表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第1話 沖縄への旅

引っ越しの準備、出発の挨拶、そして、飛び立つ飛行機の旅。

 薫子(かおるこ)は今、荷造りの真っ最中である。


 絶賛無職な彼女は、他にやることもないし、収入も次月のを振り込まれた時点でもうなくなってしまう。


 姉の紫子(ゆかりこ)から、沖縄へ来るように言われ、悩んでる余裕もない彼女は沖縄への移住を決めた。


 今いる地域で必要な真冬に着るような服は必要ないと思い、春~秋に着るようなものだけダンボールへ詰めていく。


 今彼女がいるのは、実家の神崎稲荷神社の敷地内にある実家の与えられた一室。


 あとは、彼女の愛車、フレームに【BIANCHIビアンキ】と書かれたグリーンのロードバイク(競技用のスポーツ自転車)の前輪と後輪を外して、飛行機用のキャリーバッグに詰めるだけである。


 前輪のブレーキを解除し、車輪のクイックリリース(手軽に車軸を外せるもの)を緩めてホイール毎外す。


 後輪も同じようにして外していく。


 保護用の金具を後輪を外した場所へ取り付け、リアのディレイラー(変速機)とチェーンを保護できるようにする。


 前後のホイールをマジックテープタイプのバンドで結束しておく。


 フレームを大柄のバッグ詰めていき、反対側に結束したホイールを入れる。


 チャックを閉めると準備完了。


 宅急便の会社へ電話をかけて、集荷をお願いする。


 「ふぅ、やっと終わったわ」


 「薫子お疲れさま」


 そう答えたのは、小さいころから一緒の妖狐、小雪である。


 今は、姿を消す必要がないのか、白いフカフカした毛並みが全部見えている。


 小雪は彼女の足元にすり寄ると、頭を擦り付けている。


 「手伝えなくてごめんね」


 表情のないキツネの姿なので、目だけはちょっと変化があるのかもしれない。


 長年連れ添った彼女だから判るのだろう、小雪の感情が。


 「いいの、小雪は無理なことしなくていいよ」


 「ありがと、薫子」


 そのとき、玄関から呼ぶ声が聞こえた。


 「宅急便です、集荷のご依頼できました!」


 薫子は、宅急便の運転手に細かく説明する。


 「このバッグとこの大きなキャリーバッグ以外を、沖縄のこの住所にお願いします」


 「はい、了解しました。

  全部でえっと、1万5千円になりますね」


 「はい、ではこれで」


 薫子は財布から1万円札と5千円札を出して支払いをする。


 「はい、確かに、こちら領収書と兼ねてますので無くさないでください。

  では、運び出しますね」


 ダンボール4つにまとめた荷物を運び出す宅急便の運転手。


 4つ目を抱えて、挨拶する。


 「確かに4個口預かりました、またご利用おねがいしますね」


 「はい、よろしくお願いしますね」


 玄関まで見送る薫子。


 傍らで見ている小雪。


 「あんな少しの荷物でいいの?」


 小雪が訪ねてくる。


 「いいの、あとは現地で安いのを買えばね。

  エアコンと布団があれば他にいらないから」


 「そうなんだ、それでいいなら少ない方がいいのかもね」


 「さて、今日の夕方の飛行機だから挨拶すませてきちゃおうか」


 「うん」


 薫子と小雪は、部屋から出ると、居間へ行き仏壇の前に座った。


 蝋燭に火をつけ、線香を2本持ち、火をつける。


 手で扇いで線香についた火を消し、1本づつ立てる。


 チーン…


 手を合わせる薫子、その先にある写真に写るのは、メガネをかけた優しそうな薫子の父、勇の遺影だった。


 「お父さん、あたし、この家を出て、お姉ちゃんのいる沖縄へ行きます。

  会社辞めちゃってごめんさないね。

  向こうに行っても見守ってくださいね」


 薫子の父、勇は身体が弱く、薫子が大学に合格した年に、亡くなっている。


 この神社を支えるのは、残された母、恵子(めぐみこ)と兄、(たける)とその奥さんの久美(くみ)、娘の(ゆき)


