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1-1 出会い

 

「ようよう、兄ちゃん!いい物が揃ってるよ!見て行かないかい?」

「そっちよりもうちのなんかどうだい?」


 ローエンデルバ共和国にある都市の中の一つである、ここ学園都市セントヘプタグラム。


 各学校の入学シーズンを向かえ、商店街では自分の店の商品を売ろうとする商人達の怒号にも似た声があちこちで飛び交っている。

 商店街には学生向けの商品だけではなく、洋服や日用品の店などもあり賑わっている。

 そんな中、その声に耳を傾ける事も無くスタスタと通り抜ける少年がいた。


「この街は中々活気があるなぁ」


 彼の名はシャイル。

 銀色の髪をボサボサにして両耳にはピアス、両手の中指に指輪など幾つものアクセサリーを身につけ、そして背中に少し大きめの剣を背負っている。


 勇者養成学園に入学する事が決まり、つい先日この学園都市セントヘプタグラムに着いたばかりで、今は街の様子を見て回っていた。


 地方から来た生徒は学園寮に住む事が出来るのだが入寮する事が出来るのは、入学式の一週間ほど前から入学生の受付が始まるため一度学園に訪れ手続きを行なうのだが、その際に学園案内資料と一緒に入寮証をもらえる事になっている。


 そのためまだ寮に入る事の出来ないシャイルは近くの宿に宿泊し、自由に行動できる時間がある今の内にと街を観光しているのだ。

 特にこの街は学園都市と言われるだけあって様々な学校があり、人口も多く面積もかなり広いので一遍には周りきれるものではない。


 この学園都市セントヘプタグラムは、ローエンデルバ共和国国王の弟が領主となり治めている。


 その領主は、街の中央に王宮と呼べる程の建物を造り、そこで暮らしていた。

 その王宮を中心に東西南北の地区に分けられており、勇者養成学園があるのは南地区だ。

 単純に東西南北とは言ったが、実際はその中でも貴族街や商業・工業区域、住宅区域などと細かく分けられている。


 学園が始まってからでは外出に関しての寮の規則などにより、この広大な街では限られた場所しか見る事が出来ない。

 その為シャイルは、商人から声を掛けられても振り向く事はなく、街の様子と地理の把握に努めながら歩いていた。

 買い物があるにしても、ある程度場所がわかってからでも良いだろうと考えている。


 商店街がある商業区域を抜けると住宅街となり、色々見ながら適当にしばらく歩いているとシャイルがこの街に入った時とは別の入り口の門が見えてきた。

 シャイルがこの街に入る時に通った門は東門で、こちらは北門である。


 気がつけば、いつの間にか北地区に来てしまっていたようだ。


 別に街の外に出るつもりは無いので、そのまま移動しようとした。

 その時・・・


「ようやく着いたよぉ!ここがセントヘプタグラムかぁ!ここにボクが通う学園があるんだね!」


 入り口の方から聞こえた声にシャイルは振り返る。

 そこには、前髪と触覚 (前髪の両サイド)部分だけを残し、降ろせばセミロング程の長さであろう赤い髪を後ろで一つに纏めた髪型の、可愛らしく活発そうな女の子が大きな声で独り言を言っていた。


 誰かと話しているのかと思ったシャイルは、(随分とでかい独り言だな)と思い、少しだけおかしくなった。


「ボクが勇者になる第一歩!頑張るぞぉ!」

(--!!このご時世、未だ本気で勇者を目指す者がいるとはな・・・)


 シャイルはこの街に来るまで、世界各地を周っている。

 その中で、将来の夢として勇者に憧れる者はいても、本気で勇者になろうとする者に出会った事が無かった。

 そのためシャイルは彼女の言葉に、かなり驚いたのだが・・・


(ああいう奴がいるのなら、少しは面白くなるかもしれないな・・・ただ、あれが本心(・・)であればだけどな・・・)


