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幕間 2人の正体 前編

 



 ペキニーから指輪を受け取ってから数日後の放課後。


 シャイルはある2人を呼び出し、学園内の人気(ひとけ)の無い場所へとやってきていた。


「ね~、なんでこんな所にクーを連れてきたの?」

「ヴェリーから言付かったからアンタに付いてきたが、こんな人気の無い場所へと連れてきて私をどうする気なんだ?」


 シャイルに呼ばれ訝しげに問うのは、クーヘンバウムとマカローナである。


 2人の疑問も最もである。

 というのも人気が無いと言うよりも、余程の事が無ければ誰も来ないような場所だったからだ。


「ああ、すまないな。別に2人をどうこうするわけではないが、渡す物があるついでに少し話があったんだ」


 シャイルはなるべく警戒心を解く様に語りかける。

 しかし、クーヘンバウムは別として、シャイルはマカローナとはそれほど接点がないため、マカローナの警戒心が解かれるような事はなかった。


「・・・渡す物?アンタが私にかい?」


 マカローナは、眉をひそめ苦虫を噛みつぶしたような顔をする。


「――!!あっ、もしかしてティラちゃんにあげてた物を、クーにもくれるの?」

「・・・??」


 クーヘンバウムは“ピコン!”という擬音と共に頭の上に!!マークが出たのかというほど、閃いた顔をしながらシャイルへと詰め寄った。

 その反面、マカローナには何のことだかさっぱりわからない。


「ああ、クーとは約束していたし、何よりもお前の視線が痛いから出来るだけ急いだんだよ」


 そう、クーヘンバウムはシャイルと約束してからというもの、ティラの指輪を見るたびにシャイルへと催促するような視線を送りつけていたのである。



「やったぁ!これでティラちゃんとおそろいだよ~!」


 クーヘンバウムはシャイルの言葉で素直に喜んでいる。


「そしてマカローナ。それはお前の分もあるんだ」

「はっ?」


 シャイルが喜ぶクーヘンバウムからマカローナへと視線を移して、そう告げた。

 その言葉を受けたマカローナには、全く意味がわからない。


「・・・ほとんど接点のないアンタが、何で私にまで用意している!?」


 マカローナはシャイルに対する警戒心を一段階上げた。


 それはそうである。

 関わりのない人から、何か物を渡される事ほど怪しい事は無いからだ。


「・・・俺がさっき言った話というのは、その事に関係する。クーにも渡す前に話をする必要がある」

「クーとお話するの?」

「・・・私には物を貰う理由も、アンタと話をする理由も何一つないね」


 喜び回っていたクーヘンバウムもシャイルの言葉を聞いてピタッと止まって尋ね、マカローナは聞く耳持たずとばかりに今にもこの場から立ち去りそうな雰囲気を見せた。


「まあそう言うな。いらなければいらないでもいいが、話を聞いてからでもいいんじゃないか?お前にとってプラスになる事はあっても、マイナスになる事は無いと思うけどな」


 シャイルはマカローナに対して、この場にとどまるように訴えかける。


「・・・まあいいだろう。話を聞くだけ聞いてやるよ」

「ああ、ありがとな」


 マカローナは警戒しながらも、確かに話を聞くだけなら問題はないと判断したようだ。


「で、話とはなんなんだ?私だけでなく、クーヘンバウムにも関係する事なのかい?」


 マカローナは話を聞く事にしたので、まずは自分が思っていた疑問をぶつける。

 クーヘンバウムと自分が一緒なのはなぜかと言う事を。


「クーとマーちゃんに関係する事??」

「ぶほっ!!」


 クーヘンバウムにマーちゃんと呼ばれたマカローナが噴いた。


「ま、マーちゃん!?や、やめてくれ!私の柄じゃない・・・」

「え~?何で~?可愛いのに、マーちゃん」


 マカローナは一般的に見て、可愛いと言うよりは凜々しいという言葉の方が合っている。

 マカローナ自身でも、凜々しいとまでは言わないが可愛いと言う形容詞ほど、似合わないものはないと自覚している。


 クーヘンバウムはそれに対して、首を傾げながら素直に思っている事を告げる。

 もちろん、呼び方が可愛いと言う意味の方が強いが、マカローナの見てくれも可愛いと褒めていた。


「マカローナと呼んでくれ!それが駄目なら・・・親しい者にしか呼ばせていないが、せめてマーナにしてくれ・・・」

「ん~・・・わかったよぉ、マーナちゃん!!」


 マカローナは略さないで呼び捨てで呼んでくれと言ったのだが、クーヘンバウムを見る限りそれは難しいだろうと考え直し、せめて自分が親しい者に呼ばれている愛称で呼んで欲しいと頼む。


