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徒然枕物語 壱  作者: 緋和皐月
14/15

春の女神とウサギの戯れ

ジャンル:小説

キーワード:イースターと見せかけての……

 卵から生まれたウサギは、今日もピョコピョコ忙しい。



「あぁ、時間が無い、時間が無い」


「今日はどこへ行くの?ウサギさん」


「今の私には貴女を構う時間も無いんです。お許しください、エオストレ」


「うふふ、久しぶりの逢瀬だというのに、ツレないんだから」


「冗談はおやめください、この世に生まれたその瞬間から、私は貴女のものなのですよ、エオストレ」



 ウサギの詩的な言い方にクスクスと笑う女神。



「知ってるわ、ウサギさん。だって貴方はわたしの子で、わたしの伴侶なんだから」


「その言い方は誰かに誤解されかねないと私は思いますよ、エオストレ」


「いーじゃなぁい。別に困ることは無いでしょう?」


「私は困りませんが、貴女が困りますよ、エオストレ」


「構わないわ。春は、面白いことして楽しむべきだというのに、みぃんな忙しそうで、わたしに全然構ってくれないんだもの」



 だから構ってくれても良いのよ? と可愛らしく小首を傾げるエオストレ。



「春は忙しいですからね、エオストレ」



 エオストレの可愛らしい、遠回しのお願いを聞いてなかったかのように、ウサギは、懐中時計を見る傍ら、(ステッキ)をカチカチと鳴らして返答した。

 余程急いでいると見えるが、エオストレは気づいていないふりをする。



「ねぇ、ウサギさん。卵を探していかない? そうしたら、無駄になったこの時間を返してあげるわ」


「……卵探しですか、エオストレ?」



 面倒臭そうにウサギはエオストレを見る。

 無邪気な彼女は、時間を戻せる女神だが、普段はなかなかその力を使おうとしない。

 そんな彼女が、自発的に力を使ってくれるというのなら、素直に甘えようかとウサギは一瞬だけ悩む。


 しかし、答えはとうの昔から決まっている、



「そうよ、昨夜、この為だけに卵を隠してきたの」


「よっぽど暇なのですね、エオストレ」


「うふふ、わたしは忙しくても遊び心を忘れない人よ?」



 くすくすと笑うエオストレは、いつになっても若い娘のままだ。

 例え、2000年の時が経ったとしても。


 ウサギは深い溜息をついて、パタン、と懐中時計の蓋を閉めた。



「わかりました、貴女のお遊びに付き合って差し上げますよ、エオストレ」


「えへへぇ、ありがとぉ」


「……その喋り方は、なんですかエオストレ」



 んー? とエオストレは首を傾げる。



「最近の女の子の口調を真似してみたの。可愛い?」


「貴女はそのままの方が可愛いですよ、エオストレ」


「ウサギさん、知らないの? 女の子はいつになっても可愛くなりたい生き物なんだよ」


「……貴女は女の子の歳をとっくに超えたのではないですか、エオストレ?」


「女の子に歳の話は、むかぁしからの禁句だよぉ?」


「なるほど、貴女の言う女の子とは、貴婦人のことですね、エオストレ」


「なーんか違う気がするけど、いいわ、気にしないことにするわね」


「わかりましたよ、それでは卵探しを始めましょうか、エオストレ」



 暫く卵を探したウサギは、ふ、と疑問に思った。



「そういえば、今日は何の日でしたかね、エオストレ」


「今日? バニーバニーの日?」


「バニーバニーの日は知りませんがバニーの日でしたら8月21日ですから、まだ先だと思いますよ、エオストレ」


「へぇ〜」


 

 エオストレは、楽しげに笑う。


「でも、わたし、日付とか気にしないからわからない」


「そのせいで貴女に振り回される私の身にもなってください、エオストレ」


「ウサギさんはわたしに振り回されるためにいるんでしょう?」


「失礼な、私は貴女と居たいから仕方なく振り回されてあげるのですよ、エオストレ」


「……なんなの、その口説き文句」


「口説いてあげますから大人しくなさいという事ですよ、エオストレ」


「じゃあ、大人しくしてるから構って頂戴」


「時間が許すのなら、いくらでも構いますよ、エオストレ」


「時間くらい、わたしがいくらでも弄ってあげるわ」


「……」



 こういうことをさらりと言える彼女だからどうしたものか。

 他の者になら出来るわけがないだろうの一言で済ませられるのに。


 どう言葉を返すべきか悩むウサギの心情を露知らず、エオストレは無邪気に言葉を紡ぐ。



「ま〜だ? ねぇ早く早く、ウサギさん」


「貴女は持久力というものを鍛えた方がいいと思いますよ、エオストレ」


 それでも、なかなか卵は見つからない。

 このウサギは、彼女との付き合いがそれなりに長い。だから、エオストレが隠した卵など、3分もあれば見つけられる、はずなのだが。


 卵はなかなか見つからない。


 ウサギは、まさか、とエオストレを見た。


「……貴女、本当は卵を隠してないのでは、エオストレ」


 そんなウサギを見て、エオストレは微かに笑った。


「気づくの遅いわ、ウサギさん。今日は何の日だと思ってるの?」



 4月の1日。

 春の女神も嘘をつく。



……エイプリールフール用に書いていましたが、時間が足りなかったのもあり、投稿できなかった物語です。

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