2-17 シャイルの解説
「試合前に言っていたように、不甲斐ない試合になっただろう?」
双剣を収めたシャイルがシフォンに向けてそう言った。
「うん、あれは・・・ボク達が、って事だったんだね」
「あそこまで手も足もでないのは、さすがに悔しいわね・・・」
シフォンはうなだれながらも、自分が不甲斐なかった事を素直に認め、ヴェリーは自分が何も出来なかった事に憤りを感じていた。
「今回の負けは素直に認めるけど、やっぱり納得はいかないよ!シャイルのあの力はなんだったんだい?実力を隠していたというわけではないんだよね?」
「私もそれが気になるわ。私の見立てでも、今まで実力を隠していたようには見えないし」
負けは認めつつも、シャイルの異常な力に納得がいかないシフォンが詰め寄り、ヴェリーがそれに同調する。
「こう言っちゃ悪いけど、シャイルの実力なら身体能力強化の魔法を受けたとしても、ボク達2人を相手にするには厳しいと思うんだけど?」
「まあ、私はシャイルを信頼していましたので、それについては別に何も言う事はありません。ですが、私がいつも使う魔法とは効果が違うのが気になりました」
シフォンがシャイルに辛辣な言葉を浴びせると、3人の元にゆっくりと歩み寄っていたティラも疑問を口にする。
そして3人の視線がシャイルへと集中する。
「なんでもかんでも、ネタばらししたら面白くないだろう?そのくらいは自分で考えろ」
「ちょっ!」
3人に熱いまなざしを向けられ、シャイルは溜息を吐きながら冷たく突き放し、それにシフォンが抗議をしようとした所で、再びシャイルが口を開く。
「と、言いたい所だが、それではお前達は納得しないのだろう?」
「そりゃあ、もちろんだよ!」
「はあ・・・まあ、知られて困る事でもないから説明してやるが、出来ればその程度は自分達で考えた方が今後のためになるんだけどな」
「それはどういう事だい?」
「だから、自分で考えろと言ったばかりだろうに・・・まあいい。魔法ってのは想像力次第で、無限の可能性を秘めているって事だ」
「・・・?」
「考える事をやめれば、そこまでの魔法しか使えないし、新しい魔法を生み出す事など出来はしない。常に考え発想を豊かにすれば、それだけ新しい魔法を生み出す事も可能なんだよ」
「何となくわかるようなわからないような・・・」
シャイルが自分で考える事の重要性を説いても、魔法が得意ではないシフォンにとってはいまいちパッとしない。
そこに、シャイルが言わんとしている事を理解したヴェリーがフォローを入れる。
「シフォンは魔法理論が苦手なのに、魔法だけで考えるからよ。貴方なら剣で考えてみればわかるでしょう?貴方の剣技は誰かから教わったものや、元々ある技だけなの?誰も使った事のない自分だけの剣技を使いたいと思ったことはないの?」
「ああ、そっか。シャイルには防がれたけど、ボクの霞双刃は自分で考えたオリジナルの技だったね」
ヴェリーに剣で考えろと言われたシフォンは、霞双刃が自分だけのオリジナル技を使いたいと思って編み出したのだという事を思い出した。
「ああ、あれな。悪くはなかったが、使う相手が悪かったな。もちろん相手が見切れると言う事が前提だが、双剣士の様な両手に武器を持つ相手には、無闇に使う技ではない」
「そうだね。ボクが双剣士との戦いに慣れていないという事の証明になってしまったね」
「まあ、本当の戦場で経験不足は言い訳にもならないが、今はまだいいだろう。それとさっきも言ったが、技の発想自体は悪くはない。あの2撃にもう一つ加えれると完璧だな」
「・・・もうひとつ?」
「ああ・・・まだ身体能力強化の効果が残ってるから、俺が実践して見せてやる。シフォンはある程度離れて俺の前に立て」
「え、あ、うん、わかったよ」
シャイルはそう言いながら、実践するためにシフォンから剣士用の模擬剣を借りる。
