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1-10 入学式直前

 


 シャイルがフランボワーから逃げるように立ち去った後の事。

 フランボワーにマークされているからには、さすがにこれ以上うろつく訳にはいかないだろうと考え、校舎の中庭にあるベンチに腰掛けて時間が経つのを待った。

 登校してきたスコティーと合流したのは、入学式が始まる30分くらい前である。


「シャイル君、なんか疲れた顔してない?」


 スコティーはシャイルと出会うなり、歯に衣着せずにそう口にした。


「いや、まあ、そうかもしれないな・・・」

「??」


 シャイルは一々説明する気にもならず適当に濁す。

 フランボワーとのやり取りには色んな意味で精神を削られていた。

 互いに口では他愛も無い話をしていたように見えて、実際は二人とも腹の探りあいをしていたからだ。


 実際、シャイルにとってはその程度だけであれば、特に問題はない。

 しかし、自分の知覚領域(テリトリー)に気づかれずに簡単に踏み込まれた事、それに関しても警戒しなければならない事ではあるのだが、それ以前にそのような自体になるという事は(アラカジ)めマークされていたと考えるのが妥当であろう。


 どう考えても、シャイルにはスコティーと一緒に街に繰り出した時、彼女と一瞬目が合った事以外に心当たりなどはない。

 あの一瞬で何かを感じ取られたとなると、色んな意味で油断ならざる相手だと考えていた。

 何よりも、面倒事に巻き込まれそうな予感のする事が、シャイルを悩ませる一番の要因であった。


「とりあえず行こうか」

「う、うん。そうだね」


 シャイルは入学式の行われる大講堂へ向う事を促し、スコティーは腑に落ちない感じではあるものの、シャイルが答えない事を無理矢理聞くわけにはいかないだろうと考え、それに従う事にした。


 大講堂へと辿り着くと、入り口では受付を行っていた。

 出欠の確認と合わせて、この時に初めてクラスを言い渡される事になっている。

 ここで欠席となった場合、特に1年に関しては、やる気がないとみなされ退学処分となってしまう。

 遅刻に関しても同様である。


 入学前に、予めクラスが教えられていないのも、この場以外でクラスを教える事はないと暗に告げているからである。

 遅刻・欠席する際には事前に連絡をした上で、それが認められるだけの理由があれば別なのだが。


 それだけ厳しいのは、ここは勇者養成学園であり戦いのプロフェッショナルを育てる学校だ。

 普通の学校ではないという事。

 戦争などの集団戦で、作戦中・戦闘中に居ないなどは以ての外であり、さらには一人のミスや遅れが全体の命を危険に晒す事になりかねない。

 それを最初から植えつける意味もある。



 入学式の受付は学年ごとに分かれており、1年生は人数が人数なだけに、教師と思われる人達が10人ほどで対応するようだ。

 今はまだ30分近く前なので、並んでいる入学生はそんなに多くはない。


 シャイルとスコティーはさっさと受付をすませた。


「シャイル君、クラスは何組だった?」

「ん?俺はJ組だったよ」



 クラスは基本的に、1学年1クラス40人の10クラスで編成されている。

 そしてクラスにはA~Jを用いられている。

 ただ2年・3年となると生徒が減っていく為、その年の残っている生徒数によっても変わるが、1クラス大体10~20人と均等に成績順にA組から振り分けられていく。


 ちなみに1年の時は入試順位でA組から振り分けられている、と言うわけでは無い。

 公平にランダム(・・・・・・・)に分けられていると公には言われている。


 が、しかし・・・


 実情は別であり、A組は主にローエンデルバ共和国の重鎮や上流貴族の子供が多く集められている。

 それにプラスして他国の重鎮や上流貴族の子供も選別されていたりもする。

 B組にもA組から漏れた貴族達の子供が多く集められている。

 ただ、全ての貴族達の子供がA・B組に入れられているとは限らないのだが、その辺りは複雑な事情があるため、ここで触れるのは止めておこう。



「よかった!僕もJ組だったよ」


 シャイルと同じクラスだった事に、スコティーは心から喜んでいた。


「そっか。じゃあ改めて、これからよろしくな」

「うん、よろしくね!」


 二人は改めて挨拶と握手を交わし、大講堂の中へと入っていった。

 中は、大講堂と言われるだけあってかなり広い。


 イメージとしてはオペラハウスと言えばわかりやすいだろうか。

 ただ、オペラハウスの様に席は扇状ではなく、壇上に向って4人掛けの固定された机と椅子が横に真っ直ぐ10列並び、それがスタンド状に傾斜を付けながら10列設けられている。


