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2-5 シャイルとシェットラン

 


 放課後。


 寮に着いたシャイルは、シェットランの指定した学園寮の室内訓練所へと向かう。


 その隣にスコティーが居る事は間違い無いのだが、なぜか反対側にはエンゼルランまでもがいる。

 仕事はいいのかと思いながらも、前回の事を考えると付いてこない訳が無いと最初から諦めていた。


 それと、寮に入った時点で男女分かれる事になっているため一緒にはいないが、シフォン達も室内訓練場へと向かっている。

 シフォン達についても、授業の時のやりとりを見られているのだから仕方が無いと、シャイルは割り切る事にした。


 室内訓練所に着いてみると、そこにはすでに数人の見物人がいた。

 シフォン達と同様に、授業でのやりとりを見ていたクラスメイト。

 そして、どこから聞きつけたのか、シャイルにとって最もやっかいだと思わせるフランボワーの姿まであった。


 しかもご丁寧な事に、シャイルに初めて声をかけた時の様に、隠蔽・穏行のスキルもしくは魔法を使用し、存在を希薄化させている。

 現に、周りに居る数人のクラスメイト達は、彼女の存在に気づいていない。


 そのフランボワーに気づいて目を合わせてしまった事に、シャイルは軽く舌打ちしてしまう。

 当のフランボワーはシャイルと目が合うと、ニコッと微笑み軽く手を振っている。


 それを無視してさらに周りを見ると、こちらもフランボワーと同じように存在を希薄化させたアルストロメリヤもいた。

 授業中の出来事だから、どこからか聞きつけたかエンゼルランから聞いて、飛んできたのだろう。


 エンゼルランもエンゼルランだが、こっちもこっちで学園の仕事はいいのかよと思いながらシャイルは肩を落とす。


 良い見世物だな・・・とシャイルは溜息を吐いていた。


 シャイルは正直、これだけ見物人がいる中で自分の力を見せるような事はしたくないが、今回は目的の為に仕方が無いと考えた。

 それに、勝負を長引かせるつもりもないし、見られた所で構わないものしか使うつもりはなかった。


 周りの状況を確認したシャイルは模擬剣を手に取り、すでに到着して準備を終えていたシェットランへと足を向ける。

 一緒に来たスコティーや入り口で分かれて来たシフォン達は、シャイルから離れ邪魔にならない位置へと移動していく。


「悪いな、待たせたか?」

「いや、身体を温めておくのに丁度いい時間だったぞ。まあ、お前にはそんな時間を与えてやるつもりはないがな」


 シャイルがシェットランに声をかけると、嫌らしい笑みを浮かべながらそう答えた。


「ああ、それは別に構わんさ」


 そのシャイルの言葉に、シェットランは隠す事無く舌打ちをする。


「それで審判はどうするんだ?」

「クラスの連中だと審判出来るほどじゃないだろうから、なぜかそこに居るランさんでいいだろう。・・・お前と仲がいいみたいだが、これだけギャラリーが居る中で不正は出来ないだろうしな」


 シェットランは、管理人であるエンゼルランが仕事を放り出してまでこの場に来ている事を疑問に思いながらも、クラスメイト以外、フランボワーとアルストロメリヤの存在に気がついていない為、彼女しか審判が出来る者がいないと考え頼む事にした。


 彼女の実力を見た事のある者はいないが、学園の関係者は全て実力者である事は周知の事実であるため、彼女が適任であるのは間違い無い。


 シェットランから名指しされたエンゼルランはそれを了承し、二人が立っている丁度真ん中あたりに進み出た。


「じゃあ二人とも、準備はいいかい?」


 その声に、シェットランは剣を両手で構え、シャイルは片手で剣を構えた。

 そして、二人が構え準備が整った事を確認したエンゼルランの声が飛ぶ。


「始め!!」


 開始の声と同時に、シャイルはシェットランに見えないように、剣を持っていない方の手で指を鳴らす。

 それに気がつく事無く、シェットランは先手必勝とばかりに突進した。


 ・・・つもりだった。


 シェットランは一歩を踏み出そうとした瞬間に足を滑らせ、前のめりに転んでしまったのだ。


「チェックメイト」


 四つん這いになるような格好になってしまったシェットランは、すぐに起き上がろうとするがそんな暇は無く、シェットランが足を滑らせた瞬間には既に駆け出して距離を詰めていたシャイルが、シェットランの首筋に剣を当てていた。