 クーヘンバウムは考えながらも、それを了承する。

 ただ、“ちゃん”付けだけは変えられないようである。


 クーヘンバウムは自分の事はクーでいいとマカローナに伝える。


「クーと呼ぶ事は構わないが、私に対してはちゃん付けもどうにかならないかい・・・?」

「なあ、マーナ。話が先に進まないから、いい加減折れてもらっていいか?」


「アンタがマーナって呼ぶな!」

「くくっ、わかった、マカローナ。話を進めても構わないか?」


 項垂れているマカローナに、シャイルがからかい半分に愛称で呼びかけるとマカローナは怒って一喝する。

 思っていた通りの反応が返ってくるため、シャイルは笑いながら訂正しつつ話を続けたいと告げた。


「あ、ああ、わかったよ。話の腰を折ってすまないね」


 マカローナは話を脱線させてしまった事を素直に謝る。


「それで・・・マカローナとクーヘンバウムに関係する話かどうかと言う事だったな?・・・それは関係すると言えば関係するけど、互いに直接関係のある事ではない」

「「??」」


「だが普段のお前達の言動で、同時に話しても大丈夫だと俺は判断した」


 シャイルがこれから話す事に起因するが、シャイルは常日頃から彼女達の言動を細かく注視していた。

 それは彼女達をずっと目で追っていた・近くで聞いていた、と言う事ではない。


 見ていたのではなく、視ていた。

 聞いていたのではなく、聴いていたのである。


 どういう事かというと、シャイルには知覚領域(テリトリー)がある。

 知覚領域とは以前にも説明したように、様々な感覚を集合させて作り上げた領域である。

 その中には気配や音も含まれる。


 従って知覚領域内に居る者であれば、その中から特定の人物に絞って言動を感覚で捉える事がシャイルには可能なのだ。


 そしてその知覚領域も、意識をすれば範囲を広げる事も可能となる。


 シャイル自身が別の事や他の人と話をしていたとしても、知覚領域内に入っている者であれば情報を集める事が出来るのである。


 その情報収集により、クーヘンバウムとマカローナは問題無いだろうという結論に達していた。


「言っている意味が全くわからないな・・・」


 マカローナにはシャイルが何を言いたいのかがわからない。

 もちろんクーヘンバウムも同様だが、特に何も言わずに首を傾げているだけであった。


「それはそうだろうな・・・では、最初から核心をつかせてもらう」


 シャイルはきちんとした説明をしていないのだから、理解出来ないのは当たり前だろうと頷く。

 そして、シャイルは2人を交互に見ながら、更に話を続けるために口を開く。


「クーは妖狐、マカローナは竜人族(ドラゴニュート)で間違いないな?」

「「――!!」」


 クーヘンバウムは、正確に言えば妖狐の上位種であるが、シャイルはそこまで言う必要は無いだろうと判断する。


 シャイルの言葉を受けた2人は驚きの表情を浮かべ、そして互いに顔を合わせる。

 そして、再びシャイルへと顔を向けた瞬間に、2人ともシャイルへ睨むような目つきをして身構えた。


「なぜそれを!!しかも、クーは妖狐だと!?」

「なんで!?なんでシャイルにばれちゃってるの!?」


 マカローナは自分の種族を見破られた事に警戒心を強めた上、クーヘンバウムが人間ではなく妖狐である事にも驚きを隠せずにいた。

 クーヘンバウムも、マカローナが人間ではなかった事に驚きはしたが、それ以上に自分の種族がばれてしまった事に動揺していた。


「その反応は、どうやら間違いないな」

「くっ!アンタにしてやられたよ!自ら墓穴を掘ってしまったようだね!」


「いや、勘違いするな。お前達2人の種族は最初からわかっていた事だ」

「な、なんだと!?」


 シャイルには2人の種族が入学初日の自己紹介の時からわかっていた。

 ただ、まずそれを確認しない事には話が進まないために、最初に尋ねたのだ。


「まあ確かに、種族を言われて狼狽えるのはマイナスだろうけどな」

「くっ!」

「・・・」


 シャイルに図星を指されたマカローナは悔しそうに、クーヘンバウムは落ち込むような仕草をしていた。


「まあ、それはいい。種族を見破った俺を警戒する気持ちはわかる。だからそのままでいいから、質問にだけ答えてくれるか?」

「・・・質問の内容による」


 マカローナは依然として警戒したまま不機嫌そうに、内容によっては質問に答えると告げた。


「ありがとな。じゃあ聞くが、お前達はなぜこの学園にきたんだ?妖狐は本来、家族以外では群れよりも単独で行動する事が多いはず。そして竜人族(ドラゴニュート)は戦闘種族だから、この学校で戦闘技術を学ぶ必要はないはずだろう?」


