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2-6 のらりくらりのシャイル

 


「それで?一体どういうことなのか説明してくれるんだよね?」


 シェットラン達が去り、スコティーとシャイルも落ち着いた頃を見計らい、シフォン達が近づいてきた。


 それぞれが疑問を顔に浮かべている。

 タルトはシフォン達4人とは違う疑問を持っているようだが。

 プディンに関しては、何も考えていないかの如く、いつものようにニコニコしている。


「聞きたい事がありすぎるけど、さすがにボクが口を挟める雰囲気でも無かったし、何も聞けなかったんだからさ」


 シャイルは驚いた。

 シフォンが雰囲気を察するという芸当が出来る事に。


「ちょ、ちょっと!何、意外そうな顔をしてるんだい!?」


 それは言わぬが華だろうと、シャイルは口を(ツグ)みながら顔を背ける。


「な、なんで顔を背けるんだよ!?」

「まあまあ、シフォン。それでは話が進みませんよ」


 このままでは一向に話が進まないと、ティラがシフォンを諫める。

 シャイルは上手くシフォンを乗せられたと思っていたのだが、さすがに無理があったかと溜息を吐く。

 まあ、こんなことで上手く乗せられるのはシフォンくらいであろう。


「でも、シフォンが聞こうとしていたのは、私達の只の好奇心です。シャイルが言いたくないのであれば、無理に聞く事はしませんので」


 ティラは自分も気になっているにも関わらず、シャイルの気持ちも考えてそう口にする。

 その言葉は有難く、本来なら素直に受け取り立ち去る所だ。

 しかし・・・


「ありがとな、ティラ。本当だったら、何も言わずに立ち去りたいんだが・・・」


 そう言うシャイルの目は、ティラから横に流れる。

 その視線の先には・・・


「お疲れ様ですね、シャイル君」

「え?フランボワー生徒会長!?」


 シャイルの視線と、背後から聞こえた声を確認するべく振り返ったシフォンが、その姿を確認して驚いている。

 誰もが虜にされそうな笑顔で、ゆっくりと近づいてくるフランボワーの姿があったからだ。


 そしてもう一人・・・


「シャイル君、お・つ・か・れ・さ・まっ!」

「それに、Aクラス担任のアルストロメリヤ先生まで!?」


 何やら妖艶な雰囲気を纏わせ、こちらも笑顔で近づいてきたアルストロメリヤ。

 彼女は1年Aクラスの担任であり、Jクラスである彼女達には今の所は接点がない。


 それでも、彼女の剣技は教師の間でも一目置かれていると噂されている存在であり、シフォン達が知らないわけがなかった。


 生徒会長のフランボワー、担当のクラスが違うアルストロメリヤ。

 この二人が、なぜこの場に居て、なぜシャイルに声をかけるのか、この場にいる皆が疑問を抱かずにはいられなかった。


「あら、ごきげんよう、メリヤ先生。先生もいらっしゃったんですね」

「こんにちは、フランさん。あなたこそ、わざわざ見に来ていたのね」


 シャイルは白々しいなと思った。

 この二人が、あの程度の穏形を見抜けないはずが無い。

 互いに存在を確認しながら、今初めて知ったと言わんばかりの態度で接している。


 そして二人とも、シャイルが二人の存在に気がついていた事もわかっている。

 それでも一縷(イチル)の望みをかけて、シャイルもそれに乗っかる事にした。


「生徒会長とメリヤ先生も来てたんですか。全然気がつきませんでしたよ」

「ええ、学園内で決闘が行われると聞いては、問題が起きないように生徒会長である私が、確認しないわけにはいきませんからね」


 フランボワーの取り繕った言葉には説得力がある。

 しかし建前と本音は違うだろうと、シャイルは内心舌打ちをする。


「最近シャイル君が会いに来てくれないから、私の方から会いに来たのよ~。こういう時でもないと、気軽に会えないものね」


 そして、アルストロメリヤのその言葉は教師としてどうなんだ?と、こちらには溜息を吐く。

 もちろん彼女も、それだけが目的では無い事は明らかだ。


「あら、先生?生徒一人に、そんなに肩入れしてしまってもよろしいのですか?」

「もちろん生徒には平等よ。ただプライベートに関しては別じゃない?もう授業が終わったから、今はオフの時間なのよ」


 二人はなぜか、笑顔で火花をちらしている。


 もちろんフランボワーにとってアルストロメリヤは、強さにおいては最も尊敬できる教師である。

 だからこそ、普段の教師らしかぬ態度に許せない部分があった。

 とは言え、全く許せないと言うわけでもなく、張り合うという程度ではあるが。


 そしてアルストロメリヤからしてみれば、可愛い生徒が突っかかってくる様子がまた可愛いらしく、意地悪をしたくなるらしい。


 シャイルは、何だかよくわからないが今の内にと考え、そそくさと足早に去ろうとする。


 が、そうはいくかと、いろんな部分が押さえられ行く手を阻まれる。


 あれ~?