 と考えながら、その場を後にした。




 その後もシャイルはあちこちを見て周り、日も落ちかけてきた頃には昼間通った商店街まで戻ってきている。

 宿に戻れば食事も出るのだが、宿の食事はそんなに量が多くないので軽く小腹に入れておきたいと考えていた。


 昼間と比べると大分人波も減ってきているとはいえ、それなりにまだ賑わいを見せている。


 シャイルは何を食べようか思考に耽っていた。

 そして十字路に差し掛かった所で、そのすぐ奥に大人男性6人が誰かを取り囲むようにして大声をあげている光景を目撃する。


「おいおい、お嬢ちゃんよぉ!汚れちまったじゃねえか!どうしてくれんだ?」


 どうやら、囲まれている少女が男性とぶつかった時に、少女が持っていたクレープで男性の服を汚してしまったようである。


「・・・そ、そのような事言われても・・・ぶつかってきたのはそちらからでは・・・」

「ああん?何言ってるのか聞こえねえな?もっとはっきり喋りやがれ!」


 少女は必死に抵抗しているようなのだが、あまりに小さな声で相手には聞こえないようだ。

 少女を取り囲んでいる他の男達も、ニタニタと下卑た笑いをしている。


 その周りでは、通りすがる人や立ち止まって見ている人達もいるのだが、自分に被害が及ぶ事を恐れ助けようとする素振りは一切見せない。


 シャイル自身も別に正義の味方でも何でもないし、我関せずに通り過ぎようと歩き出した、そのタイミング(・・・・・)が悪すぎた。


 丁度十字路の横から走ってきた男性に思いきりぶつかられてしまった。


「どわぁ!」


 走ってきた男性のあまりの勢いに、ぶつかられた方のシャイルはその勢いのまま少女を囲んでいる男達の方に突進する形となってしまう。

 そして、その男達の中の一人に体当たりしてしまい、男を巻き込んでそのまま倒れこんでしまった。


 シャイルに走ってぶつかってきた男性は一瞬立ち止まったが、やばいという顔をしながらそのまま走り去っていく。


「いつつ・・おい、あんた大丈夫かい?」


 シャイルは体当たりしてしまった男に声をかけたが、打ち所が悪かったのか気絶してしまっている。


「おい!てめえ!何しやがる!?この女の知り合いか!?」

「いやいや、全然知らないし」


 シャイルは少女の知り合いかと聞かれ、この街に知り合いなどいるわけもないはずなのだが、ついつい顔を確認してしまいながら否定する。


 少女は小柄で少しだけ幼く見えるが、可愛らしい顔立ちをしている。

 髪はフワフワしたロングの金髪で、さわり心地がよさそうである。


「じゃあ何のつもりだ、この野郎!正義の味方のつもりか!?」

「ちょ、ちょっと落ち着けって!正義の味方!?そんなわけないだろう?たまたまぶつかっちゃっただけだって」


「ああん?シラをきるんじゃねえ!おい、お前ら、いいからやっちまえ!」

「ちょ、ちょっと待・・・」


 ちょっと待ってと言う間も無く、シャイルはボコボコにされてしまう。

 さすがに4人相手では多勢に無勢だったようだ。


 命令している男は少女に逃げられないよう腕を取り、シャイルが殴られている様子を笑いながら見ている。


「おいおい、その背中に下げている剣は飾りかぁ?」


 シャイルは仰向けに倒され、上から殴る蹴ると繰り返しながら男の一人が声を上げる。

 その言葉に特に何か言うわけでもなく、シャイルはそのまま殴られ続ける。


「ひゃははっ!こんな奴にはもったいねぇ!ボコリ終わったら、その剣頂いちまおうぜ!」

「・・・これは誰にもやれねえよ」


 下卑た笑い声を響かせながら下種な言葉を口にした相手に、シャイルは殴られながらも相手に聞こえるか聞こえないかくらいの声で反論した。

 その時・・・


 ドサッ!


 何かが倒れたような音がした。

 その音に気づいた男達は、音のした方へ顔を向けると、先程まで少女を捕らえていた男が地面に蹲っていた。


 シャイルも男達の暴行が止まると、同じように音のした方へ顔を向けた。

 すると、少女を支えるようにそこに立っていたのは、先程シャイルが見た勇者を志す少女だった。


「なんだ、てめえは!!」

「大の大人が女の子を捕まえて、さらには無抵抗な相手に暴行を加えるとは何事かなぁ?事情を知らないボクが介入するのも何だけど、流石に見ていて気持ちのいい物ではないのは間違いないから、勝手ながら加勢させてもらうよ」


 そう言った少女は次の瞬間、腰にぶら下げていた剣を鞘に収めたまま振り回し、シャイルに暴行を加えていた4人をあっという間に殴り倒してしまった。


(――!!)