シフォンは、自分が苦労して編み出して身につけた技の発展型を、いとも簡単に出来るようなシャイルの言い回しに若干戸惑いながらも、言われたとおりシャイルから少し離れた場所に立つ。
「その距離はダメージを受けるぞ。もう少し離れろ」
シフォンは霞双刃の最後の小爆発が届かない程度の距離に立ったのだが、シャイルはそれでもまだ近いと言う。
若干納得がいかないながらも、シャイルの言う事を素直に聞いてもう少しだけ離れる。
「よし、その位なら大丈夫だろう。いいか?しっかり見てろ・・・そして堪えろよ」
シャイルが大丈夫だと言ったシフォンの位置は、シャイルから5mほども離れている。
しかも大丈夫と言いながらも堪えろとはどういう事なのか、シフォンには全く意味がわからなかった。
シャイルは頭に疑問符を浮かべるシフォンを気にせず、技を出すために構える。
本当は構える必要はないのだが、技の出所をわかりやすくするためだ。
「行くぞ!」
そして、シャイルは掛け声と同時に技を繰り出す。
シフォンは絶対に見逃すまいと、シャイルの初動から最後の動きにまで全神経を集中させる。
そのシフォンが目にしたのは、霞双刃と同じように両端から平行に中心へと向かう剣閃。
そしてさらに、奥からその中心に向かってくる、もう一つの剣閃だった。
もちろんその全ては、ほぼ同時に中心へと向かっている。
この間、コンマ数秒。
全ての剣閃が中心に辿り着いたと思った瞬間、離れて立っているシフォンに、思いがけない程の衝撃波が襲ってきた。
「くっ!」
シフォンはあまりの衝撃に声を漏らしながらも、両腕を顔の前でクロスしてその衝撃に耐える。
衝撃波がシフォンを抜けても、シフォンはしばらく腕を顔の前でクロスしたままの状態で固まっていた。
「おい、もう大丈夫だぞ」
シャイルのその声で、ようやく腕を下ろしたシフォンだが、顔からは冷や汗が流れていた。
なぜなら、最初に立っていた位置でこれを受けた場合、自分は五体満足ではいられなかっただろうと感じたからだ。
実際に受けたわけではないはずのヴェリーとティラからも、その技のすごさに驚きの表情を浮かべながら冷や汗を流していた。
「ダメージは受けてないはずだよな?・・・反応がないけど、ちゃんと見えていたか?」
動かないシフォンにシャイルが声をかける。
「・・・あ、う、うん・・・見えたのは・・・ボクの霞双刃に、さらにもう一つの剣閃・・・あれは突きかい?」
声をかけられたシフォンはハッとして、シャイルの繰り出した技を何度も頭の中でリプレイしながら問いかける。
「ああ、その通りだ。両側からの剣撃と突きによる3点同時攻撃だな。これが出来れば、最初の2撃を防げたとしても、突きまで防ぐとなると中々難しいだろう。そして防がずに後ろへ避けられたとしても、2撃が交差した時の衝撃による爆発を突く事によって、その衝撃を前に飛ばす事が出来るため、少し下がられたくらいならダメージを与えられる」
シフォンはシャイルの説明を聞いている内、徐々に顔に笑みが浮かんできた。
自分の技に改良の余地があった事、絶対にこの技を習得してやるという気持ち、さらには発想次第で無限の可能性を秘めているという期待感。
シフォンはそれを考えると楽しくなってきたのだ。
「この技で重要なのは、正確さはもちろんだがそれ以上に剣速をあげる事だな。衝撃波の威力は剣速に比例して大きくなる。更に剣速が上がるという事は、技自体を防ぐ事が困難になるからな」
「うん、わかったよ!」
「ただ、気をつけないといけないのは、3点同時に高速の剣撃を叩き込まないといけないから、身体に掛かる負担も大きくなると言う事と、乱戦にはあまり向いていない事だな。使い所は考えるようにしろよ」
確かにシャイルの言う通りだとシフォンは思う。
とはいえ冷静になってくると、どうしても解せない部分が出てくる。
「というか、ボクが苦労して何年もかけて習得した霞双刃を、シャイルが見ただけで完璧に使えた上、更に改良するとか・・・納得いかないんだけど・・・」