 人の手って、一人にこんなに沢山あるんだったか?


 とシャイルが馬鹿な考えに至る程、身体を抑える手の数が多い。


 シャイルが考える様に、一人だけに抑えられている訳では無いのだから当然だ。

 両腕に各2本ずつ、背中から抱きしめられるように伸びる左右の手、服の裾を軽く引っ張られる感覚、両足を捕んで居いる手。


 今自分の身体はどんな状態になっているんだ!?と疑問を抱かずにはいられない状態だ。


 シャイルは振り返ってみると、左腕をフランボワーとアルストロメリヤが掴み、右腕をシフォンとショコラ、背中から抱きついているのはプディン、両足を押さえているのはタルト、裾をちんまり摘まんでいるのがティラであった。


 と、シャイルを抑えていたのは、この場にいるほぼ全員だったのだ。


 明らかにタルトは面白がってやっているようだ。


 プディンに関しては、何も考えていなさそうな笑顔で抱きついていた。

 ただ、皆がやっている事が楽しそう、というだけの理由だと考えられる。


 そして極めつけに、その様子を見ていたエンゼルランが「とぉ~」と言いながら正面から抱きついてくる。

 こちらは、ただ単に楽しそうと、そして自分だけのけ者にするなという感じである。


 他の連中は間違い無く、色々と説明を求めているため。その説明も無しに逃げるなと笑顔で訴えている。

 ティラに関しては、説明してほしいが皆のように強くは出来ず、軽く俯きながら(ササ)やかな主張をしている事が窺えた。


 さすがにスコティーは参加せず、頬をかきながら「あ、あはは・・・」と乾いた笑いを浮かべているだけであり、ヴェリーに関しては気になる事があるものの、さすがに参加するのは躊躇われたようだ。