 それは始まってから3秒後の事だった。


 タルトやプディンを除いて周りで見ていた者は、理由は様々だが全員唖然としている。


「さすがにこの状態なら、審判の判定もいらないだろう?」

「くそっ!ふざけるな!こんなバカな事があってたまるか!シードック家である俺がこんな無様な負け方など・・・」


 シャイルに声をかけられ我に返ったシェットランが、未だ首筋に剣を当てられながらも大声で叫んだ。

 エンゼルランも、特に勝敗を告げる事も無く状況を見守っている。


「貴様!!俺に何をした!?」

「別にお前に何かしたわけじゃない。足元を凍らせただけだ」


 そう言われたシェットランは顔を後ろに向け足元を見ると、確かに氷で光が反射していた。


 この勝ち方はスコティーと模擬戦をしていた時に、搦め手を使えば勝てなくはないと言った手段の内の一つでもある。

 スコティーには、自信を植え付けさせないといけないと考えていたため、搦め手を用いてまで勝つ意味などなく、それは次の段階だと考えていた。


 しかし、今回は別だ。

 シェットランと真面目に戦う必要が無いシャイルは、最初からすぐに終わらせるつもりだった。


「ありえない!始まってから魔法を使う時間など無かったはずだ!だとしたら開始前に魔法を使ったのか!この卑怯者が!!」


 そう、シェットランの言う通り、本来であれば魔法を使うには詠唱が必要であり、例え初級魔法でもどんなに早く詠唱したとしても3、4秒は掛かってしまう。

 以前説明した事でもあるが、もし無詠唱で魔法を使う場合は非常に弱く、今回に併せて考えれば氷魔法を使ったとしても、せいぜい飲み物に入れる氷程度のものしか出せない。


 しかし、シャイルは間違い無く試合開始後に魔法を使っている。

 が、シャイルはその事に答えるでもなく、それ以上に気になった言葉を聞き返した。


「・・・卑怯?」

「ああ、そうだ!勝負に勝ちたいが為に剣の勝負に魔法を使い、さらには開始前から詠唱を唱えているんだからな!」


 自分が恥をかかされた事が相当頭に来ているようで、シャイルが卑怯な事をして勝ったのだと決め付けている。


 この件に関しても、エンゼルランは何も言う事はなかった。

 というよりも、シャイルが何をしたいのか、どのようにこの場を乗り切ろうとしているのかが気になっている。

 それが故に、シェットランが彼にどんな言いがかりを付けようと、口を挟むつもりはなかった。


「くっ・・・くくくっ・・・あ~はっはっはっはっ!!」


 シャイルはシェットランの言葉を聞いて、剣を鞘に収めながら盛大に笑い出した。


「何がおかしい!!」


 首から剣が離れたシェットランは、笑い出したシャイルの胸倉を掴んで詰め寄った。


「くくくっ、いや、悪い悪い。あまりにも面白い事をいうからさ」

「なんだと!!」

「いや、そもそも、お前が決闘を申し込んだ時に、剣のみでの勝負なんて一言も言って無かったよな?」


 そう実際、勝利条件などは決めていたが、魔法を使っては駄目だとは言ってはいない。

 勝負内容、それがシャイルの敢えて聞かずにいた事である。


「それに、お前は俺に卑怯だと言ったが、これが実戦だった場合でも同じ事が言えると思っているのか?」

「っ!!」


 胸ぐらを掴むシェットランの手が緩んだ事を受け、シャイルはその手を振り払いながら続ける。


「戦場に卑怯なんて言葉は存在しない。勝つ為・・・生き残る為にはどんな手でも使わないとならない。もし、自分がそういう事をしたくないと言うのであれば、相手の策を上回るだけの力が無ければ死ぬのは自分だ」