「まあ、身体能力強化を使っているから出来るだけだ。普段の俺なら、この技を使う事は不可能だな」
「いや、そうなんだろうけど、そういう事を言っているんじゃないんだけどなぁ・・・」
霞双刃は、両端から中心に向かって全くの平行に撃ち出さなければならず、それが少しずれただけでも霞双刃になりえない。
シフォンはシャイルに対し、その特性を完全に理解した上で再現させる技術を持っている事に納得いかなかったのだ。
「それはそうと、そうだよ!その異常な身体能力強化は、一体どういう事なんだい!?」
シフォンは思い出したようにシャイルに詰め寄る。
「本来、私が使った身体能力強化の魔法は、通常のおよそ倍になる程度の効果しかないはずですが、シャイルはそれ以上の効果を得ていましたよね?」
シフォンに追従するように、ティラが疑問を口にする。
「そうだな・・・じゃあ、結論から言おう。ティラから受けた身体能力強化魔法だけでなく、俺自身も同じ魔法を使ったという事だ」
「「「えっ??」」」
シャイルの言葉を聞いて、3人の驚きの声が重なった。
というのも・・・
「でも、身体能力強化の魔法は重ね掛けしても、あまり意味はありませんよね?効果時間を長くする事は出来ても、効果そのものを上乗せする事は出来ないはずでは・・・」
そう、ティラが口にした疑問が、3人が驚いた理由である。
身体能力強化の魔法は連続でしようしたとしても、ただ効果時間が延びるだけであり、2倍・3倍と効果が増えるわけではない。
もし、そんな事が出来るのであれば誰もがやるであろうし、更に言えば魔力が尽きるまでかけ続ければ数十倍の力になる上、魔力量が多い方が圧倒的に強くなるのが道理となる。
魔法を使える者が、それを試した事がないわけがない。
むしろ、誰もが必ず一度は好奇心により試している。
その結果、今まで効果の上乗せなど出来た者はいなかったのである。
「確かに普通に考えればティラの言うとおりだな・・・だけど、もっと頭を柔らかくして、全ての可能性を考えてみろ。有り得ない・不可能だと思う事が、実際には有り得たり可能だったりする。それが魔法というものだ」
「「「・・・・・」」」
シャイルに考えろと言われ、3人は互いの顔を見比べながら頭を捻らせていた。
しかし、それでも出てこないものは出てこない。
「はあ・・・身体能力強化魔法を重ね掛けした事はあると思うが、じゃあそれを2人で同時にかけてみようと思った事はないか?」
「ボクはそこまで考えた事がないなぁ」
「私は一度だけ試した事はあるけど、普通の強化魔法と変わらなかったわ」
「私は何度か試した事がありますが、やはり結果は変わる事がありませんでした」
シャイルの質問に、3人は思い出しながら自分達の経験を語る。
「それは、俺の言っている同時とは違うからだな・・・それと、もう一つ必要な事がある」
「えっ?どういう事?」
シャイルの言葉に、試した事がないはずのシフォンが代表して質問する。
「俺が言った同時というのは、コンマ1秒のズレすら無い、“完全なる同時”という事だ」
「それって、どう考えても無理なんじゃ・・・」
「・・・ああ、そうだな」
「ちょっと!!一体何を言って・・・」
「実際には出来る事でも、お前が無理だと考えた時点で、それは無理な事だ」
「・・・・・」
「っと、シフォンが無理かどうかはどうでもいいとして・・・2人が魔法を完全なる同時に行う事。それだけでも多少は効果があるが、十二分に効果を得るにはもう一つ必要な要素がある・・・それは、完全なる同等・同質の魔力にするという事だ」
「・・・寸分狂いのない時間、そして同等・同質の魔力・・・それは、本当に可能な事なのですか?」
シャイルは事も無げに話しているが、ティラはシャイルの言っている事の難しさがどれほどのものなのかをわかっている。
そのため、シフォンの様にシャイルに怒られるかもしれないとは思いつつも、確認せざるを得なかった。