 シャイルは少女が男達に向かって行く前、剣を構えた瞬間に極々わずかな何かを感じ取った。


(なるほどな・・・さっきの言葉は本心であるのは疑いようもない という事か・・・)



 ・・・・・・

 ・・・



「あ、ありがとうございます」


 助けられた金髪の少女は、助けてくれた赤髪の少女に礼を言う。


「いやぁ、気にしなくていいよ!これも勇者を目指すボクとしては当たり前の事だから」

「え?もしかして貴方は勇者養成学園の方ですか?」


「え?いや、ボクは今年から通うことになっているんだよ」

「そうなんですか!じゃあ、私と一緒ですね」


 どうやら二人とも、シャイルと同じく勇者養成学園の新入生らしい。


「君も!?同級生だったんだね!あ、だったらボクは余計な事をしたのかな?」


 勇者養成学園に入る為には、例え専門が魔法であったとしても最低限の接近戦が出来なければ受かる事が無い。


 そのため、学園に受かる者であれば、一般人程度なら普通に倒す事も可能なのである。

 それが故に、絡まれていた少女が一人でも解決出来たのでは無いかという事を懸念したのだ。


「いえ、助かりました。1対1ならまだしも、あの人数を相手にするのは私には厳しいので・・・」


 自分が余計な事をしたのではと不安になっている赤髪の少女に、金髪の少女は素直に感謝の言葉を述べた。


「そっか、よかった・・・あ、ボクはシフォン!これから宜しくね」

「私はティラです。宜しくお願いします」


 赤い髪の少女がシフォン、金髪の少女がティラ。

 二人は倒れているシャイルそっちのけで話が弾んでいる。

 互いに自己紹介を済ませた所で、シフォンがクルッと振り向いた。


「で、そこの君はいつまでやられたフリ(・・・・・・)をしているんだい?」

「・・・・・」


 シフォンが声をかけた相手は、倒れたままのシャイルに対してである。

 それまで放置されていたシャイルは、声を掛けられてノソノソと起き上がる。


「・・・やられたフリって、実際やられていたんだけどなぁ」


 そして、シフォンの言葉を訂正した。


「ふふ~ん、ボクの目は節穴じゃないよ?君がその人達に突っ込む直前に見かけたけど・・・君、横から走って来る人に、わざとぶつかられるように動いて、そしてぶつかられた後は、この()に絡んでいた男達の方に行くよう計算して動いていたよね?」

「そんなわけないだろう?偶然だよ、偶然」


 何を言っているんだ、と言わんばかりの態度でシャイルは答える。


「しかも、この娘に絡んでいた男に不可抗力でぶつかったように見せておきながら、急所に一撃いれていたよね?」

「いやいや、そいつが起きなかったのは、たまたま打ち所が悪かっただけだろう?」


 シャイルの言葉を無視するように話を続けるシフォンに、それでもシャイルは負けじとツッコミ続ける。


「その後、殴られている時も全て受け流していたよね?」

「何言ってんだよ。ほら、口からも血が出てるじゃないか」


 シャイルは口から流れる血を指で拭い、それをシフォンに見せ付ける。


「そりゃあ、実際に殴られているわけだしねぇ」

「そうだろう?だったら・・」


「表面上は傷を負っていても、実際のダメージは全くないと思うんだけど?」

「・・・」


「当たったと同時に、その方向に顔や体を流していたよね?一瞬でも当たっているわけだから、音もするし多少の傷も出来るのだろうけど、ダメージそのものは全く受けてないはずだよね?」

「・・・その目は節穴だな。買い被りすぎだ」


「もう、なんでそこまで隠す必要があるのかなぁ?・・・あ、だったら!」


 シフォンは何かを思いついたようで、にこっと笑ってシャイルを見た。

 そして次の瞬間。


 バコッ!!