「聞きたい事が多すぎて、何から聞けばいいんだよ・・・ああもう、面倒くさい!ということで、どういう事なんだい!?」


 シフォンは思考を放棄した。

 いや、面倒くさいのはこっちなんだが、とシャイルは思う。


「何がどういう事なんだよ・・・」

「え~と、それは・・・あれと、それと、これだよ!」

「どれだよ!!」


 完全に思考を放棄したシフォンに聞いた自分が馬鹿だったと、シャイルは溜息を吐いた。

 それよりも、いい加減手を離してほしいと考える。


「なあ、いつまで俺はこの状態なんだ?」


「離してもいいけど、逃げないよね?」

「もちろん、逃げる理由はありませんよね?」

「シャイル君が私から逃げるわけないわよね~」


 シフォン、フランボワー、アルストロメリヤがシャイルの逃げ道を塞ぐように発言する。


「はあ、わかったよ・・・」


 シャイルがそう言うと、徐々に手が離れていく。

 しかし・・・


「・・・なあ、いい加減離してくれないか?」


 なぜか、3人だけ未だに離してくれない。


「い~や!私だけのけ者にした罰だよ!」

「いやエンジー、のけ者とか意味わからないんだが・・・」


「いやだよ~!だって、なんか楽しそうなんだもん~」

「プディンお前・・・空気が読めるんだか読めないんだか・・・」


「うむ、確かにこんなシャイルを見る事は、中々あるものじゃないからな」

「タルトまで何言ってんだよ・・・お前はそういうキャラじゃなかっただろ・・・」


 シャイルは突っ込むのも疲れてきた。

 しかし意外な事に、タルトがかなり楽しそうだ。


 昔の彼女からしてみれば、あり得ない事であり、シフォン達との出会いが良い方向へ向かっているのかもしれないと、シャイルは嬉しく感じていた。


 が、それとこれとは別の話。

 両腕が自由にはなったものの、未だに前後を挟まれ足をホールドされた状態である。

 いい加減離してほしいとシャイルは願う。



 少し経って、ようやく他の連中から無理矢理ベリッと引き剥がされた事で、シャイルは完全に自由を取り戻した。

 そしてシャイルが逃げない事を確認したシフォンが、再び口を開く。


「さて、じゃあ何から聞こうかな?」

「まずはこの状況からよ。アナタはフランボワー生徒会長とアルストロメリヤ先生と知り合いみたいだけど、それはどうしてかしら?」


 口を開いたはいいが、結局質問がまとまっていなかったシフォンに変わり、ショコラが代わりに質問する。


 シャイルが学園に入学するために、この都市に来た事は皆知っている。

 それなのに、生徒会長であるフランボワーと、クラスが違う為に接点がないはずのアルストロメリヤが知り合いである事を不思議に感じていた。


「別に、生徒会長とは入学式の時に偶然会っただけだし、メリヤ先生はエンジーと仲が良いらしいから、その関係で知り合っただけだ」


 正確ではないが、嘘でもない。

 細かい説明が面倒だったシャイルは、かいつまんで説明している。


「まあ、偶然だなんてつれないですね。シャイル君」


 確かに、明らかにマークされていたのだから偶然ではないが・・・とシャイルは思い、それを本当に言っていいのか?と疑問に思っていると・・・


「あれは、偶然ではなく、運命なのです!」

「はあっ?」


 あまりに予想外すぎる発言で、シャイルは素っ頓狂な声を上げてしまった。


 意味がわからなさすぎる。

 何をどうすれば、あれが運命だと言えるのか全くもって理解できない。

 と、シャイルが悩んでいると・・・


「んもう~、シャイル君たら意地悪な子ね」

「はっ?」


 アルストロメリヤはアルストロメリヤで、訳のわからない事を言い出す始末。


「知り合いだなんて・・・シャイル君は私の・・・あんな所に顔を(ウズ)めるような仲じゃない」

「「「「はあああああ?」」」」

「・・・・・・」


 アルストロメリヤが身体をクネクネさせ、顔を赤くさせ上目遣いにシャイルを見ながら、とんでもない事を言い出す。


 その発言に、数人が驚きの声を上げる。

 シャイルもその内の一人である。

 そしてティラは、真顔で何も言えず呆然としてた。

 エンゼルランは事の経緯を知っているため、成り行きを笑顔で見守っている。


「ちょ、ちょっと待て!一回、全員落ち着け!特に生徒会長とアリーは黙ってくれ!」


 シャイルはこれでは収集が付かないと、皆を落ち着かせようとした。

 しかし、焦ってしまった為に、アルストロメリヤを愛称で呼んでしまった事が、更に火に油を注ぐ結果となってしまった。


 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・


 しばらくして、当初の目的も忘れ、シャイルと二人との関係に対して質問攻めをしていた連中を、どうにかこうにか収める事が出来た。

 その時点でシャイルは疲れ切ってしまっていた。


 もう帰りたいと思うシャイルとは裏腹に、意外とお茶目なフランボワーと悪戯好きなアルストロメリヤは満足げに微笑んでいる。

 なんだかんだ言いながらも、意外と仲が良いらしい。

 シャイルにとってこの二人は、ある意味で混ぜるな危険、と心のメモに刻み込んだ。


「さて、おふざけはもう良いだろう?二人も、さっきの理由でここに来たわけがないでしょう?」


 シャイルはこの場にいる全員を見渡し、そして本来ならこの場にいるはずの無い二人に目を止めている。

 とはいえ、シャイルには二人がこの場にいる理由がわかっている。

 彼女達はシャイルがどのように戦うのか、そして力の一端を少しでも暴こうとしているのだと。