「可能かどうかではなく、可能にさせるんだよ・・・確かに、成功させるには半端なく難しい。だからそれには、絶対に可能にするという強い気持ちと、成功するまで行い続けれるだけの気力と根気が要る事だがな」
「・・・やっぱり、ボクの時とティラの対応が違いすぎやしないかなぁ?」
シャイルはシフォンの時とは違い、ティラには突き放すような事は言わなかった。
なぜなら、ティラは魔法士であるため、シャイルの言った事の難しさは身をもって体験しているだろうと考えての事である。
「それは、やろうとすらせずに無理だという奴と、経験した結果で難しいと感じている者の差だろうな」
「うぐっ!」
シャイルが正論を言うと、シフォンは二の句を告げなくなった。
「とは言え、実際には俺が言った事を思いついたところで、全てを完璧に同期させる事は難しい上、成功出来たとしても、もしかしたら効果がないかもしれない。そんな事をやろうとする奴は、そうそういないだろうけどな」
答えの無い新しい事を試して効果が無かった場合、失敗して効果が無かったのか、成功しても効果が無かったのかすらわからない。
逆に効果を確認出来たとして、次に行った結果は効果がなかった場合、工程の全て見直して何が原因なのかも突き詰めなければならない。
そこまで一つの事にこだわった上で、結果が出るまで粘り強く出来るかどうか。
ただそんな事は、研究者でもない限り普通なら中々出来る事ではないだろう。
それがシャイルにはわかっていながらも、自分の苦手な事は放棄しがちなシフォンには厳しくあたっていた。
「はあ・・・まあいいけどね・・・で、結局それが出来た時には効果が倍となり、さっきのシャイルは普段の4倍の力だった、という事なんだね?」
シフォンは釈然としないものの、少しは自分で考えるようにして先程のシャイルの力を割り出した。。
しかし、シャイルはそれを否定する。
「いや、それは違う」
「え?どういう事?何が違ってるのさ?」
「完全に同期させる事により、2つの魔法が共鳴し増幅された上で相乗効果が生まれる。従って、魔法そのもののがおよそ4倍の力へと膨れ上がる」
「え?4倍!?ということはさっきのシャイルの力は・・・」
「そう、身体能力強化魔法は元々の身体能力を倍にするための魔法だ。魔法そのものが4倍になり、その魔法効果が身体能力を2倍にするという事は、先程の俺の力は普段の8倍になっていたという事だな」
「「「・・・・・・」」」
シャイルの言葉を聞いた3人は絶句する。
魔法の掛け合わせを出来る事自体が彼女達の常識を覆されたと言うのに、さらに自分達の思っている以上の効力を発揮するという事に、呆然とするしか出来なかった。
しかも、シャイルの言う完全な同期が出来れば、身体能力強化の魔法だけでなく他の魔法であっても、同じように4倍の効果を得る事が出来る可能性がある、という事実にも気づいたせいでもある。
「それって・・・どの魔法にでも、同じような効果が得られるのかい?」
シフォンが代表してシャイルに疑問をぶつける。
「まあ、そうだな。中には効果の無い魔法もあるにはあるが、大体の魔法では効果がある。ただし、攻撃魔法を同期させるには、時間・魔力に加えて魔法の種類や規模、座標・ベクトルも合わせないといけないから、さらに難易度はあがるけどな」
シャイルはさも可能であるかの様に言うが、実際にそれを行うには不可能に近いレベルである。
身体能力強化の魔法ですら、同期する事が出来た者がいないのだ。
それなのに、それ以上難しいとなると出来る気がしないというのが、3人の気持ちであった。
ただ実の所、魔法の同期が出来た者がいなかったわけではない。
シャイルが出来るように、他にも出来る者がいるのだが公にはされていないため、3人が知らないだけである。
シャイルは出来ないと思えば出来ないと言いつつも、3人の気持ちも理解している。