 シャイルの顔面を思いっきり殴った。

 かなりの力で殴られたようで、シャイルは数メートル先まで吹っ飛ばされていた。


「あ、あれ?軽くない・・・」


 殴ったシフォンは困惑気味に、握り締めた自分の拳とシャイルを交互に見ていた。


「いってぇ!何するんだよ!!止めを刺す気か!?」


 吹っ飛ばされたシャイルは、起き上がりながらシフォンに怒鳴った。


「あ、あははっ・・・ごめん!本当に受け流しているのであれば、殴った時に軽く感じるはずだと思って・・・」

「ったく、そんな勝手な憶測で人を殴るんじゃない!お前の拳は下手をすれば死んでいるぞ!?」


 殴られた頬をさすりながら抗議をするシャイル。


 学園に通えるほどの者、特に近接戦闘を得意とする者であれば、常に鍛えているので武器を使わずともそれなりに強い。

 なので一般人(・・・)を相手にした場合、加減を間違えると致命傷になりかねない。


「あ、あははは・・・本当にごめん」


 その致命傷に成りかねない一撃を喰らったにも関わらず平然と (顔には豪快に殴られた跡はあるが)立ち上がるシャイルに対し、謝る事に必死なシフォンが気づく事はなかった。


「もういいよ、俺もそこまで気にして無いし・・・俺にもう用はないだろう?じゃあ行くからな」


 本当に申し訳なさそうにするシフォンを尻目に、シャイルはこれ以上余計な事が増える前に宿へ戻ろうと踵を返した。


「あっ!」

「ねえ、君!君の名前を教えてよ!」


 ティラが小さな声を上げた後に続いて、シフォンが思い出したようにシャイルに名を尋ねた。

 シャイルはその声に応える事は無く、ただ片手だけを振ってそのまま立ち去った。


 シフォンがシャイルに言っていた事は間違いではなかった。


 男達の方に吹っ飛んだ時の事も、殴られていたときの事も全て言い当てられていた。

 そのため、別に隠す必要があるわけではないのだが過剰に期待感を持たれても困ると考えたシャイルは、シフォンの意図を感じ取ったシフォンの一撃だけはまともに受けたのだ。


 致命傷となる一撃を喰らったにも関わらず平気だったのは、鍛えているからという事も無くはないが、男達に殴られていた時に流していたのとは違い、まともに喰らいながらも若干ポイントをずらしていたからだ。


 ただ、男達の暴行をまともに受けた方がダメージは少なかったかもしれないと、シャイルが後悔したのは言うまでも無い事である。




 ☆




「お礼・・・言えなかった・・・」


 シャイルが立ち去った後、ティラがボソリと呟いた。

 暴行を加えていた男達は既に、事情を伝えた上で警備に突き出されている。


「ん?お礼?」

「はい。彼はシフォンさんが言っていた通りだと思うんです。きっと、私を助ける為の行動だったんだろうって・・・」


「うん、そうだよねぇ。ただ、彼はあの人達を簡単に倒す事が出来たと思うんだけど、なんでそれをせずにあんな周りくどい事を・・・」

「わかりません・・・でも、少なくとも私を囲んでいた人達の注意が、彼に向けられた事には違いありません」


「そうだね。まあ、きっとまた出会えるよ。その時にお礼を言えばいいんじゃないかな?」

「はい、そうですね!」


「あ、そうだ!それとボクの事はシフォンでいいよ!敬語もなしで!」

「え、あ、はい!で、では、シ・・シフォン。私の事もティラで構いません」


「わかったよ、ティラ!敬語も無しって言ったじゃない」

「これは口癖のようなものなので、そう簡単には変えられません」


「そっかぁ、まあ仕方ないか。それはともかく・・・これからの学園生活、一緒に頑張ろうね!宜しくね、ティラ」

「はい、頑張りましょう!こちらこそよろしくお願いします!シフォン」


 シフォンとティラは、これからの学園生活を互いに頑張る事を誓い握手を交わした。






学園都市セントヘプタグラム:ローエンデルバ共和国にある都市の一つ。本作の舞台。


シャイル(シャヘル):本編主人公

シフォン:勇者志望の新入生

ティラ(ティラミス):回復役(ヒーラー)志望の新入生


名前の横の()内は名前の元となっているものです。

見てすぐにわかる物は載せません。


ちなみに主人公シャイル以外は、

女生徒はスイーツ系の名前、

学生以外の女性は花、

男子生徒は犬猫の種類、

学生以外の男性はその他の動物

から名前を使っております。

なので誰かわからなくても、名前だけで性別・生徒かどうかが一目でわかるようになっています。


感想・意見・要望などご遠慮なくよろしくお願いいたします。


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