 だから、聞いたものの彼女達からの返事を確認せずに、更に言葉を続ける。


「それで、何が聞きたいんだ?」


 再びシフォン達の方を向いた。

 シャイルは、聞かれた事には答えるが、自分から話すような事をするつもりはない。

 フランボワーとアルストロメリヤは色んな意味で侮れないため、質問はシフォン達にさせる方がいいと判断したのだ。


「そうだね・・・シャイルが何を思ってシェットランからの決闘を受けたのか、それは見ていて何となくわかったからいいとしても・・・」


 シフォンは勉強したりごちゃごちゃ考えたりする事が苦手と言うだけで、別に頭が悪いわけでは無い。

 むしろ、洞察し物事を導き出すという観点に限っては、人よりも優れていると言ってもいい。


 だから、スコティーとシェットランとの間に何があったのか、シャイルが何を目的としていたのかは、聞かなくても大体予想がついていた。


 だから、シフォンが一番聞きたい事を質問する。


「シャイルは、なぜ無詠唱で魔法を使えるんだい?」


 それが、シフォンだけでなく皆が知りたい事であった。

 もちろんそれは、スコティーも例外では無い。

 むしろ彼が一番聞きたかったのかもしれない。


 フランボワー、アルストロメリヤ、エンゼルランは、シャイルが無詠唱で魔法を使った時には驚いたものの、何か納得するようでもあった。

 それでも、なぜ使えるのかは知りたいと考えてはいるようだが。


「それについては、別に対した理由じゃ無いさ。その程度が出来なければ、俺は生きてこの場にはいなかったというだけだ」

「・・・・・」


 シャイルの言葉を聞き、この場にいた誰もが口を開けずにいる。


「ああ、あんまり深刻に考えなくていい。見ての通り俺は大した強くないからな。俺は各地を廻る旅をしていたんだけど、途中で魔物や盗賊などに襲われるのは日常茶飯事だった。回避して逃げているだけだと、多勢に無勢で中々に厳しい。だから魔法が必要になる、とは言えその時に詠唱なんてしていたらその間にやられてしまうから、必然的に無詠唱で魔法を使えるように成らざるを得なかったと言うだけだ」


 シャイルは自分自身について、詳しく教えるつもりは全くない。

 だからといって、嘘を付くつもりもない。

 嘘をついてしまえば、必ずどこかでボロが出てしまうからだ。


 そのため、真実を含ませつつねじ曲げて話している。

 従って、今シャイルが皆に語って聞かせた話は、正しいとも言えるし正しくないとも言える内容である。

 しかし、それがわかる者はシャイル以外にいるわけがないので、その話を聞いた皆は納得したような顔をしていた。


「そうなんだね・・・じゃあ、決闘の開始直後に指を鳴らしていたみたいだけど、それが魔法の発動条件ってことなのかい?」


 さすがにしっかり見ているなと、シャイルは感心する。


「確かにそうだけど、それは正確ではないな」

「??」


 シャイルの言葉に、シフォン達は疑問の表情を顔に浮かべる。


「無詠唱で魔法を使う為には、使う魔法・効果・座標・ベクトル全てを明確にイメージ出来る事が大前提だ。それが出来た上で、キーワードもしくはキーアクションをトリガーにして魔法を発動することが可能になる。だから無詠唱魔法の発動条件が、必ずしも指を鳴らす事という訳ではないんだ。ただ俺は、楽だし手っ取り早いと言う理由で、指を鳴らす事をトリガーにしているけどな」


 その話を聞いて、魔法が得意であるティラやショコラですら、ひたすら感心していた。

 彼女達の魔法は詠唱ありきでしか、魔法が使えなかったからだ。


「まあ、この辺りの詳しい話は俺なんかよりも、生徒会長かメリヤ先生に聞くか、もしくはそれ以上に詳しいだろうエンジーなんかに聞くのがいいんじゃないか?」


 シャイルは今までの仕返しとばかりに、3人の名前を出す。


 名前が出された3人は、驚きに目を見開いた。

 なぜなら、3人とも無詠唱魔法が使えるとは一言も言っていない。

 それどころか、ここに居る者達の前では、まだ魔法を使う所を見せた事すら無い。


 それにシャイルは、無詠唱魔法は使えるようになるための説明をさらっとしているが、実際に全てを明確にイメージすることなど、生半可に出来る事では無い。

 事、人族(ヒューマン)に限ってはなおさらである。


 それは魔法を武器職とした者であれど、人族ならば同じ事。

 上級魔道士(ハイウィザード)上級治癒魔法士(ハイヒーラー)でも、使える者はほとんどいない。

 それこそ、アーク以上のクラスに成れる実力者であれば別だが。


 もちろん魔法を武器職とした者以外にも、無詠唱魔法が使える者もいるが、それこそ極わずかなのである。


 にも関わらず、シャイルは3人が無詠唱魔法を使えると暗に告げているのだから、驚かないわけがないだろう。


「ね、ねえ、シャイル君?どういう事かなぁ?私は只の管理人ですにょ?」


 エンゼルランは目を泳がせながら、冷や汗をダラダラ流しつつ、誤魔化そうとして敬語を使ってしまった結果、思いっきり言葉を噛んでしまう。

 管理人である自分が、そんな高度な技術を持ち合わせているわけがないでしょ、と言いたいらしい。


「そ、そうですよ。確かにランさんや、メリヤ先生ならまだしも・・・どうして、私が無詠唱魔法を使えると思うのですか?」


 フランボワーはエンゼルランほど焦ってはいないとは言え、動揺は隠しきれないでいる。

 フランボワーもエンゼルランとアルストロメリヤが、無詠唱魔法を使っている所を見た事があるわけではないが、それでもこの学園の教師や管理人を任される程のものであれが、それも可能だろうと考えての発言だ。