「・・・」


「お前が何になりたいのかは知らないけど前線に出て戦おうと考えているならば、常に実戦を想定しておく事。相手の一挙手一投足を見逃すな、周りの気配に気を配れ、全ての変化を察知出来るようにしろ」


 これはシェットランのみならず、戦場を経験した事のないスコティー達に向けても告げている。


「まあ、そもそも俺はお前の言う卑怯とやらは、使ってはいないんだけどな。魔法の使用可否は決めてないし、魔法を使ったのも開始後だからな」

「ぐっ!」


「それに卑怯というのなら、だ。剣のみの戦いにおいて、俺がお前より格下だという事をわかっていた上で挑んで来たのだろう?それは卑怯じゃないのか?」


 格下から勝負を挑むのであれば何も問題はない。

 しかし、明らかに格上の強さを持つ者が格下の者に挑んだ際、そのような絶対に勝てる相手に対して正々堂々と勝負しようという事自体がおかしいのだ。

 極端な事を言えば、大人が幼い子供に正々堂々と勝負しようと言っている程、馬鹿げた事である。


「まあいいや。で、どうする?お前の言うように、俺が卑怯な事をしたという事にして俺の負け・・・でいいのか?」

「あ、ああ・・・そうだ!お前は卑怯な事をしたんだ!お前の負けだ!」


 シャイルの言う事には重みがあった。

 しかし、今回に関してはただの決闘である。

 それに併せて考えれば、シャイルの取った戦法は褒められたものではないのだろう。


 ただし、彼らが通っているのは勇者養成学園である。

 この学園に通う者にとって、これから常に安全な戦いしかないわけがないのだ。

 常に実践を想定しながら訓練をしていかなければならない。


 ただ、見ている者やシェットラン本人からしてみれば、納得できる様な内容ではないだろう。

 しかしそれは、シャイルにとってはどうでも良い事である。


 そしてシェットランは、シードック侯爵家の嫡男というプライドにより、折れるわけにはいかなかった。

 その為、シャイルが自分から負けと言う言葉を使ったのを皮切りに、自分が勝ったのだという事にしようとした。


「そうか、それなら俺の負けだ。それで負けた俺は、お前が言っていたように跪き平伏せばいいのか?」

「そ、その通りだ!負けたお前は俺の前に平伏せ!」


 もう一度やると言われなかっただけマシであり。この程度の事シャイルにとっては大した事では無い。


「ああ、わかった」


 シャイルは言われた通り、シェットランの前に片膝をつき頭を下げる。


「――!!」


 言われた通り素直に行動したシャイルを見たシェットランは、少しだけビックリしたような顔をした。


「ちょ、ちょっと!そんなダサいこと止めなさいよ!アナタにはプライドってものがないの?」


 周りで見ていたショコラが大声でシャイルの行動を叱責した。

 その横では不安そうなティラの姿も見える。

 ショコラの声に対してシャイルは・・・


「プライド?ははっ、ショコラまで面白い事を言うんだな。何にプライドが必要なんだ?」

「はあ?アナタ何を言ってるのよ?今のアナタの行動によ!男がそんなに簡単に頭を下げるものじゃないわよ!」


「俺はこの程度の事に別に気にしちゃいないさ。・・・なあ、お前達は虫に刺された時、プライドに傷がつくか?俺にとってはその程度にしか感じていないんだよ」

「そ、それでも、人前でそんな事・・・今のアナタは最高にかっこ悪いわよ!自分でもそう思わないの!?」


「俺が周りからどう思われようと構わないけど、一つだけ忠告をしておくよ。まあ、相手やものにもよるが、自分の物差しで人の価値観を推し量り、さらに相手に押し付ける、もしくは否定するような真似はあまりしない方がいいだろうな。それは差別へと繋がり争いへと発展する可能性がある」

