる事は無いだろうとシャイルは考える。


「うん、ありがとね♪シャイルがいてくれて良かったよぉ!」

「・・・ありがとう」


 クーヘンバウムは嬉しそうにシャイルに抱きつきながら礼を言い、マカローナはボソッと礼を言っていた。

 クーヘンバウムに抱きつかれたシャイルは、「わかったわかった、いいから離れてくれ」と彼女を引き離そうとしている。


 そんなシャイルを真面目な顔で見ていたマカローナが口を開く。


「・・・・・なあ、私達も答えた事だし聞きたいんだが、アンタはなぜこの学園に来たんだい?アンタこそ、この

 学園に来る必要はないのだろう?」


 何とかクーヘンバウムを引き離したシャイルの目を、マカローナはまっすぐな目で見つめる。


「・・・どういう事だ?」


 シャイルにはマカローナが言いたい事を理解しているが、聞かれた事にしか答えないシャイルは口を濁す。


「アンタは昼行灯を気取っているようだが、私の目はごまかせないさ。アンタの動きは確実に洗練されている。それもずば抜けてな。恐らく相当な実力があるのだろう?」

「・・・・・言っておくが、昼行灯を気取っているわけではない。現状で俺が本気を出した所で、お前が見たとおりの実力で間違い無い。動きが洗練されていようがいまいが、それが事実だ」


「・・・・・」

「と言っても、お前は納得しないのだろうな」


「当たり前だ!動きだけ洗練されて実力が無いわけがない」

「まあ、お前が思うとおり、本来の俺の力は別だ。だが、さっきも言ったように、現状では見たとおりの実力で間違い無いのは確かだ」


「・・・・・・」


 この程度の事は、シフォン達にも教えている事なので、話してしまっても問題無いとシャイルは考える。


「で、俺がどうしてこの学園に来たのか、と言う事だったな?それは、ある事を知る必要があったから。と言うのが答えだ」

「はっ?それはどういう・・・」


「ま、それはそれとして、俺の用事は他にもある」

「おい、ちょっと・・・」


 シャイルはこの話はこれで終わりとばかりに、別の場所に向かって手を上げていた。


 すると、物陰から3人の姿が現れた。


「こんにちはクーちゃん、マカローナさん」

「全く、お前はいつまで人を待たせるんだ」

「よばれてとびでてぇ~、ばばばば~ん」


 その3人は、スフレールとタルト、そしてプディンであった。


「悪いな待たせて」


 シャイルは3人に素直に謝る。


「な!ど、どういう事だ!?」

「何でスーちゃん達がここにいるの?」


 マカローナは自分達以外の者がいる事に慌て、再び警戒心を出す。

 クーヘンバウムは、ただただスフレール達がいる事に疑問を抱く。


「マカローナ落ち着いてくれ。今説明するから」


 シャイルはマカローナに優しく諭すように話す。


「まあ、タルトとプディンが人間でない事はもちろんわかっているだろう?」

「あ、ああ・・・」


 シャイルはタルトとプディンに関しては言うまでもないと確認すると、マカローナは頷く。


「そして、スフレールも人間ではないんだよ」

「はっ!?本当なのか!?」

「ええ!?スーちゃんも人間じゃなかったの?」


 シャイルの言葉にマカローナとクーヘンバウムが驚きを隠せずにいた。

 更に言えば、二人と同じようにスフレールにも種族隠蔽を高める魔法付加(エンチャント)をした指輪を渡している為、以前よりも見抜く事は困難になっている。


「ああ、スフレールの種族はエルフだ」

「エルフ・・・」

「へえ、そうだったんだぁ」


 マカローナは、人間だと思っていた相手が希少種であるエルフだという事に驚いた。

 そしてクーヘンバウムは、種族を隠していたのが自分達だけではない事を素直に喜んでいた。


 ちなみにプディンとタルトには、スフレールの事についてすでに伝えてある。


「はい、私はシャイルさんの言う通りエルフです。お二人と同じように、今まで種族を隠していました」


 シャイルがスフレールの種族を告げると、スフレールは自分でもエルフである事を告げた。


「確かに驚いたが・・・しかし、なぜこの場に呼んでいた?」

「それはだな、スフレールは二人と同じ境遇である事から、知っていた方が互いにフォロー出来るだろうと考えたからだ。そしてタルトとプディンも人間でない事はわかっているだろうし、何かあればこいつらを頼る事も出来るだろうからな」