「それなら私もそうよぉ。私は剣だったらそれなりに得意だけど、魔法はそんなに使えないのよ?」


 アルストロメリヤはそれなりと謙遜しているが、先にも述べたが剣の腕に関して学園の中では、教師も含めて一目置かれる存在である。

 ただ、剣に関しては周知であっても、魔法に関しては使っている所を見た事のある者がほとんどいないのが現状だ。


「いや、只の勘だよ。でも、あながち間違っていないだろう?」


 シャイルはにやりとした笑みを浮かべる。


 もちろん勘などではない。

 シャイルの洞察により導き出された確実な結論である。


 3人の身体に流れる魔力の質が、あまりに綺麗過ぎる。

 そう、異常なほど綺麗なのだ。


 通常では多少魔力操作・制御が出来る者であったとしても、必ず少しは乱れが生じる。

 乱れが生じるという事は、淀みや漏れなども生じてくる。

 その乱れが一切無く、淀みも無く、漏れもない。


 となれば、魔力操作・制御が完璧であり、魔法に長けているという揺るぎない証拠なのだ。

 それ程の者が、無詠唱魔法が出来ないという事の方が不自然極まりないのである。


 それをシャイルは感じ取っていたのだ。


 ただ、エンゼルランに関しては魔法の武器職だろうと考えているため、出来て当たり前くらいで捉えている。

 しかし、他の2人は魔法が専門ではない上、フランボワーに限ってはまだ学生だ。

 にも関わらず、そこまで魔力操作・制御を出来る事に、シャイルは感心していた。


 それだけの事を感じ取りながらも、正直に話してしまえば更に面倒くさい事になると考え、勘と適当に答えるに留めた。


 ちなみにシャイルの魔力は3人と違い、かなり乱れているように(・・・・・・・・)感じる



「・・・誤魔化しても無駄のようね。まあ、別に誤魔化す必要も本当は無いのだけれどね」

「そのようですね。シャイル君には完全にわかっているようですね」

「私は只の管理人ですもにょ!」


 アルストロメリヤとフランボワーは、溜息を吐きながら素直に認める。

 諦めの悪いエンゼルランは未だに誤魔化そうとして、また噛んでいる。

 そして・・・


「まあ・・でも、私はさっき言ったように、使える魔法は少ないし詳しくはないわよ。エンジーに教えて貰っただけだもの」

「私も魔法に関しては、ランさんと比べるのもおこがましい程、雲泥の差がありますね」


 と、二人は「うふふっ」と笑いながら逃げに入り、エンゼルランに押しつけようとする。

 それは、話を聞いていたシフォン達が、目をキラキラさせながらにじり寄ってきたからだ。


「えっ?あっ?うっ!」


 人身御供にされそうになっているエンゼルランは、あまりの事に言葉を上手く発せずにいる。


「まあ、確かにエンジーは並ではないな。おそらく「わあああああ」・・むぐっ!」


 シャイルが話しかけた所で、エンゼルランが大声を上げながらシャイルの口を手で塞ぐ。


「ちょっと、シャイル君・・・後でじっくり話をしようか?」


 シャイルの口を押さえながら、笑顔のエンゼルランがどす黒いオーラを纏いながら小声で呟いた。


 またしてもシャイルは、選択を誤った!?と思っていた。

 なんかいつも、選択を間違ってしまっている気がするシャイルである。


 その間にもシフォン達、特にティラとショコラが目をキラキラさせながら、フランボワーとアルストロメリヤに話を聞こうとしていた。


「あ、そうでした。私はまだ生徒会の仕事が残っていたのでした。ですので、この話はまた今度という事で」

「私も、まだ事務作業が残っていたのを思い出したわぁ。今度、時間のある時にお話しましょう?」


 そう言いながら、二人は手を振りながらそそくさと去って行った。


 シャイルにとって当面の問題が残っているとはいえ、ある意味やっかいな二人がいなくなった事は作戦成功であり、心の中でガッツポーズを決める。

 そして、その当面の問題も、あらかた解消される事となる。


「ランさん!是非ご教授お願い出来ますか!?」


