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第2話 沖縄って暑い

 「皆さま、那覇空港に着陸いたしました。

  ベルト着用サインが消えるまで、お座りのままお待ちください。

  物入れを開けたときに、手荷物が滑り出る恐れがありますのでお気をつけください」


 着陸を伝えるアナウンスがあり、沖縄の那覇空港へ着いたようだ。


 「(小雪、起きて、着いたわよ)」


 「(ん~、もう着いたの?)」


 「(そうよ、ほら、寝ぼけてないで)」


 「(は~い)」


 外を見るともう真っ暗だった。


 飛行機の移動が終わり、外へ出る。


 到着口Bと書かれている場所に出ると、スマートフォンの電源を入れる。


 時間は22時を過ぎていた。


 手荷物受取所のターンテーブルからキャリーバッグが出てくるのを待ち、それを受け取る。


 アドレス帳から姉の電話番号をタップして、電話を掛けた。


 RURURURURU──


 ──ガチャ


 「お姉ちゃん、着いたよ」


 『薫子(かおるこ)ね、今どこ?』


 「えっとね、到着口Bって─」


 『あ、いたいたこっち─』


 薫子が見た先には、手を振る姉、紫子(ゆかりこ)の姿が。


 そして、その隣に、見覚えのある顔も。


 紫子の旦那さん、慶介(けいすけ)も手を振っている。


 ピッ


 終話ボタンを押して、電話を切る。


 懐かしい優し気な笑顔の姉の姿、寄り添うこれまた優しい笑顔をした義兄。


 「薫子、久しぶりね、元気にしてたかしら」


 「薫子ちゃん、ようこそ沖縄へ、なんだ、凄く大きな荷物だね」


 「お姉ちゃん、慶介兄さん、変わらないわねー。

  あ、これ、自転車なのよ」


 「あら、薫子、免許持ってなかったの?」


 「ううん、これは趣味なのよ。

  免許は大学のとき取ったけど、ペーパーだからちょっとね」


 「とにかく、駐車場にいこうか、紫子、薫子ちゃん」


 「そうね、薫子の部屋も行かなきゃならないから」


 空港ビルの外へ出るとき、自動ドアが開き、むあっとする暑さと湿気に驚く。


 メガネをかけている薫子には、最初の洗礼であった。


 空港ビル内のエアコンで冷やされたメガネが温度差と湿気で一気に曇る。


 「うわ、メガネ曇った…」


 「あぁ、内地と比べたら、夜はそれほど暑くないけど、湿気がね」


 慶介はそう言うと、車の後部ハッチを開ける。


 それは可愛らしい軽のミニバンであった。


 「沖縄はね、このくらいの大きさの方が、小回りが利いていいのよ」


 薫子の身長は155くらい、紫子は少し小さく150くらい。


 慶介は175くらいなので、ちょっと小さい車かもしれない。


 キャリーバッグを乗せると、紫子が運転席に、慶介が助手席に、薫子は後部座席に乗り込む。


 シートに座ると同時に、小雪が姿を現す。


 「久しぶりね、小雪ちゃん、白夜さんも元気かな?」


 「はい、紫子お姉ちゃん、お母さまも元気ですよ」


 慶介は後ろを振り向くと。


 「小雪ちゃん久しぶりだね、俺は知ってるからいいけど他の人のいるとこで喋っちゃだめだよ」


 「はい、わかりましたー。

  お久しぶりです慶介お兄ちゃん」


 「そう、懐かしいわね…

  慶介さんが実家に挨拶に来たとき、小雪ちゃんが喋って。

  慶介さん、腰を抜かしちゃったものね、ふふふ…」


 「あれは、仕方ないだろう。

  普通犬だと思ってたら、狐だったし、それも喋るし、白夜さんは優しいお姉さんみたいだし」


 「慶介兄さん、白夜さんが狐になってもまた腰を抜かしてたもんね」


 「だから、それは言わないでって…」


 「車出すから、シートベルトしてね、行くわよ…」


 紫子は車を走らせる。


 「あれ、お姉ちゃんが運転するの?」