 宮司は武が継いでいて、跡取りに関しては問題はない。


 亡き父への報告も終わり、次は一番奥の部屋へ行く。


 「白夜さんいる?」


 「なんだい、薫子かい?」


 「はい、出発の挨拶に来ました」


 「入っておいで」


 襖を開けると、そこには和服を着た妙齢の女性が鎮座していた。


 この神崎稲荷神社を守ってる齢900歳を超える妖狐、白夜の変化した姿であった。


 白夜は現存する妖狐の中でも一番九尾に近い、七尾を持つ。


 格と行いにより、尻尾は増えると言うが、細かいことはわかってない。


 薫子の横を走り抜ける白い影。


 「お母さま~」


 そう、小雪であった。


 白夜は正座した膝の上に小雪を抱くと、頭を撫でながら言った。


 「小雪、薫子について行くんでしょう?」


 「はい、お母さま」


 小雪の尻尾はまだ二尾である。


 「あなたはもう15になるんですよ、もう一人立ちしてもいい歳です。

  薫子について行くなら、こちらには暫く戻らない覚悟はできているのですね?」


 小雪は白夜の顔を見る。


 「はい、薫子とは絶対離れない約束をしています。

  だから、いってきますお母さま」


 小雪を胸に抱き、鼻先に口づけをする白夜。


 「薫子を絶対に守りなさい。

  あなたは薫子と共に歩んで、格を積むのです。

  いいですね」


 「はい」


 「薫子、小雪をお願いね。

  まだこんなにやんちゃだけど、約束は守る子だから」


 薫子は正座して三つ指をついて、言った。


 「はい、小雪をお借りします。

  かなり離れた場所になりますが、見守っていてくれると助かります」


 「えぇ、薫子は私の姪みたいなものです、いつも気をかけてきました。

  これからも、忘れることなく見ていますよ。

  いってらっしゃい」


 「はい、いってまいります」


 「お母さま、いってきます」


 「はい」


 薫子と小雪は白夜の部屋を離れると、最後に社務所へ顔を出す。


 お昼が終わり、(くつろ)いでいる恵子、武、久美。


 雪はまだ、中学生なので、学校にいる。


 「あら、薫子。

  準備終わったの?」


 母、恵子が薫子達に気付く。


 振り向く兄、武と嫁の久美。


 「もう行くのか?薫子」


 「はい、午後一番の電車で出ようと思ってます」


 「そうか、元気で頑張って来いよ」


 「はい、兄さん」


 恵子と久美は、薫子に近寄り、抱き着いてくる。


 「体に気を付けるのよ、薫子」


 「薫子ちゃん、たまには電話くれないと雪が泣くからお願いね」


 「はい、母さん、久美さん」


 「小雪ちゃん、薫子をお願いね」


 「任せてください、恵子おかあさん」


 「「いってらっしゃい」」


 「気を付けるのよ」


 「「はい、いってきます」」


 薫子と小雪は一度部屋に戻って、荷物を取ると、神社の境内を出ていく。


 薫子は背中にバッグを背負い、右肩にはキャリーバッグを担いで歩いていく。


 その後をふわふわと光の雪になりながら、ついていく小雪。


 「電車と飛行機では大人しくしててね」


 「大丈夫だよ、薫子」


 ローカル線を乗り継ぎ、新幹線へ。


 自由席なので、キャリーバッグが大きすぎるため、一番前に座る薫子。


 いつも見慣れた街並みが新幹線の窓を流れていく。


 2時間ほど乗っていただろうか、アナウンスが流れてくる。


 「Ladies and gentlemen, we will soon be arriving at the Tokyo terminal.

  Please be sure to take all your belongings with you.

  Thank you for traveling with us, and we look forward to serving you again.」

 

 そろそろ東京駅、これから乗り換えをして、モノレールで羽田空港まで行かなければならない。


 「(小雪、降りるからね)」


 「(…ん~、もう東京に着いたの?)」


 「(そうよ、これからまだ乗り換えしなきゃ)」


 「(わかったー)」


 東京駅から、浜松町へ。


 駅を出て少しあるくと、モノレールの駅に着く。


 ここから終点の羽田空港第2ビルまで凡そ30分。


 羽田空港に着くと、キャリーバッグを預け、搭乗手続きをする。


 金属探知機には反応はなく、なんとか搭乗口まで来れた。


 「(これに乗ったら、もう沖縄なんだね)」


 「(暑いんだっけ?確か)」


 「(そうね、30度は超えてるみたいだから)」


 今の時間は20時、沖縄に着くのは22時あたり。


 チケットに書いてあるシート番号に辿り着き、荷物を入れて、シートへ座る。


 薫子の膝の上に消えたままの小雪。


 「(着いたら起こしてね)」


 「(おやすみ、小雪)」


 ポーン…ポーン…ポーン


 「皆さま離陸いたします、シートベルトをもう一度お確かめください」


 離陸のアナウンスがあり、エンジンの音が大きくなっていく。


 窓を流れる光でわかる位に速度を増していき、ふわっとした浮遊感があり、離陸したようだ。


 窓の外は、空港、そして街の明かり。


 それがだんだん遠ざかっていく。


 ひと眠りしたらもう那覇空港。


 薫子はそのまま眠ることにした。


読んでいただきまして、ありがとうございます。


次回は、那覇空港からの部分を書こうと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お手数でなければ「ぽちっとな」とお願いします。
小説家になろう 勝手にランキング
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