 これが1階であり、1階の席がある場所は吹き抜けとなっており、2階はその吹き抜けを囲むように机と椅子が備え付けられている。

 そして3階もあり、さらにその周りを囲むように席が備え付けられており、最大1200人超の人数が座れるようになっているのだ。


 1階は縦長なのに対して、2階・3階になるにつれて横長に配置される造りとなっている。

 そして1階は1年、2階は2年、3階は3年と分けられており、座ると2階からは1階と壇上を、3階からは全てを見渡す事ができる。


 最大1200人超が座れるとは言ったが、それは誰も辞める事無く卒業する事を過程している為であり、実際は大半の生徒が諸事情により辞めてしまう為に、2階、3階になるにつれて座る人数は減り半分近くは空席となるのである。


 今はまだ20分以上前なので座っている人はまばらだ。

 シャイルは目立たない場所の方が良いと考えており、端の最後列が空いていたのでそこに座る事にした。

 スコティーもシャイルに従うように隣に座る。


 しばらくすると大講堂内には徐々に人が増え、席が段々埋まってきた。

 それでも、未だシャイル達の前の席と横には誰も座ってはいない。

 人数から考えると、1年の席は全部埋まるはずなのである。


 と、そこに・・・


「あ、あそこ丁度4人分空いてるよ!」


 シャイルにとって聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「そうですね。皆一緒に座れそうですね」


 そしてさらにもう一つ。


「ちょっとシフォン落ち着いて・・・」

「そうよ、それにこんな後ろの方でいいの?」


 その後の二人は、シャイルには聞き覚えの無い声だった。

 シフォンとティラ、ヴェリーとショコラが、シャイル達が座っている前の空いている席を見つけてやってきていた。

 ヴェリーとは、シフォンがティラ・ショコラ姉妹に紹介済みで既に仲良くなっている。


 ショコラが後ろの方でいいのか聞いたのは、入学式で前の方に座る事で教師や壇上に立つ人たちに自分をアピール出来る最初の場だと考えている者が殆どだからだ。


「でも、4人席が空いているのはあそこしかないし、別に前に座ったからといって成績が良くなるわけじゃないし」


 シフォンがショコラに応えながら席を確保するために、シャイル達に近づいてきた。

 そしてシャイル達には目をくれず、前の席の座ろうとスペースに入り込む。

 シャイルはそ知らぬふりをしながら、出来るだけ気づかれないように最大限気配を消す。

 しかし・・・


「ん?」


 シフォンが振り返ってしまい、シャイルの顔を確認した。


「・・・あ~~~~~~!!」

「あっ」


 そしてシャイルの顔を見るなり、シフォンは大声で叫んだ。

 それに反応したティラも、シャイルの顔を見て小さな声を上げた。

 シャイルは気づかれないようにしていたのに、完全に気づかれてしまった事に内心では舌打ちをしていた。

 スコティーは何が起こっているのかわからずに、キョトンとしている。


「シフォンうるさい!恥ずかしいから落ち着きなさい!」

「ショコラも十分声が大きいよ・・・」


 ショコラがシフォンを諌めようとして大声で叫んでしまい、それに対してさらにヴェリーがツッコミを入れている。


「ちょ、ちょっと、き、君!君だよね!?」


 シフォンはテンパって、意味のわからない事を口走ってしまう。


「はっ?何を言っているのかわかりませんが、どなたかと勘違いしているのではないですか?」


 シャイルは無駄だと思いつつもシラを切り通そうとした。


「いいや、間違いないよ!言ったよね?ボクの目は節穴じゃないって!」

(・・・節穴だらけの目のくせに、何を言っているんだか)


