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2-15 作戦会議

 


「始める前に、少しだけ待っててくれ」


 そう言ってシャイルは、訓練用の模擬武器が置いてある場所へと向う。

 近接タイプの2人を同時に相手するには、剣では心もとないと考えて武器を変更しようと考えた為だ。


 そして、シャイルが武器を変更し戻ってくると、シフォンとヴェリー、そしてティラは少し驚いていた。

 シフォンが、他の2人も感じているだろう疑問をシャイルに投げかける。


「シャイル、君はそれを使えるのかい?」


 シフォンはそう言いながら、シャイルの持ってきた武器を指差す。


 シフォンが半信半疑なのは無理もない。

 なぜなら、シャイルが持ってきた武器は双剣だったからだ。


 剣を得意とする者が、双剣を扱えるというわけではない。

 実際、片手剣を得意とする者がどちらの手でも扱えたとしても、剣を両手に持ったところで、ただ剣を2本持ち振るっているだけに過ぎず、双剣として成り立っているとは言えない。


 両の剣を自由自在に扱える事が前提の上、剣技として昇華させる事が出来て初めて双剣士という武器職になれる。

 それまでは、せいぜい2剣使いと呼ぶのがいい所だろう。


「やってみればわかるさ」


 シャイルはシフォンの質問には、言葉ではなく戦いで答えるとでも言うように、それ以上は口にする事はしない。


「ま、それもそうだね」


 シフォンもシャイルのその意を汲み取り、それ以上何かを聞く事はなかった。


「それじゃあ、早速始めようか!」

「いや、ちょっと待て」

「シフォン、少し落ち着きなさい」


 ワクワクして仕方がないシフォンは、シャイル達の準備がまだ完全に整ってもいないのに始めようとする。

 シャイルはそれに待ったをかけ、ヴェリーもシャイルが何を言いたいのかわかっている為、シフォンに慌てないように諌める。


「まだ武器を選びなおしただけだ。ティラとまだ戦い方について話し合っていない」

「あ、そっか。そういえば、ボク達もちゃんと作戦考えてなかったね」

「そうよ、これは1対1(シングルス)じゃないんだから、互いの連携が重要なのよ」


 ヴェリーの言うように、1対1なら作戦も何も必要ない。

 だが、多対多の場合にはそういうわけにはいかない。


 1人が勝手な事をすれば、他の人が危険に晒される事だってある。

 逆に連携さえしっかりしていれば、実力が上回っている相手にも勝てる可能性が出てくる。


 もちろん全ての作戦・連携が上手く行くとは限らないので、臨機応変に対応出来る事も求められるのはもちろんだが。


 それでも味方がどう動くのかが、わかっているのといないのとでは大きな差が出てしまうだろう。


 シフォンもそれがわかっていないわけではないが、ワクワクする気持ちの方が勝ってしまったのだ。


 しかし今はまだ授業だからいいのだが、実戦においてシフォンの頭より先に身体が動いてしまうのは致命的になりかねない。

 シャイルは、シフォンのその部分も徐々に直させないとダメだと感じていた。


 それはともかく、シャイルとティラ、シフォンとヴェリーは少し離れた場所で作戦を話し合う事にした。




「まあ作戦と言っても・・・ボク達は2人とも近接タイプだし、シャイルを相手に2人で倒してからティラと戦うか、シャイルとティラに最初から1対1で相手取るかって所かな」

「・・・ティラの魔法も侮れないと思うわ。だから、さすがに彼女をほったらかしにするわけにはいかないでしょう」


 シフォンとヴェリーが、シャイルを先に2人で倒すか1対1の状況を作り出すかを考えていた。


「うん、そうだね。だったらボクがシャイルの相手をしてもいいかな?ヴェリーも彼と戦ってみたいかもしれないけど、先にボクに任せてもらえないかな?」

「・・・まあ、それは構わないわ。戦える機会は今回だけではないでしょうし。じゃあ、私がティラを相手にして、彼女を戦闘不能にしたらシフォンの加勢に行くという事でいいかしら?」