「ア、アタシは誰かを差別するとか、そんなつもりは・・・」


「お前にそんなつもりがあろうが無かろうが、そんな事は関係ない。発言を向けた相手がどう捉え、どう思うかが問題なんだよ。些細な一言で殺し合いにまで発展した光景など、俺は幾度となく見てきているんだ」

「・・・・・」


 先ほどのシェットランの時もそうだが、シャイルの発言にはどことなく相手を諭すような言い回しが多い。

 だがシャイル自身は、どんな相手でも絶対に解り合える、という理想論など持ち合わせてはいない。

 もし、そんな事が有り得るのであれば、争いなどは起こりえないからである。


 一人一人考えが違うのだから当然分かり合えない部分もあり、逆に考えが違うからこそ面白い部分だってある。

 むしろ皆が皆、同じ考えを共有するようになってしまう事の方が、ひどくつまらない世の中になってしまう事だろう。


 そう考えているシャイルは、自分の意見を言うのはいいけど押しつけるな、もしくは自分の言動には責任を持てという意味を含めて発言している。

 それについては敢えて言わないのだが、それこそシャイルが自分で言っていたように、捉え方は相手に委ねているのだ。


「お、おい!いつまで俺を無視しているつもりだ!」


 シャイルがショコラの方を向いて長々と話していた事に、いい加減痺れをきらせたシェットランが怒って口を挟んできた。


「ああ、悪かったよ、シェットラン様」

「お、おう、大分わかってきたようじゃないか」


「ええ、わかってきましたとも。シェットラン様、というよりはシードック家というものが・・・ね」

「なっ!」


「貴方にも忠告して差し上げましょう。貴方が個人で行った事に関しては、貴方に対する評価となります。ですが、そこに家名を持ち出すからには、その家名を背負うという事になるのです。つきましては貴方の行いは、全てシードック家に帰因致します」

「ぐっ!!」


 シャイルはわざと丁寧な言葉遣いをしながら、家名を出すからには家にも責任が伴う事を諭す。

 シェットランは拳を握り締め、プルプル震えながら怒りをかみ殺している。


「家名を持ち出すからには、それ相応の覚悟を持ちなさい。覚悟を持てないのであれば、家名を持ち出す事はやめなさい」


 シャイルは未だに敬語でシェットランへと忠告を続けている。


「と、まあ、偉そうな事を言ったけどさ、シェットラン・・・お前はお前だろう?」


 シャイルは急に口調を戻して、シェットランへ向けてそう口にした。


「お前が家を大事に思っている事はわかるし、家名を誇りにしている事もわかる。だけどな、そのせいで自分を追い込む必要はないんじゃないのか?」

「・・・な、何を・・言っている!?・・な、何のことだ?」


「本当は最初からわかっていたんだろう?スコティーがお前よりも強いって事をさ」

「そんな訳がないだろう!へっぽこが俺より強いはずがない!」


「まあ聞けよ。お前達二人の間に何があったのかは知らないが、想像できなくもない。おそらく二人が初めて対峙した時、スコティーが極度に緊張をしたか、もしくは貴族であるお前に遠慮して華を持たせようとしたかのどちらかだろう」

「・・・・・っ!」


「二人の関係を見ていれば、おそらく後者だろうな。貴族である自分では無く、シェットランとしての自分に本気で向かってきてほしかったお前は、馬鹿にされたと思ったんだろう。だから遠慮してしまったスコティーに腹が立ち、だったら望み通り身分の違いを見せつけてやろうとでも思ったんだろう?」