 シャイルは聞こえるか聞こえないかの声で、ボソッと呟いた。


「ん!?何か言ったかなぁ!?」

「いいえ、何も言ってませんよ?」


「ん~?本当かなぁ?・・・それよりも、いつまで知らん顔しているつもりだい?」

「・・・はあ、わかった。観念するからさ、とりあえず恥ずかしいから前向いて座ってくれ」


 シャイルはいつまで経っても自分の方を見て話しかけてくるシフォンに、いい加減座るように告げる。


「恥ずかしいって何さ!・・・」


 シフォンは口答えをしようとしたのだが、ふと周りを見て注目を集めている事に気づき、渋々席に座る事にした。



「ああ、もしかしてこの冴えない人がティラの想い・・・」

「ね・え・さ・ん!?」


 ショコラがシャイルにも聞こえる声で余計な事を言いかけた瞬間に、ティラの恐怖の笑顔プラス低い声がそれを遮った。


「お、落ち着いてティラ!ま、まだ何も言ってないわよ」

「はあ、何を焦っているのですか?私は最初から落ち着いていますよ」


「・・・絶対怒っていたし」

「何か言いましたか?姉さん?」

「な、何も言っていませんです!はい!」


 ティラは怒っていないように装っているが、ショコラからは完全に怒っている事が伺えるため、これ以上刺激するのは危険と判断した。


「・・・何が何だか、よくわからないけど・・・とにかく目立っているから大人しく座りましょう?」


 ティラとショコラも立った状態でシャイルを見ながら話している所に、いまいち状況が掴めず蚊帳の外だったヴェリーが首をかしげながら二人にも座るよう促した。

 その言葉で、シフォンを含めて自分達も周りから注目を集めている事に気づいた二人も、大人しく座る事にする。


 シャイルは目立ったり面倒事に巻き込まれたりしたくはなかったので、心の中で溜息を吐いてしまう。

 とりあえず大人しく座ったことだし、今はこれ以上話し掛けられる事は無いだろうと安堵もしていた。

 スコティーもヴェリー同様、何が何だかわからないという視線をシャイルに向けていたのだが、シャイルは苦笑いを返すだけであった。


 そうこうしている内に時間は進み、入学式が始まる時間が迫ってきて殆どの席が埋まっている。

 しかし、まだシャイルの横の席二人分が空いていた。


 シャイルは入学式から欠席か?と思いつつも、他人の事なのでそれ以上は特に気にする事もしない。

 そこに・・・


「はあ、ギリギリ間に合ったな」

「そうだね~、よかったね~!」


「何、他人事みたいに言っているんだ!?元はと言えば、お前がトロトロしているからだろうが」

「あ~、それは言わない約束だよ~!」


「誰も約束などしていないだろう・・・まあいい、あそこが空いているようだし、あそこに座るぞ」

「うん、そうだね~!」


 時間はギリギリではあるが、欠席したわけではなかったようだ。

 現れた二人は女子で、一人は偉そうな言葉遣いをしていて肌は淡い褐色である。耳が少しとがっており髪は黄色でツインテールに纏めてある。

 もう一人は間延びした話し方をしていて、髪はピンク色でボブカットである。そして特徴的なのが、背中に純白の羽がある事だ。

 二人はシャイルの横に空いている席を見つけ、そこに座ろうと駆けて来た。


「ここいいかな~?・・・あ!」


 女子二人のうち、間延びした話し方をする娘がシャイルに話しかけて来た。

 そして何かに気づいた。


「よう!」


 シャイルはその相手に向って片手を上げて応える。


「あ、あ~!いた~!ほんとに居たよ~!」

「お、嘘は言ってなかったようだな」


 二人はシャイルを確認すると、同時に声を上げた。

 そして、羽の生えた女子の方がシャイルに抱きついた。


「こ、こら!いちいち抱きつくんじゃない!そして煩い!」


 シャイルは抱きつかれ、引き離しながら文句を言っている。


「お、おい、シャイルに何をしている!」


 もう一人の女子が、シャイルに抱きついた女子に向って窘めた。


「え?」


 シャイルともう一人の女子に声を掛けられて我に返ったその娘は、離れながら何かに気づいたように疑問の声を上げた。