 2人の種族の特性を理解しているシャイルにとって、2人がこの学校に来た理由を知る必要があった。


「・・・・・クーはね、クーが小さい時に母様が死んじゃったんだ」


 シャイルの質問に、先に口を開いたのはクーヘンバウムであった。

 警戒した所で、シャイルに種族をばれてしまった事実は覆されないし、むしろ今まで話せなかった事が話せる良い機会ではないかと考えたのである。


 話し終わった後はどうなってもいいやと、ある意味自暴自棄になってさえいた。


「確かにシャイルが言うように、妖狐は成人すると自立して独りで行動するようになるらしいね。だけど小さかったウチは、その孤独に耐えられなかったの。温もりがほしかった、誰かと触れ合いたかった」

「・・・・・」


「でもその願いが叶う事もなく、独りのまま数十年も過ぎて・・・何気なくフラフラしている内に、この街に辿り着いた。その時に思い出したの。母様が死んじゃう前に、人間の事について話してくれていた事を。

 同族には優しく、他種族には厳しい。だからもし、人間の街に行く時には変化して見破られる事はないようにと・・・シャイルには見破られちゃったけどね」

「・・・すまないな」


「ううん。それで、変化で人間に化けて街に入ってみると、何もかもが新鮮だったの。だから段々楽しくなってきちゃった。そして、色々と見ながらあちこち行く内に、気がついたらウチと同じくらいの人間の子供達が沢山居る場所にいたの。そのまま何だかわからない受付をして、試験というものを受けさせられて、そして気がついたら合格して部屋まで用意してくれるって言われて。その後はティラちゃんと仲良くなって、他の人達とも仲良くなって・・・今は本当に楽しい」

「そうか、それはよかったな」


 シャイルはクーヘンバウムが話している間、話している彼女の言葉に嘘がないかをじっくり観察していた。

 その結果、クーヘンバウムの言葉に嘘はないと断定する。


 しかし、シャイルが種族を見破った事に対して、自分がこの後どうにかされる、もしくはこの学園にはいられないだろうという諦めを含んでいるのを感じ取ったため、シャイルは彼女の頭を優しく撫でながら笑顔を向けていた。


 そして、頭を撫でられたクーヘンバウムは驚いたようにシャイルの顔を見た後、僅かに悲哀を含ませながら笑顔を浮かべた。


「安心しろ、クーは勘違いしている」

「えっ??」


 シャイルは行動だけだと安心しないのだろうと、きちんと言葉でも伝える。


「ただ、その前に、マカローナからも話を聞かなければならないから、ちょっと待ってくれな」

「・・・う、うん」


 クーヘンバウムにとっては、何を安心して何に勘違いしているのかはわからないが、シャイルの撫でてくれた手から温もりと優しさを感じ取っていた。

 そのため、シャイルの言葉に素直に従う事にした。


「それで、マカローナはどうしてだ?」

「私は・・・」


 マカローナにとって、本当なら正直に話す必要が無いのだが、クーヘンバウムが素直に話していた上、内容に感慨を受けてしまったために、おずおずと口を開く。


「アンタが言っていた様に、竜人族は戦闘種族だ。逆に言えば戦闘の事しか身につく事がない。そのため、一般的な常識や知恵などを身につけろと一族の長に仰せつかった。そしてそれには、一番都合がいいのが人間の世界だろうと考えた。ただ、クーが言っていた様に、人間は他種族を差別する事は理解している。そこで考えたのが、種族を制限しないと言われているこの学園に目をつけたのだ」

「そうか」


「ただ、やはり万が一の事を考え種族は隠すべきだろうと判断し、我が種族のスキルである擬人化を用いて、人間として入学することにしたというわけだ」

「なるほどな」


 シャイルはマカローナからも嘘は吐いていないと判断した。


「だが、解せない!我が種族の擬人化は、こんなに簡単に見破られる事など有り得ない!なぜアンタは見破る事が出来た!?」

「確かに、ウチの変化も自信あったし、他の人に見破られた事は一度もなかったのに・・・」


 2人は種族を見破ったシャイルに詰め寄った。



◆シャイル:謎多き主人公。シャイルの力や過去が少しずつ明らかにされてきている。

◆クーヘンバウム:入学式の自己紹介時にシャイルが気にしたクラスメイトの少女。隠密者(アサシン)

◆マカローナ:入学式の自己紹介でシャイルが気にしていたクラスメイト。ヴェリーと意気投合した。槍士(ランサー)


◆ペキニー(名前のみ登場):鍛冶錬金学校の生徒。魔力除去(アンチエンチャント)しか出来ないが、それが故にシャイルの気を引き知り合う事になった。



思っていた以上に長くなってしまったので、2話に分けます。

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