従って、身体能力強化の魔法は別としても、攻撃魔法の同期なんかは出来る必要はないと考えていた。
だからといって、無駄に可能性を捨てるなという事を伝えたいだけである。
シャイルの思惑とは裏腹に、シフォン達が色々と考えている中で疑問が生じる。
それは、なぜ今まで誰も出来なかった上、気づく事すら出来なかった事をシャイルは出来るのかという事である。
「どんな魔法でも同期が出来て、その効果がすごい事はわかったよ・・・だけど、なぜシャイルがそれを知り、更には使えるんだい?」
「・・・・・」
シフォンに質問されたシャイルは黙り、考え込む仕草をする。
「すみません・・・言いたくない事であれば、言わなくても結構ですよ」
シャイルの様子に、シフォンに代わりティラが謝った。
シャイルは自分が魔法同期を使えば追及されることをわかった上で使用した事ではあるが、どう説明するかという事と正直面倒くさいという気持ちにより考え込んでいただけである。
「いや、別にそういうわけじゃないが・・・はあ、まあいい・・・前にも言った事に近いが、旅をする上でそれが出来なければ死んでいたというだけだ」
シャイルはいつも真実を混ぜ込んで話すのだが、これは完全に嘘である。
シャイルは知覚領域により、魔力の質や流れ・発動のタイミングを完璧に読み取り、更には魔法を無詠唱で行えるためにタイムラグを0で自身も魔法を発動させる事が出来るのだ。
攻撃魔法の時も、同じように座標やベクトルなども全て読み取る事が出来るため、同期する事が可能なのである。
ただそれを説明すると、更なる追求要因を与えてしまう事になるため、深く突っ込まれない言い訳を述べることにした。
「いつもと違って、何か嘘くさいけど・・・」
そして意外とシフォンは鋭かった。
それもそのはずだ。
なぜなら、同期するには最低でも2人いないといけない上、もし急に襲われた場合、同期出来るほどの余裕があるのかという疑問があったからだ。
ただ、さすがのシフォンもそれ以上追及するような事はしなかった。
「ああ、そうそう。ちなみに言っておくが、メリヤ先生は言うに及ばずフランボワー生徒会長も、おそらくさっきの俺でも勝つことは難しいだろうな」
シャイルは、シフォンとヴェリーが興味有りそうな話へと無理矢理変える。
「え?それは本当かい!?」
「去年の都市対抗戦優勝者であり、勇者養成学園7校全ての生徒の中で現に最強なのだから、強いのはわかりきってはいたのだけれど・・・それほどなのね・・・」
シフォンは信じられないという思いであり、ヴェリーは自分の読みの甘さを痛感していた。
「ああ、普通に戦ったら、まず間違い無く俺は負けるだろうな」
「という事は、普通に戦わなければ勝つ手段はあるって事なんだね?」
シフォンはニコッと笑いながらシャイルに問いかける。
彼の言葉には、勝てる方法があると言っている様に聞こえたのだ。
そしてシャイルはシフォンに対し、なんで無駄に鋭い時があるんだと心の中で溜息を吐き、余計な事を言った自分に対しても嘆くほかなかった。
「シャイルってさ意外と素直だし、何より面倒見がいいよね」
「はっ?」
シフォンはシャイルに勝つ手段について問いかけながらも、どうせ答える気は無いだろうと考えていた。
そのため、シャイルの答えを待たずに、自分がシャイルに対して感じた事を口にする。
言われたシャイルにとっては、多少はそういう面があったとしても、自分ではそんなつもりはないので、シフォンの言葉は意味がわからない。
「ええ、そうね。それには私も同意するわ」
「そうですね。私もそう思います」
ヴェリーとティラまでもが、シフォンの言葉に笑顔で肯定する。
「いや、そんな事はない。俺は自分の事しか考えていないぞ」
確かにシャイルは、傍から見れば誰かの為に動いているように見える。
しかしシャイル自身からしてみれば、誰の為にというよりも、自分がそう動かないともどかしいだけなのだ。