 「話しかけないで、久しぶりに運転するんだから…」


 「ちょっと怖い…」


 「大丈夫だよ、これでも紫子は運転上手だから。

  月に数回しか運転しないから緊張してるだけだろうね。

  これは紫子の車だから、運転も紫子がする決まりになってるんだよ」


 「えぇ、じゃ、2台あるとか?」


 「そうだね、沖縄では珍しくはないよ。

  内地みたいに電車はないし、バスも不定期だから車が多いんだよね。

  薫子ちゃんは…あ、そうか、ロードバイクなら問題ないね。

  荷物積んだりするときだけ、車出せばいいんだし」


 「そのときはお願いします」


 空港ビル前を出ると、左折して次の信号を右折すると国道332へ出る。


 道なりに行くと国道331へ合流。


 国場側の橋を通り過ぎると、沖縄の国道のメインとなる58号線へ出る。


 このあたりはビルも立ち並び、沖縄では一番栄えているところの入口でもある。


 「薫子ちゃんの部屋はね、うちの管理してるマンションの一室で、ワンルームだけど綺麗な部屋だよ。

  店舗からも近いし」


 「家賃いくらいくらいなんだろう…」


 信号待ちでやっと緊張が(ほぐ)れたのか、紫子が言う。


 「気にしなくてもいいのよ、薫子の給料から天引きするからね」


 「えー」


 「大丈夫、内地程高くはないよ。

  確か、4万円だったかな。

  薫子ちゃんの給料は最初は15万円出すよ。

  前よりは安いかもだけどね」


 「えっ、手取りですよね。

  それ、前の会社より多いです…」


 「そこまで酷くなったか、あの会社。

  どうなってんだか、辞めて正解だよ。

  ちなみに、いくら貰ってた?」


 「…手取り10万円です」


 「酷いな、潰れたらいいんだ、あんなとこ。

  くそ、思い出したら腹が立ってきた。

  あの落ち武者…」


 慶介はかなり怒っていた。


 確かに大卒初任給とはいえ、そこまで安いと実家から通っていない限り生活なんてできないだろう。


 「はいはい、そんなに喋ってると舌噛むわよ」


 信号待ちを終え、また走り出す。


 58号線を北上し、信号をいくつか抜ける。


 進むにしたがって街並みが少し地味になっていく。


 すると比較的大きなホテルのようなものが見える。


 建物にかいてある4つの平仮名、とまりん。


 「とまりん、ってなんか可愛い名前」


 「ここは離島へ行く便がある港のターミナルビルでもあるんだ。

  それと結婚式場もあって、前は結構賑わってたんだけど、最近は地味だね」


 慶介が説明してくれる。


 「へぇ…」


 安里川を通り過ぎ、泊の信号を右折。


 崇元寺通りに出て暫く行くと、車が止まる。


 「着いたわよ、薫子ちゃん」


 レンガ色の綺麗な細身のマンションで、7階建て。


 入口はオートロックになっていて、女性も安心できそうな建物であった。


 「こんな高そうなところ、4万って嘘でしょう…」


 「あー、半分は会社で出すんだよ、一応社宅扱いでね」


 「そうよ、薫子には頑張ってもらわないと。

  会社は私と慶介さんしかいないからね」


 「はい、頑張ります」


 「じゃ、荷物下ろそうか…って、まだ宅急便届かないんだよね」


 「大丈夫よ、ある程度は買ってあるから、さ、行きましょう」


 オートロックを解除すると、エレベーターで7階まで上がる。


 1フロア4室あるうち、一番奥の部屋の鍵を開ける。


 「こっちよ、入って」


 「わぁ…」


 一面フローリングの小ぎれいなワンルームマンションだった。


 角部屋で窓も2か所あり、圧迫感もない。


 「今年琉大に通ってた女の子が卒業してね、丁度空いたばかりだったんだ。

  家賃もちょっと高いから、まだ借り手がいなくてね」


 液晶テレビとベッドが用意されている。