「シャイルの事を知ってるの~?」

「はっ?お前こそシャイルの事を知っているのか?」


 そう。

 二人は共にシャイルの知り合いだったのである。

 だが、シャイルとは別々に知り合っている上、学園に来るまでは二人に接点などない。

 二人は同室になった事で仲良くはなったが、互いにシャイルと知り合いだという事は知らなかったのだ。


 そしてシャイルは、自分の知覚領域(テリトリー)に入った者が自分の知っている相手であればすぐにわかる。

 とはいえ、それで確認するまでもなく顔を見ればすぐにわかった事なのだが。

 それに、二人には学園に入ろうと考えていると伝えていた為、もしかしたら二人も学園に来るかもしれない可能性を考えていた。

 さっきの二人の、“ほんとに”や“嘘は言ってなかった”と言ったのは、シャイルが学園に来る事が半信半疑であった為に出た言葉である。


「それは後で説明するから、とりあえずプディンとタルトも大人しく座れ」


 シャイルは前の席から注がれている、ジトーという冷たい視線にいたたまれずに二人に座るよう促した。

 そしてシャイルの言葉から出たプディンが羽の生えた女子の名前で、タルトが淡い褐色肌の女子の名前である。


「ちょっと、ボク達には恥ずかしいとか言いながら、なに自分はもっと恥ずかしい事してるのさ?」

「ん~?この人は誰なのかな~?」


 ジト目で見ていたシフォンが立ち上がって文句を言う。

 正直シフォンは、プディンに羽がある事が気にはなっていたが、それ以上に解せない事を放置しておく事も出来なかったのだ。

 ティラもプディンの羽にではなく、その行為が気になっていたのだが、それを口に出せるような性格では無いので、自分の気持ちを代弁してくれたようなシフォンに感謝をしつつ、シャイル達の動向をチラチラ見ながら探っていた。


 急に振り返ってシャイルに話しかけたシフォンを見て、プディンがシャイルに尋ねた。

 タルトもそれは気になるようで、説明を求めると言う様な目でシャイルを見ている。


「ん?ああ、知らない人」

「ちょっと!それは酷くないかな!?」


 シャイルの言葉にシフォンは抗議する。


「いや、実際そんなようなもんだろう?それとも、大した会話もせずたった一回会っただけで、友達だとか知り合いだとか言えとでも言うのか?その方が変じゃないか?」

「いや、まあ確かにそうだけどさぁ・・・でも、なんか納得いかないな」


 シャイルが正論を言うと二の句が告げなくなったシフォンだが、それでも納得出来るというものでもなかった。

 ティラも自分に言われたわけではないのだが、少なからず受けたショックを隠せなかった。



「ほらほら、やっぱりああいう男は止めた方がいいんじゃない?」

「姉さんが何を言いたいのかはわかりませんが、彼の言っている事は間違いではありませんし、私はただ・・・あの時のお礼が言いたいだけです」


 シャイル達が言い争っている(?)間、シフォンの隣ではショコラとティラがヒソヒソと話をしていた。

 そしてシフォンを挟んで反対側に座っているヴェリーは、相変わらず訳がわからないと困惑気味だった。


「とりあえず、そろそろ始まるから皆落ち着いて座ってくれよ。話の続きは、入学式が終わった後にでもしてくれ」


 シャイルがそう口にすると、立っていた者は渋々ながらに座り始める。


 そして全員が座ったのを見計らったように、入学式の始まりを知らせる声が響いた。






登場人物

シャイル:主人公

スコティー:シャイルのクラスメイト、寮でも同室。

フランボワー:学園の生徒会長。名前のみ登場。

シフォン:勇者を志す少女。

ティラ:シャイル、シフォンに助けられた少女。

ショコラ:ティラの双子の姉。

ヴェリー:シフォンと同室の少女

プディン:シャイルと知り合いの純白の羽根を持つ少女。

タルト:シャイルと知り合いの淡い褐色肌の少女。


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