 スコティーはシャイルの言葉を聞きハッとした。

 それは、自分がシャイルに諭された時に言われていた事だったからだ。


「それが間違った方向に向かった上、引っ込みが付かなくなってしまったようだけどな」

「う、煩い!わかったような口をききやがって!お前に俺の何がわかる!!」


「さあな・・・さっきわかるって言ったのは表面上の事だけだ。お前の本当の心情なんて、お前以外は誰にも何もわからねえよ」

「くっ!くそっ!」


「なあ、一つ聞いていいか?」

「何だ!?」


「スコティーにも言える事だが、常に本当の自分を押し殺した生き方をしていて辛くないのか?」

「・・・・・」


 シェットランは、シャイルに全てを見透かされているようで苛立ち、言われた事が当たっているからこそ認めたくないと反発していた。


 しかし、シャイルから不意に聞かれたその一言で押し黙った。

 シャイルから言われた事で、ふと過去の事がフラッシュバックしたからだ。


 その思い出の中で、表面上は取り繕っていても本気で楽しんでいた自分はいない。

 スコティーを打ちのめした時も、表面上は楽しんでいるように見せてはいたが、心の奥底では苦しんでいた。


 というのも、本来のシェットランは強くなりたいと言う純粋な気持ちから剣士になっていたのだから。

 だから初めて出会った時、子供なりにも自分と同じ、もしくは自分よりも強いかもしれないと感じたスコティーに期待していた。


 そのスコティーが、明らかに手を抜いている事がわかった。

 それは自分をシェットランとしてでは無く、シードック家の者として見ていたからだと理解した。


 しかも、手を抜かなければならない程にお前は弱いのだと、スコティーに馬鹿にされているとも感じてしまった。


 屈辱だった・・・


 シェットランは憤慨した。

 スコティーを憎み恨み蔑んだ。


 だったら、お前の望み通り貴族である事を示してやろう!

 貴族である自分と、お前が対等な立場には立つ事は許されない!

 貴族である自分に、お前が勝つ事は許されない!

 貴族である自分に、楯突く事は許されない!


 そうした思考がシェットランを支配してしまった。

 純粋であったはずの心を見失ってしまった。


 それが故に、彼を苦しめてもいたのだ。


 本来、純粋な強さを求めていたはずが、こんなくだらない事をしているという現実。

 そこから目を背けている自分。

 その自分を騙すように、自分がやっている事は正当性があるのだと言い聞かす。


 それを繰り返している内に、もう戻れなくなってしまっていた。



 シャイルに「辛くないのか」と聞かれた瞬間に、それらを全て思い起こし、今まで強張っていた力がスッと抜けていく。

 立っていたシェットランは膝から崩れ落ちるように、身体が項垂れさせた。


「くそっ・・・ふざけるなよ・・・俺が・・今まで・・・どんな気持ちで・・・くっ!」


 項垂れながら小声で呟くシェットランに、誰も声をかけられないでいる。

 シャイルも、これ以上声をかけるような事はしない。


 そんな中、シェットランを心配したドーベルが、


「シェットラン様・・・」


 と声をかけながら肩に手を置こうとするが、「うるさい!」と手を()ね除けられていた。



 少し時間を置き、落ち着いた頃を見計らってシャイルが再びシェットランに訪ねる。


「それで、結局どうするんだ?俺とスコティーを下僕にするのか?それともシードック家の力とやらを使って、俺達をつぶすのか?」


 これまでの言動から、シェットランが素直になるとは思えない。

 従って、シャイルが目的とするある事については一切触れずに、敢えて負けた事による処遇をどうするのかを聞いた。

 その質問に対してシェットランは立ち上がり、シャイルの目を見ながら答える。


「ふん!今回は、俺は首に剣を突きつけられた。だが、お前は卑怯な事をした!だから・・・引き分けと言う事にしてやる!」


 その言葉を聞いたシャイルは、フッと笑いながら


「そうか」


 と一言だけ発した。

 シャイルはシェットランの顔を見て、自分の目的ついてはもう大丈夫だと確信したのだ。


「いいか!引き分けだからな!わかったか!?まだ決着は付いていないんだ!今度やる時は、完膚なきまで叩き潰してやるからな!」

「ああ、わかったよ。お手柔らかにな」


 今までと言っている事は変わらないように聞こえるが、その表情と醸し出す雰囲気は今までとは打って変わっていた。


 それを読み取っているシャイルは、今までのように強がっているように見せているシェットランに対して、吹き出して笑いそうになるのを堪えていた。

 そして・・・


「おい、スコティー!お前もだ!絶対に叩き潰してやる!だから、今度こそ最初から本気でやれ!そうじゃないと許さないぞ!本気のお前を叩き潰さないと意味がねえんだよ!!」