 マカローナは、自分達が種族を隠している事について、あまり多くの者が知っているのは危険であると考えた為、シャイルに問いただした。


 もちろんシャイルもその事は十分承知している。

 秘密を知る者が多ければ多いほど、どこから情報が漏れるかわからなからだ。


 しかし、シャイルはそれを考慮しても、この場に集まっている者達ならば大丈夫であろうと考えていた。


「と言うのが大きな理由だが・・・何よりも、この場にいる全員が種族を明かし合っても大丈夫だと、最初から信用していたからだな」

「どうして私達を最初から信用出来るというのだ!?」


「俺は、シフォンじゃないが人を見る目はあると自負している。それは多少の読み違えはあれど、そう大きく外れた事がないからだ」

「・・・・・」


「俺の直感が大丈夫だといえば、それは大丈夫な事だ」

「・・・私はなんだか逆に、アンタを信用出来なさそうだよ」


 マカローナの言葉に、シャイルはフッと笑う。


「ああ、それで構わないさ。俺を信用しなくても、お前と同じ境遇のクーとスフレールを信用すればいい。そしてタルトは人の事を他人にべらべら喋るような奴じゃない。プディンは脳天気だから、仲良く出来れば他人の種族など、どうでも良い事だからな。この二人も信用してやってくれれば、それでいいさ」


 シャイルの言葉に、クーヘンバウムとスフレールがマカローナに笑顔を向ける。

 タルトは当たり前だと言わんばかりの顔を向けている。


 そしてプディンは怒る。


「ちょっと~、シャイル~!?私は脳天気じゃないよ~!!」


 と言いながらシャイルの胸をポカポカ殴る。

 シャイルは「わかったわかった」と言いながら、プディンの頭に手をやりながら話を続ける。


「まあ何であろうと、この場にいる者は秘密を共有する仲間だし、仲間を売るような奴はいないと断言する。もし、万が一この事が原因でお前達の誰かに何かあれば、それは俺の責任だ。その時は出し惜しみせずに、俺が全力で何とかしてやるよ」

「マカローナも~、難しい事考えずに全てシャイルに任せればいいんだよ~。大抵の事は間違いないからね~」

「そうだな。何かあれば私も力になるが、シャイル独りで十分だろうな」


 シャイル達のやりとりを見ていて、プディンとタルトは当たり前だと言わんばかりに口を突きながら笑顔で頷く。

 プディンの言葉には、さすがにシャイルも「お前は何も考えなさすぎだ」と突っ込んだ。


 スフレールも、もちろん信頼していますと笑みを浮かべる。


「あははっ、仲間♪仲間♪」


 クーヘンバウムは仲間という言葉が嬉しかったらしく、元気にはしゃいでいた。


 そしてマカローナも、そこまで言うのならという表情で小さく頷いていた。


「ところで、それは良いとしても・・この場にこんなメンツが集まっていたら怪しまれないかい?それに今までの会話が聞かれていたなんて事は・・・」


 マカローナは今になって、周囲の事を気にしだした。

 それに対してシャイルは答える。


「それについては全く問題無い。気配遮断結界と遮音結界を張ってあるからな」

「いつの間に・・・」


「そりゃ、この場に全員が集まった瞬間にだな。お前が気づかないくらいなら、他の者がこの結界や俺達に気づく事もないだろう」

「・・・・・」


 以前、タルトとロシブルが戦った時に結界をエンゼルランに頼んだのだが、その時は結界を張る範囲が広かったのと、私闘であったため万が一の事を考えた為だ。


 そこまで広くない範囲であれば、シャイル自身でもこのくらいの結界を張る事は可能でなのである。


「さて、思ったよりも時間をかけてしまったが、俺の要件はこれで終わりだ。あとはお前達で話し合うなり何なりするといいさ」


 シャイルはそう言って結界を解き、寮に向かい歩き出した、

 その後ろを、プディンとクーヘンバウムがすかさず追い、更にタルトとスフレールも続いて追いかけていく。


 その様子を見ながら、マカローナもフフッと笑いながら後を追いかけるのであった。






登場人物

◆シャイル:謎多き主人公。シャイルの力や過去が少しずつ明らかにされてきている。

◆クーヘンバウム:入学式の自己紹介時にシャイルが気にしたクラスメイトの少女。隠密者(アサシン)

◆マカローナ:入学式の自己紹介でシャイルが気にしていたクラスメイト。ヴェリーと意気投合した。槍士(ランサー)


◆タルト:シャイルと知り合いの魔族でクラスメイトの少女。双剣士(クロスセイバー)

◆プディン:シャイルと知り合いの天人族でクラスメイトの少女。武器職無し

◆スフレール :入学式の自己紹介時にシャイルが気にしたクラスメイトでエルフの少女。人間と偽っている。狩人(ハンター)


◆ロシブル(名前のみ登場):魔族に殺意を持つクラスメイトの少年。普段のタルトを観察し、力を読み間違えた為、タルトに敗北。剣士


思っていた以上に長くなり、ある程度省いて書いていたりしましたので、、

自分でも確認はしていますが、おかしなところがあれば教えて頂けると助かります。



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