「うん、そうだね。それでお願いするよ。シャイルと1対2になった時は、剣であるボクが前にでて、ヴェリーが一歩後ろから槍の間合いでフォローするような感じでお願い」

「ええ、わかったわ」



 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・



「・・・という話をしているだろうな」


 シフォンとヴェリーの話し合いが行われていた頃。

 シャイルは、シフォン達が考えていると思われる事を、彼女達が話していた事とほぼ同じ内容をティラに聞かせていた。


「なるほどですね。シフォンの性格とヴェリーの状況判断能力からすると、シャイルの言う事はおそらく間違いないでしょうね」

「ああ、そこでだ。あいつらの作戦を狂わせるために、俺が2人を同時に相手する」


「・・・それは、大丈夫なのですか?」

「ああ・・・だが、そのためにはティラの力が必要不可欠だ」


「え、ええ!?そ、そんな、私なんて大した力は・・・」

「そう謙遜するな。俺はティラとなら相性がいいと考えてるんだ」


「え・・・えええええええ!!??」


 シャイルの微妙な言い回しにティラは驚いて叫び、顔を真っ赤にしてしまっていた。


「ティラの使える魔法を聞いた限りでは、俺の作戦には適していると・・・・・ってどうした?」


 その後に続いたシャイルの言葉で、ティラは勘違いしていた事に気が付き、恥かしさと残念さで落ち込むのと同時にシャイルを少しだけ恨めしそうに見ていた。


「な、なんでもありません」


 そういいながら、ティラはそっぽを向く。


 シャイルは頭に疑問符を浮かべながらも、話を続ける事にした。


「??よくわからんが、話を続けるぞ?それでティラには、模擬戦が開始したらすぐ、俺に身体能力強化の魔法をかけてほしいんだ。詠唱魔法でかまわないからさ」

「わかりました。ですが、それだけでシフォンとヴェリーの2人を相手にする事が出来るのですか?」


「まあ、それは見ていればわかる」

「そう・・・ですか。では、私はその後どのように動けばいいですか?」


「とりあえずはそれだけで十分だが、そうだな・・・俺の動きやあいつらの動きを見て、ティラのタイミングでいいから攻撃魔法で援護してくれ」

「それだけでいいんですか?」


「ああ。今回は初めての2対2だし、ティラに慣れてもらう事が第一だからな。俺がメインで戦ってティラにはサポートに徹してもらう。毎回同じだと意味がないから、次回からはティラにも接近戦を含めてもっと活躍してもらう予定だけどな」

「そう考えると、私はシャイルの足を引っ張ってしまいますね・・・」


「そう悲観することはないさ。経験していて何も出来ないのは問題だが、ティラはまだ戦闘経験が浅いんだから仕方の無い事だ。これから色々と経験して動けるようになればいい」

「そう・・・ですね。ありがとうございます」


「さて、向こうも準備は整ったようだし、俺達も話はこのくらいにして始めるとしようか」

「ええ、そうですね。やる気満々のシフォンをあまり待たせても悪いですからね」


「ああ。それと模擬戦の出だしだけはしっかりと頼むな。おそらく開始直後にシフォンが突っ込んでくるだろうから、それより前には間に合わせてほしい」

「はい、わかりました!シフォンに遅れを取らないように、頑張ります!」


 シャイルとティラが話し終わると、既に準備万端でウキウキしながら待っているシフォンと、静かストレッチをしながらも闘志を漲らせているヴェリーへと近づいていく。


「すまない、待たせたな」

「もう待ちわびたよ!・・・と、言いたい所だけど、それだけ君達も本気でやってくれる、という事の表れと受け取っていいんだよね?」


「ああ、そうだな。ティラのために本気でやらせてもらうさ」

「え!?」

「うん、それなら待たされた事も全然許しちゃうよ。ただ、それだけ言っておいて、不甲斐ない戦いをしたら許さないけどね」


 シャイルの何気ない一言でティラが驚きに声を漏らしていたが、戦いたくてうずうずしているシフォンは、その事に気づく事なく話を続けていた。


 シャイルは自分一人であるなら死の可能性がない限り、自分が勝とうが負けようがそこまで気にする事はない。


 もちろん勝つつもりでやっているし、負ければ多少は悔しい気持ちも無くはない。

 だからといって、何が何でも勝つ必要もないと考えている。


 その点、今回は2対2でありパートナーがいる。

 特にティラは後衛タイプな為、シャイルが倒されてしまえばティラ一人で2人を相手にする事など、今の段階では不可能である。


 ただ、実戦ではそういう場合もありえる為、その事を想定した戦いも経験しておいた方がいいのだが、初の2対2でそこまで無理に経験させる事でもない。


 シャイルは自分のためでは無く近しい人の為であれば、出し惜しみをする必要はないと考えている。

 だからといって、全てをさらけ出すつもりなどはないが。


 そうした思いがあってのシャイルの発言であったのだが、いつもの微妙な言い回しによりティラは顔を真っ赤にさせてモジモジしていた。


「ま、それもやってみればわかるさ・・・ただまあ、確かに不甲斐ない試合にはなるかもしれないな」

「はっ?それはどういう意味だい?」


 シャイルの意味深な言葉にシフォンは真意を求めるが、シャイルはニッと笑うだけでそれ以上は何も言う事はなかった。


「ま、これ以上会話は必要ないだろ?」

「なんか納得いかないけど・・・それもそうだね」


 シャイルとシフォンは互いに笑顔を見せながら、しばし目で闘志をぶつけ合う。

 そして模擬戦を開始するため、距離をとろうと互いに背を翻した。


 その際、シャイルはティラに話しかける。


「・・・どうしたティラ。ぼうっとしているみたいだが大丈夫か?」

「はっ!え、ええ、大丈夫です!」


 未だに顔を赤くしていたティラは、シャイルに声を掛けられると頭を振りながら答えた。


「今回の作戦ではあいつらに勝てるかどうかは、ティラの出だしにかかってるんだからな。しっかりしてくれよ?」

「は、はい、ごめんなさい!シャイルの期待に応えられる様に頑張ります!」


 シャイルが自分に期待してくれているのに何を呆けているのかと、ティラは心の中で自分を叱咤しながら模擬戦に集中する事にした。


 シャイルとティラ、そしてシフォンとヴェリーは互いにある程度の距離を保つと構えを取る。


 そしてシャイルが口を開く。


「実戦を想定するなら開始の合図なんて意味ないんだが、まあ今回は初だし、このコインが落ちた時点で開始としよう」

「うん、それでいいよ」


 コインを取り出したシャイルは、シフォンの言葉を確認すると指で大きく上に弾いた。


 大きく弾かれたコインは、全員の集中力を上げるのに十分な時間を取りながら地面に落ちる。


 それを皮切りに、シャイルを除く全員が動き始めていた。






登場人物

◆シャイル:謎多き主人公。シャイルの力や過去が少しずつ明らかにされてきている。

◆シフォン:勇者を志すクラスメイトの少女。剣士(フェンサー)

◆ティラ :シフォンとシャイルに助けられたクラスメイトの少女。双子の妹。治癒魔法士(ヒーラー)

◆ヴェリー :シフォンと同室でクラスメイトの少女槍士(ランサー)



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