 その言葉を聞き、シャイルの目的は完全に達成された事になる。


 シャイルに放った言葉と同様に、今までと変わらないように聞こえるが、中身は全く意味が違う。

 これからもスコティーが本気で戦うなら、あのときの事を許すと言っているのだから。

 と言うよりも、本気で戦わない事を許さないと言っている。


 上からの発言とは言え、シェットランにしてみれば大分歩み寄ったと言えるだろう。


「・・・うん!僕もシェットラン君に負けないように頑張るよ!」


 スコティーも、それをちゃんと感じ取る事が出来たようだ。

 スコティーの言葉を聞いたシェットランは、鼻をフンとならしながらドーベルとデーンを連れてこの場を去って行った。


 そう、スコティーとシェットランの(シコ)りを取り除く事が、シャイルの今回の目的だった。


 スコティーが自分でどうにかしようとしても、今の段階では絶対に出来なかったであろう事。

 というよりも、スコティー自身で行動を起こしてしまった方が、それまでの関係が更に悪化していた可能性が高いだろう。


 そしてシェットランの性格を考えた時、普通に仲直りすると言う事も不可能。

 それならば、今までの関係が緩和すればいいと考えて、シャイルが行動したのだ。


 結果、シャイルの思惑通り事が進み、これからは今までのように只スコティーをいたぶるのでは無く、本気でぶつかり合える関係となるだろう。

 もちろん、スコティーが再び手を抜く様な事があれば、元の関係に戻るかもしれないが・・・



「シャイル君のおかげだよ・・・本当にありがとう」

「何がだ?俺は大した事していないんだから礼を言われる必要はないさ。てか、ただ喧嘩を売られてそれを買ったにすぎないし」


 スコティーはシャイルの手を取りながら礼を言った。

 シャイルの言葉を聞き、彼ならそういうだろうなと苦笑いを浮かべながらも、感謝せずにはいられなかった。


「・・・それでもだよ」


 スコティーにしてみれば、まだ礼を言い足りないくらいだが、シャイルの性格上はこれ以上言っても無駄だという事がわかっている。

 だから言葉では言わないが、心の中ではもう一度礼を言う事にした。


(本当にありがとうね)


 スコティーの満足げな顔を見たシャイルは、とりあえずの問題は片付いた事で意識を切り替える。

 正直な所、そんなことよりも・・・


(さて、問題はこのあとか・・・いや、むしろこっちの方が面倒だな・・・)


 そう、シャイルにとっては今終えた事よりも、これからの事の方がやっかいで面倒だと感じていた。


 今この場には、シャイルの戦いを見ていた者達がいるのだ。

 その者達が大人しくしているわけがない。


 このまますんなりと戻る事は出来ないだろうなと、シャイルは面倒くさそうに溜息を吐くのだった。





登場人物

シャイル:主人公。謎多き少年

スコティー:シャイルと同室でクラスメイトの少年。剣士(フェンサー)

シェットラン:シードック家の嫡男。スコティーと同郷でクラスメイト。何かにつけてスコティーを目の敵にしている。

ドーベル:シェットランの護衛でクラスメイト

デーン:シェットランのお目付役でクラスメイト


エンゼルラン:学生寮の管理人の女性。見た目や言動は幼いが、歴とした大人。

アルストロメリヤ:学園の教師の女性。エンゼルランと仲が良い。

フランボワー:学園の生徒会長。3年生。現役学生最強と名高い。


シフォン:勇者を志すクラスメイトの少女。

ティラ:シフォンとシャイルに助けられた少女でクラスメイト。治癒魔法士(ヒーラー)

ショコラ:ティラの双子の姉でクラスメイト。魔道士(ウィザード)

ヴェリー (出番無し):シフォンと同室でクラスメイトの少女。槍士(ランサー)

タルト:シャイルと知り合いで魔族の少女。クラスメイト。双剣士(クロスセイバー)

プディン:シャイルと知り合いの天人族の少女。クラスメイト。武器職無し



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