 未だにシャイルの口を塞いでいたエンゼルランに、ショコラを先頭にシフォン達も詰め寄って行ったからだ。


 ただしティラと、目的は完全に別だがプディンとタルトはシャイルの側に来ていた。


「あの、シャイル・・・私に無詠唱魔法を教えていただけますか?」


 ティラは遠慮がちに目をウルウルさせながら、身長差による上目遣いでお願いする。


「あ、ああ、俺で教えられる範囲でなら構わないけど・・・」


 さすがにそんな表情をされてしまっては、いくらシャイルでも邪険には出来なかった。


「本当ですか?ありがとうございます!?」


 断られるかもしれないと思っていたティラは、シャイルがOKを出した事で、満面の笑みを浮かべていた。


「まあ、今度な。その代わり、他のやつらにはあまり言わないでくれよ?」


 これ以上の面倒事は御免とばかりに釘を刺す。


「はい、わかりました!」


 ティラが素直に返事を返したとで、シャイルは少し安心した。


「あ、じゃあ私も、私も~!」

「うむ、もちろん私にも教えてもらえるのだろう?」


 二人の遣り取りを見ていたプディンとタルトまで、ここぞとばかりに教えを請おうとする。


「いや、お前らは必要ないだろが!特にタルトなんて、意味ないだろうが!」


 天人族も魔族も、基本的には魔法に長けた種族である。

 特に人族と魔族の使う魔法は似ているため、現在シャイルが使える程度の魔法がタルトに使えないわけがないのだ。


 しかも理論ではなく、感覚として魔法が使える彼女たちに教える事など何もないのである。

 只のノリで言ってくる2人に頭を悩ませるシャイルであった。



 そして・・・


「ワタクシもうずうずしてまいりましたわ!まだ訓練所の使用時間は残っておりますわよね?シェットラン達が去ったのだから、ワタクシが使っても問題ありませんわよね?でしたらシフォン、ワタクシの相手をしてもらいますわよ!」


 シャイル達の決闘を見ていたクラスメイトの内の1人であるエクレイアが、シャイル達の遣り取りをいつ終るのかと遠巻きに見ていたのだが、もう我慢できないとばかりにシフォンに近づいてきて手合わせを誘う。


「うん、いいね!よし、やろうか!エクレイア」


 エンゼルランに詰め寄っていたシフォンであったが、後ろからかけられたエクレイアの提案に、嬉しそうに同意する。

 2人の間には、以前のような刺々しい感じが無くなっている。


 その2人を皮切りに、スコティーはヴェリーと始め、この場ではエンゼルランから何も聞き出せなかったショコラはティラや、プディン、タルトを誘って手合わせをしていた。


 なんだかんだで、うやむやになって安心したシャイルは1人この場を後にする。

 それに気づいたエンゼルランも、逃げるように後を追っていったのだった。


 その後シャイルが、エンゼルランに問い詰められたかどうかは定かではない。




登場人物

シャイル:謎多き主人公

スコティー:シャイルと同室でクラスメイトの少年。剣士(フェンサー)

シフォン:勇者を志すクラスメイトの少女。剣士

ティラ:シフォン・シャイルに助けられたクラスメイトの少女。治癒魔法士(ヒーラー)

ショコラ:ティラの双子の姉でクラスメイト。魔道士(ウィザード)

ヴェリー:シフォンと同室でクラスメイトの少女。槍士(ランサー)

プディン:シャイルと知り合いの天人族でクラスメイトの少女。武器職無し

タルト:シャイルと知り合いの魔族でクラスメイトの少女。双剣士(クロスセイバー)


シェットラン (名前のみ):スコティーと同郷で目の敵にしていたクラスメイト。剣士


エクレイア:シフォンに突っかかってきたクラスメイトの少女。剣士


フランボワー:3年生で生徒会長を務めている。


エンゼルラン:学園寮の管理人を務めている女性。見た目は幼いが歴とした大人。通称、エンジー、ラン

アルストロメリヤ:学園の教師を務める女性。エンゼルランとは仲が良い。通称、アリー、メリヤ先生


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