ただ、言動というのは自分がではなく、他人がどう捉え・どう感じるか。
それが重要なのである。
従って、シャイルの言動にどういう意図があろうが、相手の為になっているのであれば、相手からしてみればそれで十分なのだ。
その事はシャイルも十分理解してはいる。
だが、見返りを求めているわけでもないので、自分の行動についてはあまり触れられたくはないというのが本音だ。
「だって、聞いた事は余程でなければ答えてくれるし、言葉の中にヒントが垣間見えるしさ」
そんなシャイルの気持ちなど、シフォンにはお構いなしである。
そして更に続ける。
「それにさっきの戦いの中で、ボクが君の姿を捉えきれなかった時には、必ず一声かけてから攻撃していたよね?あれって、わざと避けられるようにしていたのと、ボクに君の動きをわからせるためだよね?」
「私にも戦闘中に欠点を指摘してくれていたし、シフォンと2人で攻撃した時も、完全に受けに回っていても、こちらがダメな攻撃をしてしまった時には反撃する事で注意をしてくれていたようだったわ」
「そうですね、私にも好きなタイミングでと言いながらも、魔法を放つ最高のタイミングを合図してくれましたしね」
シフォンに続いてヴェリーと、そしてティラまでもがシャイルを褒め称える。
さすがにシャイルは、耐え切れなくなってきた。
「わかった・・・わかったから・・・もう止めてくれ」
その言葉を受けて、シフォンはニヤリと笑みを浮かべた。
いつも、自分がいじられているため、ある意味でシャイルの弱点とも言えるものを見つけた為である。
シャイルはその笑みの意味を理解し、面倒な事になったなと心の中で嘆いていた。
そしてシフォンとは違い、ヴェリーとティラに関しては心からの賞賛であり、他意はない。
それはそれで悪意が無いだけに、シャイルからしてみれば余計に性質が悪いと思っていた。
シフォンの様に、イタズラ心などの悪意があれば邪険にする事も出来るが、悪意が無い者を邪険にするわけにはいかないからだ。
うなだれるシャイルを見たシフォンは、さすがにこれ以上は藪を突く事になりそうだと感じて話を変える。
「そういえば、試合前に聞いてはぐらかされた事だけど、シャイルは双剣を使える所の話じゃないじゃないか。あれでもかなり手を抜いていたようだし、それを考えると完全に熟練してるよね!?」
先程の戦いで、シフォンはシャイルを相手に余裕は無かったものの、それでもあれが本気ではないという事は理解していた。
おそらく、あの状態のシャイルが本気で剣を振るえば、自分とヴェリーの二人がかりでも(模擬戦なので試合終了の意味で)瞬殺されていたはずだからだ。
自分達を瞬殺しない程度に手を抜きながら見せた剣技・・・
いや、おそらくシャイルからすれば、剣技とすら呼べないものだった可能性がある。
しかし、双剣の特性を知らなければ出来ない動きばかりであったのだ。
シャイルが答えようと口を開こうとした時、それを遮るようにシフォン達の後ろから声が聞こえてきた。
「それはそうだろう・・・なんと言っても、シャイルは私の師匠なのだからな」
登場人物
◆シャイル:謎多き主人公。シャイルの力や過去が少しずつ明らかにされてきている。
◆シフォン:勇者を志すクラスメイトの少女。思慮深い一面もあるが、それ以上に猪突猛進な所は否めない。剣士
◆ティラ :シフォンとシャイルに助けられたクラスメイトの少女。双子の妹。治癒魔法士
◆ヴェリー :シフォンと同室でクラスメイトの少女槍士
◆フランボワー(名前のみ):勇者養成学園の生徒会長。昨年、2年生ながらにして都市対抗戦の優勝者。
◆アルストロメリヤ(名前のみ):勇者養成学園の教師。学園寮管理人のエンゼルランと仲が良い。通称・アリー、メリヤ
思いの外、長くなってしまったので2話に分けます。
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