 「あとは、必要なものを薫子が適当に買ってくれたら大丈夫なはずよ」


 「じゃ、俺たちは帰るね、ちょっと歩けば国際通りもあるし、ごはんはその辺で食べてくれたらいいよ。

  僕たちは迎えにくるまえに、食べちゃったからごめんね」


 「いえ、大丈夫ですよ」


 「薫子、明日朝9時に迎えに来るから、準備だけしててね」


 「はい、お姉ちゃん」


 ドアが閉まると、ふと気が抜ける薫子。


 ベッドへ座り、小雪を膝に乗せて落ち着く。


 「沖縄来ちゃったね」


 「そうだね、ちょっと湿気は多いけど、いいところだね」


 「そうね」


 小雪の頭を撫でながら、窓の外をぼーっと見る薫子だった。


 「小雪はコーギーにそっくりだから、普通に散歩できるわね」


 「それは嬉しいな。

  薫子の自転車にも背中のバッグに入れば乗れるし、楽しみだなー」


 狐そっくりの犬種、コーギー。


 尻尾のない犬種でもあるが、最近ではある犬も少なくはない。


 その辺りの理由は各自で調べて欲しいと思う。


 言われなければそっくりと言えないこともない。


 ただ、小雪は尻尾が二尾あるから、違うと言えば違うかもしれない。


 「そのときは尻尾片方隠してね、コーギーは1本しかないから」


 「大丈夫よ、それくらいなら常時消しておけるし。

  それより、薫子」


 「なに?」


 「暑いからエアコン付けて…死んじゃう…」


 「あ、はいはい」


 ピッ


 室温を25度に設定してエアコンを作動させる。


 暫くすると、涼しくなってきた。


 「あー…生き返るわ…」


 「小雪、あなたくらい人間臭い狐はいないわね」


 「ほっといて、狐としての生活なんて知らないんだから。

  あー、毛が邪魔…」


 ぽんっ!


 そういう擬音がすると、煙のようなエフェクトのあと、可愛らしい巫女服を着た中学生くらいの女の子の姿をした小雪へと変化したのである。


 「あー、涼しい、ほんとエアコンっていいわー」


 胸元をパタパタと開けて、エアコンの冷風を取り入れる。


 「あのね、小雪。

  あなた、ちょっとの時間しかその姿でいられないから気付いてないかもだけど。

  ちょっと女の子らしくしたらどうなの?

  そんな短い裾で胡坐かいて…」


 「別にいいでしょー、って、あぁ…もうもたない…」


 ぽんっ!


 するとまたエフェクトが出て、元の姿に戻った小雪。


 「無駄な力の使い方するわね…

  アイス食べるときとか、パフェ食べるときとか。

  甘いもの食べるときにしかその姿しないじゃない」


 「だって、甘いものは一番偉いのよ!」


 「はいはい…」


 そんな会話をしながらも、薫子はキャリーバッグを開けて、ロードバイクを組み立てていく。


 膝丈のジーンズに履き替え、ヘルメットをバッグから出して被る。


 小雪を背負うバッグを背中へ背負い、専用のシューズを出して玄関へ。


 「小雪、晩ごはん買いに行こうか」


 「うん、甘いデザートも欲しいな」


 部屋を出て、鍵の施錠を確認する。


 エレベーターで1階へ降りて、玄関を出る。


 小雪はロードバイクのサドルを足場に蹴って、薫子のバッグへ。


 前足を薫子の右肩へかけて前が見えるよう、垂れているように乗る。


 LEDライトを点けて、サドルへ跨ると、右足のシューズのビンディング(ペダルと靴を固定する器具)をペダルにはめる。


 カチン…


 そして後方を確認して、夜の那覇の街へ走り出す。


 カチン…


 左足のビンディングもはめていく。


 「(いけー薫子!)」


 「(はいはい)」



読んでいただきまして、ありがとうございます。

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